徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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思い付いたんで投下ぁ!


ヒロアカ転生 歌姫が逝く

 「私はただ、歌を歌いたいだけだったのに…。」

 

 それが私の生まれる前からの、たった一つの願い。

 前世では歌(主にアニソンやJ-pop)を聞く事も歌う事も好きだった自分は、この世界に転生してからは将来的に個性を活かした動画配信で食べていこうと考えていた。

 無論、そのための機材を揃えるための種銭は必要なので、そちらはバイトをして稼ぐつもりだった。

 幸いと言うべきか、こちらでの新しい両親は適度に放任主義らしく、そこまで拘束される事もないし、そこそこ裕福な事もあって、生活に困る事はなかった。

 私自身も転生の影響か、勉学も良いし身体能力も以前より確実に上がっていた。 

 そして、大好きな歌に関しても以前とは比べ物にならない程だった。

 歌えば歌う程、どんどん上手くなっていくのが実感できる。

 勿論、理由があった。

 

 個性:歌

 歌の上手さや声量・肺活量の強化に加え、歌う内容によってそれを聞いた者へと様々な効果を付与する。

 おまけに歌に関する学習・創作能力(主に作詞作曲)も向上する。

 よくゲームにある吟遊詩人とかが持ってる音楽を用いた周囲への強化・弱体化の付与こそがその本質だ。

 但し、録音した曲をまた録音したりコピーしたりすると効果は消えてしまう。

 

 両親とも時間が合えば一緒にカラオケに行って歌うが、二人も上手いと言って喜んでくれる。

 流石に作詞作曲は無理で、精々が前世ではあったけどこっちでは無い曲しか書けないが。

 それでも、私は充実した日々を送っていた。

 それは、唐突に崩れた。

 

 「すごい歌だね、君。」

 

 一人カラオケの帰り道。

 突然、声をかけられた。

 

 「え」

 

 振り向いた瞬間、意識が断絶した。

 

 

 ……………

 

 

 それからはまぁ、酷い目にあった。

 私の個性は把握されていて、捕まったヴィラン達によりずっと歌を歌わされた。

 別にそれに不満はない。

 私がバイトを頑張って用意するつもりだったものよりも遥かに凄い設備を用意してくれたからだ。

 でも、ここが何処なのか知らないし、家族と連絡する事も出来ない。

 そして、私の歌は録音されたものでも、生で歌うよりも効果は下がるものの、それなりに効果があるらしい。

 勇ましい曲で筋力や耐久力の向上、穏やかな曲で体力向上や怪我・病気の治療等。

 医者にかかる事なく、ただ音楽を聴くだけで効果が出る歌は、裏社会で大人気となっているらしい。

 おかげで私を攫ったヴィラン達は大喜びで、設備の更新や追加もしてくれた。

 悪事に加担してる事に罪悪感を抱くものの、幼気な中学生ではどうにもならない。

 加えて、私の両手足首には爆弾内臓の枷(小型・軽量だけど)が付いててスイッチ一つで爆破できるので脱出は無理です。

 なのでここは一つ、正義の味方たるヒーローの皆さんの努力に期待させてもらおう!

 

 「あ、おーい鈴ちゃーん。収録始めるよー。」

 「はーい!」

 

 なお、言い忘れてましたが私の外見は渋谷凛のそっくりさんです。

 いやー大ファンの一人としては、歌う事に妥協できなくて困っちゃうなー(棒)。

 

 

 ……………

 

 

 「昨今のヴィランの活発化は深刻化の一途を辿っている!」

 

 とある暗室にて、一人のヒーローが口火を切った。

 その場には彼の他にも何人ものヒーロー達がおり、皆が彼の意見に賛同していた。

 その証拠に、彼らの多くが大なり小なり負傷をしており、何処かに包帯を巻いていた。

 「連中の持ち物を調べた所、全員が小型のイヤホンをしており、音楽を聴いていた事が分かりました。」

 

 暗闇の中、プロジェクターで映し出された映像には無線式の小型イヤホンが表示される。

 

 「連中はこれを使って『歌姫』の曲を聴き、その力を向上させている。」

 「数値的にはどの程度なので?」

 「最低でも2割、最大なら6割になる。」

 「う わ あ」

 

 この上下幅は鈴の好みと曲への理解と習熟の度合いによるものだったりする。

 

 「流されていた『歌姫』の曲は?」

 「DESERT WOLFのOverture。個性黎明期前の古い曲だ。」

 「効果は戦闘能力、特に筋力や個性の威力の増大だ。」

 「複合型か、最悪だな…。」

 

 『歌姫』と言われる推定ヴィランの存在は、ここ半年であっという間に有名になった。

 切っ掛けはとあるヴィランの集団がとある曲を聴いて駆けつけたヒーローの第一陣を返り討ちにした事だった。

 幸いにもそのヴィランは増援に来た他のヒーローによって逮捕されたが、この時期から裏社会に大量の『歌姫』のものと思われる曲のデータが流通され始めた。

 その媒体は様々で、CDやUSBに始まり、フロッピーやカセットにレコード、SDカードやボイスレコーダーと多岐に渡る。

 個性や身体能力、頭脳の強化を始め、怪我や病気の治療、果ては聞いただけで眠ったり、心癒されたり、金運が向上したりとその効果は多岐に渡り、中には一曲で複数の効果を持つ曲もあった。

 これら曲のデータはまるで麻薬の様に秘密裡に流通され、しかしある意味で麻薬以上に厄介な代物だった。

 例えば、浪人生が集中力向上の曲を聴いて、何度も落ちていた志望校に受かった。

 例えば、借金だらけだった男が、金運向上の曲を聴いて宝くじを買ったら一等を当て、借金を返した。

 例えば、スクランブル交差点で妙な曲が流れたと思ったら、人々が発狂し出した等々。

 他にも多数の混乱を発生させており、更に言えばこれらは皆本人に聞く位しか発覚しないため、摘発も殆ど進んでいない。

 こんな感じで、完全に社会問題化していた。

 こんな事を引き起こす『歌姫』が指名手配されるのは、当然の帰結だった。

 

 「何とか『歌姫』を逮捕せねば…。」

 「音声データだけは沢山ありますから、現状はそこから先は捜索班頼みですね。」

 

 分かっているのは『歌姫』が若い女性であるという事だけ。

 

 「流通ルートに関しては二次・三次ルートもあって凄い複雑化していて、追うにはかなりの時間がかかるかと。」

 「中古品の交換や売買だな?」

 「えぇ。ブラックマーケットじゃ歌姫の曲専門の所まで出来て大変盛況だとか。ですが一度流通した曲のデータは再度コピーしても個性の効果は出ない事は確認済みで、海賊版が存在しません。」

 「となれば、効果が発揮されるデータのみを追跡すればいいんじゃないか?」

 「所がルートは不定期に変更されて、売人や仲介業者も金を振り込んだら指定された場所に商品が置いてあるだけ。連絡も合成音声を始め逆探知対策された電話での短時間のやり取りだけです。」

 「厳しいな…。」

 

 もう何度目か分からない対策会議に、全員が頭を悩ませていた。

 このドラッグよりも質の悪いナニカを早々に駆逐せねば、取り返しのつかない事になる。

 否、その兆候はもう出始めている。

 一部の市民からはヴィランから押収された『歌姫』の曲のデータを広く活用すべきだとの声すら上がっている。

 また、対策として音楽を規制するとかになったら、特に『歌姫』の曲を聴いていない国民にどれだけ反発されるか想像もつかない。

 

 「ほ、報告します!歌姫と思われる人物の居場所が判明しました!」

 「「「「「でかしたぁッ!!」」」」」

 

 突然の報告に、沈痛な雰囲気に満ちていた会議室が瞬間的に沸き立った。

 

 「未来予知系の皆さんが頑張ってくれました。今までに記録のない歌姫の曲が歌われているのを見聞きしたと。」

 「何時何処だ!?直ぐに人員を集めるぞ!」

 「時間は今から数日以内!場所は…此処です!」

 

 地図に示されたのは、歓楽街のど真ん中。

 ヴィランだけでなく、多くの犯罪者や背に傷のある訳ありが集まる場所だった。

 

 「よし、直ぐに偵察の得意なヒーローを。」

 「公安も協力します。直ぐに周辺の情報を集めましょう。」

 

 こうして、本人の与り知らぬ所で予想以上の大事件となった一連の『歌姫』事件は漸く最終段階へと進む事になるのだった。

 

 

 

 




本名は藤谷鈴(ふじや・りん)
なお、無事保護されたが思ってたよりも遥かに大事になってて度肝を抜かれる
ヒーローらにたっぷり絞られた後はヒーロー科でなくサポート科目指して頑張るが、各方面から引っ張りだこ(サイドキックor歌手orアイドル)になる模様

AOF「いやー君の歌のお陰で大分良くなってね。ありがとう。とても感謝しているよ。」
鈴「」

オールマイトの治療にも協力したので、神野の悪夢の被害がとっても拡大するのでした。

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