アディのアトリエ~トリップでザールブルグで錬金術士~   作:高槻翡翠

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ここから第二章。季節ごとに分けていこうかなとは
アカデミーの入学です。
ところで文の量はどれぐらいにすればいいんでしょうかね。
これぐらいかなみたいなので載せてますが。


第二章 一年目、秋
第七話 アカデミー入学


【入学式です】

 

ザールブルグで時間を知らせるのは主に鐘の音だ。

フローベル教会の鐘やアカデミーの鐘が鳴り響くことで、住人達は時を知る。

貴族の家では時計もあるようだが、高価であるようだ。

アディシアが起きて、布団で微睡んでいると鐘の音がした。アディシアは鐘の音が好きだ。

 

『着替えたら? 下僕はまだ寝てる』

 

リアの声がしたのでアディシアは着替える。

真新しいアカデミーの制服を着込んだ。制服を注文したときに色は悩んだのだが、濃い蒼色にした。

オーダーメイドの服はぴったりしている。カーヤの店で作ったが、カーヤは腕の良い仕立て屋だ。

部屋を出ると、サマエルも着替えていた。彼は深緑を基調としたアカデミーの制服を着ている。

 

「今日で九月一日か。アカデミーの入学式だよ」

 

「エリーを迎えに行ってから、アカデミーに行く」

 

朝食を取り終わり、速めにエリーを迎えに行った。ザールブルグの街が目覚めだしている中で、

エリーの工房のドアをアディシアは大きな音を立てて叩いた。起こすためだ。

 

「おはよう。アディ、サマエル」

 

「起きてたんだ。おはよう」

 

「速めに来すぎたかな」

 

「そんなことないよ。準備をするね」

 

アカデミーの入学式は制服に着替えてから持ち物として筆記用具を持っていくぐらいで良い。

着替えたエリーと共に服屋に行くと、カーヤが待っていた。エリーのアカデミー用の制服は完成していた。

カーヤは眠たそうにしながらもエリーに制服と靴を渡す。

 

「入学式、行ってらっしゃい。校長先生の話は長いから」

 

(やっぱり長いんだ)

 

サマエルが苦笑する。

エリーのアカデミーの制服はオレンジ色を基調としている長袖だ。アカデミーの制服には殆どがマントが付いている。

アディシアもサマエルも制服にはマントを着けているが錬金術士と言えばマントという風潮があるらしい。

 

(マントか。邪魔なのに)

 

『仕事の時にゴスロリ着て闘ってた癖に』

 

暗殺の仕事の時は黒のゴスロリでアディシアは仕事をしていた。同僚に可愛いからと着せられていたのだ。

エリーの着替えを待ってから、アカデミーに行く。アカデミーはザールブルグの中でも目立つ建物だ。

段々と賑やかになっていく通りを進む。

 

「アカデミーは大きな建物だよね。何処に集まれば良かったんだっけ」

 

「大講堂だよ。こっち」

 

迷っているエリーにサマエルが促した。

アディシアもサマエルも何度かアカデミーは訪れているため、大まかな建物の位置は分かっている。

アカデミーの建物内に入ると同じ入学生が中央フロアに集まっていた。

年齢が同じぐらいだったり、着ているものが真新しい。

入学式までまだ時間があるので休んでいると、ピンク色の制服を着た茶髪の少女が前を通っていった。

 

(ピンクだ。派手)

 

日本の学校での入学式は四月に行われていた。四月に入学式をやる方が珍しいのだが、入学式は日本のしか経験が無いために九月の入学式は新鮮だ。桜の花を思い出した。

 

「居た居た。もうそろそろで入学式が始まるよ」

 

「アレク。おはよう」

 

「服、間に合ったんだ。良かった」

 

アレクシスも制服を着ている。彼は黒と白を基調としていた。仕立ての良い生地を使っている。

中央フロアにいると鐘の音が鳴った。

 

「入学式が始まります。アカデミーの入学者の方は――」

 

「向かおう」

 

サマエルが言う。アディシア、エリー、アレクは大講堂へと行く。大講堂には百人以上の人間が集まっていた。

 

(長くなりそうだな……)

 

まずアディシアはドルニエ校長の話に対する覚悟をしておいた。

その覚悟は無駄にはならなかった。話が長い。聞いてはいるのだが途中から、聞かずにいた。

かろうじて、聞いていたことはアディシア達は王立魔術アカデミーの第十六期生になることだ。

ドルニエの話が終わってから、イングリドの話になる。

イングリドの話は簡潔で、アカデミーに入学おめでとうと今年は人数が多いことや四年間、充実した学園生活を送るのは本人次第とも話されていた。

 

「イングリド先生の話、短かったね」

 

「助かるね」

 

エリーが小声で話しかけてくる。アディシアも返した。良く通る声である。

次の説明は授業についてだったが、まずは共通の基本カリキュラムが説明された。説明をしたのは教師の一人で、若い男だ。

 

「アカデミーは四年、まずは二年で初等教育を三年から卒業までは専門教育期間となります」

 

初等教育期間とは、一般常識から基礎的な魔術全般、錬金術を教える期間であるようだ。午前中は講義を受け、午後は自由だったり一日調合をしたりとする。専門教育期間は二年目が終わるときに総合部、付与魔術部、錬金術部、薬学部のどれかを選んで二年間勉強するようだ。留年はあるが、自主退学をしない限りは学べる。

小テストの他にも八月の最初に年度末のテストが行われる。

アディシアが通った日本の学校は一学期ごとに中間や期末と受けていき、三学期は期末だけというものだったが、……アディシアは二学期の途中までしかまだ通っていないが……アカデミーは違う。

 

(錬金術が人気だろうな)

 

アカデミーと言えば錬金術を教えてくれる場所というのは、間違いではないし、生徒の九割は錬金術が目当てと言っても大げさではないだろう。次に説明されたのは寮生のカリキュラムだ。

アレクシスが折りたたんだ紙を取り出す。

 

「それは?」

 

「寮部屋にあった。説明書き」

 

サマエルにも見えるようにアレクシスが手を動かす。アディシアは話だけ聞いているが、入学テストを受けた後でされた説明と殆ど同じだった。カリキュラムを受けて、単位を取って、小テストを受けて、進級するだけの成績や技術を手に入れていく。衣食住の心配はいらないため、存分に勉強が出来る。

 

「アトリエ生についてはカロッサ先生から説明がありますので後で別の教室に……」

 

(ここでしないんだ)

 

『説明が長くなるんでしょう』

 

ヴェグタムが説明をしてくれるようだ。教室の位置をアディシアは聞いておく。

説明が終わり、入学式も終わる。生徒達が動き出した。寮部屋に戻ろうとする者や別教室へ行こうとする者が居た。

入学式が終わり、一年生が退出してからは時間を開けて他学年の始業式が行われる。

 

「……速めに行った方が良くない? 僕は部屋の整頓をするぐらいだけど」

 

「説明を聞きに行かないと。アレクは部屋の整頓をするんだね」

 

「荷物は運んだけど。まだ並べてないから。片付いたら連絡するよ。またね」

 

エリーとアレクの会話を聞きつつ、アディシアは周囲に気を配る。癖だ。

 

「あたし達も行こうよ」

 

アディシアがエリーを促す。サマエルが横にいることを確認してから、説明を聞くための教室へと向かう。

人混みが無くなってきた頃を狙ったので、スムーズに大講堂を出られた。アディシアならば人混みを上手く掻き分けて、すぐに外に出られるのだがエリーに合わせたのだ。合わせないと彼女を置き去りにしてしまう。

指示された教室に入る。教室には使い込まれた長机がいくつも並べられていて、側に丸椅子が三つから四つ置かれていた。

真ん中辺りの適当な席に座るとエリーがアディシアの右隣に、サマエルが左隣に座る。

先に来て待っている者も居れば、しばらくしてから来る者も居た。

 

(二十人以上は居るかな……)

 

アトリエ生はほぼ成績が足りなかった生徒だ。アディシアとサマエルが例外なだけである。

しばらく待っていると、教室のドアが開いた。

 

「全員、揃っているな。アトリエ生」

 

手には黒い名簿を持ったヴェグタムが入ってくる。アカデミーに来た時に逢ったが、教員用というか錬金術士と一目見て、分かるような服装をしていた。ローブ系の衣装にマントを着けている。

彼は名簿と人数を照らし合わせた。ドアから紐の付いた台車を引っ張ってくる。

大きめの台車には白い布袋がアトリエ生分置かれていた。四角くてやや大きい。巾着袋のようになっていた。

 

「俺はヴェグタム・カロッサ、アカデミーの教員だ。これからアトリエ生の説明を始める。名前を呼んでいくから、呼ばれたら俺の所に来てくれ」

 

ヴェグタムが名前を呼んでいく。アルファベット順で呼ばれていて、生徒は呼ばれるたびに席から立ち上がる。

来た生徒にヴェグタムは白い布の袋を渡して行っていた。エリーやアディシア、サマエルも名を呼ばれて袋を受け取る。袋は重かった。

 

(……中には……本とか入っているのかな。形的に)

 

「中身だが、確認してくれ。支度金と『絵で見る錬金術』といくつかの材料が入っている」

 

各人、袋を開けていく。銀貨と図書室で読んだ『絵で見る錬金術』と白っぽい石と<ほうれんそう>と<魔法の草>、<ズフタフ槍の草>が入っていた。

 

「支度金、多いような……銀貨千枚以上は無い?」

 

「全部で銀貨三千枚だ」

 

エリーの声を聞いたヴェグタムが簡単に言う。教室にはざわめきが広がる。

 

「貸し付け?」

 

「違う。支度金だから返さなくても良いぞ。どうせ殆どこっちに返ってくるし。寮生は教科書から衣食住、機材まではアカデミーが面倒を見るがアトリエ生はアトリエと基本的な調合器具だけだ。教科書や調合道具は自分で買わないと行けない。

そのための金だ。お前等に渡す金は支度金だけだしな。寮生を育てるよりは安い」

 

『三千枚を渡しても、アカデミー側からすれば教科書や道具を買えば返したことになるのよ。それだけで道具も教科書も全ては買えないし、生活するのも含めて嫌でも稼がないといけないわけ』

 

(稼ぎには錬金術の腕を磨かないといけないか……)

 

アディシアはヴェグタムやリアの声を聞いた。

銀貨三千枚は大金ではあるのだが、三千枚で機材や教科書を購入していけば直ぐになくなる。材料もそうだ。

寮生は衣食住の面倒を見るが四年間で錬金術士として育つかと言うのは本人次第であり確実性に欠ける。使った金が無駄になることもあるのだ。

 

「教科書を買えば良いとか言われても分かりません」

 

「今から説明する。質問があったら挙手でな」

 

まずアトリエ生とは何かと言うことをヴェグタムは改めて説明した。アカデミーの入学試験で成績が足りなかった者に対する処置……アディシアとサマエルは違うがその辺りは省かれた……であるということや、生活費は自分で錬金術で品物を作り稼ぐなどの話をしていく。

依頼を斡旋するのはアカデミーではなく、酒場であり飛翔亭か金の麦亭が受け付けている。

錬金術士用の依頼を扱っているのはこの二つだけだ。

 

「コツとか有りますか」

 

「”きちんと”やれ。お前等が出来る依頼は酒場の店主が選んでくれる。採取でも調合でもまずは期日を守って、いい品質のものを収めろ。オリジナリティがあるものや凄いものなんてのはそれが出来てからだ」

 

『重要よ。アンタは出来そうにない依頼を押しつけられてはこなしてきたけど、出来る依頼を出来る範囲でこなせるのよ』

 

(それ良いな)

 

(……ある意味では当たり前なんだけど……当たり前とは言えない状態だったからね。君)

 

生徒の質問にヴェグタムは答える。

アディシアとリアの会話にサマエルが心中で呟いた。リアがこれはサマエルに聞かせるべきだと判断した会話はアディシアの心中の声として聞こえる。採取の説明も入った。採取場所の一部は『絵で見る錬金術』に書かれているが、ザールブルグの外は広い。他にも様々な採取先がある。

他の場所は酒場で聞いたり場合によっては教師が教えてくれることもあるがまずはザールブルグの近場が良いとのことだ。

外は魔物や盗賊が居て危険なので、冒険者は雇うべきだともヴェグタムは教えた。

 

「教科書とか調合道具とかまずは何を買えば……」

 

次に聞いたのはエリーだ。ヴェグタムは教員用の机にある引き出しから、本を二冊、取り出した。片手に一つずつ持つ。

 

「まず、袋の中には『絵で見る錬金術』が入っているがこれは錬金術の基礎知識本だ。次に教科書だが、

これが『初等錬金術講座』だ。他にも中級と上級がある。昔は基礎知識も教えてくれたんだが……」

 

「今は……」

 

「……人数が多くて本になった。しかしこれは解りやすい本だから。でだ、教科書の学習がすむと錬金術的な思考が出来るようになる。そうしたら参考書とかで自分の好きなレシピを組み立てられる」

 

アディシアもサマエルもこの世界に来たときに最初に読んでいる。『絵で見る錬金術』をアディシアの隣のエリーが、取り出して捲って読んでいた。ヴェグタムは基礎知識も教員から教わったようだが、人数増加で皆に教えることが、難しくなったので本で各自勉強しろとのことだ。これ自体は非常に解りやすかった。

教科書として『初等錬金術講座』と『中等錬金術講座』と『上級錬金術講座』がある。

参考書はタイトルとして『金属アラカルト』と書かれていた。真新しい本だ。

 

『ゲームとかやっていて慣れたら別に説明書無しでもこれとこれ似てるからで進めるようになるでしょ。あんな感じ』

 

(それをやるとシステムをたまに見逃しちゃうんだよな)

 

結論としては『初等錬金術講座』や『中等錬金術講座』を買い、上級へ行くか中等まででも、錬金術的な思考は出来るようにはなるようなので参考書に行くのも一つの手ではあるようだ。

 

「調合機材はまずは籠だな。背負い籠だが、これがあると採取の荷物が多くもてる。基本的な調合は乳鉢とろ過器が有れば良い。残りは順次買い足しだ」

 

籠と乳鉢とろ過器を最初に買っておくべきだなと考える。先人の話は大事だ。調合道具が無くても努力すれば作られるらしいが、いい品質のものを作りたければ調合道具はいる。欲しい調合道具に関しては作りたいものと資金と相談するべきではあった。

基礎的な調合道具はアトリエにも置かれる。調合鍋もそうだ。

最後にヴェグタムは一通りの勉強が出来るようになれば図書室の鍵も渡されるとも話す。

 

(図書室はあたし達が落ちてきたところだね)

 

隠し部屋もある図書室だ。

 

「アトリエ生はたまに様子を教師が見に来るからな。実力も判断していく」

 

「サポートはしてくれるんだね」

 

「当たり前だろう。学校だから……学校って解りづらいかも知れないが」

 

『ザールブルグは徒弟制度がメインだから、最後は本人のやる気次第だけどね』

 

師匠に弟子がついて物事を教えていく徒弟制度がザールブルグのメインであり、学校はアカデミーぐらいである。

フローベル教会の文字を教える学校も学校ではあるが、存在としては徒弟制度の方がメジャーだ。

ヴェグタムが言い淀んだのは、アカデミーという学校システムが広まっていないからである。

成績がいまいちのアトリエ生でも放置はしないし、錬金術を教えていく。

 

(こっちでもそうだよね。大学まで出したのにとかお金かかったのにとか)

 

『大学卒業しても不況だから就職できないとか日本ではざらだし、イタリアも不景気だものね』

 

「最後に、紙に授業の日程が入ってるが、必須授業は出ろ。単位にもなる。――以上。各自解散だ」

 

アトリエ生にも単位は存在する。成績に加味されるのだ。ヴェグタムが話を終えた。説明するべき所は説明したのだ。

丁度鐘が鳴った。ヴェグタムが教室を去り、他の生徒達も立ち上がり、一部は帰ったり、他の生徒と話をしている。

 

「買うもの買って……」

 

アディシアは伸びをしている。買うべきものは教わっているので購入するだけだ。

 

「アディ、サマエル、ショップに一緒に行こうよ。大金を持ってるのって恐いから速く使っちゃいたい」

 

「一部は残しておかないと生活費もあるんだから、持って来たお金が残ってるなら無駄遣いしても良いけど」

 

「それなりには残しておくべきだ」

 

銀貨三千枚は大金だ。三千枚をそれぞれに持っている状態である。エリーからすれば銀貨三千枚なんて持ったことがないのだろう。

金銭面に関して言えばアカデミーは三千枚しか援助しない。

 

「外に持って行ったりしたらスリとかにあったら」

 

(スリか……)

 

(……そうだ。スリが居るんだ)

 

『アンタ達、スリには対処が出来るものね……』

 

困っているエリーを見てアディシアとサマエルは別のことに困ってしまった。

アディシアもサマエルも武術が出来るし、スリが居ても、暴漢が居ても対処が可能だが、エリーはそうはいかない。

リアが苦笑していた。この辺りは感覚のズレである。

二人にとってはスリは脅威ではないのだ。

一分後、必要な機材や教科書を買いながら、手元には何日か分の生活費を残しておくという結論で落ち着いた。

 

 

 

アカデミー・ショップはそこそこに人が居た。

一応は一般人にも開放はされているようだが買いに来るのは、アカデミーの卒業生や生徒ばかりである。

広いスペースには調合機材や材料、教科書や参考書が置かれていた。真新しい『初等錬金術講座』を手に取る。

 

(あたしとサマエルは行動だからさ。機材とか合同で良いかな)

 

『下僕の方が錬金術士としての腕は今は優れてるし、……下僕優先で鍛えたら』

 

サマエルは調合が出来るらしい。師匠に教わったそうだ。サマエルの師匠にアディシアは逢ったことがない。

 

(初等から上級の教科書は俺も買っておく。参考書は貸しあいしようか。道具は)

 

『籠は二ついるにしろ、好みで。でも、一緒なもの買ったらつまらないでしょう。やる気になればここの機材も本も全部買えるけど』

 

「妙な壺があるけど銀貨五千枚とか……」

 

銀貨は三千枚、『初等錬金術講座』が銀貨八百枚で『中等錬金術講座』が銀貨千二百枚だ。『上級錬金術講座』は銀貨千五百枚である。他の本もあるが高い。

エリーが見つけたのは、壺だ。大きめの壺であり、銀貨で五千枚もする。

壺にかけられているボードには『錬金術の壺、放置しておくと世界霊魂がたまります』と書かれている。

 

「世界霊魂……魂?」

 

『今は使わないから無視。こんなものもあるんだぐらいで』

 

次に高いのは古文書で銀貨三千枚だった。これは図書館にある難しい本を読むための辞書のようなものである。

購入したのは『初等錬金術講座』と『中等錬金術講座』で、次に乳鉢、ろ過器、籠を手に取る。

乳鉢とろ過器は理科の実験で使ったことがある。ろ過器は箱に入り説明書付きだった。

 

「カロッサ先生の説明だとこれがあれば良いんだね」

 

「基礎は大事なんだよ」

 

サマエルも基本セット……アディシア命名……を手に取り、エリーも手に取る。ショップには樹から麦、ニンニクからワインまで売られていた。参考書には火薬の本やら薬の本、雑貨の本も売られている。

調合道具では、ランプがあった。側にあるカードには『油を使うランプ、火力が欲しいときに夜に本も読めます』とある。油のランプだと映画か何かでぶん投げたら油が零れて火が付いて辺りが火事とかあったことを思い出す。

一つずつ見て行く。

三つの円形の石が大きさ違いで重なり上にハンドルが着いた遠心分離器は遠心力で、物質を分離させるものだ。

理科の実験で使ったガラス器具、ガラスで出来たビーカーやフラスコ、ガラス棒がセットになっていた。

 

『天秤も後で良いわ。最初は大雑把な量でもいけるし』

 

細かい材料を量るために必要な天秤だ。分銅も着いている。

人をぶん殴ることも出来そうなトンカチや、ふいご、やっとこ、ふいごは風を送り込み火力を上げるもので、やっとこは熱いものを持つための道具だ。

片手鍋も売っていたし、細かいものを見るためのルーペや、細工するための細工道具、裁縫をするための裁縫道具もある。

アタノールという反射炉もあった。

 

(道具、全部買うといくら? 基礎セットと古文書と錬金術の壺は抜いても良い)

 

『自分で計算しろと言いたいけど今回はしてあげる。銀貨で六千六百六十枚』

 

すぐに解答が来たが、すぐに欲しければ生活費用の資金を使えば買えないこともない。

しかし、錬金術で稼いで購入していった方が、愛着もわきそうだし楽はするべきではないと考える。

まともに全て購入するには錬金術関係だけで稼ごうとすると一年以上の年月がかかりそうだ。

 

(時間がかかりそうなんだよ)

 

『かけたらいいじゃない。どうせ全部直ぐに揃えたところで使わないのよ。生活が軌道に乗る頃は錬金術士としての能力も上がっているわ』

 

「私の方はもう、道具を買っちゃったよ」

 

「あたしもすぐに買うから待ってて」

 

レジの方に行くと、金髪のウェーブがかかった女性が受付にいた。胸が開いているとアディシアは想う。

青い瞳でおっとりしている女性だ。

 

「いらっしゃいませ。こちらをご購入ですね」

 

「はい。あたしはアディシア・スクアーロと言います。貴方は」

 

「私はルイーゼ・ローレンシウム。よろしくね」

 

話ながらアディシアは買い取りリストが貼られていたので内容を読む。何か作れるようになれば売って資金に出来るからだ。

知らない名称ばかり並んでいるが、勉強していくうちに解るはずだ。

荷物を受け取り、代金を払う。支度金は殆どを使い切ったが、予備の資金はまだ残っている。

あったからこそギリギリまで使い込めた。サマエルも買い、必要なものは背負い籠の中に入れて背負う。

 

「これだけあれば調合が出来るのかな。酒場とか行った方が良いだろうし……」

 

「明日には必須授業があるからそれで調合は出来そうだ」

 

「授業表、読んでたんだね。サマエル」

 

悩むエリーにサマエルが助言をした。アディシアも授業の日程表を読むが必須授業というのは少ない。

アトリエ生は自力で学んで行けとのことだろう。

 

「酒場、アディとサマエルは行ったことがある?」

 

「あたし達ザールブルグには速めに到着していたからね。あるよ」

 

「着いてきてくれない? 恐くて」

 

「そうしたら行くついでに酒場でご飯を食べようよ。飛翔亭、お昼、過ぎてるし」

 

酒場が恐いについては理解している。荒くれ者が居そうだからだ。

 

「俺は金の麦亭だけど、着いていくよ。籠の中身はアトリエに置いて行こう」

 

「籠自体は持って行くの?」

 

「近くの森があるから。俺とアディが着いていればウォルフにも襲われないし」

 

正確に言うと襲われても倒せるではある。近くの森は安全な方だが、ウォルフ……狼のような生き 物……が居るのだ。

アカデミーを出て、途中まではエリーと共に行き、待ち合わせをして別れてから、アディシアとサマエルは屋敷に戻る。

 

「『初等錬金術講座』……読める読める」

 

玄関先でアディシアが内容を読み始めた。文字は読めるし、内容も理解出来る。『絵で見る錬金術』は最初の方に読んでいた。

<研磨剤>は<フェスト>を砕いて作るようだが、乳鉢が必要だ。乳鉢なら買っているので作れそうである。

<フェスト>は白くて固い石だ。

 

『<ヘーベル湖の水>とかもあるし、作れそうね』

 

「うん。……栞が欲しいかも」

 

『教科書購入記念で着いていたわよ。金属製の』

 

リアに言われた通り探してみるとあった。金属の栞でこれも錬金術で出来ているようだ。

サマエルはアトリエの方を確認しつつ、魔術で掃除をしていた。掃除は交代制である。鐘の音が聞こえた。

 

「時間だよー」

 

「良い頃合いだね」

 

掃除を終えたサマエルが来る。アディシアは素早くアトリエの本棚に『初等錬金術講座』を戻して、

二人で屋敷を出た。

 

 

【続く】




次回はいきなり番外編と言うか教師サイドやら書く予定。

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