ゼロの使い魔で転生記 作:鴉鷺
冬の肌寒い空気が今なお残るが、春の日差しが眩しく暖かくも感じる季節。各国の魔法学院では新たに入学する貴族の子女を迎え入れていた。というのも魔法学院は全寮制であるからに、既に部屋割りなどは決められているのだ。
トリステイン魔法学院は本塔と周りの五角形の頂点にある五つの塔からなる学院だ。それぞれに土水火風、寮塔となっている。
留学生であるレイジ、フィーネ、キュルケもその例にはもれず、入学の手続きを済ませた後、割り振られた各々の部屋へと歩みを進めていた。
そもそもレイジが魔法学院から、何かを学ぶということはほぼ皆無だろう。貴族子女は魔法学院を卒業しなければならない、などという規定がなければ通っていなかったかもしれない。いや、フィーネが通っていたならば迷わず通っていたことは否めない。
結局レイジが魔法学院ですべきだと思っていることは、コネクションを増やすことである。人間関係が多いほど情報も多く得れ、後々役に立つのだ。やはり情報とは古今東西最大最強の武器足りえるのだから。
レイジにしては珍しくマントを羽織っており、肩で風を切って魔法学院の廊下を歩く。マントには鎖骨あたりの結び目に、魔法学院の意匠があしらわれている。男子寮は本塔にありレイジの部屋は5階にと高所とのことだ。自身のドアの前で預かった鍵を使って開ける。別に鍵なぞなくとも魔法で開閉錠できるが、これもまた様式美ということだろう。
「やぁ、はじめましてだね。隣室になるギーシュ・ド・グラモンだ。よろしく頼むよ」
そう思って扉を開こうとした時に声をかけられたのでレイジは声の主へと向き直った。ミディアムの金髪に少しウェーブがかかっており、口には薔薇を咥えている。
トゲが危ないだろう。
レイジはそう思ったが口には出さずに自己紹介を返した。
「はじめまして、レイジ・フォン・ザクセスだ」
レイジはギーシュに手を伸ばした。
「フォン? 君はゲルマニアからの留学生かい?」
「ああ、そういうことになる。オレの他にも女子が二人留学してきてる」
「ふむ」
レイジはギーシュを再度見てやはりキザったらしい口調だな、と心の中で苦笑いした。
これもある種のアイデンティティである。
また後でと言うセリフとともに、レイジは部屋の中へと入っていった。
学院長であるオスマンからの入学の挨拶も早々に終わり、各員は早速割り振られたクラスへと分かれていく。レイジもその波に従って、自身のクラスへとどうやら同じクラスのギーシュと肩を並べて行く。
すると前に人だかりを発見した。ギーシュとレイジは何だ、とばかりにその人だかりに割って入って、中心にいる人物を見た。腰まであろうかというほどの長いピンクブロンドヘアーの小さな少女がそこにいた。
「あ、レイジ」
ルイズは知人を発見して声を上げた。公爵家の令嬢であるルイズは、その類まれなる可憐さと肩書きから男子に囲まれ目を回していたのだ。取り囲んでいた周りの男子は、お目当ての少女が発した名前の人物を一斉に見た。ルイズには既に手紙でこの学院に来ることは伝えてある。
「久しぶりだな」
「知り合いなのかい?」
ギーシュはゲルマニアの貴族であるレイジと、名家ヴァリエール家の令嬢であるルイズとの接点が、皆目見当つかずにレイジに質問をした。その質問にはギーシュだけでなく周りの男子も興味津々だ。
「ああ、何年か居候させてもらったんだよ」
レイジはそう言って肩を竦めてみせた。
「それだけじゃないでしょ」
ルイズは結局あの別れ以来会っていない、レイジを半眼で睨みつけた。
「そうだ。カトレアはあれから大事ないか?」
政略的な面があるにせよ、婚約者は婚約者ということで具合を聞く。
「大丈夫よ。あんたの秘薬は本当に効果があったみたい」
何故かルイズは少々悔しそうな顔をする。自身に力があれば大好きな姉を直せたと思っているのだろう。実際のところカトレアの症状は完全に治っている。魔法学院に一緒に行こうとルイズが言うものの、結局公爵に大事をとって家に残されたのだ。
「ふーむ」
ギーシュはどこか納得した表情でうなった。
その後ルイズと少しだけ言葉を交わして、それぞれのクラスへと向かった。
ルイズとフィーネはイルのクラスで、キュルケはソーンのクラス。レイジとギーシュはシゲルのクラスとなっている。
広場にてお茶をダラダラしている最中に、何日かですっかり意気投合したレイジに、ギーシュは唐突に発言した。
「レイジ、君って有名なんだね」
「なんだ唐突に」
ギーシュの唐突な発言にレイジは疑問を持つ。
「ゲルマニアのレイジ・フォン・ザクセス、といえば昔、神童と言われているのを聞いたことを思い出したよ」
そんなこともあった、とレイジは昔を思い出すように頷いた。
「ああ、確かに言われてたな」
しかしトリステインまで、その名が広がっているとは思いもしなかった。ヴァリエール公爵家は隣接しているので知っていて不思議ではない。しかしトリステインの名家ではあるが、グラモン家にも届いてるとは思わなかったのだ。
「父上が杖を持たせてくれてから、何年かあとにそれを言ってきたんだよ。ゲルマニアの貴族なんかに負けるな、とね」
ギーシュの父は軍の元帥を務める人物世情は自然と耳に入ってくるのだろう。そして、息子を鼓舞するためのダシにレイジはされたというわけだ。
「へぇ、それでギーシュは魔法の腕が上がったのか?」
ギーシュは肩を竦めて見せた。
「まぁ、少々ね」
どうやらそこまで効果はなかったようだ。
「実際にオレにあった感想は?」
「噂に偽りなしって感じだよ。最初はゲルマニア貴族で性格が悪い奴だろうと思っていたが、そんなことはなかったよ」
「そいつは良かった。これからもよろしくな」
レイジはにぃっと笑って言った。
「こちらこそ、君といるとさらに女の子に会えそうだからね」
実にギーシュらしい理由だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
学院入学から半月ほど経過した頃、フレッグ舞踏会が催されることとなった。この舞踏会は毎年行われ、主に新入生の歓迎会といった風な捉え方がされている。
学院入学から半月も経つと大体がグループを形成している。仲良くなった者どうしでつるむのはどこも変わらないようだ。舞踏会は男女で踊ることとなる。貴族の子息たちはお目当ての息女に猛烈にアタックをかけている。大体が歯の浮きそうなセリフの押収なのだ。特にギーシュなぞ目も当てられないほどに、キザったらしく言葉を発していた。
「ああ!! そこに麗しく咲く一輪の薔薇であるフロイライン。どうか僕と一曲踊っていただけないだろうか」
ギーシュは薔薇が好きなようで、大体薔薇と言う花を引用してはその甘いマスクで声をかけている。それも入学して大体毎日飽きずにナンパしているのだから、彼のメンタルは相当なものだろう。その精神力を魔法に活かせば更なる飛躍が望めるんじゃないか、とレイジは傍観者であるがゆえに思っていた。それと同時にフィーネを誘うかという思い。体重をかけていた壁から離れた。
「やぁレディ、一曲踊ってくれないかい」
レイジは簡素なフィーネに誘い文句を言った。
「喜んで」
レイジとフィーネが一曲踊り終えた頃。レイジは上級生同級生問わず、男子生徒に囲まれたまるで女王のようなキュルケを発見し、声をかけようと思い歩を進めたが、どこからか風の揺らぎという違和感をもった。魔法を行使しようという前兆のようなものだ。そう感じる元を見た瞬間に完全に魔法が発動したのを感知した。かなり出力の弱い『エア・カッター』だと看破し、杖である指輪によって瞬時に風の刃を霧散させる。スクエアメイジのレイジにとってはこの程度の魔法にしっかりとした魔法を使うまでもないのだ。
しかし、瞬時に起きた魔法に対処はしたが完全には間に合わず、その風の刃によって局部以外のドレスを切り裂かれたキュルケを見て、男子生徒は各々の驚きの声を上げつつも紳士ゆえ食い入るように見、女子生徒は悲鳴を上げた。
ドレスを裂かれたキュルケはどうということはないという表情をしているが、レイジには見えた。その目に怒りの炎を燃やしていることを、と思うと同時に適当なカーテンをキュルケに放り投げた。
「あら、ありがとうレイジ」
にこやかな表情で礼をするキュルケ。レイジはちょっとため息をつきたくなった。キュルケはどうやらかなりキテいるようだ。これはどこかで小火または火事が起こるという悪寒をひしひしと感じつつ、その衣装のまま壁際のソファに座るキュルケを見た。
キュルケは入学してからこの短い期間で既にクラスでの地位を確立いていた。圧倒的なプロポーションによって、男子生徒の目線すべてを釘付けにしているのだから、嫉妬深いトリステインの女性にはさぞ鬱陶しい存在だったろう。
キュルケは入学してそうそう三股をかけていたのだ。
一人目はすれ違いざまの流し目。
二人目はワザと胸を押し付ける。
三人目は足を組んだだけ。
その所作一つで彼らはキュルケに交際を申し込んだ。キュルケも役所の人が手続き印を押すように、その申し出を了承したのだ。彼ら三人は途端に決闘騒ぎを起こした後、三人目の勝利で騒ぎが終わると思われたが……。
キュルケは四人目を作っていたのだ。完全にトリステイン男子を手玉にとって遊んでいる、と傍から見ていたレイジは苦笑いした。そしてゲルマニアの魔法学院でも、同様のことを重ねてきたに違いないとも思ったのだ。
レイジはそれだけで終わるが、キュルケに好きな人を弄ばれた少女たちは煮え湯を飲まされた気分に収まりがつかなかったのだ。それゆえのこの注目が集まるだろう舞踏会を狙って恥をかかせる計画だったのだろう。本当は彼女らは服を全部切り裂く予定だったのだが、レイジに阻止されてしまったというわけだ。などと原因の考察をしていると、キュルケの前に一人の少年が立っていた。トリステインの純情ボーイにしては珍しく、きわどい衣装となったキュルケの前にいるのだ。
レイジは気になって遠巻きにその二人のやり取りを観察した。すると少年は懐から何かをキュルケに見せた。キュルケはその手にある何かを見たあと、会場を見渡し、ある一点で止まった。レイジもその止まった一点を見た。そこには珍しい長い青い髪を後頭部で結っている、背丈の小さい少女がいた。それを見てレイジは眉をひそめた。それも一瞬で、すぐに思い出す。あの時ファンガルの森で出会った少女――シャルロットだったのだ。そして同時に、あれがタバサであることも気づいたのだった。その後もう一度キュルケを見たが、どこかに少年は消えていしまっていた。
結局それからは舞踏会自体なあなあのうちに終わってしまった。
翌日の夜中、レイジはキュルケに呼び出しを食らった。
場所はヴェストリの広場だ。
「おい、キュルケ。こんな夜更けになんだってんだ」
レイジはかなり鬱陶しそうな表情を隠そうともしていない。キュルケにこんな態度が取れる学生は彼くらいだろう。
「悪いわね。決闘の立会人をしてもらいたいのよ」
キュルケは悪びれずにそうのたまった。
「わたしからもお願いします」
キュルケに続き、青髪の少女タバサが口を開いた。最小限の言葉だ。レイジはそれを聞いてちょっと雰囲気が変わったな、と感じた。
「決闘だと? 理由を言ってみろよ」
レイジは了承する前に決闘の理由を問うた。
「あなたも知ってるでしょう? 昨日赤っ恥をかかされたのよ、この子に」
そう言ってキュルケは杖を胸の谷間から抜いた。
「わたしの本をこの人が燃やしたんです。全部こげてました」
タバサはそう言って身の丈を超える杖を構えた。
「なるほどねぇ。一つ言っとくがキュルケ、お前のドレスと切り裂いた魔法はこの子がやったんじゃないからな」
レイジは魔法を行使した人物を見てはいないが、感覚でわかっているのだ。
「え? どういうことよ」
さすがのキュルケもレイジの言葉は信頼に値するようで、聞き返す。
「オレがお前より魔法がうまく使えることは知ってるだろ?」
無言で頷くキュルケ。
「この子はその魔法を使った奴とは感じが違うんだよ」
なぜそんなことが分かるのか、とキュルケは言わない。
「でだ、キュルケは人の大事なものは奪わない主義だ。それにこいつはこう見えてもトライアングルだからな、焦げる程度じゃないぞ」
レイジは続けてタバサの方を向いて話す。
「……」
タバサもレイジの言わんとすることがわかったらしい。
「な~んだ。勘違いってこと?」
キュルケは興が冷めたというふうに落胆した。
「どうして一番は奪わないんですか?」
タバサはさらに理由が欲しいようだ。それはそうだ、付き合いのない人物の性格や主義など知るわけもない。
「命のやりとりになっちゃうでしょう? そんなのめんどうじゃない」
キュルケはそう言って微笑んだ。タバサもキュルケの笑につられ微笑む。
「あなた、そうしている方が可愛いじゃない」
レイジは顛末を見て、やれやれといった調子でため息をついた。そして後方の茂みで声がするのを耳聡く聞き取った。聞き取った彼は茂みに隠れたモノからは消えたような速度で移動して後ろに回り込み、茂みから全員を広場にと放り投げた。
少年少女らの悲鳴が広場に響く。
彼らの目の前には怒りの炎を目に灯したキュルケと、冷厳な目をしたタバサがいる。そして後方にはいつの間にか自分たちの後ろに回り込んだ、口角を釣り上げる赤い悪魔がいた。
ことの顛末を簡潔にまとめると彼らは髪と服を燃やされて塔から吊るされたのだった。
翌朝。彼らは無事救助された。犯人を聞いた先生には全員が自分でぶら下がったと供述している。ゆえに、このことをしでかした犯人は不明のまま流されたのだった。
タバサは最低限は話すようになっています。これは原作よりも喪失の度合いが下がった影響です。あと髪切ってませんし、メガネもかけていません。
次は原作開始と行きたいところですが、まだ一年生編をやるかもしれません。ルイズとかとの絡みがほぼ皆無なんで、そこらのエピソードが思いついたらそっちを書きます。
なんとなくSAOの二次も始めたんで、興味があったら見ていただけると嬉しいです。
まぁ現状一話だけなんですが(笑)