ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第二十話  父と母

変態三兄弟(仮称)と別れ、コメスの街で適当にお土産をみつくろい、家にもどる。

 

時刻は出発して1刻ほどたったあたり、

 

いわゆる昼過ぎの少々暖かくなってきた時刻である。

 

こずかいで買ったお土産をフィーとついでにフィルにも渡す。

 

オレは明日の竜種退治に備え、魔法の点検をする。

 

念入りに半刻ほど行い異常はなし。

 

次点で短剣双剣でのイメージトレーニングをしつつ体を動かす。

 

夕刻まで行い今日の修行は一応ここで終わり。

 

夕食を食べ、明日のことについて父に報告。

 

勿論竜種退治などとは言わない。ヴィッツ山に行きたいという。

 

どうやら表では竜種の発生は聞かれていないようであり、

 

父は簡単に了承してくれた。まぁオレの頼みは基本通るのでいいのだが。

 

旅は3~4日間かかるので食料だけ持っていく。

 

準備ができるとオレは明日に胸を高鳴らせ眠りにつく。

 

 

 

翌日、明朝。オレはMTB(マウンテンバイク)に籠を取り付け、

 

そこに荷物をぶち込み、サドルにまたがり。いざ行かん。と思ったところで声がかかる。

 

「レイジ、ボクも一緒していいかな?」

 

フィルである。馬をひいてきている。

 

「お前。旅の支度はしてあんのかよ」

 

「ああ、昨日のグスタフさんに聞いてね。用意したんだ」

 

用意周到である。

 

「あっそう。なら早く行くぞ。ちゃんとついてこいよ」

 

まぁ父の許可が出ているならいいか。

 

「わかってるさ」

 

そう言い馬上の人となるフィル。

 

10分弱で街に着き、西門に向かう。

 

そこにはすでに変態が待っていた。いつも通りの上半身裸である。

 

「すまん、変態兄弟待ったか?」

 

失礼なことを言いつつ声をかける。

 

「む、俺達は変態じゃねぇ。宝石三兄弟だ!」

 

「わーった、わーった。で出発いいのか?」

 

「僕らはいいけど、そこの子とその乗り物? は?」

 

「ボクはフィルグルックだ。フィルって呼んでくれ。

 今日はレイジについて行くだけさ。この乗り物は自転車とかいったかな」

 

「そうだ、馬よりはやい」

 

「そいつはすげぇな」

 

「ふむ、まぁいいが。小生らは命の保証はしないぞ」

 

そういえば、竜種退治だった。

 

「いいよ。レイジが守ってくれるから」

 

「ま、そうだな。オレが守ってやるよ」

 

にぃっと笑いフィルを見やると同じ感じの笑みをオレに送ってきた。

 

こいつ…。

 

「ならばよし、では早速ヴィッツへ行くとするか」

 

そう言うや、馬を走らせる。

 

「行こうかレイジ」

 

はいよ、と言いオレもペダルを踏み込む。

 

ギアは5段方式の3であり、大体これで最高が7~80である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

昼食をはさみつつ進路を北に進める。いい加減疲れてきた。

 

やっぱ馬でこればよかったんじゃね?そう思ったころに、

 

「もうそろそろ着くぞ」

 

そうダイヤ長男が声をかけてきた。

 

「やっとか」

 

ヴィッツ山ふもとの村に夕刻時―空は茜―にやっと到着。

 

ひたすらに街道沿いを北に向かっていったわけである。

 

帰りは一人で飛ばして帰ろう。そう一人新たに誓いを立てつつ。

 

村に泊まれる場所はないか聞く。

 

まぁオレとフィルは貴族なわけであるからに、

 

村人も喜んで、表面上は迎えてくれたわけである。

 

まぁ、竜種の被害で山にコークスを取りに行けないから、

 

その問題が解決すればうれしいのは当然だろうか。

 

この村の名前は聞くところによると、コークと言うらしい。

 

完全にコークスからきている。

 

最近ゲルマニアでは産業が盛んになりつつあるのである。

 

その最たるものが鉄鋼である。

 

自称宝石三兄弟とは一旦別れる。

 

なんでも領主の屋敷に行って契約を結んでくるんだとか。

 

まぁそこはあいつらに全て放り投げ、オレとフィルは旅の疲れをいやす。

 

明日は山登りであるからにして体力を回復しなければ。

 

「しかし、君はまた竜種と闘うのかい?」

 

「どうしてだ?」

 

「いや、あの一件で懲りたかと思ったから」

 

「何言ってんだ。懲りてないね。むしろもっとやり合いたくなった」

 

やれやれというあきれ顔をしている。

 

「君はほんとに戦闘狂いだな」

 

「いいじゃん。ヘタレより全然いいね。

 戦場で生き残るのが臆病者なら、オレは戦場で武勲を立てる勇猛になる。

 まぁ死んだら元も子もないから引き際は考えなきゃいけねぇ。

 父さん母さんが悲しんじまう」

 

「ま、それはそれで君らしいね」

 

そこで何分かボーっとしていると、唐突にフィルが口を開く。

 

両親……か。

 

「君は……レイジは両親についてどう思う。」

 

「オレの両親は知ってると思うが、貴族であり伯爵であるところの父と、

 平民でだが剣術の才を買われ、父さんが部隊に組み込んだとか何とか。

 父さんも昔は軍杖を振りまわしていたらしい。

 そこで負けたらしい。母さんに……。と、いっても剣だけの戦いだったそうだが。

 それが馴れ初めであり、剣について語るうちに意気投合。今に至るわけだ。

 両親についてと言ったが、オレは別に妾の子などと言うレッテル……。

 ま、今じゃそんなこと言われないが。

 そんなビハインドは気にしない。両親ともとてもいい人だ。

 人間的に腐ってるやつは貴族には多いが、父さんは汚職もしないしな」

 

そうだね、と相槌をうちオレの話を聞くフィル。

 

「母さんは平民について教えてくれる。

 そこがいいとこかな、偏見は多角的にものを見ることができれば緩和されるはずだ。

 両親と言っては何だが、親としてならユリアさんもだな。

 あのひとはオレに貴族の嗜み。

 貴族のなんたるかを教えてくれた。それになにより度量が広い」

 

「君の両親はいい人だよね」

 

「フィルんとこはどんなだったんだよ」

 

火事で亡くなっている侯爵について聞くのは初めてのことである。

 

思えば10で両親を亡くすなど考えたことがなかった。

 

前世ではオレが先に死んでしまったわけであり、とんだ親不孝者である。

 

「そうだな。父は優しかった……。だがいつもボクを見てボクなど見ていなかった。

 歳をとるごとに母に似ているという。父はボクでなく母をボクを通してみていた。

 だからボクは小さいなりに考え、父に自身を見てくれるように勉強を重ねた」

 

だから、あの歳でのトライアングルなわけか…。

 

「だけど、結局それは叶わなかったかな」

 

「そうか」

 

「レイジ、君はボクをみてくれるだろう? ボク自身を」

 

「そりゃそうさ、フィルはフィル以外の何者でもない。オレの大事な家族さ」

 

「家族か」

 

「そう、フィーも父さんたちも、そう思ってる」

 

そこで会話は途切れる。不思議と落ち着く。ゆっくりと時が流れる。幾分か後に

 

「フィル、オレは明日に備えて寝るから、フィルも早めに寝とけよ」

 

そう言い村長に貸してもらった一室のベットに寝転がり布団をかける。

 

「そうだね。ボクも寝ようかな」

 

フィルもどうやら寝るようで隣のベットに入る。

 

「おやすみ」

 

「ああ、おやすみ」

 

 

 

父と母か……。前世のことを少し思い返す。そこで気づくことがある。

 

ホームシックはまだ起こるらしい。

 

そう頬に当てた手が湿ったの感じながら思ったのである。

 

オレはとんだ親不孝もんだ。


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