ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第十六話 竜と槍

討伐一日目が終わる夕刻のとき、野営の場所に各々の班は戻り始める。

 

オレの班も例外ではなく、野営地にもどる。戻ると辺りは既に闇に包まれていた。

 

「しっかし、すげぇな。レイジ」

 

「そうだぜ全く」

 

そう声をかけてくるのは、アンディ&クルト。

 

あのオーク首チョンパの一件から妙に絡んでくる。

 

「そうか?」

 

「そうだぜ、お前トライアングルなんだろ?」

 

「その年でそれとはおそれいるねぇ」

 

オレの雑な返事を気にせず話を進める。

 

「しかし、レイジ。ボクも驚いたよ。

 今日は班のノルマの20体のオークやらトロール、オグルを倒すんだから」

 

「そうか?ただブレイド振り回してただけだぞ」

 

「それがすげぇえんじゃねぇかよ」

 

「どうだ!? 今日はいっぱいいっとくか!?」

 

「オレはまだ未成年だ!!」

 

なんともまぁ残念な大人である二人。子供に酒を進めるな。

 

「ボクも遠慮しよう」

 

「そうか、ならしゃーねぇ。アンディ行こうぜ!」

 

そういいクルトはどこへ消えていった。

 

「しかし、君にはホントに驚かされてばかりだな。

 最初のときも何かやるとは思ったけど」

 

「何やると思ったんだよ」

 

溜息を一つ吐き、

 

「そんなことより飯行こうぜ」

 

「そうだね。ボクらの班のノルマは今日で終わりだけど」

 

「ああ、明日も森に繰り出すぞ」

 

「……楽しそうだね」

 

「勿論、いやぁ戦いが楽しくてしゃーない。オレは戦闘狂の素質があったのかね」

 

「まぁあんなに喜々として戦場に繰り出す人はボクは知らないな」

 

半笑いでオレの発言に同意するフィル。

 

「明日のためにも、腹ごしらえだ」

 

「そうだね」

 

 

 

食堂にて父を発見。声をかける。

 

「父さん」

 

「ああ、レイジ。怪我はないか?」

 

「ええ、傷一つありませんよ」

 

「それは良かった。おっと、そちらは?」

 

「申し遅れました。

 レイジと同じ班のフィルグルック・ベラステ・フォン・ゼルギウス・グビーツと

 申します」

 

フィルが父に挨拶をする。

 

「おお、グビーツ候のご息女ですか。私はグスタフ・ザール・フォン・ザクセスです」

 

「はい、父より聞いております。この討伐隊の指揮官であると」

 

「なるほど、ところで、レイジはうまくやれていますかな?」

 

オレの動向が気になるらしい。まぁ親としては当然ではあるが。

 

「はい。それはもう、獅子奮迅の勢いで、魔物をなぎ倒しております。

 わたしも何度か助けられた身」

 

「おい、フィル。嘘言うな」

 

「何、ほんとのことじゃないか」

 

「そうかそうか、そこまで活躍していたのか。

 わたしも鼻が高い。が、無理はするなよ?」

 

「勿論自分の限界は心得ております。」

 

「そうか、ならば結構。明日に備えて英気を養え」

 

ではな、と言い人ごみに消えていく。人の数が若干減っているが。

 

「いい父さんじゃないか」

 

「ま、そうだな」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

翌朝、またも森に分け入る。

 

クルト、アンディもしっかり一緒に来るそうだ。

 

二日酔い気味ではあるが。まぁ、そんな二人は頭を押さえながらくる。

 

「無理しなくてもいいぞ」

 

一応声をかけておく

 

「へっ、ガキンチョは自分の心配だけしてな」

 

憎まれ口をたたく余裕はあるようだ。

 

「そうかい」

 

そこで会話は途切れ、歩きに専念する。

 

歩き続けること半刻(1時間)ほど、唸り声を耳が拾う。

 

「いるぞ」

 

声を殺し、唸り声が聞こえた方に向かう。

 

そこには、頭をつぶされたであろう人が4個転がっており、

 

オークの死体が2個、健在なオークが7体。

 

その7体は丸太のような腕で人を持ち上げ、かぶりつく。骨の砕ける不快な音がする。

 

しかし、食事中が好機。剣を二本抜剣し、気をてらう。

 

「クルトがゴーレムで陽動。オレがしとめる」

 

作戦というのもおこがましい作戦を立案。三人は頷く。

 

フィルは基本治癒に専念してもらっている。クルトが杖を抜き詠唱ゴーレムを5体展開。

 

オークたちの視線がゴーレムに向き、こちらが目線から真後ろになる。

 

さぁて、今日一回目の狩猟の始まりだ。そう思い、口が弧を描く。駆けだす。

 

まずは一体。『エアスピアー』を発射。

 

一番近くのオークの後頭部に吸い込まれ、穴を穿つ。

 

まだ、ゴーレムとの戦闘に気をとられ気付かない。

 

さらに詠唱。次は『エアカッター』。

 

トライアングルに上がり骨は無理だが肉なら断てることは、昨日検証済み。

 

狙いはやはり首。オークの首に吸い込まれ……首半分を切断、血しぶきをまき散らす。

 

そこでオレの存在に気づくオークたち。だが、もう遅い。

 

オークにむかい少し飛びあがり、ブレイドを発動、短剣にまとわせる。

 

腕を頭の上に交差し、ブレイドを伸ばしながらXを描くよう同時に振り抜く。

 

ブレイドのレンジは今のオレで5メイルほど。

 

オークたちは3体ほどが切り裂かれ絶命必至。

 

残り二体。

 

振り抜いた右手のブレイドを右下から左上に切り上げ、

 

オークをさらに一体切り裂き、右のブレイドを消しながら、

 

右腕をたたみこみ左腕を引き絞りラストのオーク目がけ刺突。頭を貫き戦闘終了。

 

「また詰らぬモノを切ってしまった」

 

などと言い、カッコつけつつ、

 

剣をくるりと回し、腰の特製ベルトに納剣する。

 

「おぉ!!」

 

アンディが感嘆の声を上げる。

 

「バカだね、レイジ」

 

おい、バカとはなんだ。

 

「へいへい、お嬢さん。バカってどういうこったい」

 

変な口調になりながらフィルに声をかける。

 

「一人で突っ込むメイジが君以外にどこにいるんだい?そんな君はバカだね」

 

「くっ、前半はいいが、後半はなんだ?バカじゃなくて勇気があるってことだろ」

 

「それは勇気でなく蛮勇じゃないかな?」

 

「いーや、勇気だね。もうそれはイーヴァルディの勇者のようだね!」

 

「イーヴァルディは平民だよ」

 

「いや、確かにそうだが…論点が違う」

 

そんな言い合いを血だまりの中でする。そこに

 

「まぁいいじゃんかよ」

 

そういいクルトが止めに入り。

 

「レイジ、おめぇ、すっかり嫁に尻に敷かれてるな」

 

「尻に敷かれてなんかないぞ!!」

 

「否定するとこはそこなのかい?」

 

呆れ顔をするフィル。オレはしくタイプのはずだ!!

 

そこでオレの耳に悲鳴のようなものと唸り…。今までとは比べ物にならないほどの唸り。

 

「!?」

 

辺りを険しい視線で見渡し悲鳴らしきものが聞こえてきた方へ視線を移す。

 

「どうかしたのかい?」

 

「聞こえなかったのか?」

 

「なにが?」

 

どうやら聞こえなかったらしい。風のメイジは音に敏感と言うが…。

 

「悲鳴…らしきものが聞こえた。こっちだ。行くぞ」

 

そういい駆けだす。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「お、おい。待てって!」

 

制止の声を振り切り、木々の間を駆ける。

 

クルト、アンディが追い付く。フィルはフライで追いつく。

 

走るごとに悲鳴が聞こえ、二分後には三人も悲鳴と唸りが聞こえたらしい。

 

「おいおい、こりゃ、やべぇんじゃねーの?」

 

アンディが若干声を震わせて発言する。

 

「どうした?」

 

もう一息で目標地点に出る。

 

「この声は、多分」

 

そこで森が開けた場所にでる。半径40メイルほどの空き地。

 

ところどころ地面が焦げている。上を見る。

 

そこにいたのはドラゴンであり、体表は紅蓮。

 

火竜がそこに滞空していた。体長は8メイルほどか。

 

「ほぉら……。予想どおりだ」

 

予想が当たったが全然嬉しそうじゃない。

 

いや、オレも若干ビビってる。

 

なんだあの雰囲気は…。ぎょろりとこちらに目線が移る。

 

「なるほどな。火竜かよ」

 

「おい! 大丈夫かあんた!」

 

そこで火竜にやられたであろう班を発見し声を上げるクルト。

 

「フィル! けが人の応急処置を、生きてるかもしれない!!」

 

「わかった!」

 

そこで火竜がブレスを放つ。が、それをオレが『ウォーターシールド』で防ぐ。

 

暖かい水蒸気に包まれ視界が悪くなる。しまった、これは悪手だった。

 

羽を羽ばたかせる音だけが頼りになってしまったのである。

 

自分の行動を反省していると、治療をされ意識が戻ったメイジが口を開く。

 

「あい……つ、には、魔……法が、きか……ない」

 

「それはどういう」

 

「全部……跳ね返……される……んだ」

 

その瞬間前方斜め上の蒸気が歪む。

 

ブレス!

 

そう判断し、次は得意な系統である風の『エアシールド』を発動。

 

熱風からオレ達をなんとか守りきる。このままだと、じり貧だぞ!!

 

どうする!? 相手は魔法が効かない……。跳ね返してくる……。

 

跳ね返り、反射……。

 

まさか、先住魔法か!?

 

ということはこの火竜は韻竜なのか!?

 

まぁいい、たしか突破方法があったはずだ。

 

勝利への光明が見え、先までの脅えが消え去り、不敵な笑みが張り付く。

 

こんな命の危機があっても笑えるとは……オレは相当だな。

 

そう思いつつ駆けだし、

 

『エアカッター』をこちらに敵の対象を移すよう火竜目がけ放つ。

 

命中。が、不可視の壁に阻まれ、

 

その魔法がこちらに返ってくるのを、『ウインドアクセル』で避ける。

 

どうやら火竜の対象がオレに移ったようだ。その目は瞳孔が縦に割れていた。

 

次の瞬間ブレスを放つ。

 

おいおい攻撃方法はそれしかないのか?

 

そう思いつつも、今度は『ウインドアクセル』が効いているので避ける。

 

それに守る味方も離れた位置で霧の中である。

 

挑発するために『エアスピアー』を撃つがやはり跳ね返る。

 

相手は滞空こっちは地面、飛んだらやられる……。対空魔法は風に多々あるが。

 

オレの全力で反射の壁を貫けるか否か。

 

それが賭けである。反射は想定以上の威力には意味がない。

 

だが、この状況を切り抜けるには……、しゃーない。乾坤一擲。大博打だ。

 

そんな算段を敵のブレスを避けつつ考える。

 

そして、オレの開発したオリジナル魔法。『ウインドジャベリン』を詠唱。

 

もう一度ブレスを避け……詠唱完了。投げ槍の体勢。

 

狙うは火竜の胴体。当たれば吹き飛ぶ。そう信じて……。

 

「万象を穿て!!」

 

オレの願いの叫びと共に『ウインドジャベリン』が射出され、刹那の後に

 

30メイルほど前方の上空にいた火竜に直撃。跳ね返ったらオレの死は免れ得ない。

 

なぜならそういうコンセプトだから。が、オレは死ぬには早いらしい。

 

反射を突き抜け一条の線となり、火竜を貫通。その体にはきれいな大穴が穿たれた。

 

「いやっほおおおおお!! ざまぁみやがれ!!」

 

そう叫び声をオレは上げ大の字に地面に倒れる。と同時に火竜も地面に落下し衝突。

 

鈍い音を響かせた。

 

やはり『ウインドジャベリン』は破格の強さらしい。

 

やっと、水蒸気の霧が晴れてきた。

 

「お前は」

 

「かっかっかっかっか!!」

 

クルトは呆れアンディは大笑い。何が楽しいのか。

 

オレもアンディにつられ大笑い。二人で爆笑した。

 

フィルは意識を取り戻したらしいメイジ一人に『治癒』をかけつつ、

 

どうやら助かったのは一人のようである。こちらもクルト同様呆れ顔で、

 

「君はほんとに規格外だよ。レイジ」

 

「ま、まあ野営地に返ろうぜ。ぷふ」

 

「そうだね。この人も届けなきゃいけないから。それにしても、なぜ笑っているんだい?」

 

「これは笑うだろ。なぁアンディ」

 

ひーひー笑いながらアンディにふる。

 

「そうだよ、こりゃ笑うしかない。くっく」

 

こっちも同じ感じにこたえる。オレたちを見てさらに呆れるフィル。

 

「はぁはぁ。んっんー。よしもう大丈夫。行くぞ」

 

それから、野営地を目指して歩く。

 

けが人はクルトがレビテーションをかけている。

 

帰りに一度トロールとオークが何やらいざこざをしているところに出くわし。

 

オレが、その中間に割って入りブレイドでトロールとオークを殲滅した。

 

結構いた。

 

数はアンディが数えたらしい。オレは殲滅に忙しくてそんなことみてなかったが。

 

それ以降は何もなく野営地へと戻ってこれた。太陽の位置的にちょうど昼過ぎだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

火韻竜なんぞは一体だけだったようで、いや、そもそも竜がこいつだけだったようだ。

 

そう、けが人を野営地に連れてきて、その日はもう森に入らず過ごした後の、

 

夕食のときに父に言われた。それと共にこの討伐隊の規定数を討伐したらしい。

 

因みに討伐数はダントツでオレが多かったそうな。

 

調子に乗りすぎたか。別にサバなんて読んでないから。




とうわけで、反射も貫通する。
オリジナル魔法『ウインドジャベリン』です。
一応主人公の代名詞にしようと思ってました。
これからは若干主人公無双の感が入ってきます。

クルト&アンディは傭兵メイジですが、完全に魔法使いスタイルであり軍杖なんてのはハッタリ、ブラフです。俺は接近戦闘できるぜ?的な。

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