徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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IS転生 魔改造セシリアが逝く その4

 「あら、てっきり打鉄で来ると思ってたのですけど。」

 「オレもそっちの方が良かったかもなぁ…。」

 

 アリーナ内で、二機のISが向かい合う。

 だが、未だに戦う気配は無かった。

 

 「取り合えず、フィッティングが終わるまで待ちます。その間、機体の挙動に慣れておきましょう。」

 「すまん……。」

 

 ここまで遅れた責任は納入元である倉持技研にある。

 だが、それでも何も言わず待ってくれるセシリアの思いやりに、一夏は頭が下がる思いだった。 

 

 「終わりましたか。」

 

 5分後、機体の慣らし及びフィッティングの完了した一夏の姿があった。

 特徴的なウイングスラスターと純白の装甲。

 そして何より目を惹くのは、たった一振りの刀。

 ISに携わる者なら誰しもが知る一振りに酷似したソレに、セシリアは知っていてもなお目を瞠った。

 

 「機体の調子はどうです?」

 「うん、えっと、その、だな…。」

 「言い難いでしょうが、早めに言った方が良いですよ。」

 

 新品の機体に乗りながら、しかし一夏の顔は優れない。

 だって、これは余りにも荷が重かった。

 同時に、余りにも欠陥品だった。

 

 「武装が、刀一本です。」

 「……………………他、には?」

 「無いです。」

 「バルカンも?盾も?フラッシュロケットも?ナイフも?」

 「無いです。雪片弐型だけです。」

 

 素人の乗る機体なのに、ブレオン仕様。

 しかも踏み込みの速さこそ最重要な近接機体で、機動性向上のための大きなウイングスラスター=被弾面積の拡大。

 姉弟で揃えたという事なのだろうが、余りにも搭乗者を無視した仕様に、セシリアは本国の英国面に染まった技術者達よりも馬鹿な倉持技研の技術者達を無言で呪った。

 しかし、その名称から天災絡みの色々をも悟ったセシリアは、何も言わずにただ天を仰いだ。

 

 「……………よし、そろそろ始めましょう!」

 「お、そうだな。」

 

 顔を下に戻した時には、いつもの笑顔を浮かべていたセシリアだったが、物凄く含むものがある事を短い付き合いながら一夏は悟った。

 色々な事から目を逸らして、取り敢えず模擬戦を始める事にした二人だった。

 

 

 ……………

 

 

 「処で先生、勝率はどう見ますか?」

 「オルコットと織斑で9:1……いや98:2位か。」

 「どう足掻いても無理って事ですね。」

 「相手が悪すぎるからな。オルコットは同世代の中では間違いなく最上位のIS乗りだ。」

 

 

 ……………

 

 

 「取り敢えず、避け続けてくださいな。」

 「っ」

 

 セシリアの言葉に何か返す事もなく、一夏はその場から後退した。

 一瞬前までいた空間を二枚の板状の飛来物が貫いていく。

 セシリアの放ったストライクシールドだ。

 何とか回避したものの、これは距離を詰める必要のある白式に関しては失策だった。

 

 「近接型が距離を取ってどうするのです。」

 「っあ!」

 

 透かさずレーザーライフルが咄嗟の後退で姿勢の崩れた一夏へと発射、そのエネルギーシールドを削っていく。 

 「なろう!」

 

 止まれば即負ける。

 それを悟った故に、一夏はジグザグにランダム軌道を行った後、セシリアへと踏み込んでいく。

 だが、それは単なる加速であり、瞬時加速ではない。

 近接武装の、雪片の抜きと構えは様になっているものの、やはり搭乗経験が少なすぎた。

 

 「ちゃんと踏み込めましたわね。」

 

 それをセシリアは一切余裕を崩さず、上昇して回避する。

 直後、視線すら向けずにだらりと下に向けたレーザーライフルで下方にいた一夏を攻撃する。

 その不意打ちに近い一撃を、一夏はそのまま直進する事でウイングスラスターの表面を焦がすのみで回避する。

 死角からの攻撃の回避、これが一夏なりにISのハイパーセンサーへの習熟を進めた結果だった。

 

 「さぁ、もう少し頑張ってみましょうか。」

 「よし、ぜってー一太刀浴びせるからな。」

 

 セシリアの余裕を感じさせる笑みに、一夏は男臭い笑みで以て答えた。

 

 

 ……………

 

 

 「意外といけてます、よね?」

 「無理だな。」

 「篠ノ之さんには残念ですけど……セシリアさんはまだ殆どBT、第三世代兵装を使ってないですから…。」

 「それにあいつの本領はBTじゃなく高機動射撃戦だ。BT全部落とされてからの方が強い。」

 「おぉもう……。」

 

 

 ……………

 

 

 「行きなさいBT!」

 

 セシリアの声と共に、機体の両脇から4枚のストライクシールドが飛び立つ。

 それぞれが独自の軌道と共に一夏を上下左右から包囲する形を取り、まるで猛禽類の様に突撃していく。

 

 「こ、のぉ!」

 

 故に、一夏が選んだのは突撃だった。

 スラスターを全開にし、何とかこつを掴んだ瞬時加速によって、本日で最高の加速を発揮してみせる。

 これが原作のセシリアなら、ほぼ間違いなく一太刀は与えられていただろう。

 

 「よく出来ました。」

 

 だが、此処にいるのはNTとして覚醒した魔改造セシリア(スパロボ仕様)である。

 BTが外れる前に一夏の軌道を予測していたセシリアはレーザーライフルの銃口下部に量子変換していた銃剣を呼び出して装着、自身もまた正面から瞬時加速、真向から切りあう事を選択する。

 機体特性を無視した動きに一瞬だけ一夏の刃に迷いが出たが、刹那の内に振り切り、予定よりも倍近く早く間合いに入ったセシリア目掛け雪片を振るう。

 

 「せぇあッ!」

 「ですが、まだまだですわ。」

 

 加速の乗った上段からの振り下ろしの一撃。

 それをセシリアは銃剣をレイピアの様に雪片の脇へと添える様に突き出し、僅かに力を加える事でその刃筋をずらし、作り出した安全地帯へと滑り込む。

 

 「ぐおっ!?」

 

 往なされた雪片に体を持っていかれ姿勢の崩れた一夏。

 立て直す前、すれ違い様にセシリアの膝が一夏の装甲されていない脇腹へと抉り抜く様に叩き込まれた。

 

 「足癖悪すぎないか!?」

 「ごめんあそばせ。」 

 

 パワードスーツであり、人体の延長として操作できるIS。

 だからと言って、射撃型の機体で近接兵装も使わずに格闘戦を行う。

 下手するとそれをやった機体の方が壊れかねない。

 だと言うのに、セシリアはそれをやった。

 それはつまりどの部位で、どの程度ならば壊れないかを理解している。

 それだけ機体への信頼と理解が深いという事の証左でもあった。

 

 「はぁ!」

 

 すれ違った勢いのままに一旦距離を空けて旋回、再度一夏が突進する。

 

 「ストライクシールド!」

 

 それを迎撃するため、再び4枚の攻防自在の盾が飛翔する。

 

 「もう見てんだよ!」

 

 自身を包囲する形で飛来する盾の群れに、一夏は敢えて突っ込み、最も近かった一枚へと接近し…

 

 「残念。」

 「うお!?」

 

 雪片を振るってストライクシールドを破壊する前に、セシリア本人からのレーザーライフルが命中する。

 

 「そろそろ良い時間ですし、本日はここまでにしましょうか。」

 「マジかぁー!?」

 

 ストライクシールド。

 今までは単純に一夏を包囲・攻撃していたそれらが連携を始めたのだ。

 一枚を破壊しようとすれば、他の何れかがそれを牽制・阻止する。

 フェイントをかけて近づいてこさせても、直ぐに気づかれ軌道が変更される。

 ストライクシールドはIS本体から離れてしまえばPICの範囲内から外れ、通常兵器と同様になる。

 とは言え、思念操作式の無人攻撃兵器なだけあり、その機動性は同サイズのミサイル等よりも遥かに高く、無茶も利く。

 それらを捌きつつ、セシリアの相手をするだけの技量と経験に判断力は、一夏にはまだ無かった。

 

 「ちっくしょー!」

 

 まるで猛禽に集られる様に、或いは鳥葬される死体の様に、一夏は今までは遊びに思える程のストライクシールドの連撃によってシールドエネルギーを削り切られて敗北した。

 

 

 ……………

 

 

 「ではデブリーフィングを始めましょう。」

 

 試合終了後、特に試合結果を誇る事もなく、セシリアは原作と同様のピッチリとした専用のISスーツを纏った状態で一夏達のピットへとやってきた。

 

 「織斑さん、先ず何が悪かったか分かりますか?」

 「えーと……距離を取ろうとした事かな?」

 「正解です。」

 「道理だな。近接型が距離を取っても鴨にしかならん。」

 

 ブルーティアーズは近接も多少は出来るが本分は射撃であり、対する白式は完全な近接、それもブレオン仕様だ。

 そんな機体が距離を取った所で相手に利するだけでしかない。

 

 「まぁカウンターで膝蹴りを入れたので、それで迂闊に近づきたくなくなったのはこちらが狙ってやった行動ですので仕方ないとも言えます。しかし、それにしたって警戒し過ぎです。」

 「うっす…。」

 

 近接ならこっちが有利!とか思って接近したら逆襲に遭った一夏は項垂れた。

 実際はそこまで得意でもないし、あのまま近接戦闘をしていれば、一太刀与える事は出来た可能性は高い。

 

 「次は?」

 「えーと……。」

 「まぁこれは仕方ないですが……僅かばかりとは言え慣れた機体と未調整の新型、選ぶならどっち?」

 「慣れた機体です……。」

 

 専用機、貴方だけのISと言う響きに負けた一夏だった。

 

 「まぁ機体の搬入に関しては倉持が全面的に悪いです。本来の国産第三世代ISを放っておいて、出てきたのがこんな欠陥機ではお話になりませんわ。」

 「ん、そんなに悪い機体なのか、これは?」

 

 セシリアの言葉に、箒が疑問を呈した。

 一夏も同じ意見だが、山田と千冬の教師二人は(だよなー)と言わんばかりにげんなりとした表情だった。

 

 「お二人共、近接機体に大事な事を三つ述べてください。」

 「えっと、パワー。」

 「装甲もだな。」

 「後は……踏み込みの速さ。」

 「その通りです。」

 

 そしてセシリアはBTのセンサーを起動、模擬戦中に採取した白式のデータを表示した。

 

 「機体の基本性能こそ素晴らしいものですが、間違いなく産廃です。」

 

 セシリア曰く、近接だろうが射撃だろうが駄目過ぎる。

 先ず、兵装が雪片一振りであり、武装を収納できる拡張領域がそれだけで埋まっている。

 次に、近接型と言う踏み込みの速さこそが最重要となる機体で、機動性向上のためのウイングスラスターを搭載=被弾面積が多い。

 これでは踏み込もうにも被弾の可能性を無駄に上げる事となる。

 最後に、燃費が悪すぎる。

 セシリアは自身の攻撃で平均的な第二世代ISならどの程度の余力が出るかをしっかりと計算しながら攻撃していた。

 そのため、最後のストライクシールドによる攻撃も、第二世代相当なら対処できるだろうと考えていた。

 しかし、実際は削り切る予想時間の半分程で一夏の負けが決まった。

 つまり白式は、平均的な第二世代の半分の稼働時間しか持っていない事になるのだ。

 

 「これはその、何ていうか……。」

 「この機体を作った方は技術力では間違いなく天才でしょう。ですが、間違いなく頭の良いおバカです。」

 

 好んでブレオンを選んだ千冬に対し、押し付けられた一夏にはたまったものではないだろう。

 しかも、拡張領域が無いものだから、盾もバルカンも追加できないのである。

 

 「しかも武装名からして暮桜の後継機なのでしょうが……織斑先生並の人材がそう転がっている訳がありません。ブリュンヒルデ病もいい加減にして頂きたいものですわ!」

 

 ブリュンヒルデ病とは、第一回モントグロッソを首位独走で優勝し、今現在も世界最強の名を欲しいままにする千冬に何かあると必ずあやかろうとする者達を指す蔑称だ。

 同じような事例に、ドイツの開発したVTシステム等が上げられる。

 

 「取り敢えず、機体の細かい調整や追加装甲等を加えれば、多少はマシになると思います。それでも、根本的な解決にはなりません。お願いですから倉持以外のまともな企業に制作を依頼してください。」

 

 こうして、一夏の初のISの試合は黒星と言う形で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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