何とかマシュが宝具の疑似展開に成功した後、泣きじゃくるオルガマリーを抱えながら、一同は大聖杯の眠る山、円蔵山へと到着した。
そして、大聖杯とセイバーのいる洞窟へと向かおうとしたのだが、山頂の寺へと続く石段を登ると、一人のサーヴァントが待ち構えていた。
サーヴァント・アーチャー。
セイバーに敗れ、彼女に付き従う正体不明ながらも強力な弓兵のサーヴァントだ。
「よぅ、相変わらずあのセイバーを守ってんのかい?」
「口が減らん輩だな、貴様も。槍が無い身で勝てるとでも?」
既知なのか、二人は軽口を叩く。
しかし、その目は油断なく互いの隙を見出そうとしており、この会話すら戦闘のための駆け引きだった。
まぁ、旧知の間柄だからというのもあるのだが。
「とは言え、流石に私も多勢に無勢ではな。」
瞬間、オルガマリーの後頭部目掛け、石段の入り口付近から黒塗りの短剣が飛来した。
「所長!」
それに気づいたマシュは空かさず盾で短剣を弾いた。
だが、急な一投に態勢を崩した彼女の主へと、空かさず大量の鎖が触手の様に伸びていった。
「■■■!」
それをバーサーカーが右腕をガトリング砲へと変形、迎撃する。
飛来する無数の銃弾に、鎖はその全てが撃ち抜かれ、砕け、力無くエーテルへと消えていく。
「テメェ…!」
「おいおい。まさか自分達だけだと思ったのか?」
物量差が覆し難いのなら、増援を呼べばよい。
不意打ちで一人も落ちなかったのは残念だが、サーヴァントの数の上では互角なら問題はない。
「ではクー・フーリン、決着を付けようか。」
「嬢ちゃん!お前はマスター達の護衛に徹しろ!」
瞬間、アーチャーが大量の剣を虚空へと投影、そのまま射出する。
それは目の前のクー・フーリンにも放たれるが、矢避けの加護を持つ彼は当然回避する。
だが、その一部は後方のマスター達へと襲い掛かる。
「っ、前後を挟まれてる!このままじゃ不利よ!」
事態の解決を急いだ余り、敵戦力の集結を許し、挟撃されてしまった。
完全に指揮官であるオルガマリーの失態だったが…
「がはぁ!?」
鮮血と共に、虚空から断末魔の叫びが漏れ出た。
見れば、そこには伸長したバーサーカーの尾の先端に生えた無数の棘により、串刺しにされた白骨の仮面を被った黒装束の男、山の翁の一人であるハサンの姿があった。
「ば、かな…。」
シャイターンに呪われた右腕による霊核への直接攻撃をこそ宝具とする呪腕のハサンは、しかし最後には何も成せぬままにその腹を貫かれて消えていった。
「………。」
自らの尾を地面へと刺し、掘り進ませ、不意打ちで暗殺者を仕留めてみせたバーサーカーはアサシンを屠った事にも関心を示さず、ただ淡々と自分の成すべき事を行っていく。
具体的には両腕をガトリング砲へと変化させ、自分達の登って来た参道全体を満たす様に弾幕を形成した。
「くっ!」
その弾雨を前にして、霊体化していたランサー・メドゥーサが慌てて実体化する。
「やってくれますね!」
発射され続ける弾丸、それらは全て対霊弾頭であり、実体を持たない存在、既に死してこの世にいない存在には格別に効く。
先程まではストッピングパワーを優先した通常弾であったのだが、耐久力はそこまで高くないメドゥーサ相手なら、こちらの方がよく通る。
とは言え、最速の槍兵で現界したメドゥーサは、その悉くを回避していく。
被弾を前提とすれば接近も可能だが、相手は正体不明の狂戦士と未熟なれど盾兵の二人、迂闊な接近は避けたかった。
その辺り、狂化で理性の落ちていたアサシンに比べ、自己保存と言う点では彼女はマシだった。
まぁそれは女神としての気位の高さに由来するものなのだが。
(それに、私はあくまで時間を稼げばよいですしね。)
そう、自分は本命が此処に到達するまでの足止めに過ぎない。
終わればすたこらさっさと撤退せねば、巻き添えを食いかねない。
(遠方から接近する反応を確認。これは…)
(バーサーカー、それもヘラクレスか。)
(シャドウサーヴァントだから宝具は無くても、対界宝具並の身体能力は劣化してても脅威だし、ここで仕留めるべきじゃね?)
(だな。仕方ないが、火力で一掃する。)
(アイ・サー。)
ガコン、とバーサーカーの肩部コンテナの上面が開き、VLSからミサイルが次々と発射され、ランサーへと降り注いでいく。
無論、高い敏捷性によって回避されるのだが、狙い通りにばらけたミサイルは広範囲に爆風を発し、僅かながらランサーの機動を制限する。
それで十分だった。
「■■■。」
「ガッ!?」
バーサーカーの右腕、三本のレールから成る開放型のバレルへと変化したそれから弾丸が発射される。
紫電を撒き散らしながら音速の12倍で飛翔する弾丸は発射音を置き去りにして、動きが僅かに鈍っていたランサーの左足を消飛ばした。
「こんな、所で…。」
足が死に、盾も無い槍兵の死に体を見逃す程、バーサーカーは耄碌していない。
続く左腕のガトリング砲により、あっさりとランサーは挽肉へと加工された。
「■■■■■■■■■■■―――ッ!!」
ビルを突き破り、僅かに残っていた肉片を踏み散らして、冬木のバーサーカー、ギリシャ最大の英雄たるヘラクレスが参道へと到着した。
「敵アーチャー、撃破しました!」
「バーサーカー、時間を稼いで!」
その危険性を見抜き、状況が動くや否や、オルガマリーはあっさりと自身のサーヴァントを捨て駒にした。
強力だが足手纏いである自分達を気にしてバーサーカーに防戦させるよりも、此処は一時分散し、キャスターとは言えクー・フーリンとマシュの二人で騎士王に挑む事を選択した。
「よし、行くぞ嬢ちゃん達!此処はデカ物同士に任せな!」
「は、はい!行きましょう、マスター!」
「バーサーカー、頑張って!」
そして、カルデアの一行はそのまま参道を逸れ、この冬木市の大聖杯へと続く洞窟へと向かっていった。
……………
「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーー!!」」
轟、と果ての無い斬撃と打撃の応酬に、既に参道は見る影もない程に砕け散り、吹き飛んでいた。
冬木のバーサーカー、ギリシャ最大の英雄、ヘラクレス。
カルデアのバーサーカー、青銅魔人、■■タク■ン。
ヘラクレスはその斧剣と五体で、青銅魔人はプラズマブレードへと変形した両腕に尾で。
互いに一歩も譲らずに、高いステータスのままに攻撃を繰り出し、繰り出された攻撃を弾き返す。
自然、発生した衝撃波は周囲へと飛び散り、余波だけで周辺の森の木々がなぎ倒され、地面が耕されていく。
(どうする?とっとと終わらす?)
(いや、あくまでチクタクマンとしての機能のみで戦おう。覗きが気になる。)
(あいあい。)
遥か遠く、時間と空間を飛び越えて、こちらを監視する者がいる事を、二人は察知していた。
無論、生半可な霊視では自分達の本質を掴むなんて事は不可能だ。
況してや千里眼の類にしてはやや精度が低い事もあり、偽装する事は難しくはない。
(態々覗き屋に見せてやる必要も無い。)
(んじゃーこのままグダグダ?)
(いや、とっととケリをつける。K粒子の使用を求む。)
(マージで?)
(どうせなかった事になるんだ。はっちゃけても構うまい。)
(一応、合流した時の事を想定して、終了したらすぐに浄化措置するからな?)
(あぁ、それで良い。)
ガキン、と内部で歯車が変わる。
ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキッ!!
それを皮切りに、次々とその構造が、形状が、設計思想が、運用方法が、性能が切り替わっていく。
そして、ものの数秒程でその姿は大幅に変化した。
槍か甲殻の様に前へと突き出た胸部、両肩前面の排熱器官、鋭く伸びた脚部、全身を覆う艶やかな装甲とブースター群。
夜闇に溶け込む様な漆黒の装甲、夕日色のカメラアイが光を持った複眼式のカメラアイ。
全身から翠色の粒子を漏らし始めたそれは、まるで西洋の甲冑の様であり、生物の様でもあり、万人に死を与える程の戦闘能力と汚染源を持った兵器とはとてもではないが思えない程に美しかった。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!」
「五月蠅いぞ。」
振り下ろされた狂戦士の斬撃を、しかし夜色の刃金は素早い挙動であっさりと回避、そのまま上空へと飛翔する。
十分な距離を取れたと同時、右背面に装備された大型砲が、腕部に保持した実弾と熱線のライフルが、肩に装備されたロケット砲が展開され、それを自身を見上げる地上を這うケダモノへと向けられる。
「ファイア。」
夜空に盛大な爆音が響き渡り、同時に参道全体が余りの威力に残らず消し飛んだ。
「■■■■■■■■■ーッ!?」
それ程の威力が直撃してもなお、未だ狂戦士は生きていた。
見れば、斧剣が砕けており、既に持ち手しか残っていない。
恐らくだが、弾丸や砲弾を迎撃し切れず、盾として使い切ったのだろう。
「中々だが、無意味だ。」
ガコン、と夜色の刃金は球体を開放型バレルで連結した様な武器が左背面から展開される。
そこに翠色に輝く粒子が集い、一点へと収束し、同時に機体本体からも粒子を吸収していく。
狂戦士は悟った。
あれは不味い、あれは撃たせてはならない。
「■■■■■■■!!」
狂戦士は跳躍し、刃金に近い位置まで飛び上がる。
しかし、高度を上げる事で、刃金はあっさりとその剛腕から逃げ切ってしまう。
「■■■…!」
苦し紛れに投擲された柄も、しかしあっさりと翠色の粒子によって構成された障壁によって弾かれてしまう。
「チャージ完了、ファイア。」
先程の一斉射撃とはまた違う、翠色の猛毒の光が膨大な熱量と共に放たれた。
だが、それを防ぐ術も避ける術も地へと落ちていく最中の狂戦士には無かった。
そのまま、あっさりと貫かれ、爆散した。
(コジマ粒子の回収と非活性化開始。)
(モードを通常へ移行。合流するぞ。)
嘗て世界を破滅させた力をしまい込み、己の力の過半を封じて、灰色の王はその場を去った。
色々と小ネタのある回でしたw
今回変形したのはAC4、ACFA出典の03-AALIYAHです。
武装はライフルにレーザーライフル、肩ロケットに背面のグレネードキャノンとコジマキャノンです。