徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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何だか最後やっつけに…


オーバーロード二次 廃課金で逝く

 この荒れ果てた時代、富裕層では中の上程度の家に生まれた自分はきっと幸運なのだろう。

 人工肺や専用マスクを着けずに生活できる環境循環型アーコロジーで生活し、黙っていてもお金が入ってくる生活をしている自分は、汚染された大地で家の大気清浄器のエアフィルターの代金を必死になって稼ぐ下層民に比べれば、本当に幸福だ。

 それでも自分にとってはこの生活は何時か破綻するだろうものにしか感じられない。

 崩壊は、絶滅は直ぐそこだと誰もが薄々分かっているのに何もしないクソの様な時代だから。

 とは言え、貧乏性で出不精で貯蓄ばかりしている自分にできる事なんて殆どない。

 精々が環境改善系の技術開発をしている企業へと出資し、便宜を図る程度だ。

 それでも、きっと奇跡でも起こらない限りはどうしようもないんだろう焼石に水を少量注ぐ程度でしかないが。

 

 そんな未来への希望なんて抱けない時代で、自分の数少ない癒しがDMMO-RPG「ユグドラシル<Yggdrasil>」であった。

 

 自分がプレイ可能なDMMO-RPG(国外は殆ど崩壊状態なのでゲーム自体絶滅状態)の中ではこれが一番だと言えるのがこのゲームだった。

 700種を超える種族、2000を超える職業、そして10万を優に超える装備やアイテム類。

 正に遊び尽せない程に奥深いファンタジー系ゲームの極み、運営が「未知を楽しむ」事をテーマに作っただけはある。

 その分、運営側への負担は膨大なものとなり、プレイヤーからはその対応の後手後手さや杜撰さからよく「クソ運営」と罵倒されているが、舞台裏を多少知っている側の人間として、またサービス開始直後からいる最古参の身としてはちょっとばかり手心を加えてほしいものだと思うのだが。

 斯く言う自分は複数のアカウントとPCを持った廃課金勢の一人だったりする。

 この手の複数垢は基本不文律として或いは明文的に運営側から禁止されているのだが、金を落としてくれたり違反行為を一切していない場合は大抵お目溢しされる。

 もし削除されても、正直に事情を話せば(後ろ暗い理由が無ければ)復旧してもらえたりもする。

 そんな訳で、自分はそれぞれテーマ別或いはガチ編成の方向別(タンクや支援、遠近に魔法等)にキャラを制作し、臨機応変に使い分けていたのだ。

 とは言え、そんなことをしていれば特定のギルドに所属できないので、自分の拠点となる場所の確保には苦労したが。

 

 そんな自分がキャラ作成の他に楽しみにしていたのが多人数が参加する大規模作戦だ。

 主にイベントのレイドボスやワールドエネミー、ギルド攻略戦なんかがそれだ。

 まぁPS(プレイヤースキル)が低いので、専ら支援かタンクでの参加なのだが。

 それでも巨大で強力な敵相手に皆で一丸となって挑むのは言い知れぬ快感があった。

 そんな中、最も記憶に残っているのがあのユグドラシル最強にして最悪のDQNギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の本拠たるナザリック地下大墳墓攻略作戦だ。

 あの時、育成したものの物足りなくてデスペナによるレベル低下をさせようとしていたタンク系未満の高耐久高火力キャラがあったので、丁度良いとばかりに参加したのだ。

 結果は1500人ものプレイヤーが参加したにも関わらず惨敗、噂の第十階層に行き着く事も出来ず、廃課金装備の力もあって辛うじて第八階層まで到達できたものの、ギルドメンバー全員とNPC達とフィールドを用いた確殺戦術?によって蹂躙されてしまった。

 それ以来、私は結構な頻度で彼らとのPvP戦やナザリックへの侵入を試みる様になった。

 とは言え、うっかりギルド解散されると悲しいので、事前にメールや伝言の魔法で伝えて予定を確認したりしてからなのだが。

 いやもう本当にあの頃、ユグドラシル最盛期は面白かった。

 このゲームが日本で最も知名度が高いDMMO-RPGと言われるのも納得だった。

 しかし、時の流れは残酷だった。

 開始から10年、次々と配信開始された新たなゲームに人は流れ、過疎化が進み、遂には10年目にしてユグドラシルのサービス停止が決定されてしまった。

 本当に残念だった。

 自分のこの10年はこのゲームと共にあったと言うのに…。

 

 『モモンガさん、もうすぐ終わってしまいますね…。』

 『えぇ、遂にと言うべきなのでしょうね。』

 

 自分と同じくこのゲームを愛し、友人達と心底楽しんでいたアインズ・ウール・ゴウンのギルド長モモンガ氏。

 彼もまたこのゲームの終わりを嘆く人だった。

 

 『何だか寂しいですね。』

 『えぇ、私も最後はギルメンと過ごしたかったです…。』

 

 自分にはいなかったが、AOGのメンバーは皆喧嘩もするがとても仲良しだったらしい。

 自分も有名所のメンバー(モモンガ氏含む)とは何度もPvPをしたので話した事もある。

 皆、このご時世にとても良い人達だった。

 本当に、お別れが寂しかった。

 

 『ルービックさんはこの後はどうする予定ですか?』

 『自分も最後は自分の拠点で過ごします。』

 『私もナザリックで過ごす予定です。』

 『惜しいなぁ。結局最後まで攻略できませんでした。』

 『ははは、後でスクショ送っておきますんで。』

 『お、それはまた嬉しいプレゼントですね。』

 

 最後だからと、二人で他愛もない事を語り合う。

 モモンガさんとの最後のお喋りは、楽しくも切なかった。

 

 『では、縁があればまた何時か何処かで。』

 『えぇ。その時までどうかお元気で。』

 

 そして、自分は最後の瞬間、日付変更時間に自分個人の拠点の最奥にある宝物庫、自分の掻き集めたコレクションの山の中で最後の時を迎えた

 

 

 筈だった。

 

 

 「ここ何処やねん。」

 

 気付けば深い森の中だった。

 

 

 ………………

 

 

 そこからは大変だった。

 たまたまその時のPCが支援系魔法詠唱者だったので、ありったけの隠蔽系の魔法を重ね掛けして情報収集及び検証に当たった。

 種族がアンデッドだったから状態異常無効化があって良かったものの、他の通常の生命体だったらどれだけ混乱していたか分からない。

 身を隠した状態で付近の村に潜入し、彼らの会話や生活を見て大よその情報を掴む事が出来た。

 ここはバハルス帝国内の田舎であり、特に特産品なんかもない農村だとの事だ。

 とは言え、恐らく異世界と思われる場所なので、相応の発見もあった。

 レベルが、低いのだ。

 モンスターも人間も、どんな生き物もレベルが低いのだ。

 そのため、得られるスキルも相応に低い。

 それでいてユグドラシルの魔法やスキルは通用するのだから、これはもうオレTueeeee!でもすれば良いのかと思う程に格差がある。

 いや、しないけどね。

 

 (幸い、自分の拠点は維持費も凄い低い奴だから大丈夫だけど…。)

 

 今はアイテムとして収納されているキャンピングカー染みた拠点。

 これの最大の特徴は維持費の低さとアイテムボックスへの収納を可能とする携帯性だ。

 しかも、その内部には多くのアイテムを収容し、更にアイテム・装備作成用の施設がある。

 街の施設を利用できない異形種で、更にソロであれば必須と言っても良い装備だ。

 まぁ、ソロ自体ユグドラシルでは少数派だったので、運用されてた数は余り多くないのだが。

 

 (とは言え、このままじゃジリ貧だしなぁ。)

 

 問題なのは、少量と言えどもこのキャンピングカーもユグドラシル金貨を消費するという事だ。

 幾ら廃課金勢と言えど、その財力は無限ではない。

 よって、何がしかの手段で財貨を確保しなければならない。

 幸いにも、価値あるものなら何でもユグドラシル貨幣にしてくれるエクスチェンジ・ボックスはあるので、後は如何に効率よく価値あるものを集めるのかが重要だ。

 

 (となると、鍛冶と商人スキル持ちが必要になるなぁ。)

 

 売るアイテムは当面はストレージ内の低レベルので済むが、在庫が終われば作るしかない。

 そして、エクスチェンジ・ボックスの変換効率を上げるにはどうしても商人系スキルが必須となる。

 だが、生憎とそれを持っていないのだ、このPCは。

 

 (なら発想の転換だ。持っているPCに変われば良い。)

 

 20以上作ったPCデータの中には、商人系特化と鍛冶・制作系特化のものもある。

 それらになれば今抱えてる問題の殆どは解決できる。

 

 「なら、こいつを使う時が来たって事か。」

 

 手にあるのは流れ星の指輪、それも三つである。

 つまり、9回も願いを叶える事が出来るのだ。

 

 「流れ星の指輪よ、わが願いを叶えよ。」

 

 願うのは一つ、自分の努力と趣味の結晶のため……

 

 「自分が作った全てのPCを使用可能にせよ!」

 

 こうして、自分はこの世界で強くてニューゲームに引き続き、更なるチートを手に入れた。

 

 

 ……………

 

 

 そこからは早かった。

 20を超えるPCへと随時入れ替え可能となった自分は早速行動を開始した。

 隠蔽・移動に優れる暗殺者特化PCへと変身し、バハルス帝国の首都にあたる帝都アーウィンタール近郊へと移動する。

 そこから商人系PCへと変身し、帝都の関所を通るための列へと並ぶ。

 見た目女性の一人旅だからか、列の中で絡んでくる者もいたが、そういった連中は直ぐに兵士達に見つかってしょっぴかれる。

 つい数年前に革命同然の改革、皇帝への中央集権化を成し遂げた帝国だけあり、兵への統制も治安も行き届いているのがよく分かる。

 関所では女商人の一人旅と大分怪しまれたが、商人系スキルの一つである「交渉」による説得で乗り切る事が出来た。

 そこからは簡単なもので、不動産屋へ行って金貨の山を積んで「上位の冒険者並びワーカー向けの装備を売るのに適した立地にある店舗」と言えば直ぐに解決した。

 何せ彼らからすれば御大尽である。

 名も知れぬ商人で女相手だと高を括っていたのが一瞬で掌を返して物件を見繕った。

 その結果、条件にあったのが大通りに程近い元貴族の屋敷だった。

 そこの元貴族は貴族の中でも下級であり、皇帝の貴族らへの粛清に当たって寄り親ごと粛清され、今は無人の空き家だ。

 また、元貴族街の端っこにあるために、比較的大通りに近く、冒険者やワーカーと言われる非合法冒険者とも言われる者達も比較的寄り付きやすい。

 

 「じゃぁここで。」

 「はは、お買い上げありがとうございます!」

 「それと計算や文字の読み書きの出来る従業員を斡旋、又は奴隷を売買してる所ってある?後、清潔なホテル。」

 「それでしたら此処と此処と……ホテルならこちらになります。」

 「ありがとう。じゃこれチップ。」

 「ははぁ!またのお越しをお待ちしております!」

 

 その日は清潔なホテルに泊まり、この世界で初めての豪華な食事に舌鼓を打った。

 そして、翌日には奴隷を購入し、奴隷自身の身支度を済ませた後、一週間程の準備期間を持って、帝都に私のお店である「イツツビシ雑貨店」がオープンしたのだった。

 なお、看板にはこっちの言語と日本語の二種類で「ようこそ五菱雑貨店」と書いてある。

 

 で、店の売れ行きだが……冒険者向けではなく、寧ろ一般市民向けに色々売れた。

 主に鉈や万能ナイフ、包丁、他家財道具等だ。

 逆に刀剣や杖等の冒険者向けの装備類の売れ行きは低い。

 これらは皆鍛冶・制作特化PCで作ったものとストレージの肥やしになっていたゴミアイテム類なのだが、この世界からすればドワーフ製の中でも上位の品質であるらしく、結構な売れ行きだ。

 が、肝心の冒険者向け商品は今の所ポーションしか売れていない。

 全く未知の店である事もあるが、ポーションに関しては劣化しないユグドラシル式であるから下位から中位まで売れる。

 ほぼ置物のつもりとして置いていた上位ポーションのみ、白衣を着た薬師らしき人が大枚はたいて買って行ったが。

 

 「何だかんだ商売も順調か。まぁそれならいっか。」

 

 とは言え、それ以上の事は考えない。

 今の状況が続くだけで、既に自分は満足だから。

 この世界は空気も水も食事も美味い。

 合成食品と汚染された自然環境だけのあちらの世界とは正に天と地程の差があった。

 故にこそ、高望みせず、店を切り盛りしていく必要があった。

 

 「さ、今日も程々に頑張りましょうか。」

 

 なので、今日も彼女或いは彼はお店で笑顔を見せるのだった。

 

 

 

 

 しかし、運命は残酷なものと相場が決まっている。

 この後、帝国勤めの薬師が弟子入りに来たり、王城からスカウトが来たり、終いには帝国最強の魔法詠唱者であるフールーダーまでやってきて弟子入りを懇願したりと、PC名の一つがルービックであるプレイヤーには安息が訪れなかった。

 止めとして、この廃課金プレイヤーが帝都に店を構えた半年後、超巨大なギルド拠点ごとあるプレイヤーがこの世界にやってきた。

 その名をモモンガ。

 嘗てこの廃課金プレイヤーが幾度も戦い、時には共闘し、最後には共にユグドラシルの最後を迎えた友人とも言える人物である。

 彼の登場による世界の変化に、嫌応なく巻き込まれる事になるのだった。

 

 

 「ルービックさん、ルービックさんじゃないですか!?」

 「うぇぇぇモモンガさん!? 貴方何やってるんですか!? てーかNPC達が動いてるぅー!? スクショ、スクショしなきゃ…!」

 「うわぁ相変わらず…じゃない! 貴方こそ何やってるんですか!?」

 

 こうして、(対外的には)最高位の変身魔法の使い手と最高位の魔法詠唱者にしてアンデッドはこの世界で再会するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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