徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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エクステリア遊んでたらネタが降りてきたので投下。
いつも通りネタバレ注意


FGO短編 フンババが逝く 遊星からの使者編

 2017年 カルデアにて

 

 「ねぇ、フンババ。」

 「はい?」

 

 白い貫頭衣に金の長髪と金の瞳、エンキドゥに似た中性的な容姿を持った太古の怪物に、立香は問うた。

 本来なら全長50mもの獅子頭の巨人か、巨大な獅子の姿である原初の獣は、今はサーヴァントとしてカルデアの食堂で緑茶を啜っていた。

 

 「フンババは怒った事ってあるの?」

 

 基本的に温厚で、自分から誰かに突っかかる事も無く、突っかかられても普段は距離を取って近づかない位には争いを嫌うのがフンババだ。

 まぁ、それは無駄な消耗を嫌う獣としての性がそうさせているのだが。

 神話では森の番人をしていたため、逃げる訳にもいかなかったのだが、もし番人でもなんでもなかった場合、フンババは今もなおこの星の何処かで生きていたかもしれない。

 

 「ギルガメッシュ王との事は例外として…まぁありましたよ。大分昔の事ですが。」

 

 そんな原初の獣にも例外というものがあった。

 

 「あれはそう、この時代から1万4千年前の事でしたね。当時の私はガーデニングに凝っていて、それを邪魔されたんですよ。」

 

 

 ……………

 

 

 1万4千年前、地球へと超文明の被造物が飛来した。

 一見して彗星に見えるそれは、兵器だった。

 その名を捕食遊星ヴェルバーと言った。

 それは神の鞭とも言うべき存在だった。

 同格であるムーンセル・オートマトンが神の目であるなら、あらゆる者を執拗に破壊するその存在は、正しく神の鞭だった。

 当時の地球にあったあらゆる文明は焼き払われ、あらゆる生物は汚染され、肥大化し、自壊するまで駆け抜けて、更に汚染を広げた果てに死んでいった。

 執拗に、執念深く、念入りに、地球上のあらゆるものが焼き払われた。

 だが、地上に降り立ったヴェルバーの端末、32mもの女性型の巨人にして、他天体からの増援すら駆逐したセファールが、ある地域を焼いた時、唐突にその身体をくの字に曲げながら吹き飛ばされた。

 彼女が焼いた地域、そこはフンババが何年もかけて環境を整えた、己の庭だった。

 川を引き、湖を掘り、土を山盛りにし、好みの植物を丁寧に植え、動物達も暮らせる様にと頑張って作った、フンババの趣味の産物だった。

 ちょっとお昼寝(数か月単位)していたと思ったら、唐突に余所からやってきた妙なのが自分の趣味で作った成果物を焼いたのだ。

 許せる訳が無い。

 獅子頭の巨人形態であったフンババは状況を把握した直後、白いヴェールの様なものとウサ耳の様な突起を頭から伸ばしている馬鹿に全力で蹴りを入れた。

 

 「■■■……!?」

 

 この星に、自分を止められる存在はいない。

 それがセファールの認識だった。

 しかしどうだろう。

 今、巨神はこの降り立った星の土を舐めさせられていた。

 

 「■■■■■■■■■ッ!!」

 

 咆哮し、激情のまま起き上がり、その腕から魔力による刀身を形成し、自身へと無防備に近づいてきた獅子頭の巨人へと振るう。

 

 「■■!?」

 「………。」

 

 だが、通じない。

 巨体でありながら素早い挙動であったが故に、腕の一振りでそれこそ隕石の衝突クラスの威力である一撃は、しかし、七つの輝きを持つフンババには通じない。

 元より、原初の大気すらまともに存在しなかった地球では宇宙からの隕石などそう珍しくもない。

 その程度の威力では、フンババは小揺るぎもしない。

 

 「………。」

 「■っ!■!?■■!!」

 

 フンババは何も話さない。

 ただ自身の怒りのまま、目の前の馬鹿を殺そうと拳を振るい、防御しようとする巨神の両腕を、その防御の上から砕いていく。

 滅多にないフンババの怒り、それを前にして破壊する事しか知らなかった巨神は一方的に殴られた。

 術理も何もあったものではない。

 ただ圧倒的な性能差で、巨神のアルテラは滅多打ちにされた。

 

 「■、■■…。」

 

 この星の原種生命全ての天敵であった筈の遊星よりの使者は、今やもうその巨体を力無く地に伏せていた。

 魔力吸収による自己強化も、純粋な筋力による打撃を相手にしては意味を成さない。

 この星の、否、太陽系全ての生命にとっての天敵である筈のセファールは、此処に敗北した。

 知性らしい知性を戦闘に用いなかった、原初の獣を相手に、一方的に蹂躙されたのだ。

 

 「………。」

 

 フンババはセファールの頭部をむんずと掴み上げると、そのまま振り回し始めた。

 ブォンブォンと回転を始めたセファールは、ただでさえズタボロだった全身の構造体が更にバラバラになっていくが、そんな事はフンババの関知するところではない。

 

 「………!」

 

 ボッと、大気を引き裂きながら、32mもの巨人が彼方へと投じられた。

 50mもの巨体を持つフンババにとっては、多少大き目のゴミ程度に感じられるセファールは、その勢いのまま一切減速せず、山を越え、雲を突き抜け、成層圏、中間圏、熱圏を次々と突破し……遂には静止衛星軌道上で地球を観測していた遊星へと突き刺さった。

 その衝撃たるや、神の鞭たるヴェルバーにとって完全に未知のものだった。

 或は、星を滅ぼす程の大質量の隕石と正面衝突すれば、同程度の威力を観測できるかもしれない。

 問題なのは、遊星そのものが崩壊しかねない程の衝撃を受けたと言う事だった。

 この損傷により、遊星は一年間程活動を停止、月方面への侵攻も中止してまで、自身の修復へと注力し始めた。

 これによりムーンセル・オートマトンは自身の中枢を虚数空間へと移す事で、記憶領域への侵攻の完全阻止に成功した。

 

 

 ……………

 

 

 「あぁ、平和だなぁ…。」

 

 のんびりと、フンババは燃やされた庭を修復し始めた。

 自身の能力で植物の生育に最適な環境へと燃えてしまった土壌を変化させ、更に辛うじて燃え残っていた植物から種を採取し、それを撒いていく。

 変質してしまった動物達は泣く泣く殺処分したものの、無事だった者(人間・人外含む)は食料・住居を与えた上で、丁寧に世話をした。

 途中から知性を持った者達が積極的に協力してくれた事もあり、修復は思いの他順調に進んだ。

 そしてあの大馬鹿者の一件から丁度一年、フンババの感覚に何かが引っ掛かった。

 見上げれば、宇宙から隕石が降ってきた。

 直径だけでも50mを超えるソレにフンババは驚くと共に、既知感を感じ取った。

 別に隕石だけなら珍しくもない。

 大小無数の隕石など、原初の地球ではよく降ってきたものだ。

 問題なのは、あの一年前の馬鹿と同じ匂いがしていた事だった。

 

 「おし、殺そう。」

 

 フンババは即効で決意した。

 基本的に誰も憎まず、恨まない奴だが、縄張りを荒らす者は殺すのが獣としての流儀だ。

 

 

 ……………

 

 

 「■■■……。」

 

 隕石どころか既に小惑星サイズの巨石の中に身を隠し、攻撃の瞬間を待っていたヴェルバー02ことセファールは思った。

 即ち、もうやだ帰りたい、と。

 何せ今から自分が特攻する相手は、一年前に自分を散々に打ち破り、遊星本体へと大ダメージを与えた化け物なのだ。

 神の鞭たる自分が化け物呼ばわりとはアホな話だが、そうとしか言いようがない。

 だが、本体であるヴェルバー01には感情は無い。

 なもんで、定められた破壊を実行するしか能がなく、破壊し損ねたこの星の生命を今度こそ確実に破壊しようとしていた。

 止せば良いのに、この星ごと。

 大質量の小惑星と共に端末たるセファールを射出し、衝突の瞬間に最大火力を以て、あの獅子頭の巨人を撃破する。

 完全に捨て駒だが、これ以上の攻撃手段はそれこそ遊星本体を地表に激突させる位しかない。

 そして、一年かけて修復した遊星は強化したセファールに命じ、地球破壊作戦を実行したのだ。

 

 「■■■■■■■■■…。」

 

 だが、これでも駄目だったらしい。

 地表の巨人から、観測した事が無い程のエネルギーを感知しながら、セファールの心中を諦観が満たしていった。

 

 

 ……………

 

 

 「『原始惑星・七大罪』!」

 

 必殺技は叫ぶもの。

 そんなお約束と共に、フンババは自身の最強の火力を放った。

 それも普段使う様な全方位に広げる浸食型固有結界の様なものではなく、一方向に光線の様に照射する。

 それはこの星の神々ですら扱えぬ程の権能を超えた力であり、この星の系統樹に属さぬ異端の力であり、この星の力を一点へと集めたものだった。

 この星が最も力強く、ただ一つの例外を除いて一切の生命の存在を許さなかった頃の力を、更に収束させたものを前にしては、嘗て竜達を絶滅させたものと同程度の小惑星とて例外ではない。

 七色の地獄の具現たる光線は狙い過たずに大気との摩擦で赤熱化していた小惑星に命中、その質量の過半を消滅させた。

 残りは爆散し、各地へと降り注ぐだろうが…小惑星の衝突よりはマシだろう。

 

 「…まぁこれ位で許してあげましょう。」

 

 大き目の塊がモンゴル方面へと落着するのを確認しつつ、フンババは庭仕事へと戻った。

 …決して(ちょっとやり過ぎたかな?まぁ気は晴れたしこの辺で許してあげよう)とは思っていない。

 

 

 ……………

 

 

 「とまぁ、こんな事がありましたね。」

 

 ズズズ、とすっかり温くなってしまった緑茶を啜りながら、フンババは朗らかにそう言った。

 

 「そ、そう…。」

 

 対して、立香はドン引きしていた。

 どう考えても聞かなかった方が良いトンデモ系の話だった。

 正直、全貌を知っているであろう千里眼持ち達に話を聞きたいが、これ以上聞いたらもっとやばいネタに首突っ込む事になるぞ!と人理修復で鍛えられた直感が叫んでいたので、この話はここまでにしたかった。

 だって、話の途中で食堂に入ってきた月の聖杯戦争に参加したってメンバーは顔色真っ青、顔面引き攣り状態でこっち見てるんだもの!

 アルテラに至っては無表情はそのままに全身がガタガタ音を立てる位に震えてるし!

 

 「と、所で、アルテラに何か思う所はある?」

 

 ビクン!と大げさにアルテラが震えるが、これはマスターとしては聞いておかなければならない。

 場合によっては編成や今後のカルデアの運営に関わる事だった。

 インド兄弟や頼光と鬼娘二人の様に、顔を合わせれば直ぐに戦争する様では、それこそカルデアが吹き飛びかねないからだ。

 

 「あぁ、それなら大丈夫ですよ。あの時暴れたので、鬱憤は大分晴れましたから。」

 

 のほほんと語る様は、普段の日だまりで眠る猫の様に穏やかなフンババだった。

 

 「そっか…。」

 「でも…」

 

 安堵したと同時、不意にフンババの笑みの形となっていた目がギラリと光り、口元が耳まで裂け、口内の鮫の様な鋭くビッシリと生え揃った牙が剥き出しになる。

 

 「次は、ありませんよ?」

 

 笑顔とは本来攻撃的であり、獣が牙を剥く行為が原点である。

 

 「……!」

 

 フンババの本気の威嚇と警告に、立香はただ黙って頭をガクガクと頷かせるしか出来なかった。

 様子を見ていた英霊達は一様に顔を引き攣らせるか、警戒を露わにしているが、正直英雄王でも一対一では圧倒される様な怪物相手では、如何にカルデアの誇る英霊達でも分が悪かった。

 

 「まぁ、もう会う事も無いでしょうけど。」

 

 ズズズと、最後に残った緑茶を啜りながら、フンババはそう締めた。

 

 (フラグ乙。)

 

 だが、フンババのセリフはどう考えても立香にはフラグにしか聞こえなかった。

 

 

 なお、過去のトラウマが刺激されたのか、アルテラは気絶していた。

 

 

 ……………

 

 

 音もなく、暗黒の宇宙を一つの小惑星が進んでいく。

 それは既に地球上からの光学観測でも確認されており、計算上1万4千年前にも地球に飛来したと言われる大型の彗星だった。

 だが、地球上の人類は未だ知らない。

 その中に潜む、嘗てこの星の、太陽系の全生命体にとって脅威となった存在を。

 その存在が嘗ての敗北を忘れておらず、その対策を1万4千年もかけて行っていた事を。

 今はまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 




セファール「よし、何とか生き延びた…」
聖剣使い「|ω・`)ノ ヤァ」
セファール「」
聖剣使い「エクスッカリバーーー!」

以後、何とか逃げ延びたセファールは仮死状態となって癒えるまで休眠しましたが、ある程度回復すると使い魔(分体)を派遣して情報収集とかしてました。

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