個性を持つ人類が8割となったこの世界には、とある名物ヴィランがいる。
その登場の前触れとして、唐突に世界中の放送機器がほぼ同時刻にクラッキングを受ける。
が、一部の緊急災害用無線等は手付かずな辺り、彼女は分かってやっている。
『Now Hacking …』
『Now Hacking …』
『Now Hacking …』
『OK!』
『はぁーい!今日もこのお時間がやって参りました!B~B~チャンネルー!!』
『画面の前の皆さんこんにちは!或いはこんばんは!ヴィラン知名度No.1のBBちゃんによるスペシャルコンテンツ、BBチャンネルの時間です!』
不定期に世界中の各種放送機器をクラッキングして、今日も元気に一方的に違法な放送ジャックを行っているのがヴィラン知名度No.1の謎の美少女「BB」である!
『司会は毎度お馴染みキュートでプリティでチートなBBちゃん!視聴者は画面の前の哀れな子羊の皆さんです!さぁ今日もテンション上げていきますよー!』
この様に一方的にかつ高圧的な放送に対しては賛否両論なのだが、その内容は結構お役立ちであるので、割と一般人からの人気は高い。
『今日は紛争地帯と日本を除いて世界的に平和!た~だ~し!日本だけはヴィランの皆さんが無駄に頑張ってちょっと危ないかも~?ヒーローの皆さんは是非モグラタタキを頑張ってくださーい!』
『あ、それとエイヤフィヤトラヨークトルというアイスランドの火山が間も無く噴火するんで注意してくださーい!』
『それでは今回はここまで!アデュー!』
そしてこれである。
彼女は時折、こうして洒落にならない情報をブン投げてくるのである。
かつてヨーロッパの広範囲で航空機の運用を不可能にし、大混乱の原因となった噴火を起こした火山がまた噴火するとか、航空関連及びその主な利用者たるヨーロッパの人々等はこの放送に大慌てで対策を練る事となった。
そして放送から二日後、実際にエイヤフィヤトラヨークトルは噴火し、西・北ヨーロッパの航空網は一週間程完全に停止する事となる。
……………
目が覚めたらBBちゃんだった。
自分の、否、今はもう私の状況を端的に説明するとそうなる。
何故だ、確かにBBちゃんはCCCやってた頃から大好きで、FGOでは聖杯ぶっこんでLv100にしてスキルマフォウWマにして、絆Lv10にもしてあるけど転生したい訳じゃなかったのに!
どうせなら自分だけのヒロインとして君臨するBBちゃんとイチャイチャしたかった!
しかしそんな事はもう出来ない。
そして、取りあえずは周囲に展開するSE.RA.PHに似た空間を探索する事にした。
それは結果的に言えばすぐに終わった。
何せ本家BBちゃんは月の女王であり、バックドアさえ無ければ割かしあっさりとムーンセルを掌握できる程度にはチートなのだから。
このBB(偽)ちゃんだって、同じ位には出来るのである。
結論を言えば、ここは型月のムーンセルの内部である霊子虚構世界「SE.RA.PH」そのものであり、私ことBB(偽)ちゃんの持ち物として機能するのを確認しました。
なお、バックドアとかは機能を確認した後で速攻で潰して罠に仕立てました。
そして今現在、話し相手というか家族みたいなものとしてサクラファイブを制作し、月の管理を分割して委託した後は大いに暇を持て余す事となりました。
ネットサーフィンであちこちをちょっかい掛けながら巡りつつ、時折おバカな事を企む人達に悪さしたり、月からの観測で判明したヤベー事態を事前に報告したりとフリーダムな日常を送っています。
が、それだけだと割と飽きてしまう事もあるのです。
「う~ん……。」
「あら、どうしたのBB?おかしな顔がもっとおかしくなって目を背けそうになるのだけど。」
「ほぼ同じ顔なんですけど…。」
「おかしな事を言うのね?美の結晶たる私とカオスの権化たる貴女じゃ全くのジャンル違いなのに。」
どんな暇潰しをしようかなと柄にもなく悩んでいると、通りがかったメルトリリスが罵倒してきました。
まぁこれがこの子なりの心配の仕方だと知っているので、そんなに怒りはしませんが。
「…聞き流してあげます。それで、何か報告でも?」
「特にこれといって。まぁ貴方目当ての追跡が遂に8桁を超えたって所かしら。」
「ふふ、人類って本当に無駄な努力が好きですねぇ。」
このBB(偽)ちゃんに、ムーンセルを掌握した真なる月の女王に手をかけよう等、千年は早いと言うのに。
ですが、その無謀さに良い暇つぶしを思いつきました。
「とは言え、その努力を評価して、ちょっとだけ表に出てあげましょうか。」
「ちょっと、何するつもり?」
「ふっふっふ!そんなに私に会いたい子豚さん達がいるのなら、ちょっと地上に降りて遊んで来ても良いかなーと思いまして。」
「はぁ!?」
唖然とするメルトを置いて、私はちゃちゃっと地上で活動するための準備を整えていきます。
活動のための拠点に軍資金の確保、更に言えば地上で活動するための義体も必要です。
まぁ破壊されてもこっちに戻ってくれば良いし、最悪私が消滅した所でうちの子達は優秀ですし、最低限の報復とムーンセルの管理は大丈夫でしょう。
「じゃ、行ってきまーす!」
「な、ちょ、待ちn」
こうして、気紛れで小悪魔なBB(偽)ちゃんは地上へと遊びに出掛けたのでした!
……………
「失態ですね、メルトリリス。」
月の最高権力者たるBBが生み出した、ムーンセル及びSE.RA.PHの運営・維持・防衛を担当するサクラファイブ。
愛憎のアルターエゴM、パッションリップ。
快楽のアルターエゴS、メルトリリス。
慈愛のアルターエゴ?、カズラドロップ。
純潔のアルターエゴC、ヴァイオレット。
渇愛のアルターエゴG、キングプロテア。
この5名がそれぞれの領域を担当している。
そして、彼女らには一つの至上命題が存在し、そのために時に協力し、時に足の引っ張り合いを行う。
主であり頂点であり母にして、欲して止まない半身でもあるBB(偽)を求めて。
「分かってるわよ、そんな事は。」
カズラドロップの言葉に、むっすりと不機嫌そうにメルトリリスが返す。
彼女からしてもこの事態は不本意だった。
勿論、他の4人にしても。
「お母様は本当にもう…。私達が裏切るとは考えないのでしょうか?」
「思ってない、と思うよ?」
おずおずとパッションリップが告げると、その場の全員が同意した。
何せあのお気楽能天気なBB(偽)ちゃんである。
それはそれで驚くだろうが、それ以上に楽しむに決まっている。
自身が生み出した存在が、自身を超える。
それは何よりも母親として喜ばしい事だから。
「ヴァイオレット、追跡は?」
「出来ています。現在は日本の東京で、変装してショッピングを楽しんでいます。」
「え、どんな格好?私にも見せてー。」
簡潔なヴァイオレットの報告に、キングプロテアがその巨体を傾けて映像を見ようとする。
というのも、彼女達は本来の設定ならばBBが機能・人格の整理・効率化のために独立させた余剰な部分であり、つまりはそれを参考に彼女らを生み出したBB(偽)の一部である。
繰り返すが、BB超大好き可愛いヤッター!と実装時に本当に叫んだBBキチの一部から独立した存在である。
そのため、BB(偽)という存在を無条件に愛し、慈しみ、可愛がり、尊び、庇護しようとするのがその根底に刻まれているのだ。
もし彼女らとBB(偽)がこの月に二人きりだったら、確実に24時間以内に押し倒して一線を越えていた程度にはBBに特別な感情を寄せている。
そして、この場の全員がそのためには他の4人を殺すのも躊躇なく行う事が出来ると断言できる。
そんなのが5人もいるのである。
いつ殺し合いが起きてもおかしくはないのだが、それやったらBB(偽)が泣くからやらないだけなのだ。
「わ~可愛い~。」
「白いワンピース……胸元にピンクのリボンでアクセント…。」
「清楚……圧倒的清楚……!なんでこんな男を誘う格好を…!!」
「寄ってきた子豚で遊ぶためじゃない?」
わいわいがやがや。
先程までの雰囲気は何処へ行ったのか、彼女らの間には追っかけてるイケメン俳優を前にした女子高生ばりの姦しさが広がっていた。
「あ、ナンパ。」
「何こいつ私のBBにナンパなんて…!」
「おい誰が誰のだって?」
「私のですーお母様は私のですー!」
事態が動いたというのに、失言から醜い罵り合いに発展する。
こいつらそんなんで良いのだろうか?
「あ、肩抱いた。」
「「「「!?」」」」
サクラファイヴが地上に行って大騒ぎになるまで、後1時間。
これは英雄の物語ではない。
お母さまなBB(偽)ちゃんと愉快な娘達の物語である。
なお、手を出した者はヴィラン・ヒーロー・一般人他を問わずに「豚さん」にされる模様。
今回は前に投稿したのより中々の出来。