徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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近年は東北にもうどんチェーン店が増えてくれて嬉しい。


艦これ短編 赤城が作る4

 「見てください鳳翔さん!商店街の福引で当たったんですよ!」

 「赤城さん、またですか……。」

 

 仕方ないんや(震え声)

 だって警備府の食料調達、基本的にお近くの商店街に頼ってるもんだから…。

 ここ、小規模だけど既に艦娘だけで50人近いし、憲兵さんとかもいるから、軽く100人はいるし、それだけの買い物をしてると福引券とかが大量に手に入っちゃって、使わないと勿体ないし……。

 

 「にしても、見事な小麦粉の山ですね…。」

 

 呆れた様に頬に手を当てて溜息をつく鳳翔さんの視線の先。

 そこには彼女達の身長よりも高く積まれた業務用小麦粉の大袋(一つ25㎏)が30近くあった。

 

 「取りあえず軽トラックに積んで持ち帰るとして……。」

 「地下室なら長期間保管しても味は落ちないでしょうけど……。」

 

 米等もそうだが、冷暗所で保管すれば味が落ちる(=栄養素が失われる)速さはかなり緩やかになる。

 とは言え、貰ってしまったからには美味しい内に食べ切るべきだと二人は考えていた。

 

 「………よし!」

 「思いつきましたか?」

 「はい!まぁ一部は長期保存するとして……私達だけじゃ手が足りませんね。」

 「丁度暁型の子達が非番ですし、あの子達にお願いしてみましょうか。」

 

 

 ……………

 

 

 「今回はうどんにしましょう!」

 

 使用する小麦粉は基本なんでもOKです。

 肝心なのは材料をたくさん捏ねる事が大事ですから。

 粉100gに対し、水を50~60cc、それに塩を小さじ一杯のみ。

 今回は粉1kgに対し、水を500cc、塩を大匙3杯でいきます。

 材料をボールに入れて、完全に纏まるまで混ぜ合わせます。

 一つの塊になったら、粉をまぶした板の上か綺麗なビニール袋に入れて、ひたすら揉みます。

 板の上なら兎も角、袋でやるなら足でやった方が楽かもです。

 とは言え、やる事は同じです。

 潰して潰して潰して、平らになったら折り畳んでまた潰して潰して潰して……ずっとその繰り返しです。

 製麺機の様な業務用機械なら兎も角、これを人力でやるのは物凄く疲れます。

 しかし私達は艦娘であり、集団生活をしています。

 そして、艦娘というのは例え艤装無しの駆逐艦と言えど、訓練した成人男性を遥かに凌駕する体力の持ち主です。

 

 「うんしょうんしょ。」

 「はわわ、結構大変です。」

 「ハラショー、単なるうどんでも力がいるんだね。」

 「い、一人前のレディなら、お料理だって出来るんだからね!」

 

 大きくて厚手の、透明なビニール袋。

 その中に入ったうどん生地を皆でふみふみと潰す。

 ある程度平らになったら、それを折り重ねてまた一からふみふみ。

 一袋あたり、これを15分繰り返し続けます。

 ………艦娘の私が言うのもなんですが、この光景を撮影してうどんと一緒に売り出したら、とんでもない値で売れそうですね……。

 

 「よいせっと。」

 

 斯く言う私も、先程から彼女達の隣で生地をふみふみしています。

 体力こそ問題ないのですが、終わりが無いと思える程の量をふみふみしているので、聊か精神的にきついものがあります。

 今回は業務用小麦の大袋を3つ分もうどんにしようというのだから、量が多いのも当然なのですが。

 

 「皆さん、おやつを用意しておきますので、頑張ってくださいね。」

 「「「「「はーい!」」」」」

 

 夕飯に向け、うどんに載せる具や麺つゆの準備をしている鳳翔さんから声がかかる。

 今回はあの人に大分負担がいっているが、こちらも凄い量なので、手伝いにいく事が出来ない。

 

 「かつお出汁たっぷりの麺つゆ……ふふ、美味しくなぁれ。」

 

 が、一人で楽しそうにお鍋を掻き回す鳳翔さんがかぁいいので頑張って終わらせましょう!

 なお、カツオ節から出汁を取る場合、沸騰したお湯の火を消した直後に投入し、カツオ節が全て沈んだのを確認してから取り出しましょう。

 取り出したカツオ節はもし犬猫を飼育していたらあげると喜びますよ。

 塩気も抜けてて健康に害になる事もありませんし。

 鳳翔さんには他にも蒲鉾のカットや温泉卵、天ぷらにサラダの準備等を頼んでいます。

 正直、頼み過ぎかもしれませんが、鳳翔さんが嬉しそうに引き受けてくださったので、今回は甘えてしまいましょう。

 さて、私ももう暫く頑張りますか!

 

 ……………

 

 

 2時間後

 

 「ひぃ…ひぃ…。」

 「なのです……なのです……。」

 「はら……しょー………。」

 「りっぱな…れでぃ………。」

 「ぜぇぜぇ……流石にこの人数でこれは………。」

 

 余りの量に業務が午前だけだった睦月型が途中参戦してくれた事で、辛うじて生地を作り終える事が出来ました。

 

 「さて、こうして捏ねて捏ねた生地ですが、もうすっかり落ち着いてお餅みたいによーく伸びます。」

 「わ、ホントだわ!」

 

 さて、生地を伸ばして切る前に、大きな寸胴鍋三つでお湯を沸かします。

 忙しい時に一気に沸かす事はできませんからね。

 そろそろ夕食の時間帯、お湯の準備は欠かせません。

 

 「汁と具材の準備は終わりましたよ。」

 「ありがとうございます。じゃぁ生地切っちゃいますね。」

 

 乾燥した俎板に打ち粉として小麦粉をかけ、生地を載せ、更にその上からまた打ち粉をかけます。

 それを麺棒で1cm程の薄さまで伸ばしていきます。

 で、それを5mm程度の間隔で切っていきます。

 生地が大きくて俎板に載らなくなった場合は折っても構いませんが、常に打ち粉を忘れないように。

 じゃないとくっついて片付けが面倒ですから。

 で、切り終わったら直ぐに麺を解してくっつかないようにしつつ、打ち粉を落とします。

 それが終わったら、沸騰するお湯に麺を入れて、大体10分間茹でましょう。

 固さの細かい調整はゆで時間で変えましょう。

 さて、後は手伝ってくれた睦月型と暁型の子達のために出来立てのうどんをご馳走しましょうか。

 

 「よっと。」

 

 茹でたうどんをザルに上げ、冷水をかけながら解す事でぬめりを取る。

 こうして冷水で絞める事で歯ごたえが増し、更にはぬめりで味がぼやける事を防ぐのだ。

 そして、鳳翔さん特性の濃い麺つゆにお湯か氷水を足し、そこに麺を投入する。

 

 「さぁ、皆で頑張った手打ちうどんです!たんと召し上がれ!」

 

 

 ……………

 

 

 「あっつ………。」

 

 夏の盛りこそ過ぎたものの、に未だ残暑厳しいこの時期。

 夏の大規模作戦における総報告のために全国の鎮守府から提督が集合する。

 大凡一日がけで行われる戦果報告とその昇進の授与に、辟易する提督は多いが、マスコミも入る定期行事でもあるので、迂闊に気を抜く事も出来ない。

 こんな時に襲撃されたら一巻の終わりだよなぁと思うものの、それでも彼は提督としての義務故にくそ暑い中を式典用の装飾ありありの正装で炎天下の中を棒立ちする事となった。

 

 (早く風呂入りたい……。)

 

 制汗スプレーや消臭剤を利かせても尚消し切れない汗臭さに嫌な気分になる。

 マスゴミの機嫌なんて取らないで、書類の送付だけで済ませてほしいと彼は心底思うのだが、「民心の慰撫も軍人の務め」とこの手の行事は尽きる事がない。

 とは言え、それももう終わった事。

 日が沈んで涼しくなったこの時間、提督は漸く己の警備府へと帰ってきた。

 

 「ただいまー……。」

 「おかえりなさい、司令。」

 「お、今日は不知火が第二秘書艦だっけか。」

 「はい。」

 

 当警備府では秘書官は初期艦である吹雪を第一秘書艦とし、必ず第二秘書艦を設けて事務仕事に当たる。

 更にここに大本営との連絡役として大淀がおり、鎮守府の事務方となっている。

 第二秘書艦の設立に関しては、提督と吹雪、大淀がいない時でもしっかりと事務を回せるように全員に一度は経験させるべしという提督の意見によって設置されたものだが、艦娘達からは「合法的に提督のお傍にいることが出来る!」として大人気であったりする。

 

 「こちらをどうぞ。」

 「お、悪いな。」

 

 渡された冷たいお絞りで顔や首を拭うと、先程まであった不快感が大きく減る心地良さにふぅ……と一息つく。

 

 「先ずはご入浴すべきかと。」

 「だな。流石に汗臭いしな。」

 

 少しマシになったとはいえ、辛いことに変わりはない。

 そうして不知火と互いに大本営と警備府での他愛のない出来事を報告し合いながら歩いていくと…

 

 ズルズル・・・・・・

 「ん?」

 

 不意に提督の耳に異音が響いた。

 

 「提督?」

 「何か聞こえないか?」

 「いえ、不知火には何も。」

 

 不知火が高角砲を構え、周辺を警戒し出す。

 しかし、提督はそんな様子は一切見せず、迷いなくその足をある場所へと向ける。

 

 「どちらに?」

 「音の発生源に。」

 「お供します。」

 

 そして歩く二人だが、異音の正体は直ぐに分かった。

 微かな何かを引きずる様な音。

 それが漏れ出ているのは食堂だった。

 

 「成程、この音でしたか。」

 

 そこでは皆が皆ズルズルと音を立てながら、一心不乱に白い何かを啜っていた。

 その太さと茹でた小麦の特徴的な香りに、提督はそれが何かを悟った。

 

 「うどんか。」

 「そう言えば、今日は赤城さんの日でしたね。」

 

 その言葉に、提督は黙って歩を進めた。

 既に彼の頭の中には、というかこの警備府の者達には赤城=メシウマという構図が常識としてインプットされている。

 ここで先に風呂に入って、空母や戦艦組に全てを食い尽くされるのは提督としては我慢ならなかった。

 

 「風呂より先に食べる。」

 「お供します。」

 

 戦艦の眼光とも言われる不知火もまた、人知れず唾を飲みながら、空いているテーブルへとつく。

 

 「お帰りなさい司令官!こちらお冷になります!」

 「ただいま睦月。メニューはあるかい?」

 

 にこやかな駆逐艦娘の一人からお冷を受け取りながら、提督が問う。

 

 「はい!温と冷、小と並に大があります。」

 「へ、それだけ?」

 

 赤城が作った割に、余りにもシンプルだった。

 

 「ふふ、提督、あっちを見てください。」

 「あっち……あ!」

 

 今まで大勢の艦娘達の陰になって見えていなかったが、この食堂の中央にあるテーブルに沢山の具が置かれていた。

 刻み葱にかまぼこ、椎茸の煮物や天かすやワカメ、油揚げといった一般的なものから、鶏ささみとエビ、茄子や南瓜、ゲソやかき揚げ等の天ぷらが揃っている。

 更にサラダに使うレタスや玉葱にトマト、海藻ミックスにコーンやキュウリ、大根おろしに大根のつまや茹でたオクラ、シーチキンにサラダチキン、各種ドレッシングが並んでいる。

 また、その二つの集団の間には生卵と温泉卵、ゆで卵が配置されている。

 

 「成程。うどんバイキングか。」

 「はい!暁型と睦月型の子達皆で生地を踏んで作ったんですよ!」

 

 にっこりと告げる睦月だが、それで食欲をそそられるのは変態だと提督は思ってしまった。

 

 「つまりは手打ちうどんか…!よし、最初は冷の小で頼む!」

 「不知火も同じものをお願いします。」

 「はい、かしこまりました!」

 

 注文し、ワクワクそわそわと少年の様にうどんを待つ。

 何せさっきから二人の嗅覚には小麦が茹でられる匂いの他、熱々の天ぷらを揚げる油の香りまで届いており、空きっ腹を抱える二人にはこの時間は食事の醍醐味ながらも余りにも酷だった。

 

 「お待たせしました!冷の小盛二つになります!」

 

 渡されたどんぶりは味噌汁椀より少しだけ大きい小どんぶりがそれぞれ二つ

 二つのお椀には少し濃いめながらも氷の浮かぶ麺つゆ、そして主役たるうどんの姿があった。

 形式的にはざるうどんだが、これを基準に色々と具を足すのならこの方が効率的なのだろう。

 

 「「いただきます。」」

 

 不知火と共に感謝の言葉を告げ、うどんへと挑む。

 

 (最初に一口。)

 

 ちゅるん、と一本だけすする。

 すると、単純な塩分ではない圧倒的な旨味に驚く。

 

 (凄い濃厚なカツオ出汁!)

 

 市販品ではあり得ない程の濃厚な旨味。

 そのまま咀嚼すると、今度は物凄い歯ごたえのうどんとぶつかる。

 

 (こりゃすごい!突き立ての餅みたいだ!)

 

 単純な固さではない。

 その圧倒的な弾力に、提督は心奪われた様にじっくりと咀嚼し、飲み込む。

 

 「美味い…。」

 

 一日中式典と報告会で炎天下の中には提督にとって、冷たいまま喉を流れ落ちていくうどんの感触は心地よい。

 

 (よし、次だ。)

 

 予定通り、提督は席を立つと、艦娘に混じって真ん中のテーブルへと向かう。

 その中からサラダ、生野菜を全部うどんの上に乗せ、そこに青じそドレッシングをかけて戻る。

 

 「うむ。」

 

 テーブルに戻ると、満足気に頷き、箸を突き刺し、生野菜ごとうどんを一気にすする。

 しっかりとしたうどんの歯応えに加え、シャキシャキとした生野菜の食感がアクセントとなって楽しい。

 目で見ても彩鮮やかなサラダうどん(青じそドレッシングかけ)の持つ清涼感に、食べ終わる頃には提督の汗はすっかり引いていた。

 

 「すいませーん!温かいうどんの並一つ!」

 「はーい!」

 

 そして、程良く体が冷えた所に、温かいうどんを頼む。

 前菜は終わり、次はメインである。

 提督は3分も経たずに届いた熱々のうどんと温かい麺つゆをテーブルに置いたまま、意気揚々と天ぷらコーナーへと向かう。

 

 (先ずは七味と刻み葱、おっと蒲鉾もだな。)

 

 先程とは異なり、うどんの具としてはスタンダードなそれらを大皿から取り、次に目的である天ぷらへと向かう。

 

 (よし、丁度揚げたてだな。)

 

 ジュウジュウと未だに音を立てている天ぷらに内心でガッツポーズを取る。

 そして柏天とえび天、茄子天に南瓜天にゲソ天、かき揚げを別の平皿へと取り分けてテーブルに戻る。

 

 (やっぱ後乗せこそ至高。)

 

 そう信仰する提督は、決して天ぷらを汁でべちょべちょにしたりはしない。

 そういうのは天かすでやれば良いのだと思っている。

 

 「ん……!」

 

 テーブルに戻り、直ぐに我慢できんと汁に先端を付けたエビ天に噛みつく。

 すると、中心が半生状態だったエビ天から熱々の汁が飛び出す。

 その熱さと美味さに驚きながらも、思わずビールが欲しくなってしまう。

 だが、今日の主役は違うと空かさずうどんを一口啜って一緒に食べる。

 熱々の天ぷらと茹で立ての麺、そして旨味満点の汁のコラボレーション。

 専門店でも早々味わえないプロの味に、提督の脳裏を歓喜が埋め尽くす。

 南瓜のほくほくとした甘さ、茄子のとろりとした柔らかさ、ゲソ天のうどんとはまた異なる歯応えと旨味、そしてかき揚げのサクサク感と玉ねぎと人参の甘味。

 それをネギたっぷりのうどんと共に喰らい、時折箸休めとして蒲鉾をかじる。

 

 (美味い……。)

 

 ただ只管にそう思う。

 あぁ、苦労も多いけど提督やってて良かったと、彼はしみじみと思った。

 

 「ん?不知火、それは……。」

 「これですか?釜玉うどんです。」

 

 茹で立てのアツアツのうどんに生卵を落としてかき混ぜ、そこに醤油や出汁醤油を垂らし、お好みでネギとゴマ、そして刻み海苔を塗している。

 

 「すいませーん!温の並一つ!」

 

 気づけばそう叫んでいた提督を責める者はいない。

 こうして、小さな警備府の夕食会はまたも大盛況で終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 「ふっふっふ!昨日よりもちょっと伸びてる?そんな時こそ焼うどん!鰹節と竹輪入りです!」

 「「「「!?」」」」

 

 




個人的にはサラダうどん(ゴマドレッシング)か和風カレーでのカレーうどんが鉄板。

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