なんか若干消化不良というか書き方忘れてる…
時は1940年、瘴気が薄く混じったカールスラントの空。
そこでは異常な光景が広がっていた。
「B-2、これより対空射撃開始。」
「A-9、航空型の先行部隊と接敵、戦闘開始。」
「D-8、地上型の活動を観測、射程距離まで後…」
首都ベルリンを守る防衛線の最前線、そこには全く同じ容姿を持った100人ものウィッチ達が揃い、ネウロイの波状攻撃を迎撃していた。
全員が黒髪黒目で、その顔に幼さを残したままの彼女達。
その行動にはどれも迷いは無く、歴戦のエース達でも舌を巻く程に銃火器及びストライカーの扱いが優れていた。
特にウィッチの消耗から余っていたストライカーユニット、その中でも陸専用ユニットに関しては対地砲撃・対空射撃両面において凄まじい戦果を叩き出していた。
しかし、彼女達の真価はそこではない。
「C-4、いきまーす!」
「F-2被弾!いきまーz」
被弾し、戦闘継続が不可能になった彼女達は、躊躇わずに爆弾や弾薬と共に敵に特攻し、一切の迷いなく自爆していった。
しかし、奇妙なことに死体は残らない。
血の一滴、肉の一片、骨の一欠けらすら。
それはそうだろう。
彼女達は皆、たった一人のウィッチの作り出した分身体。
魔力で構成された使い捨ての人形なのだから。
「航空型の第三波確認!」
「地上型第四波の殲滅完了!」
100人、否、100体もの使い捨て可能な、実戦経験豊富なウィッチ。
彼女達は完全に武器弾薬が尽き果てても、その体そのものを武器に最後の一人を残して戦い続け、遂にはベルリンからの市民脱出までの時間稼ぎを成し遂げた。
その後の1941年、カールスラント皇帝より彼女達(正確には一人)には黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章が贈られる事となった。
……………
「ストパンなんて予想できるかアホー!!」
しかし、本人は割とそんな事どうでも良かった。
この世界に転生して直後に家族を亡くし、残った家族が祖母一人であった彼女。
だがしかし、そんな祖母も病気で亡くなり、どん底に落ちていた彼女は祖母の生前の友人やご近所さん達のおすすめで長期の旅行に出かける事にした。それも海外に。
「英語と一応ドイツ語も出来るけど……ブリタニアとリベリオンはご飯美味しくなさそうだし、カールスラント行ってみよっと。」
彼女はストライクウィッチーズという作品をそこまで詳しく知らなかった。
精々が主要な登場人物の一部だけであり、ウィッチとしての適性があっても軍に入るつもりの無かった彼女はストライカーユニットの事も知らなかった。
故にこそ、その不幸は起こってしまった。
「ダキア大公国、ネウロイ上陸。」
新聞の一面にデカデカとこの記事が載った時、彼女はダキア大公国の隣のオストマルク、そこよりのカールスラント領内にいた。
そこからは血相変えての脱出劇である。
一応世話になった古いホテル(民宿?)のお婆さんには「ダキアとオストマルクが危ない、軍備が不足してすぐにネウロイにやられるから逃げる」とだけ告げて、速攻で荷物を纏めてリベリオン又は扶桑行きの船を探す…が、ダメ!
既にどこの港も国外行きの船は一杯らしく、予約待ちとの事なので近場のカールスラント国内への移動ルートしか残っていなかったのだ。
慌ててそちらへの馬車便に乗ったのだが、こういう時に慌てて乗ると碌なことにならないと相場が決まっている。
結果、圧倒的物量と瘴気を活かしたネウロイの軍勢によりオストマルクは早々に国外脱出&泥沼の撤退戦を開始、それによりカールスラント方面にすら航空型ネウロイの侵入を許す事となり、見事にネウロイの侵攻ルート上に出てしまったのだ。
「死・ん・で…」
カールスラント軍は脆弱なダキア軍や機械化の進んでないオストマルク軍と違い、物凄い奮闘を見せた。
しかし、避難もままならない都市部で民間人を守りながら、ネウロイの圧倒的物量を相手にするのは余りにも力不足だった。
前線はあっさりと崩壊し、制空権を辛うじて支えていた少数の航空ウィッチ達もまた壊滅し、組織的な行動を封じられ、陸軍も司令部を攻撃されて指揮系統を喪失、事実上壊滅した。
「たまるかあああああああああああああ!!」
故に、彼女は吠えた。
撃墜された航空ウィッチの死体から未だ開発されたばかりのストライカーユニットを剥ぎ取り、半分以上射耗したライフルを片手に、彼女は空へと飛び出した。
そして、当然の様に死にかかった。
当然と言えば当然だ。
正規の訓練を受けたウィッチ部隊が壊滅する様な戦場で、尚且つ既に友軍が壊乱して掃討戦を超えて殲滅戦に移行している戦場で、多少スペックが高くともまともな訓練を受けていないウィッチの卵が生き残れる道理は無い。
寧ろ離陸直後の無防備な瞬間に撃墜されなかっただけ幸運だったとすら言える。
当たらない射撃での牽制を早々に諦め、死にもの狂いで回避に徹し、僅かながら知識があるからこそ展開できたシールドを使って何とか戦域から離脱しようとした所で、その幸運は尽きた。
三度目の被弾で、完全に体勢が崩れた。
「っ!」
だが、それでも彼女は諦めなかった。
生存本能に導かれ、動物的直観と激情のまま、その才能を開花させた。
が、本人は後に記者に対してこの時の事をこう語った。
「この時、こうしないと生き延びられなかったからそうしたが、この時固有魔法に覚醒しちゃったせいで扱き使われるようになったんだよなぁ…。」
彼女の目の前、今にもネウロイのレーザーが迫る所に、自身と全く同じ姿、同じ服装、同じ装備の者が現れた。
まるでドッペルゲンガーの様なソレは、彼女を突き飛ばして射線上から追い出すと、身代わりとなってレーザーの中に消えていった。
混乱し、錯乱し、唐突に気づく。
そうか、これが私の固有魔法か。
「出ろ……」
仕留めそこなったのを確認した航空ネウロイ達が徐々に集結してくる。
だが、そんなものに見向きもしない。
今彼女が向き合うべきは、己の内にこそあるからだ。
「私ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
そして、人々が死に絶えつつある街の空に、20人ものウィッチが出現した。
……………
それから彼女は頑張った。
魔力さえあれば幾らでも出せる武器弾薬と身代わりに使い捨て可能な自分の分身をフルに活用し、局所的な航空優勢を作り出し、その隙をついて後方でまだ頑張っていたカールスラント軍へと合流したのだ。
その途中、少数の航空型ネウロイを撃墜して地上軍及び市民の脱出を手助けしたのは善意からではない。
軍機の塊であるカールスラント軍製ストライカーユニット及び武器弾薬の無断使用なんて事をしでかした自身の身の安全を確保するためだった。
また、機械化が他の欧州軍よりも進んでいたカールスラント軍ならば無線機をちゃんと持っていると判断し、事実彼ら陸軍の救助後の接触によって正確な後方地帯の位置を掴む事が出来た。
だが、それは彼女が接触した人間が多くなる事を意味する。
敗走し、疲弊した兵士達。
家族を殺され、故郷を追われ、着の身着のまま歩く人々。
彼らはつい先日まで、平和に暮らしていた。
その中には、つい先日まで自分もいた。
その中には、きっと自分が世話になった人達もいた。
そう思ってしまってからは、彼女は見捨てる事なんて出来なくなってしまった。
「私が護衛につきます。ネウロイが来たら、全速力で移動してください。」
気づけば、そんな事を口走っていた。
彼女は普通の人間だ。
ちょっと異常なウィッチで転生者だが、中身はただのオタボッチだ。
平成日本では珍しくもない、災害時でも妙に律儀に協力する日本人の性を受け継ぐ、困っている人を見捨てる事に凄まじい罪悪感を覚える極普通の平平凡凡な人間だ。
そんな極普通の感性を持つ彼女に、カールスラントの人々を見捨てる事は選べなかった。
最後方たるベルリンに至るまで、5度の戦闘があった。
最後の一度を除いて、ウィッチ戦力は彼女だけだった。
故に、彼女にかかる負担は凄まじいものだった。
たとえ分身しても魔力消費は相当なものだし、何より本人が意識を失えば分身もその装備一式も消える。
ネウロイがやってきて、撃退するまで彼女は決して休めない。
避難民を守るため、兵士達を守るため、彼女は自分達を使い捨てる事を覚えた。
特にシールドを用いた近接戦闘と内在魔力を用いた自爆は弾薬に乏しいがためによく活用した。
ストライカーユニットは道中回収した残骸を用いて二個一、三個一して性能が低下する事を覚悟しながら何とか騙し騙し使い続けた。
そこまでやっても、取りこぼしは多かった。
一手間違えば、何人も死ぬ。
泣いた事、責められた事は一度や二度じゃないが、それを庇ってもらった事も同じ位あった。
軍人として、ウィッチとして正規の訓練を受けた事の無い彼女にとって、その撤退戦は余りにも過酷だった。
一日に何kmも非戦闘員と共に歩き続ける。
遅々として進まない避難民の列に業を煮やすものの、年嵩の兵士達や大人達に窘められるまま、魔力の消費を控えるために優先的に睡眠と食事を貰う。
でも、それらは彼らが自分の分を削って捻出しているのを知っていた。
そして、そのお礼を言う前に彼らがネウロイとの戦闘で散っていくのを何度も体験した。
皆が皆、誰も彼もがボロボロになって、漸くベルリンまで後数日という所で、これまで以上のネウロイの襲撃を受けた。
武器弾薬の殆どを消耗し、食料も水も医薬品もほぼ底を付いた状態。
そして、彼女のストライカーユニットもまた連日の無茶のつけがやってきたのか、遂にガタが出ていた。
「皆さん、走ってください。時間を稼ぎます。」
昨日の四度目の戦闘から未だに回復し切っていない状態で、それでも残った比較的動ける戦力として、彼女は逃げなかった。
情も恩も義理もあり、何より後少しだけなのだ。
始まった空中戦は、それはもう酷いものだった。
もしまともなウィッチや空軍関係者がいれば、自身の正気を疑った事だろう。
何せ、戦闘開始早々に同じ顔同じ姿同じ装備のウィッチが次々とネウロイに向けて特攻したのだから。
シールドで身を守り、そのまま一切の減速無しに突撃し、道連れにしていく。
無論、そんな状態で衝突するのだからそのまま分身は死亡、形状を維持できずにネウロイの様に光となって消滅していく。
次々と空に光が生まれる中、戦闘開始から30分程で遂に本当の限界が訪れた。
右のストライカーが突然停止したのだ。
幸い、その故障は今出している分身には波及しない。
しかし、今後出す分身には反映されてしまう。
極めて便利な固有魔法「分身」。
使い手のコピーを魔力ある限り無尽蔵に増やしていく強力な魔法だが、その最大の欠点は本体の不調が分身にまでダイレクトに反映されてしまう事だった。
「あ、やば」
初陣の時の様に、片肺で何とか空中を漂っていた所を狙われる。
分身を出す程の魔力もなく、そもそも魔力不足でまともな盾にならない。
詰んだ、と悟った時、しかしこちらを必殺の間合いに入れた筈のネウロイは、横腹から受けた射撃によって消滅した。
最後方、未だカールスラント正規軍が頑張っているベルリン所属のウィッチ達が救援に来てくれたのだ。
……………
「申し訳ないが、君にはカールスラント軍司令部への出頭命令が出ている。どうか我々と共に御同行願う。」
「」
そして、何とか後方である首都ベルリンに着いた後、緊張の糸が切れて着陸と共に気絶して病院行きとなった。
そんな本来なら長期入院しとくべき私が目を覚ますと、直ぐにやってきた軍人にそんな事を告げられた。
そんでもって丁重に、且つ絶対に逃げ出せない様に周囲を囲われながら向かった先は、ここベルリンの司令部だった。
「申し訳ないが、今の我々では民間人でありながらも懸命に我が国の国民と兵士を守ってくれた君にまともな恩賞を与える事すら出来ない。」
「良いですから実家に帰してください。」
「その上、恥を承知で頼む。どうか残った我が軍のウィッチ達と共に、国民の脱出までこのベルリンの防衛をしてくれないだろうか?」
「良いですから実家に帰してください。」
「無念だが、現在の我々には怪異共を押し返す力が無い。ともすれば押し込まれて全滅すら有り得る状況だ。その中で君の見せた固有魔法は極めて魅力的だ。後払いになるが、報酬は言い値を出そう。」
「良いですから実家に帰してください。」
「なお、これが受け入れられなかった場合、君を犯罪者として拘束した後に減刑を対価に強制的に参s「後払いかつある時払いで良いのでちゃんと書類にして払ってくださいね。んで扶桑行きの船手配して下さい。」
「了解した。とは言え、直接扶桑を目指すのは無理だ。一度リベリオン行きの船に乗ってもらって、そこからになる。他に質問は?」
「正規のウィッチ呼んで短期に過ぎますが訓練つけさせて下さい。後高性能な武器とストライカーユニットを。」
「直ぐに手配しよう。」
大体こんな会話の後、彼女は二度目の地獄ことベルリン撤退戦へと参加する事になる。
そして、半年にも及ぶベルリン防衛戦において、彼女は欧州の地にて歴史にその名をデカデカと刻む事となるのだった。
なお、彼女の存在は危うく扶桑国との外交問題になりかけたが、カールスラント側が誠意をもって謝罪&賠償を行った上に、国家として正式に約束したため、辛うじて表沙汰にならなかったそうな。
固有魔法「分身」
???の固有魔法。自身の分身を生み出す。
分身を生み出す際に身に着けていたもの(衣服他装備類)もコピー可能であり、理論上魔力が続く限り無尽蔵のウィッチを生み出す事が出来る。
生み出した分身は一定以上の欠損=ダメージを受けると消滅する。
分身と本体は記憶を共有しており、分身の経験を自身に蓄積して極めて効率的な学習を行う事が出来る。
また、本体と分身だけでなく、分身同士においてもナイトウィッチ特有の無線通信コミュニティに酷似した独自の通信手段を有する。
この通信手段と元々同一人物という特性、更に幾らでも補充できるという長所から、本体が意識を無くす又は魔力欠乏にならない限り無尽蔵に手練れのウィッチ戦力を展開できる極めて強力な固有魔法である。
だが、強力な反面、欠点もある。
本体が意識を無くした(失神・睡眠・死亡の何れか)場合、分身が強制解除される事。
分身はあくまで本人のコピーであり、身体機能だけでなく装備や魔力の消耗等も本体の状態が反映される事
現状、100人以上の分身は不可能である事。
この三つだが、その欠点を補って余りある有用性なので、本体に護衛を付けた状態で運用される事となるのだった。