徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

103 / 137
愉快な森の仲間達と姫様の生活


オーバーロード二次 TSモモンガが逝く その7 一部修正

 時は王都悪魔召喚事件より一週間程前の話。

 事の起こりはトブの大森林、その深部に住まう一体のドライアドから始まった。

 

 

 「YABEEEEEEEEE!誰も!来てくれないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 ドライアドのピニスン、彼女は絶望から頭を抱えて絶叫していた。

 その原因は一つ、この森の最奥部に封印されていた魔樹の竜王ザイトルクワエの存在だった。

 人間よりも遥かに長寿な彼女からしても結構昔、空の亀裂から落ちてきた数多の絶望的な怪物達、その一つがザイトルクワエだった。

 それは全長100m以上の超大型の樹木/トレント型モンスターであり、更に言えば凶暴で、周辺の生物の生命力を吸い取り、無尽蔵に成長していく性質を持って、更に種子を撒き散らして増殖すらしてしまうとてつもなく厄介な存在だった。

 しかも、ユグドラシルでは当然とされているが、この世界産の生物では持っていない時間耐性という時間干渉系の魔法やスキルへの耐性を持っていたりもする。

 放置すればそれこそ惑星上の全ての生物を駆逐しかねないため、当時の八欲王との戦争で数を減らす前の竜王達に目をつけられ、しかし余りの生命力に殺し切れずに消耗した所を当時の戦場となった場所、即ち現在のトブの大森林の中心部、その地下に封じられたのだった。

 トブの大森林がああまで巨大な森林となったのは人間種には過酷な環境で開拓できなかった事も確かだが、それ以上にこのザイトルクワエから漏れ出した生命力が周辺の植物の育成を助けたからだ。

 が、どうやら長きに渡る時間で封印が緩み、更にザイトルクワエ自体が封印への耐性を獲得しつつあり、更に周辺の生物から生命力を吸収し、加速度的に封印から解放されつつあった。

 

 「ま、不味い!不味過ぎる!!このまんまじゃ死んじゃう!私死んじゃうぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 そんな超絶ヤバい存在の封印された場所の割とすぐ近所に生えてるピニスン。

 彼女は必死に無い知恵を絞って考えた。

 どうすればあの7人を、いやあの7人ばりに強い奴を呼び寄せる事が出来るだろうか?

 

 「そ、そうだ。他の木に頼んで、取りあえず森中の皆に声をかけよう。」

 

 しかし、森の外に暮らす存在への伝手など、彼女は持っていなかった。

 そこで無い知恵を絞って考えた。

 そうだ、森にいる他の者達に頼もう、と。

 しかし、友人である森の賢王は森を出ており、連絡が取れない。

 ならばと森の住人で、知恵を持っており、森から出る事が出来る者達。

 それに該当する者達へと、彼女は木々を通じて片っ端から(送信のみの一方通行だが)連絡を取ってみた。

 彼女もまたこのトブの大森林に住まう数百年もののドライアド。

 この世界の人間には到底出来ない、木々を増幅アンテナにした超広範囲の伝言/メッセージの送信。

 彼女自身は無自覚だが、これもまた立派な能力だった。

 

 『森に住む皆!大変なんだ!森の中心に竜王達が封印していた世界を滅ぼす怪物がもうすぐ目覚めそうなんだ!誰か人間の街に行って前にあいつを退治した7人の人間を呼んできて!このままじゃ私食べられちゃう~~!!』

 

 この様な内容の言葉が、森中の知的生命体の頭の中を数日に渡って不定期に流れていく。

 但し、命がかかってるため、超大音量かつ女性の金切り声で。

 これに対し、森の知的生命体らは早期に解決へと乗り出した。

 が、その目的は余りにも五月蠅い騒音公害への対処としてだが。

 で、その結果、森の住人達は早々にピニスンの存在に気づき、「いい加減煩いから止めろ。後怪物について詳しく。」と脅し賺し、何とか事態の全容を知るに至ったのだ。

 集まった種族は4つ、ひょうたん湖に住まう蜥蜴人、蛙人、そして森の東部に住まうトロールとオーガ、西部に住まうナーガ達である。

 出会った当初はピニスンの周囲で鉢合わせ、一触即発となったのだが、そこに偶然にもザイトルクワエの触手状の枝の内の一本(6本ある巨大なそれから枝分かれした細いもの)が地中から現れ、その強さが各種族の長よりも上だったため、仕方なく協力して事に当たる事となった。

 結果、トロールとオーガ達は攻撃力と耐久力があるが触手の動きについていけないので壁役となり、ナーガ達が魔法を使えるため、それでトロール達に回復や防御微向上等のバフをかけた。

 特にナーガ達の長であるリュラリュースは他者からのヘイトを感知するタレントがあり、それを活かして盾役のトロールとオーガ達の誰に攻撃が行くかを察知して備えさえ、その被害を軽減させた。

 そして、攻撃を担ったのが植物相手なら各段の威力が見込める蜥蜴人の四至宝たる凍牙の苦痛/フロスト・ペインの使い手であるザリュース他族長達、そして蛙人達だった。

 蛙人達は当初逃げようと思ったものの、ここで逃げてもその内死ぬだろうと気づいたので、蜥蜴人同様に攻撃に参加した。

 彼らはナーガ達程ではないが体内に毒を生成する器官を持っており、オーガやトロール程の巨体ではないが大きく、更に下位の動物系モンスターを使役する技術を持っている。

 それを活かし、狼や鳥系モンスターを囮にして攻撃を逸らし、時に飛んでくる攻撃から蜥蜴人達を守った。

 幸い、触手状の枝の根元は生えた地点から動かず、攻撃手段も鞭の様にしなっての打撃と数本生えた枝による刺突からの生命力吸収(この場の面々ではほぼ即死)だけだったため、トロールとオーガ、そして蛙人という頼りになる壁役の存在により、彼らは根本まで辿り着いた。

 

 「行けぇザリュース!」

 「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

 グの声援と共に、ザリュースが雄叫びを上げて凍牙の苦痛の特殊能力の一つ、氷結爆散/アイシーバーストを一日撃てる限界の三発全てを一度に開放した。

 森の住人達全ての協力の下に放たれたその一撃が、その戦闘の最後となった。

 

 「皆ありがとう!よくやってくれた!でもアレ、本体の6本の枝から更に伸びたちっちゃい枝だから、次はもっと頑張ってね!」

 

 戦闘終了直後、そんな事を宣ったピニスンは全員からボコボコにされた。

 しかし、その甲斐あってか、森の住人達は事態の重さをはっきりと自覚した。

 このままじゃ自分達は滅亡する、と。

 正直、この世界の住人ではザイトルクワエが復活した場合、竜王とプレイヤーを除けば、対応できるのは法国の漆黒聖典の内でも傾城傾国のカイレと番外席次位しかいないので、当然と言えば当然なのだが。

 

 「……手が無い事も無い。」

 

 そんな中、ナーガの長であるリュラリュースが呟いた。

 彼が言うには、この森に最近現れた「破滅の建物」の主ならば、世界を滅ぼす怪物にも勝てるかもしれない、と。

 しかし、破滅の建物から現れる魔物達はどれも自分達よりも遥かに強く、賢く、数も多い。

 自分達の保護を、或いは共闘を頼むのなら、従属する事になるだろう、と。

 

 「オレは反対だ。会った事もねぇ奴には従えねぇ。」

 「リュラリュース殿の言う事なら確かだろうが……うーむ。」

 「けろけろ。ちょっと持ち帰って話してくるけろ。」

 

 こうして一行は一時解散する事となったが、もしも怪物が起きてきた時はまたピニスンが森中に伝達する事を決め、この提案を一族内で話し合って決める事とした。

 しかし、この中でリュラリュースだけはもう既に行動を決めていた。

 

 (このままでは我らも他の者達も全滅する。こうなれば我が一族だけでも…。)

 

 そして翌日、遂にその時が来てしまった。

 月が中天にかかる頃、森の中央部が轟音と共に吹き飛び、今まで眠り続けていた魔樹の竜王ことザイトルクワエが復活した。

 透かさずピニスンによる伝言が森中に広がるが、そんなもの無くとも全長100m級の巨体は森の何処から見ても分かっただろう。

 彼らは皆一族の女子供老人等の戦えない者を逃がし、自分達は少しでも彼らが逃げる時間を稼ぐために戦いに向かった。

 死ぬのは、分かっていた。

 

 だが、その結果は戦いにすらならなかった。

 

 ザイトルクワエがゆっくりと移動するだけで、彼らは簡単に蹴散らされた。

 余りにも格が、スケールが違った。

 魔樹が少々身動ぎするだけで致命傷を負い、戦闘不能になっていく森の住人達。

 ダークエルフ達がその存在に怯え、逃げ出す程の圧倒的な存在。

 もう、彼らに出来る事なんてない。

 誰もが絶望に膝を折っていく。

 

 

 「あら?諦めるには少し早いわよ。」

 

 

 故にこそ、その穏やかな、しかし力ある声は彼らの胸に染み渡った。

 

 「モモンガ様、どうやら件の怪物が復活したようです。」

 「そうね。ここまで巨大なのは余り見た事が無い…終わったらサンプルを回収しましょう。」

 

 黒い空間の歪みから現れたのは、リュラリュースを案内役とした死そのものの体現者だった。

 アンデット、不死者は彼らも見た事があった。

 しかし、彼女の様に美しさと力強さ、荘厳さを両立させた存在は、彼らは初めて見た。

 

 「デミウルゴス、守護者達を指揮してあの巨大トレントを討伐なさい。素材を回収するので、炎や雷、毒系統の攻撃は禁止で。」

 「畏まりました。」

 

 その後も、続々と歪みから力ある存在達が出てくる。

 その全員が単体で彼らを蹂躙するだけの力がありながら、しかし最初の死の体現者へと付き従っている。

 

 「では、アルベドはタンク、主なアタッカーはコキュートスとシャルティアで。アウラとマーレは妨害と支援を頼むよ。」

 

 そして始まった戦いは、蹂躙という言葉が相応しかった。

 巨大な枝の一振りを正面から受け止め、押し返す女騎士。

 同じく枝の一振りを正面から切り飛ばし、次々と幹を切り付ける蟲人の戦士。

 宙を飛び回り、奇妙な槍で突いた場所を枯らしていく小柄な女騎士。

 足元では怪物が栄養源とする木々がダークエルフの双子によって戦場から遠ざけられ、バフ・デバフを絶え間なく掛けていく。

 そして、それら全てを一切の遅滞なく伝言にて指揮する悪魔の紳士。

 その戦いは、正しく神話の具現だった。

 

 「なんと、いう……。」

 

 彼らは理解した。

 正確には、理解せざるを得なかった。

 自分達の矮小さを、自分達の弱さを。

 自分達はこの大地に住まうちっぽけな虫けらの一つであると。

 そして……

 

 「よく頑張りましたね。」

 

 この美しき死の体現者こそ、女神なのだと。

 女神のシモベ達が戦った戦士達の死体を集め、一か所へと並べた。

 

 「兄者、ゼンベル……。」

 

 ザリュースの言う様に、多くの仲間達が散った。

 その姿にどうしようもない悲しみが湧き起こる。

 戦士ならば何れ戦って死ぬのは当然の事。

 しかし、己を認めてくれた兄と友の、仲間達の死は辛かった。

 

 「『集団標的・蘇生』。」

 

 だが、死の支配者は定められた死すら覆した。

 

 「よく心折れながらも残した者達のために戦いました。勇敢なる者、善良なる者の死を私は望みません。」

 

 魔法の光に包まれ、蘇生した者達が呻きながら起き上がり、戸惑い或いは喜び驚きながら、死の女神を仰ぎ見る。

 

 「以後は私に仕え、最後の時を迎えるまで精一杯生きなさい。貴方達の命を、私は祝福しましょう。」

 

 極々自然と、その場の全員が跪き、祈りを捧げた。

 この方こそが我らが仰ぎ見るべきただ一柱の神だと悟った故に。

 

 

 

 こうして、トブの大森林に住まう種族は全て、ナザリックへと従属した。 

 

 

 

 その様子を、プレイヤーの調査と接触を目的にトブの大森林へと来ていた漆黒聖典は目撃していた。 

 

 「ど、どうしましょう?」

 「……一度本国へ帰還する。神官長らの判断を仰ぐべきだ。」

 

 こうして、スレイン法国はスルシャーナの再来とも言うべき存在、その対応をどうするかで紛糾する事となる。

 

 

 ……………

 

 

 「夜分遅くに失礼。貴方が第三王女のラナー姫ですね?」

 

 とある夜、自身の寝室にやってきた悪魔と出会った時、ラナーは死んだと思った。

 しかし、実際は違った。

 その悪魔の話を聞いた結果、私は彼らの案に乗った。

 自身の求める未来を実現するためのピース、それが漸く揃ったのだと理解した。

 

 「本当、デミウルゴス殿には…いえ、モモンガ様には助けられましたわ。」

 

 うっとりとした笑みで、ラナーはそう呟く。

 足元には欲して止まなかった自分だけの愛犬がいる。

 その首輪には細めの鎖が繋がっており、その端は自分の手の中にある。

 自分だけの、大切なワンちゃん。

 昨夜から朝まではしたなく求めたというのに、自分を見つめるその無垢で愛らしい瞳にムラムラと欲望が立ち上るのが分かる。

 

 「うふふ、後は帝国が王国を平定し、その一部を私が名目上受け持つだけ。ザナック兄上とレエブン候には少々大変な思いをしてもらいますが……ま、死なないのですから別に良いでしょう。」

 

 話の通じる二人をボロ雑巾になるまで使い倒す算段を立てながら、欲望の赴くままにラナーは頭を上げてこちらを心配そうに見つめる愛犬の唇を貪った。

 

 

 




次回、法国編

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。