なお、本作は臨海学校編+夏休み編で完結の予定です。
間もなく夏休みを控えた状態で、来週には校外学習の一環として臨海学校がある。
とは言え、余り関係ないと言う連中もいたが。
「海かー……行かないといけないんだよねぇ…。」
「だねー。仮にも企業所属だし。」
簪と本音の部屋でだらだらと特撮ものを見ながら寛ぐ灯と簪、この二人である。
日本企業連合に所属する二人は、その性質上どうしても試作装備等の試験を行う必要がある。
まぁ二人とも新型をまた受領する予定になっているので、原作と違ってどうしても行く必要があるのだが。
「私の高機動型ザクⅡ、楽しみ…。」
うっとりと微笑む簪の脳裏には、先日マニュアルを受け取った企業連製の専用機の姿が、最近有名になったリユースPデバイス装備高機動型ザクⅡの姿があった。
とは言え、轟雷のフレームにザクの皮を被せて、バックパックにラファール・リヴァイブの拡張コネクタの様な機能を持つサブアーム付きバックパックに交換し、更にフルマニュアル操作向けに各部を調整した仕様だ。
言ってしまえば灯の運用データをフィードバックした結果からでっち上げた代物だが、日本でも有数の企業達の技術部が作成するだけあって、そのスペックは天才レベルとは言え個人の間に合わせでしかないシャアザクよりもあらゆる面で優れている。(天災兎は除く)
無論、実機に乗り込んでの調整は必要であり、簪にとってはそのための臨海学校でもあった。
「水着ねぇ…何が楽しいんだろ?」
素で疑問符を浮かべているのは灯だ。
まぁこいつの場合、そういった行楽とは無縁な10年を過ごしていたから仕方ないのだが。
「あー…そう言えば水着買わないと…。」
「面倒だから去年ので良いや…。」
「はい?」
そして、灯の言葉にさしもの簪も凍り付いた。
今この親友は何と言ったのか?
「灯、本気?」
「サイズは特に変わってないし、良いかなって…。」
ぐだぐだだるだると堕落の限りを尽くす姿からは嘘は感じられない。
つまり本当なのだ。
灯の女子としては致命的過ぎる言葉は。
「……本音。」
「此処に。」
簪と言う主の呼び声に、本音が音も無くスルリと現れる。
いつもとは全く違う雰囲気に灯だけは目をパチクリとしているが、簪と本音はそれ処ではない。
「聞いたね?」
「はい。」
「言いたい事は分かるね?」
「はい。」
「じゃあ行動あるのみ。」
「畏まりました。」
そしてまた音も無く本音が消え、彼女の生体反応が生身の人間としてはかなり高速で離れていくのを感じながら、灯は簪の方を向き……後悔した。
「灯、水着、買う。」
頼みでも命令でもなく、ただ確定事項として告げる簪。
その姿を見て灯は思う。
あ、これあかん奴や。
「女の子としてサイズ変わってないからって水着買わず、剰え去年ので済ますとかあり得ないから。」
だから買おう、ついでに自分のも。
言外でそう付け足しながら、簪は爛々と今まで見た事が無い程の意思を込めながら灯の肩を掴みながら告げた。
「ア、ハイ。」
その眼差しに、灯は抗う術を持たなかった。
……………
「かえりたい……。」
数時間後、灯はぐったりとした様子で近場の大型ショッピングモール内の水着売り場にいた。
「うーん、やっぱり暖色系は合わないねぇ。」
「えー、このピンクのフリルとか良くないかなー?」
「流石に勘弁して…。」
もうかれこれ一時間以上此処で灯は簪と本音の着せ替え人形と化していた。
何せこの灯、今までファッションを習った事が殆ど無いのだ。
精々が国家代表候補の用事の時に正装+ナチュラルメイク程度で、それ以外は基本学校の制服やジャージ、僅かな私服のみだ。
その私服にしても流行とかガン無視であり、本人の美的センス(質実剛健・実用美)のみで選ばれている。
Q つまり?
A 今の女子から見ればNGだらけ。
と言う訳で、灯は簪と本音によるコーディネートを受けていたのだった。
時折簪が自分用のものも買っている辺り、彼女は彼女なりに楽しんでいるのだろうが、元男の感性を持つ灯にしては簪や本音の着飾る姿を見るならまだしも、自分がされる側となればこんな時間は苦痛でしかない。
しかし、親友である二人の意思をきっぱり断る訳にもいかず、こうして人形に徹しているのだった。
幸い、収入に関しては灯も簪も既に企業連所属と国家代表候補と言う事で結構な額を貰っているので問題はない。
「ねーねーかんちゃん。これなんてどー?」
「わ、凄い。これなら灯も…」
「待って。待って(迫真)。」
ねぇ君達。
そんなフリッフリのフリルとパレオ付きの白ビキニ見て何をするつもりなの?(震え)
……………
「ふー……女性の買い物ってホントに長いなぁ…。」
来週に控えた臨海学校の準備のため、友人(オール女子)らと共にショッピングモールへと買い出しに出掛けた一夏だったが、早々に皆の水着攻勢と余りの時間の長さに辟易していた。
これが千冬なら決めたものをパッと買うから食料品の買い出しなんかに回れるのだが、生憎と箒や鈴、シャルロットやセシリア、序でにラウラも足した女子達にはそんな事は期待できず、既に水着選びが始まって一時間は経過していた。
なお、ラウラは着せ替え人形化しており、一夏同様に死んだ目でシャルロットに弄られている。
(もう昼だし、そろそろ何か食いたいなぁ。)
手洗いと言う理由をつけて、一度脱出に成功した一夏だが、此処で抜け出せば後で厄介な事になるのは目に見えている。
此処で何かハプニングが起きればそれを理由に切り替えたりも出来るのだが…。
「えぇい付き合ってられるか!私は帰るぞー!」
「あ、ちょっとラウラ!」
すると、我慢の限界だったのか、ラウラが死亡フラグ的な叫びと共に水着売り場から飛び出してきた。
その姿は黒いフリフリのたくさんついたビキニであり、可愛いらしさを強調しつつラウラの人より白い肌によく映えていた。
流石はシャルロットの見立てだなぁと一夏は思いつつ、ラウラに言うべき事を言った。
「会計はしとけよー。」
「ぬ、確かにそうだな。カウンターは…。」
そこで突然、ピタリとラウラの動きが止まる。
視線の先にある服飾売り場のカウンター、そこにいる人物の姿が目に留まったからだ。
「あいつ…。」
一夏も何度も目にし、試合や練習では毎度苦渋を飲まされる相手。
そう、IS学園一年三組代表にして日本国家代表筆頭候補である倉土灯だ。
今の彼女はやたら草臥れているが、楽しそうな友人二人と共に会計をしており、先程までラウラと似た様な境遇であった事が伺える。
「今度こそ…!」
そこに目の色を変えたラウラが素早い動きで近づいていく。
ラウラは以前、機体に仕込まれていたとは言え、自分のやらかしを止めてもらった恩義から、灯に感謝を伝えようとしていた。
しかし、どうにも避けられているらしく、今の今までそれを伝える機会に恵まれなかったのだ。
そのため、この目の前に転がって来たチャンスを逃せないとばかりに行動したのだ。
可愛い水着姿のままで。
「……ま、いいか。」
疲れ果てた一夏は鈍った頭でそう判断した。
……………
「倉土灯!」
「んん?」
名前を呼ばれ、灯が振り返る。
別に接近する誰かに気づいていなかった訳ではない。
ただ、殺気も何も感じなかったし、不意打ちされようとどうにでも出来るし、最悪キングストーンで蘇ると言う認識がある故だった。
「私だ、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
「あぁ、先日の。何か用?」
小首を傾げながら、灯はラウラに問い掛ける。
彼女の原作知識からすれば、ここでラウラなら突っかかってくるだろうと思って、既にISの兵装のみの呼び出しは何時でもできる様に準備しながらだ。
「先日は私の暴走を止めてくれて礼を言う。ありがとう。」
ぺこり、とラウラは以前のつんけんとした様を感じさせない程に素直に頭を下げた。
おや、と灯は目を丸くした。
彼女の知識では考えられない程に丸くなっていた事に驚くと共に、その切っ掛けになったであろう人物をピックアップする。
「…どうして礼を言うの?あれは貴方個人が原因じゃないでしょう?」
「だが、実際に起こしたのは私だ。故にこれは当然の事だ。」
ふむ、と灯は考える。
別にこいつがどうなろうか構わないが、それでもちゃんと謝罪してきた事は評価しなければならない。
「分かった。謝罪は受ける。以後はくれぐれも気を付けてね。」
「ありがとう。それと今後の事なのだが…。」
そこまで言って、急にラウラはもじもじとらしくなく恥じらい始める。
今日は驚く事が多いな、と思いつつ、灯は辛抱強くその先を待つ。
「お姉様、とお呼びしても…」
「却下。」
流石にそれは勘弁願いたい。
「所でラウラ、水着のまま帰るの?」
「あ…会計してくる!」
特に山も落ちもなく終わり