徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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艦これ短編 赤城が作る

 はい、赤城です。

 元は平和な日本で艦これやってたT督ですが、今は何の因果か赤城に転生しています。

 で、ですね。

 赤城ってゲームでは任務こなして貰える艦なんですけど、私は大破状態で漂流していたのをとある新米提督の鎮守府に拾ってもらった、所謂ドロップ艦なんです。

 幸いと言うべきか、艤装の使い方や戦闘は私の中の赤城としての記憶と艤装在住の妖精さん達のお蔭でどうにかなったんです。

 まぁこの鎮守府も戦闘の殆どない海域で、提督も戦果戦果と叫ぶよりものんびりしたいと考える方でしたので、轟沈の可能性はかなり低い場所でした。

 しかし、重大な問題があったのです。

 この鎮守府、基本駆逐艦ばかりで間宮さんも鳳翔さん、大淀さんすらいないのです。

 辛うじて明石さんはいますが、彼女は基本工廠に籠りっぱなしなので、殆ど顔を見せる事はありません。

 つまり何かと言うとですね…

 

 ご飯を作るのが得意な方がいません。

 

 間宮さんの喫茶店も、居酒屋鳳翔もない鎮守府なんて、鎮守府じゃない!

 これは深刻な問題です。

 ですので、お二人がこの鎮守府に着任するまで、暫くの間ですが、私が食堂に勤める事になりました。

 先ずは、提督に許可を貰う事からですね。

 

 ………

 

 提督から許可を貰いましたので、近場の中古ショップから業務用の家電を、業務用の生鮮食品店から食材を買いました。

 そして、近場の港の漁師さん達の護衛をする代わりにその日取れた物を譲ってもらったので、今日は明日の仕込みも含んだ大がかりな調理に入りたいと思います。

 とは言え、初日なので簡単なものにしましょう。

 私と明石さん以外は皆駆逐艦なので、子供の味覚に合わせた料理にしなければなりませんしね。

 という事で、海軍でもお馴染みのカレーとサラダです。

 材料のニンジン・ジャガイモ・豚バラ肉ブロックを一口大に切り、豚肉に塩と香辛料の類で下味をつけます。

 なお、深海棲艦のせいで胡椒等は輸入がほぼ途絶えているので、山椒や香草、唐辛子なんかが一般的な香辛料となっています。

 さて、野菜と豚肉を月桂樹の葉と水と共に圧力鍋にかけます。

 この間、玉ねぎを微塵切りと八等分に切り、微塵切りの方を飴色になるまで炒めます。

 よく言われますが、この方が甘味が出るんですよね。

 ただ、事前に冷凍させていた方が直ぐに飴色になるのですが、今は仕込んだ分が無いので仕方ありません。

 まぁ余った分は仕込んでしまいましょう。

 八等分にした方はそのままで、玉ねぎの食感を楽しむためのものです。

 そして、圧力鍋で十分に野菜と豚肉が柔らかくなったら、灰汁抜きのために穴あきお玉で具を攫い、次に普通のお玉で灰汁を攫い、最後に目の細かいザルを通して残りの汁から灰汁を取ります。

 取った具と汁は業務用寸胴鍋に入れ、先程の玉ねぎを加え、必要なら少しの水、好みでトマト缶、生クリーム等を加えます。

 そして弱火で具の全てに火が通るまで煮込みます。

 後はレタスとトマト、キュウリでサラダを適当に作り、火が通ったと思ったら、全体の三分の一だけを別の鍋に移し、ルーを別々にします。

 これで二種類のカレー、二種類の辛さを楽しむ事が出来る訳ですね。

 で、多い方には普通の甘口~中辛程度のルーを溶かした上で、練乳と蜂蜜を加えて甘口に仕上げます。

 少ない方にはルーの前に紙パックに入れた鷹の爪を加えて少し煮込んだ上で辛みを増し、最後に辛口のルーと蜂蜜を入れて仕上げます。

 なお、蜂蜜を入れるのはカレーの上面の塊が出来ないようにするためのものなので、それが好きな方は入れてはいけません。

いけません。

 そして、舌休めを兼ねたデザートに果物の缶詰(国内産の黄桃とミカン、リンゴのみ)を刻んで入れたフルーツヨーグルトを用意して完成です。

 

 で、出来ました、赤城特製甘口&辛口カレー!

 

 早速この日の夕飯に出してみました。

 お昼は朝に担当の子と作ったおにぎりとおかず少々にお味噌汁だけでしたので、帰港した駆逐艦の子達は突然の豪華なカレーに提督含めて驚いてくれました。

 評判も上々で、カレーの匂いに釣られたのか、明石さんや妖精さん達も工廠から出てきたので、こちらにもカレーとサラダを振る舞います。

 勿論、らっきょうの甘酢漬けと福神漬けも一緒で、最後に缶詰の果物と無糖のヨーグルトで作ったフルーツヨーグルトで舌休めです。

 結果、寸動鍋一個分のカレーと大きなボウル二つ分のフルーツヨーグルトが見事に空になりました。

 流石の食欲ですね…多めに炊いたご飯もすっかり空ですし。

 カレーは余ったら寝かせるかドリアにするつもりでしたのに…。

 

 「とは言え、皆さん満足の様ですし、良かった良かった。」

 

 さて、片付けが終わったら、明日の仕込みをしましょうか。

 今日もらった鮭が新鮮ですし、朝は塩焼き、夜は洋風に玉ねぎとマヨネーズで焼いてみるのも有りですね。

 

 ………

 

 「美味い…!」

 

 ガツガツガツガツ!

 そんな擬音が聞こえてきそうな程に、この鎮守府の駆逐艦達は大喜びで朝ご飯を食べていた。

 

 「そんな慌てなくても大丈夫ですよ。」

 

 ホケホケと、お祖母ちゃんの様な雰囲気を纏う赤城の言葉だが、それだけは頷けない。

 見れば、同僚達も少しでも多く!一口でも多く!とご飯をがっつき、おかわり!と元気に茶碗を突き出している。

 人参、胡瓜、トマトの浅漬けにワカメと豆腐、長葱の味噌汁、ほうれん草のお浸し、鮭の塩焼き、つやつやの麦飯、そして納豆と温泉卵、序でに焼き海苔。

 正に理想的な朝の和食だった。

 

 「美味い…。」

 

 しみじみと呟く提督に、駆逐艦達も内心で同意する。

 何コレ凄い美味い。

 

 「うふふー、舌に合った様で良かったです。」

 

 そう言って笑う赤城は、温泉卵とご飯に醤油、刻み海苔と炒り胡麻を散らした特製卵かけご飯でどんぶり飯を食べていた。

 

 「え、赤城、何それ?」

 「何って、卵かけご飯ですよ。今はティーケージーって言うんでしたっけ?」

 

 お祖母ちゃんが無理して横文字を使う様な発音だが、駆逐艦達はそれ処ではない。

 一斉に我も我もと真似をし始め、あっと言う間にご飯が消えていき、慌てて提督もそれに参戦するのだった。

 

 (あぁ、赤城が来てくれてよかった…。)

 

 午前9時頃、執務室で事務仕事しながら提督は思った。

 その腹は朝は軽く済ませる派の彼としてはあり得ない程に一杯で、何故か妙に気力が充実していた。

 

 (駆逐艦の皆も美味しそうに食べてたし、戦力として以外にも凄い助かってるな。)

 

 無論、赤城はこの鎮守府唯一の正規空母であり、出撃の頻度は多い。

 しかし、その合間合間に食堂に籠り、皆の食事を用意してくれる。

 また、出撃の日も必ずレシピを残してくれるし、非番の日には自発的に買い出しに行ってくれる。

 なお、お昼は多くの艦が出撃なりして揃わないので、各種おにぎりと朝食同様の浅漬けや甘い卵焼きに焼いたウィンナー等が食堂に置かれ、出撃組にはお弁当として支給される。

 士官学校出で、炊事は出来るが特に得意と言う訳でも無いし、異性で年下の駆逐艦達との距離感も今一掴めない。

 そんな時に漂流していた赤城を拾ったのは、この鎮守府にとって正に天運だった。

 

 「あぁ、ついつい食べ過ぎちゃいそう…。」

 

 暖かくなった懐もとい胃袋をさすりながら、提督は夕飯を楽しみにしていた。

 

 ………

 

 「今夜は鮭の洋風マヨネーズ焼きですよ。」

 

 赤い弓道着から胸当てや肩の飛行甲板、弓矢と言った艤装を外し、白い割烹着を着た赤城の宣言と共に出された料理に、一同が目を見張った。

 鮭と言えば日本では主に塩焼き、他にはホイル焼きやちゃんちゃん焼きにスモークが精々、後は寿司ネタが主な消費だが、洋風でかつマヨネーズとなると戦前生まれの駆逐艦達にとっては完全に未知の領域だった。

 

 「頂きます!」

 

 しかし、あの赤城が不味い飯を作る訳がない。

 そんな信頼と共に、駆逐艦娘達は一斉に箸を付ける。

 優しいコンソメ味の野菜スープ。

 ブロッコリーとベーコン、エリンギ入りのキッシュ(生地の部分は食パンを敷き詰めて代用)。

 そして、メインディッシュの鮭の洋風マヨネーズ焼き。

 特に反応が大きかったのは、やはりメインのマヨネーズ焼きだ。

 極普通の塩をふってある鮭の表面に香草類を摺り込み、フライパンに刻んだ玉ねぎ(長葱でも可)を敷き詰め、そこにマヨネーズ適量とレモン酢少々をかけて蒸し焼きにする。

 ムニエルやエスカベッシュよりも遥かに簡単(流石にマリネには劣るが)なその料理は、しかし一切の臭みもなく、最初は躊躇もあった艦娘も提督も妖精達も、一口食べてからは迷いなく箸を進めていく。

 最初はレモン酢の酸味であっさりかつマヨネーズでクリーミーだが、蒸した事で適度に塩分の抜けた鮭の美味さに驚き、次いで鮭の塩分と旨味を存分に吸い、蒸した事で甘味の引き立たされた玉ねぎに感動する。

 キッシュも食パンから出来たとは思えない程にパリパリとした食感とクリーム部分の濃厚さとボリュームに満足する。

 このキッシュ、パンは処分品、クリーム部分は安売りしていたクリームシチューの素で作った濃いめのシチューに卵を入れて作ったものだと信じられるだろうか?

 そして、酸味とクリームの濃厚さで疲れた所に、合間合間に小口大の野菜の入ったコンソメスープが癒し、口直しをしてくれる。

 質・量共に大食らいの艦娘(駆逐艦は成人男性並)達が大満足な夕食となった。

 

 「ふふ、デザートだってあるんですよ?」

 

 そして、これである。

 赤城が持ってきたのはプリンだ。

 それも、大きなラーメンどんぶり一杯に入ったプリンだった。

 グラニュー糖に卵、牛乳を混ぜ、レンジで加熱して作ったものだが、お玉で器に分け、そこにカラメルソースをかける豪快さはプリンとはとても思えない。

 しかも、お好みでホイップクリームと缶詰の果物、更に緩くして塩を少々加えたこし餡に抹茶粉等のトッピングまで用意してあった。

 

 「美味い…!」

 

 例え、例えデブったとしても、これを食い逃す事は出来ない。

 デザートの登場に目の色を変えた駆逐艦娘と妖精達に続く形で、提督もまたこの大雑把ながらも豪勢なプリンへと挑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 この赤城の食事攻勢は、半年後の鳳翔加入まで続いた。

 しかし鳳翔加入後、二人による美味しい食事合戦に発展し、鎮守府のエンゲル係数が更なる高まりを見せ、提督の健康診断で問題が発生、提督のみ特別ヘルシーメニューへと移行する事となる。

 

 なお、特別ヘルシーメニューも味見した艦娘の発言から結局大人気になり、他の艦娘達も喜んで食べる事となった。

 




書いてたら腹が減ったな…

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