魔法少女の募集を開始して一月、ヒーロー協会に所属する魔法少女の数は100を超えた。
それはデバイスと言う補助礼装の利便性の高さ故であり、この世界の人類の元々の才能の高さ故であり、既に魔法少女として公の場で活躍していた者達がいるが故だった。
魔法少女の草分けにして、公的には初めて存在を確認された魔法少女であるハロウィン☆エリザと、同格のドヴェルク・ヴィータとWill.CO21、そして彼女達の師匠。
ハロウィン☆エリザは人格・能力共に分かり易い魔法少女であり、善良な少女だ。
ドヴェルク・ヴィータはやや取っ付きづらい印象だが、やはり善良であり、今日も槌を振るってデバイス作成に精を出している。
問題なのは残りの二人だった。
Will.CO21、彼女は電子戦に特化しており、自らの身体を電子へと変化、ネットの海に潜り、世界中の情報を収集している。
だが、彼女は極めて厄介な事に悪戯好きであり、特に理由もなくサイバー犯罪を起こしたりもする。
無論、悪戯で済まされる範囲で済んでいるのだが、被害が無い訳でもない。
とは言え、そこまで深刻ではないので、大して問題視されてはいない(単に他に問題児が多数いると言う声もあるが)。
問題なのは、彼女達三人の師匠にして、その経歴の一切が謎に包まれている女性だ。
次元の魔女、とも言われる彼女は、他の三人が少女であるのに対し、成熟した若い女性の姿をしている。
しかし、そのカリスマ、美貌、貫禄たるや、ヒーロー達の中でも群を抜いて…否、はっきり言って人を支配する力と言う面では、アマイマスク以上のものを持っていると言っても過言ではない。
本人が世界に対してそこまで強く関心を持っていない=たった一人の男性ヒーローにご執心な事はヒーロー協会関係者なら誰しも知っているため、問題らしい問題は出ていないが、既に彼女は100を超える魔法少女達のTOPに立つ者であり、相応の責任と言うものがある。
それはフブキ組やタンクトップマスターの舎弟達の様な、質の悪い存在となる可能性だった。
軽犯罪程度ならまだ良いが、他のヒーローを潰し、人員を無駄に減らされる様な事態は避けたい。
なまじ、訓練を終え、魔法の習熟さえ終われば、即座にC~B程度の実力を発揮できる魔法少女を多数抱え、今後も増加する見込みの高いがために、他のヒーロー達との諍いや内部での主導権争いの発生する可能性は高く、ヒーローの健全な活動を期待しているヒーロー協会にとって、魔法少女組の動向は気がかりだった。
そこで、ヒーロー協会はその懸念を初期メンバーにおいて最も人当たりの良いハロウィン☆エリザにそれとなく聞いてみた。
それに対し、人の上に立つ者としての教育も受けているエリザはあっさりと答えた。
「それはもう対策済みよ。基本的なルールは実際の法律に基づき、魔法をむやみやたらに使用しない。これが魔法少女の絶対条件。態々デバイスに簡易的な式神としての機能を持たせたのは、そういったおバカさん達対策よ。少なくとも、言い訳のしようのない犯罪を犯した時点で、デバイスは機能を停止、魔法少女の資格は剥奪されるわ。」
それは今現在も増加する魔法少女達にとって、どれ程の衝撃となるか、見当もつかない事実だった。
だが、必要な措置でもあった。
未だ夢見る年頃の少女達が、ある日突然不思議な力を手にするのだ。
しかも、彼女達の持つ魔法は殆どがオンリーワンの固有なものであり、中には空間移動やヒーリングなど、戦闘には向かないが、それでもとてつもなく便利なものもある。
例え訓練をしたとしても、そう言った力に溺れないと誰が断言できるだろうか?
否、確実に誰か溺れる者が出ると、そちらの方が断言できる。
「でも、デバイスを停止しても、一度習得した魔法は消える訳じゃない。単に演算を始めとした補助をデバイスがやっているから使えなくなるだけ。そういった事を含めて、本当の意味で魔法使いとなった連中はデバイス無しでも魔法を使えるようになる。勿論、そう簡単に使える訳じゃないし、より厳しい訓練が必要よ。」
その情報に、ヒーロー協会は慌てた。
唯でさえ強力な者が多い魔法少女に、まだ上がある?
しかも、そいつらはデバイスの停止と言う鬼札が効かない?
それはもう魔法少女と言うよりもタツマキの様な超能力者に近い。
流石にSランク程ではないだろうが、それだけの人員を監視・運用する手間を考えると頭が痛くなった。
「あ、ちゃんともしもの時用の抑止力もいるわよ?」
へ?と間抜けな声を上げる職員に、エリザはちゃんと丁寧に説明した。
曰く、師匠の直弟子は自分を含めて5人いるのだと。
自分と言う汎用特化、ヴィータと言う作成特化、ウィル子と言う電子戦(と言うか情報戦)特化に対して、最後の二人は完全な戦闘特化なのだと。
また、二人は師匠がやらかした時に止めるための役割も持っており、基本的に正規のヒーローとしては活動する事は無いのだとも。
「あの二人に関しては本気で私も解らないわ。ウィル子なら何か知ってるでしょうけど、絶対に言わないだろうし…まぁ気にしても仕方ないわよ。」
言うべき事を言って、エリザは教導へと戻っていった。
その細い背中と揺れるしなやかな尾を見送った協会職員はこう思った。
どれだけ引き出しがあるんだよ、と。
……………
「黒、白、行きましょう?」
「「………。」」コクコク
ある日、復興の進んだZ市の商店街に、品の良い若妻と二人の子供が並んで買い物を楽しんでいた。
若妻は眼鏡に三つ編み、野暮ったい服装が残念だが明らかに容姿が整っており、二人の子供はそれぞれ母親と言うにはやや若すぎる位の女性と手を繋ぎながら、穏やかに商店街を歩いていく。
「おーい、終わったぞー。」
「あ、サイタマさん。」
そこに、禿げ頭の男が合流すると、母親は本当に綺麗な笑顔で歓迎した。
その手にはスーパーの買い物袋があり、彼が会計をしていた事が伺える。
「すみません、私が並ぶつもりでしたのに…。」
「いいって。二人を連れてちゃ他の人の邪魔になるしな。」
大好きな父親が合流したため、子供二人は白と黒がそれぞれ母と父の隣へと並ぶ。
決して二人の間には立たない。
何せ、そこは二人が手を繋ぐための空間であり、子供である自分達でも入るべきではない場所だからだ。
「…サイタマさん、肩車ー。」
「…お姉ちゃん、手つなごー。」
「おう、いいぞー。」
「はいはい。」
夕暮れの商店街を四人がのんびりと歩いていく。
それは何処にでもある、なんてことの無い、しかし尊い幸せの形だった。
「ギギギギギギ……。」
「なんであんなハゲが…。」
「モゲロモゲロモゲロモゲロモゲロ…。」
だが、夫婦間の容姿が余りにもかけ離れているため、周囲から殺意の波動を向けられていた。
「白子、黒子、お仕事はどう?」
「…無かった。」
「…暇。」
「そう、なら今日はもうゆっくりしましょうね。」
「「はーい。」」
二人の子供の名は、栗光白子と黒子。
やたら無表情な白髪と青い目、黒髪と赤い目を持った二人の幼女は四体目と五体目の分体であり、本体にすら届き得る可能性を持ったイレギュラー、ドミナント、運命の破壊者である事を、今はまだ誰も知らない。
序でにサイタマ含むこの四人が夫婦ではなく、単なる同棲相手である事も、誰も知らない。