ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第四十七話 決闘

 使い魔召喚の儀の次の日。平賀才人は業務員が眠っている部屋で目を覚ました。

「夢じゃ……なかったか」

 サイトは昨日起きた未知の現象が、夢のなかで起きた自分の妄想なのではないかとまだ疑っていた。寝る前に教えられたこの世界の簡単な常識もすでに彼の頭の中にはない。

 あぁ、夢なら早く覚めてくれ

 サイトはそう思わずにはいられない。しかし自身の左手に刻まれた刺青のような紋章が現実だと語っている。せっかく電気屋でパソコンを修理して、新たなる出会いが待っていると思った矢先に異世界に飛ばされたのだ。

 はぁ、と大きなため息を吐く。しかし彼は指を顎に当てて何かを閃いた。

「ん? ある意味新しい女の子との出会い、しかもとびきりの美少女!!」

 サイトは一瞬前までの落胆が嘘のようにテンションを上げた。ある意味新しい形の出会いであるには違いない。彼には出会いがあればそれ以外は些細なことになったのかもしれない。これから起こるだろう困難など露知らず、彼の心は踊りだしていた。

 朝食は学院に在籍する学生が食べ終わった後、サイトは学院の業務員とともに残り物を食べた。サイトの扱いに関してはレイジがかなり口添えしており、ぽっとでのなんのスキルも持たないただの使い魔で、平民である少年の扱い方としては優遇されている方だ。

 ルイズは初めサイトを同じ部屋で寝る気だったのだが、レイジたちがそれを咎めた。使い魔なのだから同じ場所で寝るのは当たり前なのだが、一応は若い男女である。何かが起きても困ると考えたレイジはルイズの案を却下した。親の口約束とは言えルイズにも婚約者がいるのだ。

「シエスタは結構ここで働いて長いのか?」

 サイトは昨日知り合った少女のメイドと洗濯を行いつつも、色々と話を聞いていた。彼女はこの世界には珍しい黒髪黒目、彫りが浅めで東アジア系と白人との日本寄りのハーフを連想させるような容姿であったため、サイトとしては少々親近感が沸いたのだ。

「そんな長くありませんよ。一年ほど前だったと思います」

「ならシエスタはおれの先輩だな」

 そう言ってサイトは笑う。久しぶりの女の子との会話に彼のテンションは上がりっぱなしだ。

「先輩だなんてそんな、同じくらいの歳なのでそういうのはなしにしましょう」

 サイトはシエスタの謙遜した態度に、自身の主とは違いなんていい子なんだと心の中で感嘆した。

 などと思っていると爆発音が学院内に響いた。

「な、なんだ!?」

 サイトは驚き反射的に口に出していた。

「多分ミスヴァリエールの魔法ではないかと」

 一方のシエスタはなれたものと言わんばかりの態度だ。一年次のルイズは何事にも挑戦という姿勢だったため、学院にはかなりの頻度で爆発が起こっていたのだ。レイジも特に止めようとしなかったため学院の職員はすでに慣れっこであるし、彼女に魔法を唱えさせるのを抑え気味にしていたのだが、今日は新学年はじめの授業とあってかルイズのことを知らない教師が魔法を使って見せろと促したのだろう。

「……どんな魔法だよ。室内で爆発って」

 サイトは音のした方を見て戦慄した。

 

 

 時刻は進み午後。昼食後のティータイムの時間。

本日の授業は午前だけとなっており、二年生は一様に昨日召喚したばかりの使い魔たちとの親交を深め合っていた。あとはお披露目会という側面もある。

 その中でも一際目立つ集団があった。

「レイジ、何度見ても君のアンヴァーはとても美しいね。ボクのヴェルダンテにはかなわないが」

 そう言ってギーシュ・ド・グラモンは自身の使い魔であるジャイアントモールを撫でた。それを横で見る少女は少しだけ引いていた。

「どうも」

 レイジはギーシュのキザったらしい親バカっぷりに苦笑いをしながらも黒韻竜のアンヴァルを見た。その巨体は10メイルはあり、これでまだ成長中だというのだから驚きだ。アンヴァルは竜種の中でも若いらしい。

 と昨夜アンヴァル自身から教えられたことを片隅に考えつつ同じ韻竜であるシルフィードを見た。彼女も竜種の中ではとても若い方でアンヴァルよりも若いらしい。そのためか同じ竜種であるが故かこの一日をとってみても一緒にいる時間が多い。この二匹に加えキュルケのサラマンダー、フレイムも仲がいいようで地上にいるときはよく三匹で顔を合わせている。しかしフレイム以外は飛べるため、飛んでいる姿を見るフレイムにはどこか哀愁が漂っているように見えた。

「レイちゃんみてみて」

 フィーネはそう言ってユニコーンをブラッシングしている。ユニコーンもご主人に手入れをしてもらっているのが気持ちいいのか、かなり警戒心がない。

「とっても似合ってるぞ」

 レイジはそんな無垢な少女と神獣との一面を見て顔をほころばせた。それはもう誰が見ても兄バカだと分かるほどに。

「私の使い魔が見当たらないんだけど」

 紅茶を飲んだルイズは思い出したようにそう口にした。

「サイトなら給仕の手伝いをしてると思うが」

 そう言ってレイジは立ち上がって周りを見渡した。それにつられてルイズも周りを見渡し、給仕のメイドに鼻を伸ばしているところを発見した。これにルイズの眉はつり上がった。

「ちょっとバカ使い魔! なにやってんのよ!!」

「へ?」

 ズカズカといった様相で登場したルイズにサイトは虚をつかれた顔をした。

「ルイズ、君の使い魔には品がないね」

 ギーシュはサイトの間の抜けた顔を見て口を開いた。その横には一年生の女子がよりそっている。

「はぁ? なんだお前」

 サイトは初対面の相手から言われるには失礼な発言に表情を改めて、ギーシュを睨みつけた。

「平民の君が貴族であるボクにそんな口の利き方をしていいと思っているのかい? そう思わないかいケティ?」

 サイトの睨みなどまったく効いていないギーシュは隣の女子生徒に顔を向けた。

「そうよ、ギーシュさまに失礼よ」

 ギーシュはお前呼ばわりされたのが少し癪に障った。

「女を連れて偉そうにしやがって、どうせ親の金で散財してるだけのくせに」

 サイトはサイトでギーシュのキザったらしい振る舞いが気に入らないようで、ボソリと口を滑らせた。

「ルイズ、使い魔の躾が足りてないんじゃあないかな?」

 サイトの文句にギーシュは眉根を釣り上げた。

「しょうがないでしょ、昨日は『コントラクトサーヴァント』のときくらいしか一緒にいなかったのよ」

「文句があるなら直接言いやがれ、軟弱金髪わかめ!」

 無視されたと思ったサイトはさらに言葉を重ねた。これにはギーシュの堪忍袋の尾が切れた。

「もう怒ったぞ。決闘だ!!」

「やってやるよ、貧弱軟派貴族!!」

「でも決闘は生徒同士では禁止されてるわよ」

 場違いでおっとりとした声でキュルケがギーシュに言う。

「この平民は生徒じゃない」

 ギーシュは即座にそう言い返す。

「確かに」

 これにキュルケは納得した。

「待て待て!」

 遅ればせながらフィーネとユニコーンに見入っていたレイジが、大きな声に気付いてこれを止めに入った。

 今日は午後が丸々休みなのだ。なのにこんなくだらないことで騒がれてはたまったものではない。

「止めないでくれ、我が友よ」

「そうだ、止めんな!」

 二人共頭に血がのぼっているらしく、顔を真っ赤に怒っている。

「話を聞け」

 レイジはそんな二人に対して底冷えする声を出す。ギーシュはこの声を聞きすぐに顔から血の気が引いたが、サイトは未だに冷静になっていないようだ。

「なんだよ、あんたも決闘するのか? それなら受けて立つぞ!」

「君、その言葉を取り消したまえ!!」

 すぐ先まで敵対していたギーシュが逆にサイトに助言を送っている。

「なんでだ……よ。すみません……」

 レイジの出す雰囲気を遂に感じ取ったサイトはなぜか頭を下げた。

「……ギーシュ、いつも言ってるだろ。平民というだけで見下すなと」

「ああ、そうだったね。すまない」

 これにはたとしたギーシュは確かに自身の悪癖がまた出てしまったと思った。

「次にサイト、お前もお前だ」

「何が」

「昨日も少し話しただろ。貴族ってのは短気なんだ。平民の命なんて虫と同じだと考えてる奴が多いんだよ」

「そういえば」

 昨日のことを思い出して、サイトは相槌を打った。

「お前がこのハルケギニア以外から来たことは昨日聞いた。だが、このハルケギニアから戻る方法が分かるまで生きていかなきゃいけないんだろ」

「はい」

 サイトは勢いを完全に殺され素直に返事をした。

「なら、郷に入りては郷に従え」

 サイトの返事にアドバイスを加えた。サイトは首を縦に振った。

「よし、改めて決闘のルールを決めよう」

 サイトのその首肯に満足したのか、レイジは笑顔で宣った。

 え? 

 ギーシュやサイト他の面々も驚いた声を重ねてあげた。

「ギーシュ、今従前に操れるワルキューレの数は?」

「四だが」

 レイジの勢いに押されギーシュはすぐさま答えてしまう。

「よし、なら四体だな。みんな付いて来てくれ」

 レイジはそう言うとヴェストリの広場へと向った。

「レイジなんでまだ決闘を?」

「そうです。レイジさんの説教で彼らは否を認めました」

「そうよ、それにただの平民がメイジに勝てるわけないじゃない」

 キュルケとタバサが不思議そうにレイジに尋ね、ルイズも続いた。

「ギーシュはドットの中でも悪くないが、所詮ドットだ。魔法による連携がまだまだ甘い。訓練の一貫さ。サイトは一応使い魔なんだ。主を守れるようになってもらわなきゃな」

 

 

「ルールは簡単。ギーシュはサイトの剣を手から落とせば勝ち、サイトはワルキューレ四体を倒せば勝ちだ」

 ヴェストリの広場では決闘という名の訓練が始まろうとしていた。ギーシュの目の前にはすでに青銅の棒を持ったワルキューレが四体並んで立っている。一方のサイトの手にはレイジが錬金した鉄の片手剣が握られており、左手の甲がほのかに、確かな光を帯びている。彼らの間は20メイルほど離れている。

「わかったよ。平民君悪いが手加減はしないよ」

 ギーシュが了承した。

「わかった。そんなのいらねぇ!」

 続いてサイトも了承。

「では、はじめ!!」

 レイジの掛け声で動き出したのはギーシュのワルキューレだ。四体のゴーレムはサイトを囲うようにして散開。扇状に展開しサイトを徐々に追い詰めていく。

 サイトは散開した敵を見据えて、自身のうちから湧き上がる不思議な力に内心驚いていた。剣など振るったこともないが、今の自分には目の前のワルキューレを簡単に屠ることのできる力があると確信した。使い魔は主を守るのが使命だ。

 女の子を守るナイトさまになってやるよ!!

 サイトは自身を鼓舞して一番右にいたワルキューレに向けて駆け出した。5メイルはあった距離を一息に踏み込んで右から袈裟斬りに振り抜く。ギーシュのワルキューレは棒で防御の体勢を取る。しかしサイトの剣はその棒を両断した。袈裟斬りのあとすぐさま逆袈裟斬りで一体目のワルキューレを叩き切った。後ろと横から迫る金属音にサイトは振り向いて、三つの棒の突きを二つ躱すが、一つは胸に受けてしまった。

「うっ……まだまだ!」

 気合いを入れ直すようにしてサイトはワルキューレの各個撃破を狙う。しかし先とは違いワルキューレの動きは連携を取っており、サイトに反撃の隙を与えない攻撃間隔だ。ワルキューレの数が減るとそれを操作するギーシュの負担も減るのだ。

「なかなかやるじゃないか」

 ギーシュも先手は取られワルキューレ一体を失ったものの、動きが素人のそれとわかると数の優位をうまく使って立ち回り始めた。その結果サイトは反撃の機会をなかなか見つけられないままジリジリと体力を減らしている。

 サイトの左手の光はまだ消えてはいない。しかし確実に開始した当初の光り方よりも弱弱しくなっていることは明らかだった。

「くそ! なめられたまま終われるかよ!!」

 サイトはギーシュの先方の前に何度か打撃を受けるも歯を食いしばって立ち向かう。

 こんな軟弱な見た目のやつ負けてたまるか!!

 サイトの気持ちが声に出すことによってふたたび高ぶりを取り戻す。

 左手の輝きが増し三体の連携で攻撃してきたワルキューレの一体をいままでの動きが嘘だったかのように滑らかな動きで躱し、そして剣を振るった。突如の動きの変化にワルキューレは着いていけない。ギーシュの焦りのようにワルキューレが再度左右同時にサイトめがけて飛び込んだ。しかしサイトはその左右からの攻撃を避け横薙ぎの一閃で二体同時に切り裂いたに見えた。

 やった!

 サイトは心の中で勝利を確信する。だがそれはとても大きな油断。

 だが最後の一閃はサイトが出すにはまだ大振りすぎる攻撃だった。二体の攻撃を避けてからのわずかな隙でワルキューレの内一体はサイトの攻撃を、エモノを犠牲にして致命傷を避けていた。大振りすぎる攻撃をした付けで技後の隙が著しく発生し、致命傷を避けたワルキューレは体勢の不安定なサイトにタックルをして抑え込み、手から剣を奪い取り、彼の首に添えた。

「そこまで、勝者ギーシュ」

 レイジは固唾をのんで見守っていたギャラリーの静寂を破り勝者の名を口にした。

 それと同時にギーシュがこんなにも強くなっていることを知らなかったギャラリーは彼に祝福の言葉を送っている。一方のサイトは誰からも期待はされていなかったものの見事な奮戦に数名が声をかけた。

「サイト、あんたはよくやったわ」

「戦いの素人の平民がメイジであるギーシュにあれだけ善戦したのはすごいことだ」

 ルイズはメイジとの決闘で軽い打撲程度のけがで済んでほっとしていた。レイジも剣も握ったことのない素人がルーンの力を使ったとはいえ最後の一体まで追い詰めたのは褒めることだと思っていた。

 ギーシュはここ半年ほどレイジと朝の鍛錬を行っていたことが勝因だろう。努力が嫌いそうな彼が鍛錬を始めたのは、単に同い年の者が毎日鍛錬を行っていることに驚き、強さは才能だけでないと感じたからだろう。

「だけど負けた」

「そうだ、だが次がある。お前は生きているんだ」

「? そうだな。レイジ、あんた強いんだろ? おれを鍛えてくれよ。負けたまんまじゃ終われねぇ!!」

「ああ、いいぞ」

 レイジは座り込んでいたサイトに手を伸ばす、サイトもその手を取って立ち上がった。

「君、サイトといったかい? いい戦いだったよ」

 ギーシュは先も隣にいた少女を隣に侍らせてサイトの前に現れた。レイジはモンモランシーはいいのか、と遅い疑問を抱いた。

「……悪かったな。貧弱軟派貴族っての取り消すよ」

 そういってサイトはギーシュに手を伸ばした。

「こちらこそ平民というだけでなめていたよ。君には気概が感じられる。仲良くできそうだ」

 ギーシュも奮戦した戦士に敬意を払いその手を取り、互いに握手をした。

「ギーシュ!!!」

 そんな男の友情に水を差すような少女の声がした。ギーシュの肩が跳ね上がる。恐る恐る彼は背後の声の主を確認した。確認するまでもなくわかってたが。

「モ、モンモランシー。こ、ここれはだね――」

 ギーシュはしどろもどろになりながらも背後にいた金髪縦ロールの少女に弁明を試みた。

「その子とまた一緒にいる理由は後で聞きます」

 だがギーシュの決死の言い訳を華麗に無視し、彼の首根っこを掴むと肩をいからせどこかへ引きずって行ってしまった。

「……あの子は?」

「ギーシュの彼女さ」

 サイトの短い質問に、レイジもまた簡潔に答えたのだった。

 




ギーシュ強化計画。サイト強化計画。
前話の最後にルイズとサイトはコントラクト・サーヴァントを終えており、その後にレイジを交えた三人で話を少しした状態です。
サイトと話す言語は、サイトには日本語にレイジたちにはハルケギニアの言葉となって聞こえていることにしています。
原作でもそこの描写がなかった気がするので。
あれば教えていただけると描写を改善したいと思います。
レイジが第一話でハルケギニアの言葉がわかったのは......ご都合ですね。

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