徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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幼女戦記×101人ウィッチネタ 101人魔導士 その3

 帝国西方面 共和国国境 ライン戦線防御陣地 

 

 

 「まさか、フランソワ共和国がこうも容易くやられるとはな…。」

 

 そこに新型演算宝珠たるエレニウム95式の実戦試験のために配属されたターニャ・デグレチャフ少尉は拍子抜けしたとでも言う様に独白した。

 

 (と言うか、早すぎないか?一応前の世界のフランス相当の国だろう?それが開戦から数か月で首都を守る最終防衛線まで圧されるとか何があった?)

 

 如何に歴史や経済の知識について堪能なターニャと言えど、否、堪能だからこそ予想は不可能だった。

 まさか人類史上でも屈指のバグ枠が100人で暴れ回った結果等と、彼女だからこそ想像できない。

 

 「まぁ良い。またマッドの下に送られないように奮戦するとしよう。」

 

 未だ占領統治に入ったばかりの共和国領内にはパルチザンや敗残兵も多い。

 それらをちまちま潰すだけでもそれなりの実績にはなるだろう…

 

 

 「デグレチャフ少尉。君にはある小隊に入ってもらう予定だ。」

 

 

 …と思っていたのだが、事態は予想外の方向へ進んでいた。

 

 「小隊、でありますか?」

 「あぁ。貴官の持つ新型宝珠の性能なら、その小隊でも十二分にやっていけると判断された。」

 (つまり腕は良いけど何かしら瑕疵のある、或いは前に出せない訳あり部隊ということか?)

 

 独断専行ばっかりするエースとか、伝統的に一度は従軍する義務のある皇族でもいるのだろうか?

 どちらにしても一波乱あるのは間違いない。

 

 「その小隊は現在二人の航空魔導士しか在籍していない。他の連中は全員ヴァルハラ行きか戦傷で後送された。そして残った二人はどちらも撃墜数100を優に超えるエースオブエースであり、現在のライン戦線の状況を作ったと言っても過言ではない英雄達だ。」

 「それはまた凄まじいですな。」 

 

 ( 最 悪 極 ま る !)

 

 前言撤回。

 そいつらどう考えても司令部で制御できないからお荷物(新型宝珠の試験中な幼女)持たせて大人しくさせようって魂胆が見えるぞ!

 ターニャは内心で頭を抱えた。

 

 「正直言って、通常の魔導士では彼女ら二人に付いていけないのだ。高い魔力量に新型宝珠を持った君にしかできない任務でもある。」

 「光栄であります。」

 「うむ。とは言え、余り心配はするな。その小隊の二人は非常識だが仲間思いで実力はある。余程の事が無い限りはヴァルハラへ行く事は無いだろう。」

 

 こうして、ターニャは哀れにも人類のバグ枠×2~102の下へと送られるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「チトセ、ターニャ!今日も絶好の出撃日和だな出撃するぞ!」

 「……は、了解です。」

 

 そして、現在は哀れにも出撃大好き超人の下で出撃三昧の日々を送っていた。

 なお、現在の階級はターニャが少尉、チトセが中尉、最先任のルーデルが野戦任官で大尉となっている。

 ハンナ・ウルリーケ・ルーデル。

 そう、ターニャの元いた世界でも超ド級有名なあのルーデルの同位体である。

 現在は銀髪に鼻を横切る傷痕が特徴の野性的な美少女だが、その体力とバイタリティとついでに魔力適性に関しては流石の一言である。

 そして現在、帝国軍航空魔導士及び航空機の歴史上第二位の戦果を誇る生きた伝説その2である。

 

 「ハンナ、余り早く起こしてやるな。少尉は小柄で朝が弱いんだから。ほら、朝飯食ってから出撃に行ってこい。牛乳もあるから。」

 「むぅ仕方ないな。」

 

 朝から生命力が迸っているハンナをあっさりとあしらうと、チトセはターニャにも声をかけた。

 

 「少尉、もう起きれるか?」

 「はい、ただいま…。」

 

 むくり、と身体のダルさを抑えてターニャが起き上がる。

 自分に気遣ってくれるこの上官その2も、無表情ながらも日本人的容姿をした美少女であるのだが、その実態はターニャをして悍ましいの一言である。

 

 なにせ固有魔法に由来するものとは言え、あのルーデルよりも戦果を挙げている怪物なのだから

 

 チトセ・カリーバー。

 こいつはあのルーデルを押さえて帝国軍航空魔導士及び航空機の歴史上第一位の戦果を挙げてる正真正銘の化け物である。

 この小隊に配属されて既に一週間、ターニャは何とかこの超人勢二人についていく事が出来ていた。

 あくまで付いていけているだけで、適応しているとは言い難いが。

 まぁターニャの年齢で一週間ももっているだけで、西方方面軍司令部は喝采を挙げているのだが。

 

 (95式が無かったら死んでいたな…。)

 

 あの存在Xについては恨みしかないし、この呪われた95式も唾棄すべき呪いのアイテムだが、それでもその性能に関してだけは認めている。

 

 「今日は共和国の連中が海の向こうに頼んで持ってきた航空機と魔導士が来ているらしい。つまり我々の事をよく知らない連中が来ているという事だ。またスコアを稼げるぞ。」

 「連合王国ですか。相変わらず戦争を起こしたり長引かせるのが好きな連中ですな。」

 

 もそもそと前線にしてはそれなりに良い食事を取りながら、ターニャは目の前の怪物の言葉へと思考を働かせていく。

 

 (やはり連合王国か。ブリカスの多重舌外交は相変わらずか。)

 

 そして帝国の外交下手も知っているターニャとしては、戦争の趨勢が自身の知る通りになりつつある事に溜息をつきたくなっていた。

 

 「ターニャもそろそろネームド登録されても良い頃だし、今日中にスコア50を達成すれば休暇も取れる。」

 「それは楽しみですな。」

 

 いや本当に。

 マジモンの出撃キチと一緒にいると、自分の言う模範的な戦闘意欲の高い軍人など常識人の範疇なのだと思い知られる。

 

 「よし食べ終わったな。なら出撃だ出撃だろう出撃あるのみ!!」

 「分かった分かった。では各員、10分後に集合だ。」

 

 こうして、穏やかとはとても言えない朝はあっさりと終わった。

 

 

 ………………

 

 

 その日の朝は割と穏やかだった。

 しかし、到着した戦線で見た共和国軍兵士達、中でも地獄のライン戦線を生き延びてここまで落ち延びてきた兵士達の顔には絶望しかなかった。

 それ以外は何も知らない3か月の促成教育しか受けていない新兵、そして植民地から殆ど拉致同然に連れてきた土人の兵達だった。

 加えて言えば彼らの顔は皆若く、少年と言って良い年齢の者ばかりだ。

 更に魔導士に至ってはその希少性から国内・植民地・性別問わずに魔力がある人間を掻き集めて促成に促成を重ねた訓練を行っただけという有り様だった。

 それでも祖国を守るため、家族への仕送りのためと彼らの士気は高かった。

 というか、もうそれ位しか誇るものがなかった。

 

 「これはまた…なんという…。」

 「想像以上ですね。」

 

 共和国最前線の余りの疲弊具合に、連合王国義勇軍(と言う看板の先行派遣部隊)は頭を抱えた。

 

 「共和国の各方面軍から引き抜いてもこれなのかね?」

 「引き抜いて戦線に出した傍から溶けてまして。」

 

 その通りだった。

 具体的には二人から三人になって双璧から三羽烏になったラインのエースオブエース(実際はそれすら超越したナニカ)により全ての兵士達がいまや泥となって大地と一体化してしまっていた。

 

 「やはりあの情報は本当だったのか…。」

 「ラインの三羽烏ですね。」

 「私が聞いた時は双璧だったがね。」

 

 報告書を見た時、つい彼は「これはどこの戦記ものの小説かね?」と持ってきた部下に尋ねてしまった。

 それ位には荒唐無稽で空前絶後、奇想天外な内容だった。

 

 「フランソワ共和国軍の威信を賭けた軍勢が、実質たった二人の航空魔導士に敗走するなど……。」

 「時代が神話に逆戻りした気分ですねぇ…。」

 

 あぁ空が青い。

 もういっそ仕事放棄してこのまま祖国に帰りたい。

 派遣された義勇軍航空魔導士部隊の隊長と副官は揃って遠い目をした。

 

 「あんな化け物共の相手など御免被る。」

 「では予定通り妨害に徹すると?」

 「あぁ。非魔導依存行軍を心掛け、航空戦及び正面戦闘は極力避ける。我々が狙うのは歩兵や重砲のみで、魔導士ですらない。」

 「飛ぶのは逃げる時のみと。」

 

 それは魔導士という歩兵よりも堅く、戦車並みの火力を持ち、航空機に及ばないまでも高い飛行性能を持つ優れた兵がゲリラ戦を行うという事を意味していた。

 加えて、占領された共和国領土に武器弾薬を流して愛国者達を後押しする占領統治妨害のお決まりの作戦は既に始まっており、未だ協商連合との二正面作戦を強いられている帝国軍の少ないリソースを更に減らしていた。

 

 「今帝国を止めねば、何れ我らが連合王国にすら牙を剥きかねん。そうなる前に押し留めねば。」

 

 こうして彼らの苦難は始まった。

 

 

 ……………

 

 

 「むぅ……。」

 

 出撃後、ハンナは顔にデカデカと不満を表した状態で前線基地に戻ってきた。

 その理由に関しては小隊の残り二人にはどうしようもない事だった。

 

 「まさか共和国魔導士の質があれ程低下しているとは…。」

 「ターニャのエースオブエース祝いに頑張ってお高いコーヒー豆とチョコレートを購入していたんだが…あれでは撃墜した気がしない。」

 「中尉、それは兎も角コーヒーとチョコはぜひとも頂きたく。」

 「君も大概コーヒーと甘いものに目がないな…。」

 

 不満顔で牛乳を飲んでイライラしているハンナを他所に、チトセとターニャはこそこそと話し合っていた。

 というのも、今日交戦した共和国軍の魔導士の余りのお粗末さに呆れていたからだ。

 はっきり言って素人同然の、ただ飛べるだけの子供だったのだ。

 流石にターニャ程年少の者はいなかったものの、それでも平時ならば決して戦場に出ない、そもそも兵士になれない様な十代半ば程度の少年少女達だった。

 まぁ敵なので容赦なく撃墜したのだが。

 

 「とは言え、ハンナがあれでは今日は追加の出撃は無いだろう。今夜はコーヒーとチョコを肴にゆっくり休むとしよう。」

 

 こうして、西方面軍最大戦力のエース小隊は今夜はゆっくりする事に決めた。

 

 

 ……………

 

 

 西方面軍司令部

 

 

 「「「「「……………」」」」」

 

 そこに詰める優秀な司令部要員らは皆一様に口を閉ざしていた。

 激しい近代戦の洗礼を浴びた彼ら西方面軍司令部は、今現在深刻な問題に直面していた。

 

 「占領統治に必要な兵士が、まるで足らん!!」

 

 今まで散々ライン戦線で消耗し、エース3人の活躍によって何とか盛り返したものの、それでもなお西方面軍の受けた傷は大きかった。

 

 「兵の問題も深刻ですが、占領統治のコスト自体も凄まじいですね。」

 「あぁ、これでは余りにも割に合わん。」

 

 続々と上がってくる占領地の情報に、戦争では勝っているというのに、否、勝っているからこそ酷くなっている現状に頭を抱えるしかなかった。

 

 「元々共和国市民は政府や軍に対して不満あれば反乱して己の生存権を勝ち取るとは聞いていたが…。」

 「おまけに連合王国側からの武器弾薬密輸に魔導士の派遣等でパルチザンが活性化、とてもではないがまともに占領出来るとは思えん。」

 「………これは参謀本部と話し合う必要があるかと。」

 

 余りの事態の深刻さに、彼らは頭を抱えるしかなかった。

 正直、このまま戦線を押し上げていけば、首都を落とす前にこちらが前線部隊と後方を寸断されかねない。

 はっきり言って、占領地の統治などしたくはない。

 賠償金なり何なりでケリをつけてほしいというのが彼らの偽らざる本音だった。

 

 「次の議題は…。」

 「えー次は第600小隊の軍大学への推薦に関してです。」

 「あいつらか…。」

 

 彼らの脳裏には現在の破滅的状況の引き金になった=遠慮せずバカスカ敵を蹂躙して占領地を広げまくる事になった原因であるラインの双璧と言われるエースの顔が浮かんだ。

 最近は更にちんまいのが一人追加され、そいつも十二分に化け物の範疇だったので、更に戦果を挙げているのが現状だった。

 なお、部隊番号は元々中央において編成準備のために割り当てられる番号と同系のもので、それの西部方面軍司令部版である。

 そして、この小隊が未だ解散もせずにいるのは「こいつらで組ませておかないと他が潰れかねない」ので下手な所に入れられないし、解散も難しいからだ。

 

 「正直、これ以上戦線を進めるのは反対です。」

 「同じく。」

 「異議なし。」

 

 正直、もうお腹一杯です。

 西方面軍司令部の偽らざる本音だった。

 

 「最近、一部では彼女らだけ戦果を挙げるのは気に食わない等と言っている連中がいます。」

 「馬鹿か命知らずか死にたがりかソイツは???」

 

 そして、あんまりな報告に耳を疑う事となった。

 

 「三人が三人とも若い上に美人ですからね。女子供にできるのなら自分だって…と考えている連中が新兵の中にいるようでして…。」

 「確認次第最前線送りにしてやれ。」

 「まだマシなのは後日後方で再訓練行きで。」

 

 そんなこんなで、西方面軍司令部の頭痛のタネは尽きないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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