徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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艦これ短編 深海工廠鬼が逝く3

 さて、通信量の増大と指揮下の深海棲艦が沈んだ事で、北米よりの太平洋海域を最大拠点とする深海棲艦の主戦派が戦艦・正規空母を多数含む100隻近い有力な艦隊を派遣した。

 とは言え、これは所詮小手調べであり、威力偵察に過ぎない。

 例え全滅させた所で、次は本国艦隊が動くだけなのだ。

 しかし…

 

 「ゼンカンガショウソクフメイダト…?」

 「ハイ…。」

 

 全滅したなら分かる。

 しかし、消息不明となると意味が分からない。

 一応、直前の通信では何の異変も無かったから尚更に。

 

 「イミガワカラン。」

 「カイイキゼンタイガツウシンショウガイデ、サクテキキモミキカンデス。」

 「イチオウ、ショウキボノテイサツカンタイヲダシテオケ。ソレデダメナラシュリョクカンタイヲゾウキョウシタノチ、サイコウゲキヲカイシスル。」

 「リョウカイシマシタ。」

 

 これにより、深海工廠艦隊は暫くの時間稼ぎに成功した。

 

 

 ……………

 

 

 で、現地では何が起こったのかと言うと…

 

 「アァ~イキカエル…。」

 「ヤッパリオフロハヨイモノネ…。」

 

 深海工廠艦隊の本領、即ち接待攻勢で侵攻してきた深海棲艦は全艦休暇に入っていた。

 海域に到達早々「Welcome to 工廠艦隊レジャー施設!」「リニューアルオープン!」とデカデカと幟を上げた艦に、以前常連客だった現地指揮艦があっさりと付いていき、残りの艦達もそれに追従したが故の結果だった。

 元々、主戦派と言っても冷や飯食いな連中(だからこそ捨て駒扱いだった)なので士気も低く、彼女達としては嘗て消えてしまった癒しが再び戻って来たので、いっそ此処に移住するもの有りかなぁ…とすら考えていた。

 駆逐艦達ですら、丁寧な整備と良質なご飯に、既に飼い主として工廠艦隊の面々を登録していたりするので、責める事は出来ないだろう。

 

 「我々の敵がイタリア並だった件…。」

 「しっかりしてくれ長門。纏め役の君は強制的に現実を見なければいけないんだから。」

 

 余りの事態に、元野良で現艦娘組の纏め役である長門が遠い目をしていた。

 しかし、工廠艦隊旗艦として、その辺をしっかり情報収集済みだった工廠鬼としては理想的な結果に胸を撫で下ろしていた。

 最悪、嘗ての常連客達と殺し合いをする羽目になっていたのだから、その分安堵も強かった。

 

 「でも、実際に戦闘にならなくて良かったよ。」

 

 実際、諸島全体の迎撃施設の完成度は未だ低く、試験運用なら兎も角、実戦でいきなりとなると不安も大きかった。

 また、深海棲艦と艦娘、更にそれぞれの妖精がちゃんと連携を取れるか不安も大きかった。

 

 「まぁ、おいおい訓練を積み重ねていくしかあるまい。」

 「とは言え、そう時間は無いよ。あっちの指揮艦は基本的に脳筋だし、米帝ばりに数揃えて殴れが深海棲艦の基本戦術だしね。」

 

 幸いと言うべきか、今回侵攻してきた艦隊はあっさりとこちらに寝返りそうだが(というか勧誘しなくてもこっちに就くと思う)、次はガチの主力艦隊で侵攻してくるので、その前にどうにかしたい所だった。

 

 「まぁチマチマ僕の艤装も改造してたし、一度位なら確実に撃退できるよ。」

 「とは言え、それは保険だ。お前無しでもどうにか出来ねば、我々に未来はない。」

 

 何とか物資も遣り繰り出来てるし、新兵器まで開発している。

 しかし、根本的なマンパワーと土地不足はどうにもできない。

 

 「一応、うちの潜水艦隊を使って情報収集はしてる。けど、次が来る前に確実に対処できるようにしないと…。」

 「そのための迎撃機の配備か?」

 

 先日、工廠艦隊ではとある迎撃用戦闘機の配備を開始した。

 それは現在日本の艦娘が搭載可能な艦載機と比較しても、通常型の烈風に匹敵する程の性能を持っていた。

 

 「艦娘側の艦載機開発のデータが無ければ出来なかったものだけどね。」

 「その辺りはブラ鎮出身の連中に感謝すべきだな。」

 

 ブラック鎮守府出身で、長い事抑圧されていた艦娘は、時に反乱を起こす。

 無論、憲兵艦隊所属の陸上戦と対艦娘向けの訓練を積んだ艦娘に問答無用で撃破されるのだが、中にはそれを知るが故に素早く逃げる者も多い。

 その中で、艦娘の中でも比較的冷静な者達が開発系の資料をドサクサに紛れて入手し、手土産としてここまで持ち込んだのだ。

 

 「既存の艦載機よりも平坦だな?」

 「本当はステルスジェット機が良かったんだけどねぇ…。」

 

 あくまで推進方式等は既存のものだが、生物型の構造を可能な限り減らし、艦娘側の妖精達でも運用できる様に改良したものだ。

 とは言え、陸上の滑走路からしか出撃できないので、艦娘達には余り連携の機会はないが。

 

 「ま、大体わかったし、次はもっと良いのにするよ。」

 「で、各砲台群の方は?」

 「そっちはもう装甲化も終わったから、いつでも行けるよ。」

 

 諸島を守る各砲台群、それは基本的に対海上用だが、対空用の散弾や時限信管等は準備済みなので、新型迎撃戦闘機も合わせれば、そう簡単に制空権を失う事は無いだろう。

 

 「うーん…もしもの時は回天君達使っても良いからね?」

 「余り気が進まんが、了解した。」

 

 回天君、それは深海棲艦の駆逐艦を改装して作った、自走追尾式特攻兵器である。

 駆逐艦の武装を全て取っ払い、前面と上面の装甲を強化しつつ、側面の装甲を限界まで削った。

 これにより結果的だが軽量化により運動性・加速性が上昇し、その速力を生かして内部に積載した爆薬により、敵陣奥深くで自爆させる事を主目的とした兵器だ。

 艦娘や妖精でやっていたら反乱を起こされてもおかしくないが、ちょっと休めばまた復活する深海棲艦の駆逐艦なので、余り問題視されなかった。

 なお、威力の方は長門に試させてもらった所、「3発が限界だな」との事で、主力戦艦クラスでも3発も直撃すれば沈む程度には威力もあった。

 コスト的にも手間的にも安く、練度が低い個体や反抗的な個体を中心に改装していく事が決定した。

 

 「後、火力面に関しては心強い娘が近々完成するから、そっちに期待しててね。」

 「楽しみにしている。」

 

 そう言ってニヒルに笑う長門の事を、工廠鬼は美人さんだなぁとほっこりしながら見ていた。

 そして、そんな幼気な工廠鬼の様子を、長門は表情に一切出さずにデレデレしつつ見ていた。

 

 

 ……………

 

 

 さて、この深海工廠艦隊の拠点周辺には、割と漂流物が多い。

 その多くは深海棲艦か艦娘の残骸、時折それ以外の艦艇の残骸等だが、稀に生きた漂流物も届く。

 それは例えば磁場の影響で方位を見失った海生哺乳類だったり、日本の艦娘だったり、深海棲艦だったりする。

 なので、その漂流物が発見された時、工廠艦隊は騒然となった。

 残骸となっているが、大和型等の超大型戦艦に匹敵する程の巨砲を備えた艤装。

 綺麗な金の長髪に我が儘ボディ、そして白人種特有の綺麗な白い肌。

 そして極めつけは殆ど破けて残っていないが、星条旗模様のサイハイソックス。

 そう、アメリカ合衆国が誇る戦艦アイオワ級のフラッグシップ、アイオワ。

 祖国のため、孤軍奮闘を続けている筈の彼女が、何の因果か艦娘と深海棲艦の寄り合い所帯のこの島に流れ着いてしまったのだ。

 

 「……どうすべ?」

 「うーむ…。」

 

 すっかり相談役となった長門と共に、工廠鬼は頭を悩ませていた。

 はっきり言って、厄種である。

 彼女はその強烈な愛国心と不屈のヤンキースピリットで胸を一杯にしながら、日本側の救援が来るまで戦い続ける筈だった。

 しかし、この世界線では何の因果か、彼女は重傷を負い、こんな人界の果てまで漂流してきた。

 正直、米帝が完全に制海権を失った可能性を考えると、頭が痛い。

 

 「今まで両アメリカ大陸に張り付けていた戦力がこちら側に来る可能性があるな…。」

 「そうなりゃここも終わりかな?」

 

 余りの事態に、責任者二人は頭を抱えた。

 だって、そんな事になってたら本当に困るんだもん。

 

 「そうなったら、連れ戻されてまたブラック業務に…。」

 「ブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だ…。」

 

 二人して虚ろな目になってブツブツと何事か呟きながら俯く。

 だって、務めるならホワイト環境の方が良いんだもん。

 

 「取り敢えず、アイオワには入梁してもらおう。回復次第事情を説明してから、改めて行動を決めてもらおう。」

 「止めんのか?」

 

 意外な工廠鬼の言葉に、長門が目を丸くした。

 艦隊旗艦として、時に冷徹な判断を下す、見た目だけなら少年の鬼級は、しかし、フルフルと首を振った。

 

 「彼女の信念には応えたい。何せ僕らはそれを無くしたり、元々持ってなかった連中だからね。」

 「…良かろう。」

 (まぁ、戦争終わった後のために、米帝様との橋渡し役として恩を売っておきたいのもあるんだけどね。)

 

 この様にして、事態は新たな局面に向かう事となった。

 

 

 

 

 

 


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