徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

49 / 137
筆が乗り過ぎてえらい長くなった(汗


艦これ短編 赤城が作る2

 皆さんお久しぶりです。

 開設したばかりの当鎮守府(規模的には警備府)にて料理当番を務めている艦娘の赤城と申します。

 最近は駆逐艦以外の艦種も揃いつつあり、私も漸く空母として任務に出る事が出来ています。

 しかし、前世が人間だった記憶と艦だった頃の記憶を持つ私は、実は艦載機の運用が他の空母・軽空母の運用に比べて下手です。

 辛うじて及第点とは私に稽古をつけてくださった龍驤さんの言です。

 ただ、純粋な弓での砲撃戦では満点だそうです(41cm単装砲相当)。

 この火力を生かして、高火力の戦艦や重巡が揃う前までは結構な数の敵艦を沈めたものです。

 確かに生前は弓道部に所属していましたが、そこまで優秀ではなかったのですが……まぁ、それは今は置いておきましょう。

 

 「では赤城さん、暫くは私と共に訓練をしましょうね。」

 「はい、よろしくお願いします。」

 

 そんな訳で、私は絶賛日本航空母艦の母たる初代航空母艦である鳳翔閣下直々に訓練をして頂ける事になりました(白目)。

 

 「取り敢えず、艦載機の発着艦を1000回行ってください。一度でも失敗すればカウント0からやり直してくださいね。」

 「はい、了解しました!」

 

 鎮守府沖の海上で、矢筒から艦載機へと変化する矢を抜き、射法八節に則って弓矢を引き、構え、放ち、残心する。

 そしてすぐさま次に移るが、決して一射一射を疎かにしない。

 自分が放つ矢の一つ一つには艦載機妖精さん達が、嘗ての英霊達が宿り、力を貸してくれているのだ。

 彼らに顔見せできない様な射をする訳にはいかない。

 それだけを胸に、私は必死になって射を続けました。

 

 「はい、そこまでです。」

 

 訓練を続け、時間の感覚がとっくの昔に消えた頃。

 既に時間は日没寸前でした。

 幸い、鎮守府近海での訓練なのですが、今から急いでも日没は過ぎてしまうでしょう。

 となると、残念ながら食堂の利用時間は過ぎてしまう。

 

 「今日一日で、かなり無駄が削れましたが、まだ粗さがあります。暫くはこの形式で訓練しましょう!」

 「はい!ありがとうございます!」

 

  

 ……………

 

 

 私達二隻が鎮守府に帰投し、補給を済ませた頃にはすっかり日も暮れて20時、食堂の利用時間もとっくに終わっていました。

 今日は他の艦が食堂担当だったから問題ないが、これでは暫く私が担当する事は出来ないでしょう。

 

 「すっかり遅くなってしまいましたね。」

 「すみません、付き合わせてしまって…。お詫びに何か簡単なものでも作りますね。」

 「あら、それでは一緒に作りましょうか。」

 

 と言う事で、鳳翔さんと一緒に台所に立つ事になりました。

 とは言え、時間的にそう凝ったものは作れない。

 精々、残り物を組み合わせた簡単なものしか無理でしょう。

 

 さて、冷蔵庫を覗いてみると、そこには今夜のメニューであったスパゲッティミートソースの残りがありました。

 麺は皆食べ尽くしたのか残っていませんが、これだけでもパンやご飯と合わせれば十分です。

 また、昨夜揚げ物の付け合わせに出された千切りキャベツも少量ですがあります。

 それと、買い出しで処分品が大量にあったために買った食パンも。

 そう言えば、先週雪風が近所の商店街に買い出しに行った際、福引でホットサンドメーカーを当ててましたね。

 丁度良いので、今夜は有り合わせのホットサンドにしましょう。

 

 「出来ました。」

 「はい、こちらも出来ました。」

 

 見れば、鳳翔さんが作ったのは冷蔵庫に残った大根や人参の尻尾、ハムの残り等を細かく刻んでコンソメで煮込んだスープでした。

 うむむ、主婦の技が光る様な一品です。

 冷凍してあった家庭菜園のパセリを散らしてあるのもポイント高いです。

 

 「流石ですね。」

 「ふふ、そう言う赤城さんもホットサンドなんてお洒落ですね。」

 「いえいえ、単に食いしん坊なだけですよ。」

 

 ミートソースと千切りキャベツを二枚のパンで挟み、ホットサンドメーカーで挟んで焼く。

 程好い焼き目が付いたと確認した所で外し、お好みの形で切る。

 この時、パンの耳を切り落としたりする人もいるが、私としては香ばしさと歯応えを楽しむためにもそのままをお勧めします。

 しかも、今はスープだってあるので尚更です。

 

 「結構量が作れましたので、遠慮なく食べてくださいね。」

 「ですね。では…」

 「「頂きます。」」

 

 こうして、私達の遅い夕食の時間は穏やかに……

 

 

 「あー!二人だけ美味しそうなもの食べてるー!」

 「何ー!?あたしらも混ぜろー!」

 

 過ぎていかなかった。

 ツマミを求めて食堂にやってきた足柄と隼鷹と言うこの鎮守府の二大飲兵衛に発見されてしまい、私達の穏やかな夕食は一転、飲兵衛二人の宴会に巻き込まれる事になってしまったのでした。

 

 

 ……………

 

 

 さて、あの鳳翔さんの訓練開始から一ヵ月。

 本日は珍しく食堂担当です。

 そして、今日は金曜日です。

 即ち……カレーの日です!!

 海軍カレーと言われる多くの名作のカレー達が存在しますが……生憎と本鎮守府の台所事情的に、カレー粉及び各種スパイスから作ると大赤字になるので、市販の安売りしていたカレールーを使用したいと思います。

 とは言え、手間を惜しむつもりはありません。

 先ず、業務用スーパーで購入した豚のすね肉20㎏をぶつ切りにし、塩胡椒と牛乳で揉んで寝かせておきます。

 その後、定番とも言える人参、玉葱、ジャガイモを小口大の二倍以上のサイズで切り、ジャガイモは水に浸しておきます。

 更にここで季節の野菜なんかも加えたら、季節感も出て来てとても良いのでしょうが、今回は久々のカレーと言う事で、敢えてオーソドックスにしたいと思います。

 この時、玉葱のみは三分の一程別にし、一個当たり16等分を目安に切り、別に取っておきます。

 そして、小さく切った玉葱以外の材料を圧力鍋に入れ、水がヒタヒタよりもやや少ない位(7割程度)まで入れ、此処にコンソメ一個とケチャップ大匙1、月桂樹の葉(ベイリーフ)3枚を加えて煮込みます。

 この時、辛さを出したいなら、通常の洋風の香辛料ではなく、敢えて七味を入れてみると良いでしょう。

 通常の香辛料だと、煮込むと辛さや香りが散る事もありますが、圧力鍋で七味や一味等を煮込むと辛さがより引き出されます。

 また、ものが和風のものなので、ご飯にもよく合います。

 香りを出したかったら七味、辛みを出したかったら一味がお勧めです。

 今回は余り辛くてもいけないので、七味を少量のみ入れます。

 煮込む時間は凡そ一時間半、それで豚すね肉を含めた全ての食材がトロトロになります。

 圧力鍋は余程使い方を間違えない限り、焦がす事も無いので、煮込み料理にはお勧めです。

 但し、注意書きをよく読む必要があります。

 加熱して圧力を逃さない状態で無理矢理開けると、圧力が一気に解放されて爆発して大火傷を負う危険性が高いからです。

 おっと、話が逸れてしまいましたが、煮込んでいる間に付け合わせのサラダや福神漬け等を用意しておくと、時間の無駄になりませんよ。

 

 さて、トロトロになった鍋の中では玉葱はほぼ水分となり、具がヒタヒタになる程に水分が増えています。

 此処に残った玉葱を加える事で、溶け切った玉葱と形の残った玉葱両方を味わう事が出来る訳です。

 ある程度追加した玉葱に火が通った事を確認したら、ルーを投入します。

 家庭用の鍋なら一箱か一箱半あれば大丈夫です。

 業務用のものだと一箱当たりの量が多いので、量等もよく読んでから使いましょう。

 最近ではたくさんのカレールーがありますので、好みのものを複数掛け合わせるのもありです。

 個人的なお勧めはゴール〇ンカレーとバーモン〇カレーですが、この二つは高いので、それら一箱に無印良品のルーを半箱加えるのが大抵の私のレシピですね。

 さて、弱火でしっかりルーを溶かしつつ、火が通ったのを確認したら必ず味見です。

 これは作る側の特権にして最終確認ですので、決して欠かす事の出来ない工程です(断言)。

 

 「うーん…少し辛いかもしれませんね。」

 

 いえ、私には丁度良い位なのですが、当鎮守府は駆逐艦の子達が大半なので、極端に辛いものや苦いものはダメなのです。

 なので、こういう場合はミルクチョコやココア、ジャムに蜂蜜、すりおろし林檎等を加えて甘味とまろやかさを出すのですが、私はちょっと変わったものを使います。

 

 「じゃーん、練乳です。」

 

 意外に思うかもしれませんが、チョコよりも液状の分混ざりやすいし、甘味とまろやかさも上で使い易かったするのでお勧めです。

 カレー八皿分に大匙位が適量らしいのですが…子供舌の多い我が鎮守府です。

 駆逐艦以外の人達のために半分程を別の鍋に取り分けてから、残った分に容赦なく練乳を投下していきます。

 大匙とかそんなめんど…げふんげふん!駆逐艦の子達のためにも、チューブを握り、割とドバドバと入れます。

 そしてお玉で混ぜて味見をして…よし、辛みは消えました。

 

 「さぁ、赤城特製甘口&中辛カレーの完成です!」

 

 なお、お米は玄米と七分搗き白米を五対五で、水を8割程度で炊いたものがお勧めです。

 

 

 ……………

 

 

 提督が事務仕事を終えて食堂に顔を出したのは、午後7時前の事だった。

 この時間帯、食堂は最も混むため、大抵はもう少し後に来るように心がけているのだが……どうしても今日は早く来たい理由があった。

 そう、今日は金曜日。

 即ち、海軍(正確には日本国国防軍海上防衛隊対深海棲艦対策本部付実働部隊)所属である当鎮守府でも、今日はカレーの日なのだ。

 昼間は仕事が山積みでおにぎりで済ませたが、食堂から漂うカレーの匂いは常に提督の胃袋と脳髄を刺激して止まなかった。

 そう、提督は大のカレー好きだった。

 酒も煙草も博打も女もやらない提督だが、カレーだけは絶対に止められないのが彼だった。

 

 (これ、絶対美味い香りだ…!)

 

 食堂に一歩近づく度に強くなる芳醇な香りに、そう言えば今日は赤城が担当だったと思い出す。

 余所の鎮守府と違い、腹ペコ勢ではなく、飯ウマ勢なうちの赤城には何時だって感謝している。

 彼女のカレーもそう言えばここ一ヵ月は食べていなかった事も思い出し、更に腹が減っていく。

 そして、食堂に近づくと、不意に違和感に気付いた。

 食堂が随分と静かなのだ。

 はて、比叡や磯風が飯テロでも起こしたか、にしては異臭はしないなと疑問符を上げながら、食堂に入り……先程の疑問が解消した。

 皆、一心不乱に食べていたのだ。

 大皿に盛りつけられたカレーを。

 駆逐艦も、軽巡も、軽空母も、重巡も、重雷装巡も、戦艦も、潜水艦も。

 たった二人の例外を除いて、皆が一心不乱にカレーを食べて…否、貪っていた。

 

 「お冷です。」

 

 フラフラと空席に付くと、空かさずお冷が出た。

 出したのは割烹着を纏った鳳翔。

 相変わらず、女将とかお母さんとかつい呼びたくなる雰囲気が漂っている。

 

 「辛口と甘口、並と大、付け合わせにサラダがあります。」

 「両方、並で。」

 

 メニューは一つ、カレーしかない。

 そして、甘口と辛口、どっちも食べる。

 片方を食い逃すなんて出来ない。

 

 「はい、では少々お待ちください。」

 

 下がった鳳翔さんを待つ間、周囲を観察すると、色々な食べ方をしているのが分かる。

 駆逐艦達の多くが甘口と思われるカレーを美味しそうにパクついているのに対し、一部は辛い辛い言いつつもそれを楽しみながら間にサラダや麦茶、水や牛乳なんかを多めに取りながら食べている。

 重巡や軽巡なんかは様々で、辛さもまちまちだ。

 那珂ちゃんはサラダと交互に食べているが、神通はお手本の様に行儀よく、川内は生卵を落して黄身と白身を別々にカレーとご飯と絡めて食べてたりする。

 重巡や軽空母の一部は辛口のカレーと辛口の焼酎なんかで一杯やっている。

 戦艦勢は…パーティー用の大皿に好みのカレーとご飯、更に福神漬けを盛ってガツガツ食っている。

 

 「お待たせしました。甘口と辛口の並です。」

 「おぉ…!」

 

 出された二皿の並盛のカレー。

 片方は焦げ茶に近く、もう片方はやや白みがかっている。

 これは確かに以前にも食べた事のある赤城のカレーだった。

 その時は甘口のみだったが、やはり辛口のもあったのだ。

 

 (いざ…。)

 

 最初は敢えて白みがかった甘口の方だ。

 ぱくりとご飯と共に口にすると、濃厚な豚と野菜の旨味、スパイスの香り、乳製品特有のまろやかさと優しい甘さが口いっぱいに広がる。

 噛むと煮崩れ寸前の野菜が口の中で簡単に崩れ、やや固めのご飯とよく絡む。

 よく噛んで飲み込み、更にもう一口食べると、今度はゴロっとした豚肉に遭遇する。

 

 (柔らかい…!)

 

 しかし、その肉塊は先程の野菜以上に柔らかく、舌に乗せただけでホロホロと崩れていき、ルーと共にご飯と絡み合い、脂の甘味を感じさせる。

 付け合わせのサラダ(レタスに胡瓜、トマトだけのシンプルなもの)を食べて舌を一旦リセットする。

 ドレッシングはお好みだが、カレーと言うこれ以上ない程のドレッシングがあるので、敢えて何もかけないのもありだ。

 そして、今度は辛口のカレーを食べてみる。

 

 (お、意外と辛くない…?)

 

 具材自体は甘口の方と大差ない。

 精々が中辛位かと思っていたら…

 

 (ん!後味が辛いな!)

 

 タバスコや辛子、ワサビ等の様に口に入れた瞬間に来る辛みと違って、後味が辛い。

 だが、何処か馴染みのある辛さであり、駆逐艦達と違って大人の味覚を持つ提督には程好い程度の辛さだ。

 

 (まろやかさや甘味は少ないが、これも良いな。)

 

 そこからはもう夢中だった。

 辛口辛口甘口辛口甘口甘口辛口辛口辛口甘口辛口辛口…。

 時折舌が疲れたらサラダか麦茶を挟みつつ、次々とカレーをスプーンで運ぶ。

 辛さと熱さで沸々と汗が噴き出てくるが、それすらも快感だ。

 あぁ、オレは今カレーを食ってる!

 スパイスの香り、肉と野菜の旨味、甘口の優しさ、辛口の厳しさ。

 それらが渾然一体となって、自分の味蕾を刺激して止まない。

 そうだ、これだ、これが欲しかったのだ!

 気づけば皿の中身は空となっており、僅かにサラダが残るばかりだった。

 だが、足りない。

 全然足りない!

 カレーの虜となった自分に、この程度のカレーでは物足りない!

 

 「お代わり!」

 「はい、さっきと一緒で良いですか?」

 「お願いします!」

 

 こうしてまた一人、無言でカレーを食す者が食堂に増えたのだった。

 

 

 

 

 

 翌朝

 

 「炊き立てのご飯で溶かしながら食べる二日目の冷えたカレー……これに勝る贅沢はそうそうありませんね。」

 「赤城さん!オレにもそのカレー下さい!」

 「ごめんなさい、これ最後の一杯なんですよ。」

 

 後日、提督以下有志の嘆願により、二日目のカレーが別口で用意される事となった。

 

 

 

 




あぁカレーが食べたい…美味しいカレーが…
→よろしい、ならば己で作ろう。
→現在の作者(毎週必ずカレー作成)

皆も手作りカレーを作ってみよう!
なお、作り過ぎて家族に怒られても、当方は一切の責任を負いかねます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。