徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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或いはこんな結末と始まり


嘘予告第一弾 ×ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり 

 

 

 

 もし、あの無限螺旋を「彼或いは彼女」が1人で歩き続けていたら…。

 

 

 

 

 彼は邪神の姦計渦巻く無限螺旋の只中に、何時の間にか巻き込まれていた。

 

 その中で、魔を断つ剣と出会い、彼らと共に長い間戦い続けた。

 

 だが、長い永い螺旋の果てに、心を壊された。

 

 もし彼が白と黒の王の様に、己が伴侶がいればこうはならなかったかもしれない。

 

だが、彼或いは彼女は決してそういう者を置かなかった。

 

 世界が巡れば全ては泡沫と消え去ってしまう、邪神の箱庭で。

 

 自分と同じ様な犠牲者を増やす事を良しとしなかったのか。

 

 それとも、単にそうするだけの気力すらも枯れ果てていたのか…。

 

 最早本人にすら、その理由は解らない。

 

 それでも、彼或いは彼女は、己が肉体を入れ替えながら、ただ惰性のままに無限螺旋を彷徨い続けた。

 

 

 

 そして、彼或いは彼女の旅路も、終わりを迎えた。

 

 

 

 パリン、という不意の破砕音に、視線を空へ向けた。

 そこにはつい先程まであった巨大な門の形を取った外なる神の一柱、ヨグ=ソトースがその門を閉じながら、虚空に消えていく様があった。

 

 「あぁ………。」

 

 全て終わったのだと、彼女は理解した。

 次いで、自分が結局は何も成せなかったのだとまざまざと見せつけられた。

 

 (結局、私/オレは単なる道化だったか…。)

 

 必死に生き延びる事だけを目指した初期。

 無限螺旋から逃げのびる事を目指した中期。

 自身の限界に気付き、それを打破しようとした後期。

 何もかもがどうでもよくなり、ただ流されるままに生きてきた終期。

 

 (もう、どうでもよいや…。)

 

 煌めく程に磨かれ続けた白の王。

 哀れな程に汚濁に塗れた黒の王。

 それらを掌で弄び続ける混沌。

 

 事の善悪は最早関係無かった。

 彼らの姿は余りにも大きく、遠く……そして、眩かった。

 それに追い付けない己がただ只管に小さく、弱く…惨めだった。

 或いは、彼或いは彼女にも半身たる相棒がいればそれが成し得たかもしれない。

 だが、最早全て終わった事だった。

 

 (あぁ、これで漸く……。)

 

 そして、彼女は堕ちていった。

 何処とも知れぬ世界の狭間、何処でも無い世界の隙間に。

 何処まで堕ちていくのか、それは混沌の邪神にすら解らなかった。

 

 

 

 

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 何時間か、何日か、何年か、何星霜か…。

 そうして堕ちた見知らぬ世界で、彼女は再び歩み始めた。

 平和な世界、平和な時代、人類相手の絶滅の危機の無い限定戦争だけの時代。

 そこで彼女はまどろむ様に過ごしている。

 何も知らなかった在りし日の様に無気力に。

 

 

 

 

 「今日は新刊の発売日、か…。」

 

 てくてくと、小柄な少女が銀座の歩行者天国を呑気に歩き続けている。

 真っ白な薄手のワンピースを纏った銀髪碧眼の美少女。

 親や供の影もなく、てくてくと彼女は歩いている。

 小柄な体躯にはやや大きめな肩掛けカバンには、彼女が自身の魂を除けば唯一持ちだしてきた魔道書が納められている。

 

 今現在、少女の姿を取っている彼或いは彼女だが、普段は向こうで培った一部の技術の特許等を用いて健康的かつどっぷりオタクな趣味を開発しながら生活している。

 この世界に堕ちてきた当初は無気力過ぎて殆ど深山に籠る仙人の様な生活をしていたのだが、とある人物が彼女のいた領域に迷い込んできたため、新たに現代人的な生活を始める事となったのだ。

 今現在、彼女はその人物とその妻の家の近所のマンションに1人暮らしをしているのだが…何かと面倒見の良い人達だったらしく、割と頻繁に訪問してくるため、何だかんだいって友好的な付き合いが続いている。

 オタク趣味が復活したのも、夫婦そろってオタクであるその人達の影響だったりする。

 

 平穏な日常と現代の日本での生活。

 嘗て彼或いは彼女が単なる彼であった頃を象徴する暮らしに、彼女はすっかり寛いでいた。

 だが、何故だか今日はどうにも「臭う」。

 嘗て彼或いは彼女が咽返る程に嗅ぎ続けていた戦乱の気配、濃厚な魔力の残り香。

 それが神秘の殆ど消えた時代の平和な日本で、何故か濃厚に感じられるのだ。

 そして、先程から魔術師として鍛えられた第六感が警鐘を鳴らし続けている。

 

 「来た。」

 

 だからこそ、突然確認した魔術行使の気配にも当然の様に受け止められた。

 突如銀座に現れた中世ヨーロッパ風の石造りの門。

 そこから現れ始めた怪異の群れは、平和ボケした彼女に嘗て捕らわれた無限螺旋での日々を思い出させるのに十分なものだった。

 

 

 

 

 

 休日を歩く銀座の歩行者達にとって、それは映画の撮影か何かにしか見えなかった。

 そして空を舞うワイバーンに騎乗した騎士達が呆然としながらもスマフォのカメラを向ける群衆へと馬上槍を向け、上空から突撃を開始する。

 その矛先が哀れな犠牲者に到達するまで既に3秒とかからないだろう。

 ここで坐して見ていれば、異世界の軍隊による銀座への侵攻作戦、その犠牲者はあっと言う間に増える事だろう。

 現に目前の得物に勝手気ままに襲い掛かっている怪異達により、既に死傷者が発生している。

 既に血は流され、双方ともにただ退く事は許されない。

 きっと、今流されていた血が一滴に見える程の膨大な血が流される事態となるだろう。

 

 ここで彼女が何をした所で、二つの世界の歴史は大きな変化は無いだろう。

 だが……彼女の脳裏に過ぎる2人の姿が、彼女の心を決して離さない、離してくれない。

 

 それは堕ち続けた彼或いは彼女が見た幻影。

 世界の狭間、何処でもない場所。

 そこで永劫に戦い続けている最も新しき旧き神の姿。

 

 それは堕ちた今もなお、彼或いは彼女の心を捕えて離さない。

 自分が決してソレに成れない事を知っているのに、ついついその背を眼が追ってしまう。

 そして、気付けばその真似事をしてしまうのだ。

 嘗ての様にリーアを名乗り、今は少女の体を取っているが、混沌としての己のルーツを知った彼或いは彼女は、基本的に不定形の存在である。

 即ち、何にでも成り得るのだ。

 だが、それは彼或いは彼女が善なる存在だという事ではない。

孤独と絶望と諦観に擦り切れた精神では、強靭すぎる肉体へと追従する事は出来なかった。

 だから、彼女の心は空っぽだ。

 ただ嘗ての経験を元に模倣しているに過ぎない生き人形。

 余りにも眩い姿に憧れ、しかし心折れてしまった弱い怪物。

 己が願いを持たない、しかしガラス細工の様に美しく磨かれた無色の王。

 

 

 

 だから、降下してくる竜騎兵の槍を弾いたのも、所詮は昔からの習慣に過ぎなかった。

 

 

 

 コンマ1秒未満の速さで鍛造したバルザイの偃月刀を、突き出される馬上槍に切り上げる形で叩きつける。

 次いで、鍛造したデザートイーグルを連射する。

 並外れた動体視力と霊感により、射出された3発の0,54インチ弾は狙い違わずワイバーンの強固な頭蓋と騎士の兜ごと、その中身を貫徹、撒き散らした。

 そして、脳を失いながらも残った身体は、その勢いのままに

 

 

 ドガッシャァァァンッ!!

 

 

 路肩に停車していたトラックへと轟音と共に衝突した。

 余りにも非現実的な光景に、一瞬の静寂が門の前に広がる。

 だが、そんな事態を理解できない怪異達が人を殺し、その血肉を喰らい、興奮のまま突き進み始め…リーアに当たり前の様にその首を無骨な刃で刎ねられ、或は銃撃によって頭蓋を吹き飛ばされていった。

 一拍遅れ、噴き出した鮮血や肉片が自身に掛かった事で、群衆は漸く悲鳴と混乱と共に我先に逃げ出していった。

 

 

 かくして、この時より人類史上初となる異世界間戦争と地球初の魔導師が公的に認知される事となった。

 

 

 この時、後に特地と呼ばれる異世界に長く伝えられ続ける伝承が生まれる事となる。

 怪異を砕き、龍を屠り、神々すら殺戮する魔女のお伽噺。

 悪でも善でもない、曇り無きガラス細工の様な白痴の魔女の童話。

 その存在は地球と特地、双方において大きな波紋を広げていく事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人物紹介

 

○ リーア・アシュトン

 御存知「助けて旧神様!」の主人公のIfの姿。

 悪堕ちではなく、「自分では何も変えられなかった」という無気力と諦観、絶望に支配されている。

 劣化マスターテリオンかと思いきや、無限螺旋からの解放すらどうでも良くなり、ただ惰性のままに嘗ての憧憬に従って行動している。

 基本的に自己の願望というものが希薄で、誰からの頼みでも他人に迷惑がかからないものならホイホイと受ける。

 その結果、助けた相手が不幸になろうとも配慮はしない、限り無く無色の願望器。

 ぶっちゃけアポクリのジークフリードに近い。

 だが、他の願いと矛盾するものだった場合、基本的に先に願った方を叶える。

 この世界の富士の樹海に堕ち、そこで異界を形成して10年近く眠りに就いていたが、特殊作戦群の訓練のために訪れていた伊丹耀司(標的にされる前に逃げ出してた)が発見した事から目覚める。

 以後、戸籍の無いリーアを伊丹が養子として引き取って現在に至る。

 当初はリーアも遠慮していたのだが、可愛いものに目が無い梨紗による着せ替えや同人誌作成の手伝いにより既に彼方に消え去っている。

 それでも最後の遠慮として特許取得後は別宅に暮らし、養育費(高校から通信制に入学)も自分で払い、余り伊丹宅に居着かないようにしている(≒夫婦の時間への配慮)。

 平和な日常においては伊丹夫婦を最優先で行動しているが、魔術や人外と対した場合や他人に助けを求められた場合はそちらを優先している。

 ただ、あんまりじれったいというか距離のある伊丹夫婦を見て、食事に軽めの媚薬(後遺症無し)を仕込んだりと余計な事もしている。

 

 日本国政府が最重要機密として保護しており、国外からは最重要確保目標として目の敵にされている。

 だが、本人の武力が一国を単独で殲滅できる程なので、刺客の類は今の所ほぼ独力で撃退に成功している。

 なお、門を勝手に開いて騒乱を起こしたハーディをきっちり締め上げている。

 

 

 

○ 伊丹耀司

 「ゲート 自衛隊彼の地にて…」の主人公にして、リーアの養父にあたる。

 富士演習場での特殊作戦群の演習中にリーアの構築した異界に紛れ込んでしまい、彼女を目覚めさせてしまってから今日まで面倒を見ている……のだが、親子ではなくどっちかってーと同年代か年上の同性を相手にしている気分にさせられている。

 二条橋の英雄としてやっぱり有名になってしまったが、それ以上に養女が世界的有名人となってしまい、彼女の身柄の安全確保に四苦八苦する事となる。

 特地において、三人娘+1にフラグを立てる事になるのだが、養女からの監視と何だかんだで待っていてくれる妻の存在があり、今の所靡いていない。

 が、+1こと皇女が淡々と重婚の準備をしているので、油断は一切できなかったりする。

 

そして再開通後、何時の間にか子持ちになっていた伊丹はほぼ強制的に重婚への道を歩ませられることとなる。

 

 

 

○ 伊丹梨紗

 耀司の後輩にして妻であり、同人誌作成や西洋人形等の可愛いものが大好きな生産系オタク。

 夫がいきなり養女を連れてきた事に大層驚き、誘拐を疑ったものの、結局リーアの可憐さに全てを投げ出してOKしてしまった。

 最近の趣味はリーアを着飾る事、一緒に同人誌を作る事。

 なお、リーア本人はBL系は忌避している事もあって、最近ではロボット系作品の非18禁同人誌を書いてたりコト○キヤ製プラモを作成してたりする。

 何気に伊丹が一度休暇で特地から帰還した際に妊娠しており、閉門騒動後に出産、一児の母となってたりする。

 なお、養育費は何時の間にか振り込まれていたリーアの恩返し資金と耀司の4年分の給料から出ていたりする。

 

 再開通後、凄まじい修羅場を展開する事になったりならなかったり。

 

 

 

 


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