何かモーさんことモードレッドに転生した。
しかも、原典の奴じゃなくFateの滅亡直前のブリテンに。
飯マズで蛮族山盛りで内乱ばっかな円卓と騎士王様が治める国に。
逃げなきゃ、と思ったとしてもしょうがないと思う。
でも出来なかった。
何故かって、こっちを満面の笑みで愛おしそうに世話焼いてくれるお母さんことモルガンを残してはいけないとうっかり思っちゃったからだ。
前世では家族に恵まれず、孤独な人生を歩んでた自分だが、二回目なんだから自分を愛してくれる母親に孝行くらいしたかったんだ。
とは言え、自分に出来る事は少ない。
何せこの国は千里眼持ちたるマーリンが滅びを「確定」させてしまった国だ。
故に、滅び以外の未来は無い。
だからこそ、あの騎士王が何とか穏やかな滅びに軟着陸させようとして、しかし失敗してしまった魔境なのだ。
まぁ世界そのものがこの国の滅びを求めているのだからしょうがないと言えるのだが。
さて、話を本題に戻すとしよう。
要は親孝行がしたい、と言う話だ。
父親、と言うか種元はマーリンの魔術で「生やした」騎士王なのだろうが、母親は間違いなくモルガンこと母さんだ。
その点は先ず間違いない。
何せ自分の二回目の記憶は寝室で産婆さんに取り上げられた所から始まっているからだ。
その時の母の言葉を、「無事に生まれて来てくれてありがとう」と、心から誕生を祝福してくれた事を、自分は決して忘れる事は無いだろう。
その一事だけで、自分は母に生涯尽くす事が出来る。
で、父親こと騎士王は自分の存在なんて予言もあって目障りだろうし、特に自分から触れる事はしない。
が、このままだとブリテン諸共破滅ルート、と言うか痴情の縺れによって他の兄弟達によって殺されるのが確定してる母だけは何とかしたい。
となると、必要なのは安全かつ確実にブリテンの外へと行ける手段、そしてブリテンの外での拠点の確保の二つだろう。
これさえ出来れば、母を連れてブリテンから脱出し、そこで暮らす事も出来る。
問題なのは、余り時間が無いと言う事だろう。
母ははぐらかしていたが、自分の成長はやけに早い。
生後一年程で、既に幼児の姿になっている事からも、通常の三倍は早いだろう。
即ち、普通の人間ではなく、ホムンクルスだろうと言う事だ。
恐らく、母の子宮をフラスコとして、母の地母神としての血と騎士王の龍種の因子を併せ持った、対騎士王打倒のための兵器。
それが自分が当初作られた理由だと思われる。
しかし、今の母にはそんな様子は微塵も見られない。
「はい、モード。あーん。」
「あーん。」
今だって、もう一人で食べられると分かっているのに、態々自らの手でミルクで伸ばした芋を食べさせているのだから。
「あむ。」
「そうそう、ゆっくりよく噛んでね?」
「おいしいです、ははうえ。」
「ふふ、良かった。」
この母の笑顔を、自分が守らねば(使命感)。
そんな使命感に突き動かされるまま、自分は食後のお昼寝の後、夕食まで母と共に魔術の勉強をする。
既に読み書き(英語の発音や文法が面倒だったが)と計算は出来るため、今ではぺーぺーながらも簡単な魔術も使える。
今はそんなものだが、何とかしてこの優しい母を逃さねば。
将来的には自分も逃亡予定だが、態々滅亡するブリテンに置いていくつもりは無い。
この時、私はそれがせめてもの親孝行だと信じて止まなかった。
そして、生まれてから5年後。
肉体年齢がようやっと15歳になった頃、遂にキャメロットへの登城が決まった。
武術と魔術の修行が終わってパーティーを開いた後、パッと決まったのは流石は妖妃モルガンの手腕と言う事だろうか。
まぁ騎士王の種違いの姉なので、権力があるのは当然と言えば当然なのだが。
「頑張ってね、モードレッド。辛くなったら何時でも帰ってきてよいからね!?」
「母上、行って参ります。必ずや母上のご期待に沿えてみせます。」
「もう、そんな事より無事に帰ってきてね?モードレッドの武勇伝、期待してるから。」
そうして、私は母の居城を後にし、キャメロットへと向かったのだった。
「あ、そうそう!念のために鎧と兜の方は超頑丈にして再生するようにして、寿命対策に持ち主を常に健康にするようにしたから!」
「凄いですね!?まるで王の鞘の様だ!」
「でも、その代り凄く重くて動きが鈍くなるの。」
「それ、まともに戦えるんですか…?」震え声
後日、生体ゴーレム式の馬を与えられ、騎乗すれば何とか戦場に間に合う様になりました。
……………
さて、出だしから躓いたモードレッドだが、キャメロットに着いてからも問題が出た。
騎士王との謁見を始めてすぐに、騎士達が騒ぎ出したのだ。
曰く、「王の前で兜を外さないとは無礼だ!」との事。
だが、それはこの王似の顔を隠す以外にも、理由があったりするのだ(白目)。
「申し訳ありません。この兜、脱げないんです。」
「は?そんな訳は無かろう!」
「馬鹿にしているのか!?」
誰にも信じてもらえず、そんな罵声を浴びせられる。
だが、無理なもんは無理なのだ(白目)。
マイマザー曰く、「うちの子の顔見てトチ狂う奴がいるかもしれないし…そうだわ、兜で顔を隠してしまいましょう!」。
結果、不貞隠しの兜は母本人しか外せなくなった。
代わりに耐久力が大幅UPしたが、それ以上に普段生活し辛くてたまらないのですが(白目)。
「ふーむ、どうやら本当っぽいけど…ガウェイン、ちょっと試してくれないかい?」
「マーリン、突然何を言い出すのですか。」
唐突に、王の傍に控えていたマーリンがそんな事を言い出し、王に諫められる。
だが、このド外道半夢魔がそんな事で止まる訳がない。
「そうしないと誰も納得できないだろう?それに、日中のガウェインなら大抵の呪いの道具なんて意に介さないからね。」
日中、正確には午前9時から正午までの3時間と午後3時から日没までの3時間にその力が三倍となるガウェインなら、余程頑丈かつ強固な呪いの道具でない限り、問題なく外せるだろう。
ただ、勢い余って中身を【自主規制】とか【スイカ割り】、【見せられないよ!】な事にしてしまう可能性もあるにはあるが。
「いだ!?いだだだだだだだだだだ!!」
「我慢して下さい!これも貴方のためなのです!」
「捥げる!捥げちゃううううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」
そして始まった兜割り、もとい外し。
だが、どれ程頑丈なのか、三倍となっているガウェインの膂力をして兜は外れもしなければ壊れもしない。
ガウェインもあの手この手で頭から兜を引っこ抜こうとしたり、縁に手を入れて引き裂こうとしたりするのだが……結局、一時間近く粘っても無理だった。
最終的にはガラティーンでカチ割ろうとしたので、慌てて他の円卓の騎士が止める事となり、以後、モードレッドの兜はしょうがないとしてスルーされる事となった。
そんなこんな事を挟みつつ、何とか叙勲式は進み、モードレッドはキャメロットの騎士(円卓ではない)の一人として、騎士王の臣下となったのだった。
「王よ。我が忠義、このブリテンと王へ捧げます。」
「我が騎士モードレッドよ。その忠誠を受けます。証として、この剣を贈りましょう。」
夕日の差し込む謁見の間にて、多くの騎士達が見守る中、新参の騎士へと王が叙勲すると言う厳かな絵画の題材にもなりそうな光景がそこにあった。
が、内心は大いにかけ離れていた。
(何とか早く出て行って、母さんとフランスやローマ辺りに脱出しないと…。)
(あのモルガンの子…マーリンは予言の子の可能性もあると言っていたが……この眼で見極めるまでは迂闊に排除できないか…。)
こうして、モードレッドはキャメロットの騎士としての一歩を踏み出したのだった。
「頂きます……。」
(何だこのマッシュ&マッシュの山は…塩すら満足にないなんて……。)
なお、目下最大の問題は食事の不味さだったりする。