ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第三十一話 通称ジュエルブラザーズ(自称)

 フィルを探すこと数分。驚くべきことにフィルは大通りを城に向かって歩いていた。

 

「フィル!!」

 

 オレの呼びかけにフィルは気づいたようで、いつも通りにゆったりとこちらに振り向いた。オレはフィルに向かい歩を進める。

 

「フィルに聞きたいことがある」

 

 このような場面でいうことではないだろう。普通は、危ないから別邸に戻るぞ。などと声をかける場面だ。昼を過ぎそろそろ本格的に接敵するだろう頃合だ。

 

「何かな?」

  

 フィルはフィルで常のペースを保ったままだ。

 

「お前の母は、皇帝陛下の粛清の時の犠牲者か」

 

 先ほど黙考の末に気になったことを聞く。いままで何年も共に過ごしてきたが、オレはフィルの母について、腕輪が形見であることくらいしか聞いたことがない。実際あれこれ故人について聞くのも気が進まなかったというのもある。

 

「……そうだね。それがどうしたんだい?」

 

 フィルは一瞬の間を置いてからオレの質問に肯定した。これによりオレの疑念は十中八九真実だろうと憶測がついてしまった。

 最後の質問だ。これは既に憶測を真実へと導く質問ではない。だが事実確認である質問であろうと、聞かないわけにはいかない。

 

「フィル。お前の父は生きていて、リベリオンにいるな。お前オレたちを謀ったな」

 

「よくわかったね。そうさ、父は生きている。そしてリベリオンの頭目さ。理由を聞いても?」

 

 フィルは観念したとばかりに大仰に肩をすくめてみせる。謀った事に対してはノーコメント。目が一瞬泳いだのだが。

 

「あぁ、だがそこまで深く考えちゃいない。まず疑問に思ったのは今日の朝グビーツ邸跡に行った時だ。人の骨ってのは、家の火災程度じゃ跡形もなく燃え尽きるってことはないのさ。だが、侯爵の遺骨は見つからなかった」

 

 これは朝に思ったことそのままである。

 

「次にリベリオンの目的だ。そもそも聞いたこともない組織だったんだ。急に出てきておかしなことに、帝国の混乱なら各地を荒らせばいいのに帝都を攻めた。ということは帝都に目的があるわけだ。そして帝国にいる人物で恨みをもたれる人物、といえば皇帝陛下が高確率だ。なにしろ大粛清っつう凄まじいものを行ったんだからな。しかも皇帝の親族だけでなく一緒にいた貴族も巻き込んだらしい。」

 

「だけど、それだけじゃボクが間者で父が生きていることにはつながらない。例え母が粛清の被害者であったとしても」

 

 オレの穴がある推理はまだ続く。

 

「そうかな。フィルはオレに一度言ったろう。父はボクでなくボクを通して母を見ていると。しかもフィルのボクという一人称は、父からの期待という圧力で一人前になろうとした証拠だ。しかし問題はそこじゃあない。侯爵は君に奥方を重ねていたほどに愛妻家だ。いや、執着していたんだろう。それほどに愛していた。そして大粛清の被害にあった。これじゃあ恨みを抱いても仕方あるまいよ」

 

 フィルは驚きの表情になる。

 

「そんなことよく覚えていたね」

 

「そういえば手紙もしてたな。友人に」

 

 もう友人宛だとは思わない。思い起こせばフィルは友人の話を一度もしたことがなかったのだ。オレは特に気にも留めていなかったから、今まで気づかなかったんだろう。

 

「そうともあれは友人ではなく父としていたのさ」

ここでオレは表情を緩める。

 

「それで、お前は何しに城に行くつもりだったんだ?」

 

「父に会いに」

 

 オレの表情は今驚愕に染まっているだろう。

 

「何!? グビーツ候が城にいるのか!?」

 これは予想外だ。いや、考えてみれば自分で復讐をしたいに決まっている。フィルは無言で頷く。

 

「その前に父の目的とはっきりと言っておこう。それにまだ父はついていないだろう」

 

「……ああわかった。話してくれ」

 

「まず君を最初に知ったのは、アルデルの森での討伐の時ではないのさ」

 アルデルの森が最初の接触なことは確かだが、それよりも前に伝聞で聞いたのだろう。この場合オレの神童という噂ではない。

 

「ということは……オークか?」

 

 オーク、オレの初めての戦闘からになる。フィルは頷きつつも続ける。

 

「君は突然変異種と呼称しているが特に正式名はないんだ。作った人物から言わせればね。彼は実験好きでね」

 

「彼?」

 

「エルフさ。エルフの名前は確かルクス。母のスキルニルを提供したやつだ」

 

「スキルニルだと!? なら侯爵夫人の、お前の母の血を得ていることになるぞ。……最後は見届けたということか」

 

 スキルニルとは血を媒体とし、人物にそっくりそのままなるという古代魔法人形だ。

 愛する妻の最後を看取ったのだ。絶望はより大きかったのだろう。

 

「話を戻そう。オークはエルフの薬により強化されていた。しかし、君は倒してしまったんだ。簡単に」

 

 短剣でひと振り振り抜いただけであっさり首が落ちたことを思い出す。もともと埋葬されていた短剣だ。しかも強力な魔法がかけられていた。

 

「そこで君は少々警戒された。そのためにボクがアルデルの森の討伐に参加し、君に接触したのさ」

 

「じゃあ火事はどうなる。故意に行われたことなのか?」

オレ自身質問はしたが答えは出ている。

 

「ああ、父が火をかけた。その後行方を眩ませ、粛清により皇帝に対し恨みを抱えた貴族で徒党を組んだ。しかし、皇帝を討つなど万に一つも可能性はない」

 

「そこで、エルフの力を借りたわけか」

 

 エルフの薬によりどういうわけかエルフの言うことは聞くのだろう。薬を使った魔法なのかもしれない。

 突然変異の魔物に群れを形成させ、今日帝都を強襲する。その隙に乗じて貴族たちは悠々と城に向かうわけだ。なにせ閣下は全軍で叩けと命令したのだ。当の閣下は城で護衛はいるだろうがそう多くいるまい。やはり閣下への復讐が目的か。

 ここまで読んでいたのか……。

 読んでいなくともエルフの反射でひとたまりもないだろう。

 

「計画は何年も前から進められていたのさ」

 

「……フィルなんでオレにこのことを伝えた」

 

 オレの質問にフィルはふっと笑った。

 

「ボクはね。始めは父の手駒として君の家に転がり込んださ。だけど、過ごして行く内に、君の話を聞くうちにボクは、変わった」

 

 フィルはどんな思いで敵地だろうオレの家にいたのか。

 フィルはどんな気持ちでオレたちと日々を過ごしたのだろうか。

 

「ボクはね。父のためではなく自分自身のために生きたいと思ったのさ。それを思わせてくれたのは君さ、レイジ。そのために父を止めに行く。母こんなこと望んじゃいないだろう。なんとなくわかるよ」

 

 フィルは落ち着いている。父を止めに行くのだ。衝突は避けられないと知っていながら。何故今になって思い立ったかはわからない。父の居場所を知らなかった、知らされていなかったのかもしれない。ならば今回は計画を止める千載一遇のチャンスになるだろう。

 

「オレは別にそんな大層なことは言ってないけどな。それに止めに行くならオレも連れてけよ。力になること間違いなしだ。家族だろ?」

 

 そうさ少々のことを騙されていたって気にやしない。家族なんだから。いつもの調子が戻ってきた。オレはフィルに、にひっと笑い返す。

 

「ふっ、やはりボクは君に執心のようだ」

 

 どうやらフィルはオレと動向を共にするらしい。

 

「そいつはありがてぇ。こんな美少女に想ってもらえるなんて望外の極みだね。まずは一人称から直したらどうだ?」

 

 フィルの一人称であるボクは父にただ認められたかったのだろう。母とは違う自分を見て欲しかったという気持ちの表れ。

 

「そうしてみるかな」

 

 フィルもいつもの調子が出てきたようだ。

 その直後どこからともなく風切り音が聞こえる。

 なんだ……?

 と思った瞬間何かが刺さる音と共に何かの鈍い肉を裂く音聞こえたのだ。

 目前で。

 

「フィル!? おいしっかりしろ!!」

 

 風のメイジのくせに、オレは周囲の警戒を全くと言っていいほどしていなかったのだ。

フィルの背に魔法で作られた先端の尖った岩が刺さっていた。急所は若干逸れていて即死ではない。しかし、右腕が吹き飛んでいる。すぐに応急処置をしなければいけない状態なのは火を見るより明らか。

 そう判断し終えた瞬間に再度風切り音が聞こえた。その時は反射的にフィルを担いでその場を飛び退いた。焦り混乱した頭で最善を考える。結果敵勢対象をなくす方が良いと結論を出す。結論を瞬時にだしフィルをその場に素早くおろしつつも、指輪の杖を使って自身でも最も強固な『プリズン』をフィルの周りに出現させる。その動作をしつつも屋根の上から降りてきた三人の容姿を目に留める。

 

「くそっ!! なんでお前らがいるんだ。変態兄弟!!」

 

 オレの目の前に現れたのは宝石三兄弟だった。

 

「我らは変態ではない。上半身裸だと気持ちがいいだけだ」

 

 心外そうにサファイアが口を開く。

 くだらないジョークに付き合っている暇はない。確か全員がトライアングルの猛者だ。しかも、裏では意外と有名ななんでも屋と聞いたことがある。分が悪い。だが引くわけにいかない。素早く『エアカッター』を唱え先頭のダイヤに、めがけ打ち込む。しかし簡単に防がれる。

 

「おい、ボウズも殺せと依頼が来ている」

 

 ダイヤがサファイアに注意する。続けざまにルビーがオレに向かって

 

「そんなわけで殺されてくれ」

 

 クソ、何なんだこいつら、依頼だと?

 

「誰に雇われた!!?」

 

「グビーツ侯爵」

 

「何っ!?」

 

 依頼主を答えることにも驚きだが、その依頼主にも驚きだ。我が子を手にかけようってのか……。

 自分の子供を殺せだと?虫唾が走る。反吐が出る。ふざけるなよ。どんな高尚な理由で殺そうってんだ。

 自分でもわかるほどにオレは怒りが芯からこみ上げてくる。ハルケギニアに生まれついて初めてと言っていいだろう心の底からの怒りだ。

 

「てめぇら……オレたち家族の生活はこれから始まるんだ!! 邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 怒りが全身を駆け巡る。感情の爆発は魔力の上限を底上げする。底上げされた魔力はトライアングルからスクエアへと変貌を遂げる。

 推測としては、もう一歩のところだったのだろう。この怒りがトリガーとなりスクエアへとあげたのだ。

 手加減はしない。全力で殺す。トライアングル三人など敵ではない。

 叫んだと同時にオレは指輪を杖として『ウインドジャベリン』を詠唱しつつ、三兄弟からの攻撃を避ける。

 『ウインドジャベリン』はトライアングルからスクエアのスペルとなり変化が生じた。

 風の螺旋はさらにうねりを増し、鑓の周りには雷が這うように形成される。その鑓の様はさながらに神の鑓だ。三乗のスペルを四乗に強化した結果だろう。

 オレは雷鑓を構え、一番動きの遅いサファイアに『ウインドアクセル』で持って斬りかかる。交錯は一瞬サファイアの首が胴から離れる。しかし血は噴出さない。雷鑓の電熱により切り口が一瞬で焼き止められたのだ。

 

「ファイ!! よくも!!」

 

 どうやらサファイアを殺されご立腹のようだ。だが、こんなんじゃ終わりはしない。翻ってダイヤに向かう。

 流石はダイヤだ。オレが到達するよりも早く、最速の突きを魔法で防御の壁作り防御する。が雷鑓の突きにより、いとも容易く貫かれ首から上が消失する。

 防御なんて出来はしない。鉄なんぞじゃオレの怒りは止まらんぞ。

 残ったのはルビーだ。ここでルビーは分が悪いと思ったのか、逃走に移行する。屋根に飛び上がってまこうという魂胆らしい。オレの『ウインドジャベリン』が接近専用だと勘違いしたのだろう。しかし本分は投擲武器だ。

 必中必殺。

 朝とは違い厚い雲がかかった空へと、オレは飛び上がっている最中のルビー目掛け全力で投擲する。

 瞬間、雷鑓はルビーの体を跡形もなく消し飛ばし、雲を突き抜け彼方へと消えていった。

 オレはそれを見届けもせずにフィルのもとへと向かう。魔法を解除し、水の魔法を掛ける。『ヒーリング』はスクエアであればちぎれた腕もすぐであればつながるらしい。   

 オレはトライアングル。だが腕は幸い近場に転がっていた。一応腕の位置に千切とんだ腕を置く。

 一目見てフィルの状態が危ういことがわかる。血が流れすぎている。これでは出血多量で死んでしまう。衣服は真っ赤に染まっている。

 

「フィル!! 大丈夫か!? 安心しろ俺が助けてやる!!」

 

 オレの呼びかけにフィルは薄目を開け反応を返す。

 

「あぁ……。大……丈……ゴホッ」

 

 フィルが言葉を喋りかけ吐血する。岩の槍が肺に刺さったのだろう。

 

「フィル!! 喋らなくていい!! 体力が持たなくなる!!」

 

 オレは『ヒーリング』をかけ続ける。

 

「君の……焦っ……た顔……なんて……初め……て見る……よ」

 

 なおもフィルは口を閉じない。荒い息も途切れることはない。

 

「フィル……大丈夫だ。オレが助けてやるって、安心しろ」

 

 オレは無理に笑い顔を作る。ぎこちない笑顔だろう。

 

「わた……しは……君……と過ご……せて……よか……ったよ」

 

「おいおいおいおい!! まだこれからだろ!? オレたちはこれから始まるんだよ!!」

  

 フィルはふっと笑う。目は虚空を見つめており焦点があっていない。

 

「君に……逢え……てよかった。わ……たし……は君…………」

 

 最期の言葉は声が出ていなかった。口だけが動いていた。

 

「まだだ!! 言い逃げなんてさせやしないぞ!!」

 

 瞬間オレの中に強大な力が湧き上がる。水もスクエアへと上がったと理解した。

 これで!!

 

「これで!!」

 

 必死で『ヒーリング』を掛ける。千切れた腕が接合される。しかしそれが彼女の最期の生命だった。

 もうフィルから荒い吐息もすやすやと寝ている吐息も聞こえやしない。

 もうなにも聞こえやしない。

 オレの頬を雫が伝う。

 唇を噛み締め、血が出る。

 声を押し殺す。

 そうしていたのも僅かな間。フィルの遺体に再度囲いを作る。そして城へと駆け出す。

 慟哭はしない。まだやらなきゃいけないことがある。

 待ってろフィル。終わらせてやる。

 

「クソッ!!」

 




書いていて推理作家ってすごいってことを思いました。
サブタイになった変態三兄弟は即ご退場。

以下オリジナル魔法紹介。
『ウインドジャベリン』風風風→『ブリューナク』風風風風

基本的に『ウインドジャベリン』の完全上位互換で、速度、破壊力、範囲共に向上。単純に『ウインドジャベリン』にさらにうねる風を加え、雷撃を纏わせた。
『ウインドジャベリン』では当たった相手がミンチになるが『ブリューナク』では消し炭か消失。威力的に対城魔法ですね。

感想お待ちしております。

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