徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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今回は攻め込む前の準備段階。
そして今回、リーアさんがまーたやらかしますw


×ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり 第三話

 銀座襲撃事件から一か月。

 日本は何とか凡その事態を把握し、収容した捕虜達の扱いに四苦八苦しながら、異世界と繋がる門の扱いに悩んでいた。

 と言うのも、全ては事情聴取のために任意同行(という名の保護&監視)してもらった魔法使いことリーアから驚くべき情報を入手したがためであった。

 用心のため、その場には保護者でもある伊丹二尉(銀座事件後に昇進)も同席し、改めてその出自と能力や人格、事件時の行動等に関して事情聴取を行った。

 

 なお、「どうして最初から言わなかった!」という声もあったものの、伊丹二尉の「正直に言いましたけど信じられませんでしたのでカバーストーリー作りました」という身も蓋もない言葉でお咎め無しとされた。

 

 それはさておき、リーアが明らかに荒唐無稽エロゲ世界出身である事、単騎で同質量の核弾頭を超える鬼械神を召喚できる事、自衛を除いて人類間の戦争には関与しない事などが明らかになったが、最大の情報はやはり銀座の門に関するものだった。

 

 「アレ、空間を捻じ曲げて無理矢理繋いでるからな。長期間開けてるとゴムみたいに揺り戻しで空間が弾けるぞ。」

 

 より具体的な被害で言えば、一か月以内に門を閉じない限り、門を中心とした空間震が発生、結果として双方の世界が全宇宙規模で一切の減衰無しに振動すると言う。

 約半年間門を閉じなかった場合、震度4以上の揺れが地球全土を襲う。

 その一言は日本及び自衛隊の首脳部、そしてスパイ及び売国奴や外交チャンネルを通じて世界各国へと広がっていった。

 

 ここで一つ疑問がある。

 何故リーアの言葉がここまで信用されているのか?

 それは情報化社会かつ平和ボケ国家日本であったからだった。

 

 「銀座に異世界の軍勢現る」

 「魔法少女(物理)VS異世界軍隊IN銀座」

 「リアルほむほむ2Pカラー」

 「魔法少女VS半竜美女」

 

 こんな題名がついた動画が連日世界中で再生されているからだ。

 既に全世界で再生回数3億回を突破しており、今現在も増え続けており、ニュースや新聞、各種情報雑誌でも取沙汰されており、最早秘匿とか隠蔽とかどうしようもないレベルだった。

 つまり、形はどうあれ人類は魔法の実在と異世界からの脅威を知ったのだ。

 そして、ここまで有名になった人間を不当に拘束すれば、どれだけ現政権が批判されるか分からない。

 また、魔法使いという現在唯一無二の貴重なスキルを持った人材である事も相まって、その扱いは極めて丁寧になっていた。

 それに加え、彼女が地球人類に対して一切の危害を加えていない事、彼女が現役自衛官にして二条橋の英雄の養子という事も大きい。

 そしてもう一つ、彼女が告げる内容はどれも無視するには余りに重要だった。

 

 「それにあの門は事実上何処にでも繋げられる。明日にはホワイトハウスかモスクワか北京かロンドンか…最悪、真空や深海に繋げられた場合、即座に破壊するしか手は無い。」

 

 こればかりは門の向こうに行って首謀者を取っちめるしかない、と渋面で告げた少女の言葉は一週間以内に先進国首脳部へと漏れていた。

 そして、今までにない速さで各国は動いた。

 未知の世界、未知の人類、未知の技術、そして未知の脅威。

 国が動くには十分すぎた。

 

 こうして世界各国から巨大な圧力をかけられた日本だが…実は割と知ったこっちゃなかった。

 既にこの一件で皇居が攻撃を受けた事実、自国の一般市民(外国人含む)の虐殺、そして元寇に連なる歴史上2度目となる侵略戦争に、異例の国会総一致で軍備増強と例外措置としての自衛隊の完全装備での門の向こうへの派遣、そして史実ではもう10年程かかるであろう憲法改正が決定した。

 これに関しては国内でも反対の声が多かったものの、遺族らの根強い運動に加えて莫大な利益と巨大な国難を察知した政財界と諸外国の後押しにより可決される事となった。

 更に内閣は国外に対しては米国との親密性をアピールする事で国際社会へと対抗した。

 無論、見返りとして非公式ルートで捕獲された非人類(オークやゴブリン等)の一部の身柄、現在判明している門の情報の譲渡を行う事となったが、嘗てからの国防上の障害が消えた事に比べれば些細なものだった。

 現状、門を開き続ける事のデメリットを考えると、門の向こうに関する知識等は殆ど泡銭扱いだった事も大きい。

 

 そして銀座事件から約3ヵ月後の現在。

 自衛隊は門の確保及びその向こうに展開していた軍勢を順調に殲滅しながら、日本の国益の確保ならびケジメを付けて地球を救うべく門周辺の土地を確保、重要拠点として整備する事に腐心していた。

 なお、後詰として増員した自衛隊員だけでなく、在日米軍までまだかまだかと控えているので帝国側はどーやっても勝ち目は無かったりする。

 

 

 

 

 

 「では始める。」

 

 奇妙に折れ曲がった樹木が立ち並ぶ薄暗い森が生い茂る地。

 その中で数少ない土だけの地面が露出した此処は富士火力演習場の程近い場所にある。

 既に魔法少女コスに変身したリーアの魔術により、僅か10分程度で周辺一帯は平地に均されており、上空から見れば直径1kmの範囲がぽっかりと空き、そこに巨大で複雑な魔法陣が描かれているのが分かるだろう。

 更にその周辺を囲む様に、自衛隊の特殊作戦群を皮切りに選び抜かれた精鋭達が蟻の子一匹逃がさぬとばかりに警戒している。

 それはここで今日、極めて重要な、それこそ人類史に残る程の作業が行われるからだ。

 だが、彼らは決してその中心には近づかない。

 そう命じられたから、と言えば簡単だが、それだけではない。

 彼らは優れた軍人であるが故に何処か本能的に理解しているのだ。

 ここから先に進めば無事では済まない、と。

 不意にリーアの手の中に一冊の古びた書物が現れた。

 語学に通じる者が見れば、その題名がラテン語で記されていた事、そして同時にその本が悍ましい邪悪な知識が記されている事が分かるだろう。

 その書の題名は「エイボンの書」。

 象牙の書とも言われる、大魔導士エイボンが記した古代ヒューペルボリア時代およびそれ以前の暗黒の知識を集めた魔道書、そのラテン語訳だ。

 

 「ンガイ・ングアグアア・ブグ=ショゴク・イハア、ヨグ=ソトース、ヨグ=ソトース――。」

 

 そして紡がれるのは異界の言語。

 常人にとってはただ聞くだけで精神の均衡を崩し、その魂を汚染する言霊。

 決して耳にしてはいけない禁断の呪文。

 その中心にいるリーアの役割は巫女だ。

 此処とは異なる次元に存在する超常の存在たる邪神の力のごく一部を借り受け、自らの用意する魔力を持って現実を侵し、犯し、冒す。

 魔道の本質は、通常の物理法則を歪ませる事にある。

 

 「外なる虚空の闇に住まい者よ。今一度大地に現れる事を、我は汝に願い奉る。時空の彼方に留まりし者よ、我が嘆願を聞き入れたまえ。」

 

 そして詠唱は続いていく。

 この時、既に周囲の隊員達からはリーアの姿が歪んで見えていた。

 

 「門にして道たる者よ。顕れ出でたまえ。汝の下僕が呼びたれば。」

 

 別に彼女自身が人外の姿となった訳ではない。

 周囲の空間が歪曲し、可視光線すら歪ませてしまっているのだ。

 

「顕れよ、顕れ出でよ。聞き給え。我は汝の戒めを破り、印を投げ棄てたり。我が汝の強力な印を結ぶ世界へと、関門を抜けて入り給え。」

 

 遂に詠唱が佳境へと入った瞬間、空間の歪曲がこれまでで最大限となる。

 この場の誰もが知識が無くとも確信していた。

 この世ならざるものが顕現しようとしている、と。

 

 「顕れ給え、門にして鍵なる神よ!顕れ給え、全にして一、一にして全なる神よ!顕れ出でたまえ…我が叔父上よ!」

 

 そして、空間が泡立つ様にして破裂した。 

 

 それは球体だった。

 変質した世界から発生した、虹色の球体。

 世界が極彩色に染められていく。

 全ての色は虹色に、全ての物質は球体に。

 全てが、虹色の球体となっていく。

 虹色の球体。

 虹色の球体。

 虹色の球体。

 球、玉、珠。

 

 球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球。

 

 悍ましい程の数の球体が集積する。

 それは原初の粘液の泡立つ、触覚のある不定形の生物。

 全にして一、一にして全。

 それは静止した現在。

 それは流動する過去。

 それは蓄積した未来。

 それは門。

 それは鍵。

 それは それは――

 

 無数の球体はあらゆる物理法則を無視した軌跡で飛び回り、空間を虹色に染め上げる。

 そして、その全てが空に消えたと思った瞬間、虹色に爆発し、異界の光で周囲を照らし、遂に異界の光が結晶化し、実体を結んだ。

 

 「扉…?」

 

 誰かの零した声が夜の平地に響く。

 旧支配者ですら遠く及ばない程の厳かで忌まわしい神気を放つそれは、扉の属性を持つ神格なのだ。

 

 

 

 但し、その門は30cm弱だった。

 

 

 

 ≪小っせ―――!?!?≫

 

 その時、その場にいた自衛官達の思いは一つとなった。

 それから約10分後、日本に二つ目のゲートが開く事となる。

 

 

 

 




 Q どうやってリーアさんはヨグ=ソトースさん呼んだん?

 A ヨグさんとこの息子さんと割と仲良しだったし、一部では混沌とも血縁とされるから。

 以下、その時の会話内容

 ヨグ「やぁこんにちは。」
 リーア「申し訳ございません、この様な窮屈な呼び方をしてしまい…。」
 ヨグ「いいよいいよ、うちの子と親しいみたいだしね。あの子も漸く彼女から解かれたみたいだし。」
 リーア「喜ばしい事かと。」
 ヨグ「今は新婚さんだし、もう少ししてから顔出すと伝えてね。その代り、注文された門はこちらでしっかり作っておくから。」
 リーア「ありがとうございます。二人には私の方から伝えておきますので。」
 ヨグ「うんうん、じゃぁまた機会があればよろしく。」

 ※ここでの「もう少し」とは外なる神の基準≒星の寿命よりは短い位。
 なお、ヨグさんの作った門は一切のデメリットはありません。
 但し、位階の低い魔術師や普通の人間が弄ろうとすれば魂が砕けるか発狂します。



 Q2 なんでこんな事になったの?

 A2 特に大きな神殿も生贄も無いんだから、呼べただけでも普通は奇跡。



 次回から特地編に移行。
 また日記形式、しかも伊丹視点でいきます。



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