徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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×ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり 第二話 後書き追加

 

 

 事態が変化する始まりは、一つの斬撃からだった。

 

 突如現れた異界からの門、その向こうから目にも止まらぬ速さで疾走して来た影が、リーアへ鋭く弧を描く斬撃を放った。

 

 ギャリィン!

 

 頑丈な金属同士が擦れ合う音と共に、疾走してきた影の動きが一瞬止まった。

 豊満な肢体を白いボロボロのドレスから零れそうにさせている美女。

 だが、その全身に爬虫類の様な鱗と尾、そして竜の様な翼を備えた美女が初めて見る神気を放ちながら、大振りの処刑鎌で切り掛かってきた。

 これはもう彼女が人間や獣人の類ではないし、この事態を引き起こした、或は利用している側だと証言しているに等しい。

 対するリーアは一瞬にして鍛造した丸形の何処か奇妙なデザインの盾で鎌の刃を防ぎ、今もギチギチと音を立てながら鍔迫り合っている。

 

 『てめぇが何か知らねぇがなぁ…!』

 

 そして、均衡が崩れた。

 

 『主上さんの邪魔すんじゃねぇぇぇぇ!』

 

 翼による推進力、尾を地面に叩き付けた反動を勢いに変えながら、竜の様な美女が大鎌を強引に振り抜いた。

 同時、背後に跳躍する事で衝撃の殆どを逃がしたリーアは後方に吹き飛ばされながらデザートイーグルを発砲した。

 

 ガゥン!

 

 轟音と共に竜女の左顔面を吹っ飛ばした、が…

 

 『いってぇぞコラぁ!!』

 

 左顔面を吹き飛ばされ、大きくその顔を仰け反らせた竜女は、しかし、死ななかった。

 それどころか、傷口が泡立たせながら再生していく。

 明らかに物理法則を凌駕した光景だった。

 だが、それは彼女達にとっては大した事ではない。

 不死性も、自己再生も、転生も、彼女達にとっては極々当たり前のものに過ぎないのだ。

 

 ドガシャァン!

 

 吹き飛ばされたリーアは一切の減速無しに近くにあったカフェテラスに背中から突っ込み、瓦礫と埃を巻き上げた。

 そして、数秒後には何の変化もなく立ち上がる。

 否、先ほどまで血に染まった白のワンピースとは対照的に、丈の短い黒いドレスの様な衣装へと変化した。

 単なる布地と侮るなかれ。

 見る者が見れば、これそのものが一級の魔術霊装となる程の神秘を有している事が分かるだろう。

 

 『ガアアアアアアア!!』

 

 竜女が全くダメージを見せないリーアに突貫する。

 下より彼女は信仰する神より不死を賜った身であり、躊躇する様な思考も精神も持ち合わせていない。

 全ては彼女の信ずる神が欲するままに。

 それが彼女の信仰である故に。

 

 「アトラック=ナチャ!」

 

 対するリーアは左手首から翡翠色に輝く糸を上に向けて射出、アンカーの様に伸縮させる事で、竜女の突進を上空に飛び上る事で回避する。

 

 『逃げんなぁ!』

 

 次いで、竜女もその翼を羽ばたかせて飛翔、追撃に移行する。

 

 

 こうして、銀座事件は次の事態へと移行していく。

 

 

 

 

 …………………………………………………

 

 

 

 

 自国の首都が何の前触れもなく異世界ファンタジーな軍勢に攻められるという驚天動地の事態に対し、日本国の対応は普段のグダグダっぷりから考えるに予想以上に早かった。

 と言うのも、異世界軍が攻め寄せてきたのが、市民の避難経路として使用されている江戸城、つまりは皇居である。

 もう一度言う、皇居である。

 皇居、つまり畏きお方のお住まいである。

 排他的経済水域やらガス田やら北方領土やらでは及び腰になる日本の、食糧関係と並ぶ、否、それにすら勝る最大の逆鱗に、彼らは触れてしまったのだ。

 一時間としない内に警察と自衛隊の出動が決定された。

 首都圏の署が全て厳戒態勢に入り応援を派遣し、国内の自衛隊ならび情報を受け取った米軍基地も速やかに戦闘配備となり、出撃準備が行われていく。

 後にこの日から続く一連の事件を振り返り、これまで日本に高圧的だった諸外国の殆どはこう呟いたという。

 

「異世界の連中は日本の地雷を踏み抜いた」と。

 

 斯くして、銀座事件は第二幕へと移行していく。

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

 

 都心のビル街を、銃声と金属同士の衝突音を伴って二つの人影が飛び交っていく。

 これが地表ならそれ程違和感は無かっただろう。

 だが、今彼女達が居る場所は高層ビルが多く立ち並び、それ以外のものが無い場所。

 即ち人の身で空を飛んでいるのだ。

 ただ、自前の翼を持つ竜女と異なり、リーアの方は少々趣が異なる。

 両の手首から延びる翡翠色の糸をビル等に伸ばして接続、伸縮と振り子運動を用いて立体的な機動を可能としていた。

 無論、自由度ならばどちらが勝るかは言うまでもない。

 だが、リーアには態々不利になってまで相手の目を釘付けにする必要があった。

 

 (こいつが他にいけば、犠牲が増える…!)

 

 リーアは霊装のあちこちに切れ目を入れながら、それでも一歩も譲る事なく銃撃を続けていた。

 この世界の地球は未だ魔術やオカルトが表に出ていない。

 或は遠い昔に廃れ、それ以来文化としてのみ継承されている。

 そんな彼らが不死殺しの業や対策のノウハウなど持っている訳がない。

 だからこそ、彼女はこうして一時間近く時間稼ぎに徹している。

 絶妙に相手が僅かなりとも有利であり、もう一手で止めを刺せると思えるような、そんな状態を維持するのはかなり神経に負担がかかる。

 だが、幸いにも地表では反撃が始まりつつあり、現状を維持するだけで凡そ事態は収束するだろう。

 

 (だが、この事態の原因となった神格の介入も気になる。現状、手下を遣しただけとは言え、油断は…ッ!)

 

 『余所見してんじゃねぇ!』

 

 だが、懸念に思考を割いた影響か、動きが僅かに鈍った処に竜女の大鎌が迫る。

 真下から急上昇して上へ振り抜く形故に威力は乗らない。

 しかし、その一撃は振り子運動を行っているリーアにとって、躱した処で糸を切断される軌跡であり、どの道隙を晒す事となる。

 

 「自、切!」

 

 故にすかさず糸を切断、慣性の法則任せに上方から竜女へと切り掛かる。

 

 ギャリン!

 

 『お、らぁ!』

 

 そして、当たり前の様に弾き落とされた。

 膂力なら兎も角、体重と翼による推進力を生かされては例え上と取っていても競り勝つのは難しい。

 

 「チィッ!」

 

 落下しながら鍛造したAKMを連射する。

牽制目的でばら撒かれた7.62x39mm弾は正確に目標を捉え、傾斜した鱗に当たり弾かれたものを除き、その全てが目標に着弾、貫徹した。

 

 『が、ああああああああああああああぁぁッ!』

 

 だが、不死身の狂信者という厄介極まりない者を押し留めるにはストッピングパワーが足りなかった。

 

 「ぐぅぅ!?」

 

 大鎌の一撃がリーアを捉える。

 如何なる金属で鍛えられたのか、この時代のMBT(主力戦車)の主砲の直撃にすら耐え得る霊装が切り裂かれ、盛大に血飛沫が上がる。

 

 「アトラック=ナチャ!」

 

 故に即効で対処を行う。

 もう数秒程度でコンクリートの地面に激突するという状況で、翡翠の糸が四方八方へと延びて蜘蛛の巣を形成、大きく撓みながらリーアの小躯を受け止め…次いで、トランポリンの様に高く跳ね上げた。

 

 「はぁぁぁぁぁ!」

 『おらぁぁぁぁ!』

 

 ギャァン!

 

 轟音と共に、火花が散る。

 人ならぬ両者は一寸も引かずにぶつかり合うが、今回はそれだけで終わらない。

 先ほどからずっと装備していた左腕の丸盾、その表面にあった「中心から伸びる5本の針」、それがザクザクザクザク!と何かを刻む様な音と共に回転していき…

 

 「ド=マリニーの時計よ!」

 『な…!?』

 

 全ての針が停止した瞬間、その盾の様な時計から光線が発射された。

 その一撃は幸いにもビルや飛行物にぶち当たる事こそ無かったが、相当の熱量と光量を放ったらしく、近辺にいた人間や怪異の目が眩む程のものだった。

 

 『ぎゃあああああああああああッ!?』

 

 無論、そんなものの直撃を受けた竜女がただで済む筈もない。

 ほぼ全身の皮膚が焼け爛れ、内部の水分が沸騰して眼球が白濁し、盾の前にあった右半身の殆どが蒸発し、全身が脳へと激痛をがなり立てている。

 竜女も不死とはいえ五感が存在する身では即座に立て直せず、絶叫と共に空中で身悶えた。

 

 「バルザイの偃月刀、多重召喚!」

 

 無論、その隙を見逃すリーアではない。

 再び落下しながらも、決め時と見て本気で仕掛け始める。

 召喚された12本もの偃月刀が一斉に飛翔、加速、竜女の残された手足と翼を一斉に貫通、引き裂いた。

 

 『■■■■■■■■ッ!!!!』

 

 文字化出来ない様な絶叫と共に、竜女は落下していく。

 そして、その行先は…

 

 「本来、こちらの方が正しい使い方でな。」

 

 簡単に逃げ出せると思うな。

 言外にそう告げながら、リーアは落ちていく竜女の姿を見据えていた。

 

 

 

 

 …………………………………………………

 

 

 事態は収束しつつあった。

 門から押し寄せた帝国軍は、しかし、初期の足止めのため、史実よりもその行軍は遅く、犠牲となった者の数も減少していた。

 また、史実同様に皇居警察の装備と練度、皇居の城壁を前にして攻めあぐね、とうとう自衛隊、機動隊の出動というタイムリミットを迎える事となる。

 

 

 だが、もう一つの勢力である「門を開いた側」からすれば、看過できない事態も起きていた。

 自らの手駒である使徒、竜人ジゼルが捕えられた事。

 しかも、捕えた者は他の見慣れない装備や服飾の人間達と異なり、明らかに自分達の様な神々と戦う術を持っている。

 現に、未熟者とは言え使徒であるジゼルが手加減をした状態で翻弄され、捕えられてしまった。

 そしてもう一つ、捕えた者の魂の輝きだ。

 人の身に収めるには余りに高い、高すぎる純度と輝き。

 寧ろ使徒の類と言われた方が納得のいくそれに、冥府の神である彼女は直ぐに魅せられてしまった。

 

 『あの娘が欲しい。』

 

 捕えて、愛でて、ぐちゃぐちゃのとろとろになるまで混じり合いたい。

 以前から目をつけていた狂気の神も使徒ロゥリィも相当なものだったが、あの娘は更に別格だった。

 

 『でも、今はまだ時期じゃないわね。』

 

 あの実力、下手に手を出せば火傷では済まない。

 ならどうする?

 簡単だ、準備万端に整え、自分の領域に引きずり込み、確実に捕える。

 

 『その前に、うちの子を返してもらうわね?』

 

 そう呟きながら、冥府の神ハーディは深淵の中でにんまりと微笑んだ。

 

 

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 

 

 「ッ!?」

 

 周囲の銃声や悲鳴、怒声、衝突音、爆発音。

 そういった戦闘音が遠ざかった中、捕縛結界の維持に集中して一人佇んでいたリーアが不意に霊感の囁きのまま全周囲を警戒した。

 直後、門から遠く離れたこの場所でありながら、突如「空中」に黒い穴が出現し、そこから大量の翼竜に似た生物が湧き出し、リーア目掛けて襲い掛かった。

 

 「チィ!」

 

 咄嗟に背後へ跳躍しつつ魔銃鍛造によりM-16を鍛造、弾幕を形成する。

 が、黒い穴、あの銀座の門と同質の神気を感じるそれらは合計4つあり、弾丸の量よりも翼竜の出てくる数の方が多い。

 そして、現状これら全てを消し飛ばすのは、それこそ「本気」で暴れざるを得ない。

 だが、翼竜達はこちらに殆ど攻撃もせず一分としない内に元の穴へと戻っていき、穴も即座に塞がった。

 だが、その目的はもう分かっていた。

 後には翼竜の死体しか残っておらず、先ほどまであった結界への魔力供給が途絶えている。

 つまり、先ほど捕えた竜女の奪還こそが敵の目的だった。

 

 「やってくれる。だが、次は無い。」

 

 武装を解除し、日が陰り始めた頃。

 リーアの気配、それは殺戮者でも英雄でも王でもない。

 黒の王の如く只管続く繰り返しに飽いて濁り、しかし白の王の様に一抹の希望を抱く

既に嘗ての無限螺旋のそれへと戻っていた。

 

 

 

 

 




 後書き

 よーく考えれば、畏きお方に直接危害加えようとしたら、日本国民ガチ切れですよねと。
 だからこそ、原作初期の虐殺に近い圧倒的戦果(帝国軍並び連合諸王国軍合わせ軽く10万オーバー)出した訳だろうし。
 となると、日本が利益出すにはゲートの開閉&移動技術が必須であり、国家のメンツ的に帝国にどうケジメつけさせるかが大事になる訳だが…はてさて。



 今回の元ネタ

 糸使った立体機動…スパイダーマン、進撃の巨人。

 ド=マリニーの時計…実はデモベじゃなく原作の方で持ち主を防衛するため、光線発射する機能があったりする。

 リーアの霊装…白部分が黒く反転したホムホムの魔法少女コスチューム。時間操作できる丸盾と銃火器といい、結構似通ってます。

 



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