徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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何とか完成……(げっそり)

この拙作を先日大変お世話になったぐにょりさんに捧げます。


仮面ライダークウガ転生 怪人が逝く

 体をほぼ真上から走る灼熱、ほぼ同時に訪れた唐突な炸裂音。

 

 (これ、えーと、あれだ、狙撃!)

 

 そこまで考えて、意識は完全にブラックアウトした。

 後から思い出すと、即死間違いなしの一撃を受けてそんな事を考えられる猶予がある辺り、この後に起きた展開の前兆だったのだなぁと理解できる。

 でもまぁその時はそこまで考えられず、こんな思考をする事しか出来なかった。

 

 (平成ライダー、それもクウガの世界かよ。)

 

 散歩に来た公園の片隅、目立たないその場所で倒れた自分の傍に舞い降りた擬人化されたスズメバチの様な怪物、即ちメ・バヂス・バの姿に、うっかり前世を思い出した自分は内心でそう叫んだのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「バギング・ドググド・ゲギド。」

 

 これで26。

 メ・バヂス・バ(グロンギ語でメ集団のバ=虫系のバヂスの意)はそう呟き、次の獲物を物色するため、直ぐに飛び立つ。

 ゲゲルの遂行のため、彼は一か所から順に螺旋状にリントを殺害して回っていった。

 スズメバチの力を持った彼は、上空から一方的に右腕から高速で射出される針で以て狙撃し、順調にゲゲル(グロンギ語でゲームの意)を進めていた。

 未だメ集団である彼は針の生成に時間がかかるために連射する事は出来ず、一定のインターバルを必要とするものの、ゲゲルを成功させてゴ集団に昇格すれば、その飛翔能力と針の射出、そして複眼から来る高い索敵能力を加味すれば(人格や品性は兎も角)ゴ・ブウロ・グと同様に間違いなく強力なグロンギとなるだろう素質がある。

 彼はその複眼で今し方狙撃したリントが確かに死んでいる事を確認すると、針のインターバルが過ぎたのか、あっさりとその場を飛び去った。

 

 だが、バヂスは少しだけ早過ぎた。

 彼が飛び去ったとほぼ同時、死んだ筈の標的が、僅かに動いたのだ。

 

 

 ……………

 

 

 「…………。」

 

 頭がぼぅっとする。

 先程頭頂部から真下へと駆け抜けた灼熱は、今は感じない。

 代わりに感じるのは寝起きの様な思考の纏まりの無さ、そして何処から湧いてくるのか分からない全身に漲る活力だった。

 今にも走り出しそうな体を、しかし酩酊にも似た状態を自覚しているが故に、何とか立ち上がったまま、直ぐ傍の樹に掴まって体を支えたまま動かない。

 少なくとも、この酩酊が消えるまではこのままこの場にいよう。

 そう考えていると、不意に足音が聞こえてきた。

 

 「お、おい!君、大丈夫…ひっ!?」

 

 警官だ、それも配属されたばかりの若い感じの。

 恐らくは警邏中に通りかかったのだろう彼は、職務意識に忠実に様子のおかしな人物へと近づいて行ったのだろう。

 それがナニであるかも気付かずに。

 

 「こ、こちら○○公園内にて新種の未確認生物を発見!至急応援を、応援を!」

 

 何事か叫ばれている。

 そう思った彼は何とか言葉を口にしようとするが、酩酊感が抜け切らずにまともに会話できず、何とかジェスチャーで通じないかと警官に向けて手を伸ばす。

 しかし、その動作は未だ若く、荒事の経験の少ない警官には、攻撃のための予備動作にしか見えなかった。

 まぁ仕方がないだろう。

 未確認生命体、グロンギの中にはノーモーションで口から糸を出す第一号ことズ・グムン・バの存在もあり、クウガ警察は基本的に「未確認を確認したら、周囲の民間人を救出・避難させつつ、躊躇わずに撃て」と厳命されている。

 後に開発される神経断裂弾でもない拳銃では、基本的にグロンギに小火器での攻撃は最下級のズ集団にすら無力なのだが、この時ばかりはそれは効果があった。

 警官は恐怖のまま拳銃を引き抜くと、初弾が空砲である事も忘れて弾倉内の弾丸全てを撃ち尽くした。

 

 「!? ぐぅぅっ!?」

 

 それは、未だ人間から成ったばかりの彼にとって、肉体面は兎も角精神面では間違いなく衝撃的な出来事だった。

 

 「うあぁぁぁぁぁ!?!」

 

 彼は市民を守る筈の警察官により銃を向けられ、剰え発砲されたという驚愕と恐怖により、全力でその場から逃走せんと肉体を暴れさせた。

 その行動に彼の新しい肉体に宿った本能、否、彼の中に元々眠っていた「記号」が応えた。

 

 「ガァァァァァァッ!!」

 

 「記号」によって覚醒した肉体の背中から、まるで羽化するかの様に何かが生えてきた。

 大型の猛禽類と似ているようでしかし完全に別物だが、間違いなく翼だった。

 全幅3mはあろうかという、巨大な翼。

 彼はそれを真上から一気に振り下ろすと同時に跳躍、一息にその場から飛翔し、逃走していった。

 

 

 この時より、彼の逃亡生活が始まった。

 

 

 ……………

 

 

 「な、今度は緑!?」

 

 処変わって都内某所の遊園地。

 そこでは駆け付けた一条警部補と未確認生命体第四号にしてクウガこと五代は第十四号ことメ・バヂス・バと戦闘に入った。

 当初、その場に人間態の第三号ことズ・ゴオマ・グがいたのだが、こちらは一条警部補の射撃によって落とされたバヂスのグゼバ(ゲゲルのスコアカウント用の腕輪)を回収しつつ、クウガの登場と共に一目散に逃走してしまった。

 そして始まった戦闘は、序盤はクウガが優勢に進めた。

 と言うのも、この時のバヂスは針を発射した直後であり、インターバルの最中だった。

 そこに想定していなかったクウガとの突発的な戦闘であり、しかも五代は第0号の遺族の娘さんの件で士気が高かった。

 これによりバヂスは一方的に押されていたのだが、状況が逆転したのはインターバルが終了してからだった。

 バヂスはその右手の針を発射せずに長く伸ばし、そのまま武器として使用し始めた。

 基本的に刺突のみの針の攻撃を何とかクウガは躱し続けるも、一度だけ左肩のアーマーを掠めてしまう。

 その際、針から漏れ出た毒液が付着したアーマーが僅かに溶解したのだ。

 幸いにも五代の肉体にまでは届かなかったが、それでも体内に直接注入されれば、どうなるか分かったものではない。

 更に毒針に怯んだ隙にバヂスは地面から飛び立ってしまう。

 それをクウガは敏捷性と跳躍力に優れた青の戦士ことドラゴンフォームとなって追跡、近くにあった建物の屋上へと追い縋るが、飛翔するバヂスにとっては足元を除く全方位から襲い掛かれる絶好の場所に、クウガは苦戦を余儀なくされる。

 加え、唐突な緑の戦士への変身と過敏化した五感からの情報にまともな戦闘行動が取れなくなってしまった。

 

 「クウガゾジャセスドザバ!」

 

 クウガをやれるとはな!

 建物から落とされ、脳髄をガンガンと揺する過剰な情報量に動けぬクウガに、バヂスは止めを刺すべく屋上から針を構えた。

 

 「?」 

 

 そんなバヂスの頭上に、不意に影がかかった。

 だが、目の前のある極上の獲物にバヂスの思考は狭まっていた。

 

 「っらあああぁぁぁぁぁ!」

 「ガァッ!?」

 

 普段頭上から奇襲しているが故の、頭上への警戒の低さと慢心、そして油断。

 それが故にバヂスはその奇襲を全く予期できなかった。

 

 「お前がぁぁぁぁぁぁ!!」

 「ッ、ザギン……!?」

 

 灰の…!?

 衝撃と共に手すりへと叩き付けられたバヂスはダメージ以上に驚愕で口を開いた。

 自分達グロンギと同じく、リントと敵対的な種族からの奇襲に、バヂスはその思考の殆どを驚愕というノイズで占められるも、即座に戦闘種族らしい回答へと行きついた。

 即ち、敵ならば殺す。

 

 「あああああああああ!」

 「ガアア!」

 

 未だ発射していなかった毒針を振るい、鳥の姿を取った灰の種族との戦闘を開始する。

 彼らグロンギにとって、自分達以外の種族は全て、否、自分以外は潜在的に全てが敵だ。

 だから、これは彼らグロンギにとって自然な事だった。

 ただ彼がその流儀を通すには、幾つかの問題があった。

 一つ、目の前の灰の種族の戦士が所謂オリジナルと言われる強い個体であった事。

 二つ、相手が転生者特有の知識持ちであり、彼の手札は殆ど知られているという事。 

 三つ、純粋に彼との相性がそう良くない事。

 

 「ギ…!?」

 

 困惑と共にバヂスの蜂の顎から擦過音にも似た声が漏れる。

 それは目の前の敵が自分の苦手な距離から決して出ないからだ。

 針を、武器を使うには最適なリーチや予備動作というものがある。

 バヂスの使う針はリーチは短く、刺すために腕を引く予備動作がある。

 相手はそれを把握しているかの様にこちらの右腕を抑えつつ、もう片腕と背にある翼と一体化した腕を用いて攻撃してくるのだ。

 相手の方が手数もパワーもあり、これでは飛翔も出来ないので撤退も出来ない。

 こうなると、バヂスの特性を全て封じられてしまった事になる。

 

 「グガアア!!」

 

 それでもバヂスは怯む所か怒りのままに戦闘を続行、この面倒な灰の種族の戦士を殺さねばクウガを狩る邪魔をされた怒りは収まらないとばかりにダメージも気にせず暴れ狂う。

 

 「ぐお!?」

 

 その怒り狂う様に、遂に灰の戦士は拘束を振り解かれてしまう。

 そのままバヂスは形勢を立て直すためか、建物から飛翔して撤退していく。

 それを灰の戦士は追わず、ただ地上で変身の解けた五代とそこに駆け付ける一条警部補の姿をその強化された視力で見届けていた。

 

 「クウガ……。」

 

 そして、一条がこちらに視線を向けているのに気づくと、慌ててその場から飛び去ったのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「あーしんど……。」

 

 幸い、未だ学生の身分である彼にとって多少の夜遊びは許される範疇であり、そもそも両親が仕事でちょくちょく家にいない彼にとっては、家に一人でいるのはいつもの状況だった。

 変わっているのは、彼が不可逆の変化を遂げてしまっており、変身してしまった姿を警察に目撃され、その存在を知られてしまったという事だ。

 

 「これからどうすっかな……。」

 

 幸い、身バレはしていない。

 しかし、何時までもそれが続くとは彼は思っていない。

 他の仮面ライダーシリーズと異なり、クウガの警察は優秀にして職務意識溢れる素晴らしい人たちだ。

 それに追われる側になった身としては全く以て嫌な事実だが、それ故に何とかしなければならないだろう。

 しかし、自分が成ってしまった者は、そんな彼らをして手に余り、何より危険過ぎた。

 

 「よりにもよってオルフェノクかよ……。」

 

 平成仮面ライダーシリーズ四作目である「555」に登場する怪人たちの総称であり、全員が死亡した人間から進化した全身灰色の種族だ。

 その能力は個体差が大きいものの基本的に人間では勝てない程に強力であり、勝つには同じオルフェノクや仮面ライダー、或いは重火器の一斉射を直撃させねでもしなければならないだろう。

 個人が持つ資質であるオルフェノクの「記号」が死亡又は他のオルフェノクが心臓を破壊して起こる「使徒再生」で生まれる彼らは、低確率であるものの増え続ける。

 反面、長くとも10年程度の寿命というハンデがあるものの、オルフェノクの王がその問題を解決できる。

 更に詳細不明だが、遥か未来か過去においては別の種族と地球の覇権を争っただとか何とか。

 

 「幸い、外見は良いな、うん。」

 

 部屋にある姿見の前で変身すると猛禽類、その中でもコンドルに近い外見的特徴を幾つか持っているためか、クレインオルフェノクにもある脚部の鱗状の模様等、僅かながら共通点がある。

 

 「つーかこれ、オルフェノク版のジェットコンドルの様な…。」

 

 スピリッツで漸く登場できた暗黒大将軍に似てるという事実に、若干凹む。

 外見は大好きなのだが、登場できなかった理由とか散り際とかがその……ね?

 

 「やめやめ。取り敢えず今日は寝よう、うん。」

 

 そして少年は夕飯も取らずに布団に包まった。

 現実逃避のためのふて寝だったが、それでも混乱した精神は平静を取り戻すために夢の世界へと旅立つのであった。

 

 

 ……………

 

 

 「う~~ん。」

 「どうした、五代?」

 「あ、一条さん。何かね、気になるんですよね。」

 「先日の、新しい未確認か?」

 「そうですそうです、灰色のアイツ。鳥っぽいの。なんかさーアイツが14号と戦ってくれたお陰で、俺今こうして無事な訳ですし。」

 「それで?」

 「実はアイツ良い奴なんじゃないかなって!」

 「アホな事言ってないで、少し休め。疲れてるんだよお前。」

 「酷い!?」

 

 

 

 「とは言え、調査は必要だな。」

 

 

 

 

 




所々グロンギ語が間違ってるかもしれませんが、詳しい方いれば、誤字報告か感想で教えて頂けると助かります。

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