ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第六話 オーク

オークをみて初めに思うこと感じることはなんだろうか。恐怖?

 

オレは豚顔に驚愕した。本当に豚鼻である。がものすごく眼力がある。

 

そんな現状には全く役に立たない考え事を思考から追い出し、最良の判断を模索する。

 

ピリピリとした無言の睨み合いの均衡を崩したのはオレである。

 

オレは睨みをきかせつつ

 

「フィー、父さんたちにこの事を知らせてくれ」

 

声を出来るだけ絞りオレの後ろにいるフィーに声をかける。

 

睨み合うオレとオーク。互いに牽制する。

 

相手の得物は棍棒のようなものであり鈍器であることは確実。

 

「で、でも、レイちゃんは?」

 

その心配はもっともだが…

 

「オレは大丈夫だ。だからフライで最速で父さんたちにこの事を知らせてくれ」

 

大丈夫の根拠はない。

 

ただフィーを安心させるためだけに、オレはフィーだけは何がなんでも守りとおす。

 

「けど…」

 

フィーの声が鼻声になってきた。

 

泣かないでくれ…これはオレのくだらない意地だが…。

 

この時自分も『フライ』で逃げるという手段が忘却の彼方へと追いやられていた。

 

「オレは大丈夫だから、さぁ行く―」

 

そこで状態にシビレを切らしたかこちらに唸り声をあげ突っ込んでくるオーク。

 

動きは鈍重。彼我の距離、目測で10メイル。

 

「行け!フィー!!」

 

「でも、」

 

「行くんだ!! フィーネ!!」

 

「絶対帰ってきてよ!?」

 

「ああ、約束する。オレはお前に嘘は言わない」

 

そこでようやくフィーは元来た道を駆け出す。オークの視線がフィーにいく。

 

「お前の相手はオレだ!!『エアハンマー』!!」

 

オレの魔法がオークにあたり怯む。吹き飛ばないのか…。

 

その隙にフィーはフライでこの場を離脱。第一段階完了。

 

獲物を逃したことに怒りを覚えたかオークの注意がオレに向く。

 

最速で助けが来るのは、10分位か…。

 

「これから楽しいパーチーの始まりってか?」

 

そんな軽口を叩くが額から頬へと汗が伝うことがわかる。

 

右手に杖をもち、左手に先ほど見つけた二本の短剣をもち右半身を前に半身に構える。

 

オークは愚直に突進から棍棒を上段から振り下ろす。

 

それを余裕をもってバックステップで回避しつつ、魔法を唱える。

 

次は殺傷力のある魔法。

 

「『エアカッター』!!」

 

狙うは急所であろう首。

 

見事命中。が、オークの首にかすかな傷を残すだけ、もっと精神力を練り上げろ!!

 

もっと鋭く!!もっと速く!!

 

オークを中心に円を描くよう走り、魔法を放つ、避けられる。後ろの木が倒れる。

 

もっと速く!! もう一度放つ、浅い傷を作るだけ。

 

もっと鋭く!! もっともっと精神力を、そう思い練り上げようとするが、それがいけなかった。

 

練り上げようとしたとき足が止まってしまった。ここが好機とオークは突っ込んでくる。

 

またも上段からの叩きつけ

 

「やばっ!」

 

なんとか間一髪後ろに下がり避けるが、運悪く杖が折られてしまった。

 

「これはマジでヤバイぞ…」

 

知らず知らずにそんなことを言ってしまう。杖がないとオレは何もできないのか?

 

ならもう逃げてもいいんじゃないか?

 

無理に戦う必要はないじゃないか?

 

そんな弱気な疑問が頭の隅を掠める。

 

「いや、ここで逃げたら次も逃げるぞ。逃げの人生でいいのか?」

 

自分に言い聞かせ奮い立たせる。実際は別に逃げても良い。

 

しかし、オークの方が速力は高いので逃げきれるかは謎である。

 

だが普通なら確かにここで逃げた方がいいだろう。

 

六歳児にこなすことのできることじゃない。

 

横薙ぎに振るわれた棍棒を避け、相手を見直す。

 

だが、まだ武器がある。

 

逃げの人生なんて前世だけで十分だ。 守る力を行使するぞ。

 

左手にある二本の短剣を両方鞘から抜き放ち、左手に片刃を逆手に持ち、

 

右手には両刃の短剣を順手に持ちオークに向かって構える。自然とその構えを取った。

 

誰かが言った。

 

戦場で生き残るのは臆病者だと。

 

「いくぞ!!畜生!!覚悟はできたか!?」

 

アドレナリンが出まくってやがる。この高揚感はなんだ? 

 

自然と何故か口元がゆるむ。どうやらオレは相当な戦闘狂なのかもしれない。

 

オークが懲りずに唸り突っ込んでくる。

 

大上段から大振りの一撃、絶大な威力を持った一撃が迫る。

 

極限状態のせいか、相手の攻撃の軌跡が見える。これが達人状態ってやつか。

 

オークの棍棒はオレの腕力では受けるのは不可。

 

ならば、オレは今までとは違い踏み込む。

 

右足で開き気味に踏み込み、右手の両刃の短剣を力の限り右から左に振り抜くよう振るい、棍棒を体の左側を通過させるようにする。

 

棍棒が地面を叩き大地が揺れる錯覚。

 

棍棒を振りきり死に体になったオークの首目掛け、

 

左手に逆手で持った片刃の短剣を左下から右上へ振り抜く…。

 

拍子抜けするほど滑らかに刃が通過した。オークとオレの位置が入れ替わる。

 

即座に振り向く、

 

そこには首がずれ倒れながら血の雨を降らすオークだったものがあった。

 

倒れるのを見届け。骨までも両断する硬化魔法の強固さに助けられたのだろう。

 

「終わった…」

 

知らず口をつき言葉がでる。

 

少し離れた場所に大の字に寝ころがり、乾いた笑いがでる。

 

初めての殺しには特に感じるところはなかった。

 

殺らなければ殺られる…ただそれだけ。そこに、

 

「レイジ!! どこだ!?」

 

父さんが到着したらしい。

 

「父さん」

 

上体を起こしながら呼ぶ。

 

「レイジ!! 怪我はないか!?」

 

そう抱き締めながらいう。心配してくれるのは素直に嬉しい。

 

「大丈夫です。かすり傷ひとつありませんよ」

 

軽口を叩き肩をすくめる。まだテンションがおかしようだ。

 

そこで父さんは気づいたらしい。

 

「これは…レイジがやったのか?」

 

「ええ、死ぬかと思いましたよ。『エアカッター』が通じないんだもの」

 

「そうか、いや詳しい話はあとで聞こう。ティナが待ってる。心配してる」

 

何を思ったか話題をすぐに変える。

 

まぁいい、難は去った。フィーはしっかり役割を果たせたようだ…。

 

そう思いオークを倒した妙に手に馴染む二本の短剣をみる。

 

血油がついているかと思ったが、なんのことはない鞘から抜き放った光沢のままだった。

 

これは、この剣には何かありそうだ。

 

二本の短剣を鞘にしまった所で意識がはっきりしなくなる。緊…張…の糸…が…。


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