ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第二十六話 リッター

スイートロールという強敵に敗れ失意のうちに自分の部屋へと帰り、

 

戸締りも早々にベットの布団に潜り込み熟睡した翌日。

 

「いや~、今日はよく寝たわ」

 

朝宿から出てオレは第一声を伸びをしながら発する。

 

「ここはなかなかの布団を使っていたわね」

 

それに追従してキュルケも感想を言う。

 

「ま、そんなことよりベルトのとこ行ってこのペンダント渡すぞ」

 

ベルトはメイジではないので魔法を感覚で少しも感知できない。

 

風メイジなどと当たった時など一方的だろう。

 

いくらオレと何度も修練をしているとしても、オレとはリッターは錬度が違う。

 

まあベルトがペンダントは使わないというのならそこまでなのだが。

 

歩く道は大通りであり、帝都の街の少し郊外の場所に土メイジで造らせたらしい、

 

石畳の正方形のステージとそこをみるためのスタンドに続く道である。

 

そこに選手控室的なのが近年つくられたとか。

 

そこにベルトはいるだろうからオレ達は激励もするためにおもむく。

 

「ベルト、いるか?」

 

垂れ幕のかかった選手控室を覗き込みながらベルトを呼ぶ。

 

「これはレイジ、よく来てくれました」

 

オレに気づいたベルトは控室から出てきた。

 

「みなさんお揃いで。これは私は頑張らねばなりませんね」

 

そう少し表情を柔らかくしてオレ達をみる。

 

みな異口同音に激励の言葉を掛ける。

 

「ところでベルト、奥さんと子供はどうしたんだよ」

 

「それならば、選手の身内専用の観戦席にいます」

 

「そうか、これはますます負けられないな」

 

そうオレは意地悪そうに笑う。

 

「まったくですよ。ふがいないところなど見せられませんしね。

 ところでレイジその笑いは何ですか?」

 

「レイちゃんの笑いは二種類に分けられるんだよ」

 

ベルトの質問に答えるのはオレではなくフィーである。

 

しかもなぜかオレの笑いの区別の仕方を二種類に大別されてである。

 

「そうかな?ボクはレイジの笑い方は三種類あると思ったけど」

 

こっちはこっちで何かしら意見があるらしい。

 

「私は二種類だと思うけど?」

 

キュルケまで乗ってくる。

 

「おい、オレの笑い方の区別なんて今はいいんだよ」

 

半眼で二人を睨みつつ、

 

「ベルト、これをお前にやる」

 

そう不遜に言いながらペンダントを渡した。

 

「ペンダントですか」

 

「ああ、その中に風石が入ってる」

 

「風石なんて高価なものを?」

 

「そいつはもとではタダだ。気にするな。オレが発掘したやつだからな」

 

他の部分は全て『錬金』で作ったしな。

 

「なるほど、ではあり難く。しかし、何故風石なのですか?」

 

「よくぞ聞いたベルっち」

 

「ベルっち?」

 

「説明しよう! そのペンダントは風石からも分かる通りマジックアイテムである。

 効果としては魔法的なものが、ペンダントの半径三メイルいないに入ったならば、

 自動で『エアシールド』を展開し魔法等を防御してくれるのだ」

 

「成程。また珍妙なものを作ったということですね?」

 

「おい、珍妙とは失敬だな」

 

「いえいえ、褒め言葉ですよ」

 

そう言いつつもベルトは首にペンダントを掛け首から服の中に入れる。

 

「…ベルト的にはこれはありなのか」

 

ふんふん頷きベルトをみる。

 

「なにがありなのですか?」

 

「いや、マジックアイテム使うなんて卑怯だ。

 とか言うかと思ってね。騎士道精神みたいな」

 

「ああ、それなら理由は簡単ですよ。使えるものは極力使えるようにするんです。

 そして、あいては、メイジですから」

 

「なるほどね、時間をとらせて悪かったな。オレらも試合見てるからな」

 

「頑張らせていただきます。ペンダントありがとうございます」

 

そこで会話は終了。踵を返し貴人用の観戦席へと歩みを進める。

 

「ベルトさんはなかなかいい性格をしているかもね」

 

先の会話についてだろう。フィルは話をしだす。

 

「そうかもね。私でも使ってるもの」

 

「そうかもな」

 

「だね」

 

ま、オレも使えるもんは使う主義なのは同意だね。

 

 

 

 

「第一試合はフォルカーって人と闘うみたいだね」

 

「へぇー。その人はメイジなのか?」

 

「それはわからないな」

 

「そりゃそうか」

 

フィル、フィー、キュルケ、イリスと眼下に広がる

 

闘技場を見つつベルトが出てきたので、ついでに相手の名前から適当に連想する。

 

全員ファーストネームしか書かれていないトーナメント表を見ながら、

 

無駄に考察を重ねる。相手の得物はベルトと同じ剣である。

 

オレはそこまで世事に対しての知識はない。

 

なぜなら、日がな一日修行に明け暮れているからである。

 

そんなくだらないことで頭を無駄遣いしていると試合開始の鐘が鳴る。

 

 

ベルトは思った。

 

何を考えていたかと言うと唯一の弟子であるレイジのことをである。

 

レイジは奇妙な子供だ。飲み込みは異様に早く。

 

ときに言葉遊びをするし、皮肉というものも吐く。

 

齢十でここまで成熟した子供をみるのは初めてである。

 

いや、他の大人たちもそう思うだろうことは否定できない。

 

普段は子供っぽいことなどをする。

 

しかし、修行となると目が変わる。顔が変わる。

 

喜々として剣を振るい魔法を飛ばす。

 

今までメイジとは何度か命のやり取りをしたが、

 

10になったレイジには勝てる気がしない。

 

レイジはメイジが最も苦手であろうショートレンジからクロスレンジも、

 

かなりのレベルでこなせるのだから。

 

そんなメイジと何度も試合形式で対戦しているのだから

 

自然とベルト自身の地力も上がってくる。魔法の効率的な避け方他。

 

そこで、意識を眼前の対戦相手に向ける。得物は剣。名前はフォルカー。

 

剣一本でリッターにまでなったベルトと同じ猛者である。

 

歳は三十路を過ぎて何年か…。

 

そこで鐘が高らかに響く。

 

 

 

 

 

鐘が鳴ると同時にベルトとフォルカーなる人物は踏み込む。

 

一戟目はどちらも上段の振り下ろし。

 

刃引きしてある剣だが当たれば大けが間違いなしである。

 

数合打ち合う中でベルトが押し始める。

 

速さは互角だが、力はどうやらベルトに分があるようだ。

 

そんなことを思いこの勝負はベルトの勝ちだな。

 

キィンという金属のぶつかる大きな音の数拍後に終わりの鐘が鳴る。

 

 

 

 

昼食事に

 

「ベルトはやっぱりつよいわね」

 

アピールしようかしら。

 

などとふざけたことをぬかしながらキュルケはベルトに話しかける。

 

「レイちゃんなんでそんな顔してるの?」

 

「あ?いや、キュルケがまたバカやってるなと思ってな」

 

「何がバカよ」

 

キュルケの講義を聞き流し、オレがベルトに尋ねる。

 

「ベルト、次は決勝だろ?」

 

「はい、そうです。」

 

「なら、それを勝てばメイジ以外のリッターではベルトが一番強いわけだ」

 

ま、今でもベスト2だけどな。と付け加える。

 

「そういうことになりますね」

 

照れ隠しの苦笑いを見て

 

「なんなら優勝しろよ。メイジの一位も倒してな」

 

そうニヤリと笑う。

 

「それができたら、私は平民のヒーローってとこですね」

 

珍しくベルトもニヤリ顔をしている。

 

「ペンダントで不意を突けばいけそうな気がするけどな。

 

一時的に魔法効かないわけだ。当然クロスレンジで潰せばいい」

 

「ペンダントがカギを握るわけだ」

 

「ま、この策は次の決勝に勝ってからだな」

 

そう締めくくりブイヤベースを胃に流し込む。

 

 

 

ベルトはなんとか平民リッタートーナメントで優勝することができた。

 

明日はメイジリッターとのエキシビションマッチである。

 

なんだかんだいって盛り上がる首都の一大行事の幕引きの試合。

 

平民の注目度が高い。

 

英雄が生まれるかもしれないからというのもあるが、

 

一応は魔法にも抗えることが示されるからでもある。

 

夜にベルト優勝祝賀会をしてこの世界に来て初めて酒を飲み、

 

オレの体は酒をかなり飲んでも素面で行けることが分かった。

 

他は寝てしまって部屋に運ぶのに『レビテーション』で済ませ。倒れるように床に着く。

 

 

明けて翌日。正午からの試合を控えるベルトは既に控室的なところに行ったのであろう。

 

姿はなかった。時刻は太陽の位置から大体10時過ぎくらいか…。

 

その後にフィーとキュルケをすでに起きていたイリスとフィルが起こし、

 

遅めの朝食をとり、会場へ向かう。

 

会場には溢れんばかりの人で占められていた。

 

下手したら数秒で終わる決着のために御苦労なこった。

 

自分のことは棚に上げ思ってもないことが頭をよぎる。

 

 

対戦相手はダニエルという人物である。見た目は三十後半。

 

しかし、メイジには珍しくかなりゴツい体躯である。

 

昨日の試合を見る限り風メイジという感じか。

 

ラインレベルの魔法というのがオレの感想である。

 

 

 

試合の鐘が響く。

 

機先を制したのはダニエルであり、

 

詠唱が短い『エアカッター』を開始早々ベルトに向けてはなつ。

 

ベルトはそれを半身にすることで避け、石畳を駆け出す。

 

因みに避けれる場合は一応ペンダントの効果は発動しないようにもできる。

 

ベルトの突撃に慌てる仕草は見せずに後退して飽くまでも距離を保つらしい。

 

縦横無尽にステージを動き回る。

 

魔法の補助のおかげでベルトの走りと同速までもっていけるようである。

 

そして、『エアカッター』を定期的に撃つダニエル。

 

それを紙一重で避けるベルト。

 

「こりゃ、根競べか?」

 

半笑いで声を漏らす。

 

「さて、どちらが根競べに負けるだろうか」

 

「ベルトー!! 頑張ってー!!」

 

「ベルっち頑張れ~」

 

それぞれの思いを吐露しつつ観客がワーキャー言っている試合をみる。

 

 

 

はたして数分間同じ撃っては避けを繰り返してはいたが、

 

ここでメイジのダニエルが根競べに負けた。

 

先にどちらが負けるかなどと言ったが、

 

確実にダニエルが根競べに負けることは分かっていた。

 

フィルもどうせそれをわかっていながら口にしたのだろう。

 

根競べというのは要するにベルトはどれだけ体力が持つかであり、

 

ダニエルはどれだけ精神力が持つかである。

 

ラインメイジがドットスペルとはいえ十数発も『エアカッター』を

 

撃っていればすぐに枯渇してしまうのは目に見えている。

 

それに比べ、ベルトの場合『エアカッター』はほぼ見切りで避けれてしまうわけである。

 

ダッシュもかけ足に速度を落とせばかなりの間走れる。

 

そうベルトは訓練してきたのだ。

 

根競べは終わり、ショートレンジ、クロスレンジでの切り合いになる。

 

メイジの方は軍杖にブレイドを纏わせベルトに対抗する。

 

ここにきて、メイジの空気が変わる。これまで以上に遠くへ後退し、スペルを詠唱。

 

ベルトは刃引きの剣を丸太のような腕でもってして振るう。

 

接近戦ではやはりベルトに一日の長があるらしい。数合打ち合う。

 

ベルトはそうはさせじと駆け出すが、位置が離れすぎている。

 

あと数メイルのところでスペルが完成。突如メイジの周りの空気が渦巻き竜巻になる。

 

「あれは…。」

 

「ありゃ、『ストーム』って魔法だな。単純に竜巻を作る魔法だな。」

 

高さは20メイルはあろうかという竜巻が発生。

 

数秒間会場を風が支配する。この魔法がダニエルの切り札的なものなのだろう。

 

しかし。

 

風の渦がやむ、そこには常と同じ様子で立っているベルトがいた。

 

メイジが驚愕の顔をする。

 

ベルトの口が動く。

 

「ありがとう、レイジ」

 

「どういたしまして」

 

風に乗ってきた礼に返答を返しておく。

 

 

 

 

「おめでと~」

 

「おめでとう。あなた」

 

「ありがとう」

 

大会の表彰式も終わり全てのイベントが消化された夜。

 

ベルトの妻のアニカと息子のレオンも交え、

 

八人で宿屋を貸し切りパーティを二日連続でした。

 

費用は全部オレもちで。ベルトは遠慮したがオレが押しとおした。

 

「レオンは今いくつになったんだ?」

 

そうさっきからアニカさんのところにずっといるレオンに声をかける。

 

「ほら、レオン。レイジ様にご挨拶しなさい」

 

「様はよしてくれ。せめて君にしてくれ」

 

様という敬称をつけられるのはなんかむずがゆい。

 

「わかりました。レイジ君でよろしいですか?」

 

「それで頼む」

 

「さ、レオンご挨拶なさい。」

 

再びレオンに声をかけるアニカさん

 

「レオン、4歳になりました。」

 

「お、もう4歳か。ときが経つのは早いな~。」

 

そういいつつもレオンの頭をなでる。

 

髪色はベルトの茶色とは違いオレンジっぽい色であることからアニカさんのだろう。

 

「レオンのとうさんはリッターの中で一番強いんだぞ」

 

酒が入りテンションがハイなベルトを見ながらレオンに言う。

 

「うん。とうさんとっても、かっこよかった」

 

キラキラ目を輝かせ自身の父を見る。

 

そこでいっぱいグラスと傾け飲み干す。

 

新作の麦酒らしい。なかなか苦味がある。オレはワインのがいいな。

 

 

 

麦酒をちらりと見て昔を思い出した。

 

二十歳になった日に親父と酒を酌み交わしたっけな。

 

最初のいっぱいはこれと同じ感じに苦かった。

 

その時の親父の喜びようといったらなかった。自然顔はほころぶ。

 

一変、すぐに表情は曇る。

 

「レイちゃんどうしたの?」

 

そこに、昨日のあり様を見てオレがフィーに酒禁止令を発行し、

 

それを守っているフィーが話しかけてくる。

 

「うんや、なんでもないよ」

 

「ほんと?暗い顔してたよ」

 

フィーには分かってしまうのだろうかオレのポーカーフェイスは、

 

「暗い顔か。そうだな。最近フィーがオレ離れしていってしまっているからな」

 

そう嘘でごまかしつつ、泣きまねをしとく。

 

「そんなことないよ。レイちゃんから離れるなんてありえないよ」

 

嬉しいこと言ってくれるじゃないか。

 

「そっか、ありがとう」

 

そう言いフィーの金色の髪を撫ぜる。

 

オレの言葉にキョトンとした顔をする。

 

ありがとう。フィーオレは今ここに生きている。


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