ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第三十九話 秘薬の材料集め

 カリンの試験に合格し、「烈風」の二つ名とともに仮面をもらったレイジは、次の日には馬上の人となっていた。試験の夜に旅の準備を完了し、カトレアとルイズに少々の別れを告げて旅立ったのだ。

 最初の材料集めとして、レイジは公爵の紹介状を持ってラグドリアン湖の管理をしている、ド・モンモランシ伯爵邸へと来ていた。まずは一番難題であろう水の精霊の涙を求めてということだ。

 応接間でレイジはモンモランシ伯爵に挨拶をしつつ、ヴァリエール公爵より賜った手紙を渡した。

 

「なるほど、ヴァリエール公爵からの頼みとあらば、仕方あるまい。それに娘にも水の精霊を呼べるようになってもらわねばならんからな」

 

 伯爵はひとつ頷くと娘の名を呼んだ。すると数秒後にルイズと同じぐらいだろう年で、金髪縦ロールの少々のそばかすが顔にある少女が、応接室へと現れた。

 少々おずおずといった感じでレイジの前へと歩み出て自己紹介をした。

 

「モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシです」

 

 レイジももう一度自己紹介をした。

 

「レイジ・フォン・ザクセスです」

 

 簡素な自己紹介も終わり伯爵は本題に入る。

 

「モンモランシー。ラグドリアン湖にて水の精霊を呼んでもらう」

 

 それを聞きモンモランシーは両の手をギュッと固くに胸の前で握った。察するに前々から言われていたことなのだろう、とレイジは思った。

 

「わかりました」

 

 時刻も昼を過ぎたばかりだったので伯爵先導のもと、一路ラグドリアン湖へ馬車で一刻程かけて向かった。

 

「レ、レイジはゲルマニアの貴族なの?」

 

 モンモランシーが馬車の移動中に、先程から疑問に思っていたことをレイジに質問した。

 

「ああ、そうだよ」

 

「そうなんだ」

 

 馬車の中での会話はこれで終わってしまった。ほどなくして三人を乗せた馬車は湖畔の村に着いた。レイジは馬車から降りて湖を見た。その湖は太陽の光を反射して七色に輝いているように見える。それほどに美しい湖だった。

 

「領主様どうなすったんで?」

 

 村長らしき人物が伯爵に話しかける。

 

「きにするな。精霊に会いに来ただけだ」

 

 レイジは精霊にそんな態度でいいのかという疑問を持ったが、古くからの付き合いがあるのだから、いいのだろうと思い込んだ。

 三人は湖畔へと足を向ける。レイジは再度ラグドリアン湖の澄んだ水を見て感嘆した。

 

「では、モンモランシー教えた通りにやってみなさい」

 

 伯爵はモンモランシーの肩を軽く叩いてあげ、自身の使い魔を彼女の目の前に移動させた。モンモランシーは針で指を指し、血を少々出す。その血を伯爵の使い魔に一滴だけ垂らす。

 

「お願い。旧く、えらい精霊のところに盟約の一人が話をしたい、って言ってると伝えて欲しいの」

 

 伯爵の使い魔はモンモランシーの言葉を聞き湖へと潜っていった。

 使い魔が湖面より顔を出したとき湖が光を発する。

 

「わたしは、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。旧き盟約の家系です。わたしたちに分かる姿と言葉で返事をしてください」

 

 モンモランシーの言葉を聞くと湖面が蠢き、モンモランシーと水で同じ姿を模した姿に変わる。

 

「初めて見る単なる者よ。貴様の話とは何だ」

 

 モンモランシーは精霊に気圧されてしまった。レイジはそれを見て言葉を代わりに返した。

 

「私が話します」

 

 水の精霊の意識が横に立っていたレイジへと向く。

 

「話してみよ」

 

「単刀直入に言います。私の家族が奇病を患っているので、治すための秘薬の調合に、あなたの体の一部をいただきたいのです」

 

 レイジは小細工なしに水の精霊に頼んだ。しばしの沈黙の後に精霊は答えを返した。

 

「いいだろう。ただし条件がある」

 

「なんでしょうか」

 

「ここより東の湖畔の洞窟、100リーグほどか……に住まう魔物が暴れまわっている。その影響で血が湖に流れ込んできている。その現況である魔物を討伐してきたならば、貴様に我の一部をやろう」

 

 レイジは何を言われるかと思っていたのだが、魔物討伐という簡単なことでいいのかと、胸を撫で下ろした。

 

「分かりました。今日中にはその魔物、討伐してみせましょう」

 

「魔物は水竜だ。頼んだぞ」

 

 水の精霊はそう言い残し水面に消えていった。

 レイジは精霊の最後の言葉を聞いて楽しみだという感想を抱いた。レイジが水竜と戦ったことなどない。水竜は竜種の中でも巨躯を誇るという。しかし、負ける気なぞさらさらないなにせ彼は「烈風」なのだから。

 

「水竜!? 無茶よ、レイジ!」

 

 モンモランシーは水竜と聞いてレイジにやめるように言った。伯爵も同じ考えのようだ。

 

「問題ない。東の湖畔の洞窟か。よし。伯爵達は戻っておいてください。自分が直ぐに始末してくるので、心配ご無用」

 

 レイジはそう言い残して、一人湖沿いに馬にまたがって東へと進んでいった。

そのなんの迷いもない動きに、伯爵とモンモランシーは呆気にとられて、止める間もなかった。

 

「なんてことだ。なにかあったら私が公爵に言われるのだぞ」

 

 伯爵は直ぐに邸宅へと戻り、隊を編成することを決めた。水竜に子供のメイジが勝てるはずがない。そういう当たり前の考えだ。

 

「お父様……」

 

 モンモランシーもレイジの後ろ姿だけ見て心配そうに伯爵へと話しかける。

 一方のレイジは久しぶりの大物の魔物との戦闘で、カリンに負けた腹いせを晴らそうとしていた。例えそれが巨大な竜相手だったとしても、だ。

 

「暴れる水竜か、一体どんなやつなんだか」

 

 レイジは馬に鞭打ち湖畔を疾走していった。結局例の東の湖畔にある洞窟を見つけたのは半刻強馬を襲歩させたところだった。

 その洞窟の入口は優に20メイルはあるほどに巨大だった。レイジは馬を茂みに入れて降りる。屈伸を数回して洞窟の中へと足を踏み入れる。洞窟の入口からは陸がない。よってレイジは『フライ』で移動することにした。明かりは付けず、風と音のみを頼りにレイジは洞窟を進んでいく。進むにつれ、ある位置から腐臭が漂うようになってきたのを、レイジの鼻は捉えた。

 レイジは水竜の食べカスの腐敗臭だろうと当たりをつけた。洞窟を進み続けると大きな空洞にたどり着く。そこは太陽の光が所々に差し込んでいるが、暗い場所でもあった。そして洞窟の最奥であり、初めて陸がある。一面砂浜のようだ。そして動物の骨などが散乱している。

 予想通り水竜の寝座といった様相だ。レイジは片膝をついて糞に手を近づけた。糞は新しいものだが冷え切っており、先まで水竜がいなかったことを物語っている。

そこでレイジの耳が巨大な物体が水を移動している音を拾う。レイジは短剣を腰から引き抜いて臨戦態勢へと移行する。移行してから十数秒。

 それは現れた。レイジの暗順応をした目に、20メイルはあろうかという程の巨体を映した。その口には巨大な何か特定できない生き物がくわえられている。その姿はどこかワニのようだが、足はヒレの形状をしている。しかしそれを器用に足換わりにしてレイジを睥睨する。

 水竜にとってみれば招かれざる客という立場で有り、不法に侵入してきた人間なのだ。水竜はくわえたものを落として、耳をつんざく咆哮をした。

レイジはその咆哮を『サイレント』で防ぎつつ、大きさに仰天した。水竜は再度息を吸い込む。

 レイジは砂の上を横っ飛びに跳ぶ。いつもよりも距離が出ない。ため、『マテリアルエア』を使って距離を稼ぐ。レイジが先までいた場所には、水竜が放った高圧縮の水が砂を抉りとっていた。

 レイジはそんなことはお構いなしに短剣にブレイドを纏わせ、『マテリアルエア』を並行して使って水竜に接近。水竜は水の高圧縮弾を幾重に繰り出すが、全てレイジに立体機動に躱される。レイジは水竜の圧縮弾を危なげなく躱して懐に潜り込む。水竜が圧縮弾を放つのを見て、それを避けながら交錯する瞬間、伸ばしたブレイドを水竜の首めがけて振る。すると、抵抗など感じないとばかりに刃は水竜の首を両断。

 あたり一面に血の雨を降らせる。

 レイジは『エア・シールド』で雨が止むまで自分を覆った。そしてその血が湖に流れないように魔法を水面にかけた。

 短剣についた血を水で洗い流して風で乾かして納める。そして青白い水竜の犬歯を切断した。

 レイジは洞窟を出て来た道を馬にまたがり帰っていった。

 

 

 

 レイジは元の村へと戻り湖に叫ぶ。

 

「水の精霊!! 水竜は約束通り討伐したぞ!!」

 

 すると数秒後に再度モンモランシーの姿をした水が湖面より浮きだす。レイジは水竜の犬歯を二本地面に転がした。

 

「……なるほど、嘘ではないようだな。よかろう。貴様に我一部分をやろう」

 

 そういうや精霊の一部が弾けるように水滴をレイジに向けて飛ばした。レイジはそれを持っていた瓶で受け止める。

 

「感謝します」

 

 レイジの礼を聞いたが最後。精霊は湖の中へと消えていった。

 

「これで難題一つをクリアってとこか。楽に取れて万々歳だな」

 

 レイジは借りた馬を村人に返して、歩いてモンモランシ伯爵邸へと帰ることにした。その際瓶に『固定化』をかけるのを忘れない。

 レイジが帰りの道を歩いているとメイジの駆る馬が、数匹前方より疾駆してきた。

 

「……レイジ様ですか?」

 

 馬上のメイジは少々当惑しながらも、自分の聞いた容姿にそう人物を発見したので問うてみた。

 

「そうだけど、あんたは?」

 

「モンモランシ伯爵様よりあなた様の保護を頼まれました。セネルです」

 

「? 保護? ああ水竜ならもう討伐したから、今から屋敷に向かうところだ」

 

「え? そ、それはどう言う意味で?」

 

「いや、だから水の精霊の涙は頂いたから、伯爵邸に戻るんだよ」

 

 レイジは頭のがうまく回転していないセネルに、鬱陶しげに声をだした。馬で往復一刻以上も襲歩したのだ。そしてこれから伯爵邸への道も歩きなのだ。体力があるからといって別に疲れないわけではないのだ。

 

「ああ、そうか。いやあたりまえか。伯爵にもう戻ると伝言してくれ」

 

 レイジはなにやら一人納得して、セネルと一緒に来た一人に伯爵への伝言を頼んだ。その一人は馬首を翻して再度馬を駆けさせた。レイジはそれを見つつ、セネルの馬にちゃっかりと乗せてもらい帰りの途についた。

 

「レイジくん、どこか怪我はないかね?」

 

 伯爵はレイジを見た瞬間、真っ先この言葉をかけた。

 

「心配ありがとうございます。しかし自分は怪我ひとつしていないのでご安心を」

 

「そ、そうか」

 

 伯爵はそれきり喋らなくなってしまう。

 直ぐに食事の場も、誰も声を発しない。食事の音だけが響く。

 食後レイジは明日にはここを出る旨を伯爵に伝えて、割り振られた部屋で睡眠を取った。

 

 

 明けて翌日の明朝レイジは朝食をいただいてから、父の愛馬であるイリアスを撫でる。伯爵だけが見送りに出てきた。

 

「つかぬことを聞くが、君が水竜を?」

 

 どうやら昨日の晩からずっと気になっていたことを聞きに来たようだ、とレイジは理解した。

 

「もちろんです」

 

「魔法で?」

 

「魔法で、です」

 

「それは……すごいな」

 

 驚天して言葉が出てこなかったらしい。

 

「ありがとうございます。では」

 

 レイジは伯爵に一応の礼を言うとともに馬に鞭を入れ、駆け出した。

次に向かうべきは、グリンデル山だ。そこの頂上に自生する千年草と呼ばれる薬草がお目当てだ。グリンデル山には多くの亜人系の魔物が住んでいることで有名で、滅多に人は近づかない。

 レイジは馬で一日かけて麓の村まで駆けた。その翌日、レイジは馬を村人に預けて一人で、村人に止められつつも山へ分けいった。レイジは一日かけて山の頂上まで行き、資料に書いてあった特徴の通りの千年草を採取した。採取後すぐに『固定化』をかけて麻袋にしまう。この山での魔物との戦闘は数十に及んだ。しかし全てをブレイド一本で斬り伏せ、山を闊歩したレイジにとっては、山登りが若干こたえる程度だった。

 

 

 三つ目の素材はガイゼル峠に自生する竜胆と呼ばれる花である。竜胆は洞窟内に咲くと言われている。ガイゼル峠もよほどのことがない限り避けられる峠である。ここも魔物の巣窟として有名で、中にはミノタウロスの目撃情報もある。レイジは、竜胆という花は光合成を必要としないのか疑問に思ったが、その疑問を押さえ込んでガイゼル峠に向かった。

 レイジはグリンデル山の村より暁の時刻に出発して、半日かけ峠の村まで来た。村で一晩明かした後に、レイジは峠を駆け上がる。その都度邪魔をするオーク鬼やらコボルトを斬り殺しながら進む。登頂する頃に獣道を発見したレイジはその獣道を切り開いて進む。すると高さ5メイル程の洞窟を発見し、迷いなく中へと突入する。洞窟の奥地で日の光が一条だけ差す場所に、レイジの目的の竜胆が咲いていた。

 そこへ更に洞窟の奥から牛頭の亜人。ミノタウルロスが鼻息荒く、レイジに向かって手に持った大斧で斬りかかる。レイジはそのミノタウロスの重撃を、余裕を持って躱し、心臓にブレイドで伸びた短剣を突き立てる。しかしミノタウロスは再度大斧を振り上げる。 それを見たレイジは大斧を持ったミノタウロスの腕を斬り飛ばし、正中線に沿って唐竹割りを決める。

 レイジは竜胆を採取し、ミノタウロスの死体が残る洞窟をあとにした。竜胆にも『固定化』を忘れずにかける。

 

 

 最後となる薬草は当初どこにあるかも分からなかったが、コボルトの群れの祭壇に希に供物として置かれていることが多いとのことを、旅の途中で情報収集時に知った。よってレイジはコボルトの発見があった場所を手当たり次第に探した。祭壇を作ると言われているシャーマンを見つけ出すまで、コボルト狩りをした。そのせいもあり、一躍謎の仮面メイジは平民の話題をさらっていった。

 結局その供物であるアースハーブは、9個目の群れを消滅させた時に見つけた。

 それはレイジが水の精霊の涙を得てから、実にひと月後のことだった。

 




後半怒涛の端折り

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