徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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よし、出来たので投稿ー。


よくある転生作家系サーヴァントの話

 その人との出会いは、唐突だった。

 

 

 「ほうほう。これがサーヴァントというものか。いや凄いなぁ!」

 

 

 灰色のローブを着た、なんかヘンテコな老人がいた。

 

 

 ……………

 

 

 人理焼却を受け、レイシフトなるものの適正が高いとしてカルデアに強制徴集された藤丸立香は爆破事件によって人類最後のマスターとなり、マシュと共に特異点の解消、即ち人理修復の旅へと出る事となった。

 正直、何が何だかと思っていたが、冬木市とフランスと立て続けに死にそうな目にあったため、平和ボケした日本人の彼をしても(あ、これボケっとしてたら死ぬな)と思い、英霊らを師として鍛錬と勉学に励む中、遂に新たなに第二特異点として帝政華やかなりしローマ帝国を特定、レイシフトに至った。

 が、ここからが問題だった。

 

 何せ彼らの敵は今までのワイバーンやサーヴァントと異なり、人間だったのだ。

 

 人、そう人である。

 彼が救わんとし、彼の生まれ育った時代においては何よりも尊ぶべきとされる人だったのだ。

 現代日本人として当然の価値観を持つ立香は、彼らを殺す指示を出せなかった。

 可能な限り鎮圧せよ、とこんな未熟な自分を慕い、認めてくれているサーヴァント達に震える声でそう告げる事しか出来なかった。

 無論、サーヴァントらはそれに従った。

 戦闘機にすら凌駕する者も珍しくないサーヴァント達にとって、多少多いだけの人間など、多少手加減して蹴散らせば良いだけの敵だ。

 しかし、相手は未だ見ぬ敵方のローマ皇帝を信望する狂信者の群れだった。

 整然と軍を成し、彼らの皇帝のためには死すら厭わぬ生きながら死兵となった者達。

 そんな彼らを相手に手加減などすれば、如何に百戦錬磨・古今無双で鳴らした英霊達と言えど、負ける事はないとは言え押されてしまう。

 結果、彼らの唯一のマスターにすら狂信者らの刃が届きかねない距離まで迫られてしまった。

 

 「っ、マスター!?」

 

 遂には最後の盾たるマシュもまた、雲霞の如く迫る人間の軍勢相手に戸惑い、押され、遂には不意を突かれて後ろへと兵を通してしまった。

 ボロボロの血塗れの兵士が一人、折れた右腕をそのままに欠けた剣を左腕で振り被り、マスターへと肉薄する。

 

 (あ、やば)

 

 迫り来る、ただの人間の一太刀。

 それが振り下ろされれば、人類史が終わる。

 それが分かっているのに、殺人への忌避感という当たり前の感情を前にして、立香は動けなかった。

 平和な国の特に平和な時代に生まれ、善良な周囲の人々と共に育った極普通の日本人の少年に、世界を背負って戦い、他者を踏み躙ってでも生きるだけの意思を持てというのは、余りにも酷だった。

 これが相手が怪物やサーヴァント等の人外ならば足掻いただろう。

 しかし、人間が相手だと言うのが、彼の精神に箍を掛けてしまった。

 それが今、当然の結果として彼に振り下ろされようとしていた。

 

 (おや、そんな終わり方で良いのかい?)

 

 不意に脳内に聞こえてきた声に、疑問すら抱く暇もなく回答する。

 嫌だ。

 でも、人を殺したくない。

 

 (自分が殺されると言うのにかい?古今東西、死にたくないからと剣を取るのは割とポピュラーな事例だ。別に今ここで君が彼らを殺した所で問題など無いのにかね?)

 

 それでも嫌だ。

 可能な限り避けるべきだし、そうあれと育てられ、教えられた。

 だから、可能な限り避ける。

 

 (ほっほぅ!この期に及んでまだそう言い切れるとは呆れた頑固さ、いや意志力と言うべきかな!はははははははははははははははははッ!!)

 

 何が気に入ったのか、脳内に響く声は呵々大笑と盛大に笑い出した。

 そして、深淵なる知性と経験を感じさせる老いた声はそれまでの様子を一変させて告げた。

 

 (宜しい。大いに宜しい。正直乗り気ではなかったのだがね。その意志力、その不屈、その魂、終わるまで見届けたくなった。)

 

 不意に、何時の間にか止まっていた周囲の光景が動き出す。

 走馬燈とも思える不思議な停滞は終わり、知らず立香の足元に展開していない筈の召喚陣が現れる。

 

 『な、召喚!?向こう側からだと!?!』

 

 通信から響くドクターの声よりも早く、召喚陣の光は頂点に達し、向こう側からの誰かがやってきた。

 

 

 「ほうほう。これがサーヴァントというものか。いや凄いなぁ!」

 

 

 灰色のローブを纏った、如何にも魔術師か司祭と言った雰囲気の老人のサーヴァント。

 老人は興味津々といった様子で己の右手を見つめ、そして周囲を見渡す。

 その眼は世界への興味と感心に、冒険を前にした少年の様に輝いていた。

 

 「自動的にその時代の知識の挿入だけでなく、言語の同時翻訳や自然環境への適応までやってくれる!エーテル体、精霊に近い英霊の分霊とは言え、神秘の薄れた時代の科学混じりの魔術がこうも見事だとは!やはり行き着く果ては科学と魔導の融合という私の持論は間違ってなかった!」

 

 わははははははは!と豪快に笑う老人の姿に、周囲の者は呆気に取られた。

 正体不明のサーヴァントが突然現れ、突然何か言ったと思ったら爆笑し始めた。

 迫っていたローマ兵は召喚の際の魔力の奔流に弾かれたので命は助かった立香も、これには唖然としてしまった。

 

 「ん?おっと、私とした事が不作法だったね。君が私のマスター君だね。」

 

 にこりと好々爺然とした笑みを浮かべ、老人は立香の前に跪いた。

 

 「サーヴァント・ルーラー。押し掛けで悪いが人類史の危機により馳せ参じた。これより我が知恵と我が石板は貴方と共に。宜しければ許されよ。」

 「許します。」

 

 間髪入れず、立香は告げた。

 

 「ルーラー、この状況を打破する手段を提示してくれ。なるべく人死にを減らす形で。」

 「であれば、我が宝具にて無力化しよう。マスター、魔力を回してくれ。私はそこまで燃費が良くないからね。」

 

 早速の命令にルーラーは楽し気に笑い、その手の中に実体化させた宝具と思わしき石板に素人である立香ですらぞっとする程の魔力を回していく。

 

 『うおおお!?ちょちょちょっと待って!何その石板凄い勢いで魔力吸ってくんですけどぉ!?』

 『おおっと不味いぞロマン!このままじゃ安全措置のためにブレーカーが落ちて、全館の生命維持機能まで停止しかねないぞ!』

 『非常用電源起動!職員は速やかに管制室に集合、後にここを除いて全館への送電をカット!電力消費を少しでも抑えて立香君に回すんだ!』

 

 カルデア側の混乱も何のその。

 老人のルーラーはその手の石板から眩い程の神代のエーテルを放出させながら、滔々と宣言する。

 まるで語り部の様に、役者の様に、司祭の様に、その堂々たる姿は確かに彼もまた一角の英霊なのだと立香に実感させた。

 

 「では皆様お立会い。これぞ我が生涯を以って刻みし、最も古き知の結晶…。」

 

 そして、人類史上最古から現在まで続く最も有名な神秘の一つがその真名を告げられた。

 

 

 「『最古聖典・人理英知(キタブ・テリフィ)』。」

 

 

 真名の開放と共に、敵軍全てを突如発生した奇妙な煙が包み込んだ。

 

 

 ……………

 

 

 「ん…」

 

 ふと、立香は覚醒した。もう随分前に感じられる第二特異点での初代作家系サーヴァントとの出会いを夢に見た彼は、机に伏せていた体を起こして周囲を見渡した。

 場所はカルデア内の図書館。

 古き良き重厚さを感じさせる内装は、本好きにとって楽園とも言える膨大なラインナップと静かで落ち着く空間で満たされている。

 

 「おや、漸くお目覚めかな?」

 「お蔭さまでね。」

 

 不意に背後から掛けられた声。

 それは彼が先程まで夢で見ていたサーヴァント・無銘のルーラーの声だった。

 

 「努力は尊いが、余り根を詰めるのはいかんよ立香。マスターは君一人なのだから。」

 「ごめんってば。」

 「で、何を夢に見たんだい?まさかまた新しいサーヴァントかね?」

 「昔、ローマでルーラーと出会った頃の事を見たよ。」

 「おやまぁ。他にも素晴らしい思い出なんて幾らでもあるだろうに。」

 

 呆れた様子のルーラーに、立香もそうだねぇと返す。

 どうして今更あの頃の事を夢に見るのか。

 苦い思い出、最悪な思い出、嬉しい思い出、懐かしい思い出。

 そういったものが沢山あったのに、何故あの頃を夢で見るのか。

 

 「あの時の宝具で、敵のローマ兵が全部寝ちゃったのはびっくりしたなぁ。」

 「私の石板は書かれている内容をそのまま現実に再現する。要は限定化された空想具現化に近いからね。君のちょっと前の時代の毒ガス兵器を参考に眠り薬の成分を撒けば、薬への耐性が低いあの時代のローマの民ではそりゃ潰れるさ。ま、燃費は悪いがね。」

 「スキルも合わせて強力なんだけどなぁ。」

 

 それだけがこの支援特化ルーラーの欠点だった。

 ただ只管に燃費が悪い。

 アーチャーの英雄王ばりにあらゆる事態に対応可能な万能に近い宝具だが、あっちと違って単独行動を持ってないが故にその燃費はカルナばりに悪い底抜けとなっている。

 幸い、人理修復中に限っては抑止力からのバックアップがあるので、これでも多少はマシになっているそうだが。

 

 「ま、その点は諦めよう。人生諦めが肝心とも言うだろう?」

 「でも諦めたらそこで試合終了だよ。」

 「相変わらずの不屈ぶり、それは一体誰に似たのやら。」

 

 無銘のルーラーの眼が興味深げに細まる。

 彼は時々、こうして立香を試す。

 試して、立香が立ち上がるのを待つ。

 折れればそこまでで、その末路をその目に刻んでから勝手に座に戻る。

 元より戦う者ではない彼がこの一連の戦いに参加したのは藤丸立香という平凡な生まれの筈なのに類稀な逆境にも折れない存在による所が大きい。

 人理が壊れるのは残念な事だが、森羅万象は何れ滅びる事を知る彼にとって人類の滅びがちょっと早くなるのは寂しいがそれだけに過ぎない。

 無論、回避できるならそれで良いが、できないのならそれまでだったと見切りを付けてしまう。

 

 「きっと口と文章が達者な誰かさんだよ。」

 「ほーぅ。それは一体誰なんだろうなぁ。」

 

 韜晦する口と文章が達者な誰かさんに苦笑しながら、立香は気分転換に食堂へ行こうとルーラーを誘った。

 

 

 ……………

 

 

 

 第一宝具「『最古聖典・人理英知(キタブ・テリフィ)』」

 

 無銘のルーラーが持つ唯一の宝具、その最もポピュラーな使い方。

 彼が刻んだ世界最古の石碑にある神代を除いた2011年までの人類史、その一部を指定して再現する。

 限定化された空想具現化であり、記述された人類史上の出来事ならば魔力さえ用意できるのならば幾らでも展開できる。

 攻撃・防御・回復・強化・陣地設置など、極めて汎用性に富むもののその知名度の高さから燃費が悪い。

 初期型原爆程度の火力だと、マスター(普通の魔術師)の全てを使い潰して漸く使用可能となるため、純粋な打ち合いでは最上位の聖剣等には劣る。

 なので専ら支援や回復が主な使い道となる。

 宝具名はアラビア語での歴史書から。 

 

 

 第二宝具「『最古聖典・外界神話(キタブ・オストリオン)』」

 

 無銘のルーラーが持つ唯一の宝具、その二つ目の使い方。

 彼の刻んだ世界最古の■■神話群にて記述された出来事を再現する。

 但し、燃費の悪さに加え、凶悪な副作用があるので使用は避けられたし。

 宝具名はアラビア語での神話の本から。

 

 

 

 なお、三つめの使い方は鈍器である。

 世界最古の石板として極めて高濃度の神秘を秘めたソレは、神霊系サーヴァントにすら通用する鈍器としても活躍する。後投げたりもする。

 但し、最近の執筆に関しては専らタブレット端末を使用している。

 

 「いやぁ、情緒が無いかもしれないが、失敗すると石板一枚からやり直しするよりもこっちのが圧倒的に便利でねぇ。」

 

 


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