ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第十一話 胎動

40歳前後だろうか、の男性が少し落ち着きのない様子で立っているのは、

 

男性の自宅―豪邸―の前である。

 

そわそわと、なにかに急かされるように、額に汗を 浮かべている。

 

そこへ空の彼方から風竜が飛んできて男性の前に着陸する。

 

その背には20代とおぼしき外見の長身痩躯の男性が、目深にツバの広い帽子を被り、

 

耳はおろか、鼻もギリギリ見えるかわからないほどであるが、

 

まるで気にせず風竜の背より地に舞い降りた。

 

「首尾はいかがか」

 

壮年の男性が声をかける。

 

「まぁ上々といったところだ。が、一つ気がかりなのは……」

 

金髪が方にかかるほどの青年がそれに答える。

 

「気がかりとは……?」

 

「ああ、一年ほど前、

 

丁度計画の途中報告したやつがやられたのだ。私の魔法を破り……な」

 

「なんと!! いえ、確かに”その”ようなことは噂として流れませんでしたな」

 

青年の言葉に壮年の男性が驚きの声をあげる。

 

「まぁ、それはいい。

 計画の数の倍用意する。報酬は弾ませろよ?

 近々そいつらの様子見だ。その数を作るにはまだ時間がかかるが」

 

「おお!それはありがたい。報酬は弾まさせていただきます。ささ、中へ」

 

青年は男性の声に従い屋敷に入っていく。

 

そこに壮年の男性が声をもう一度かける。

 

「因みに破られたのはどこでかわかりますか?」

 

その質問に青年は振り返えらず歩きながら、

 

「ああ、それなら。――とか言うところだ」

 

「フム、成る程。では、中で計画を詰めましょう。もっと綿密にしなければ……」

 

青年の返答に納得したのか、そう言い、彼もまた歩き出す。汗は止まっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

フィーの誕生会が密やか…ではなく、なかなか盛大に、

 

いやまぁオレと同じくらいの規模で行われた。

 

そこには何故かオレの誕生会からオレの家に居座ったキュルケも出席した。

 

両親が帝都に仕事なんだとか。

 

まぁフィーの誕生会はつつがなく、何事もなく終わり翌日。

 

オレはいつものように、 ランニングのあとに

 

――もう座学で習うことはほぼないので、いや、領地経営とかはならわにゃいかんが、

 

いつもどおりに魔法の修行を開始する。

 

一月前からキュルケが一緒である。

 

「レイジ、今日は何をするの?」

 

いつもは『ファイヤーボール』などで、

 

的当て等だが昨日突如閃いた新魔法(仮)をやる気である。

 

「オレは今日、新魔法を試そうかと」

 

「へぇ、どんなの?」

 

残念ながら火ではない。

 

「残念風スペルさ」

 

「なによそれ、意味ないじゃない」

 

「オレには意味あるからいいのさ。まぁいい、よし」

 

一声掛け声と共にルーンを唱える。

 

イメージするのは槍。

 

願うは絶対なる鋭さと絶対なる速さ。

 

掲げた手のひらの少し上に空気が槍の形に収束、およそ2メイル。

 

「あら?『エアスピアー』じゃない」

 

なんだとばかりに言うキュルケ。

 

が、まだこれで終わりではない。

 

収束した槍の穂先に向かい螺旋状に空気が巻き付く。

 

蛇が木に巻きつくように何重にも。

 

「よし、行くぞ」

 

そう言い斜め後ろに跳ぶ、ゆうに3メイルほど跳躍、腕を振り下ろす。

 

槍が斜め下射出された…瞬間にほぼ同時に地面に着弾。

 

高空から巨大な質量体が落下したのではないか、という程の凄まじい衝撃が辺りを襲う。

 

どうやら成功のようだ。着弾点は直径3メイル程のクレーターを形成している。

 

深さはそこまではない。50セント程だろう。

 

名付けて『ウィンドジャベリン』。

 

そのまんまであるが、勿論水平に投げることも可能。

 

『風』『水』の組み合わせで

 

『ジャベリン』と言うラインスペルの上位互換である。

 

何故なら、まずトライアングルスペルである。

 

次に風はほぼ見えない。更に速さと鋭さが桁違い。

 

着地しキュルケに聞く。

 

「どうかな?『風』『風』『風』の『風』三乗のトライアングルスペル。

 

コンセプトは必中必殺だ。名付けて『ウィンドジャベリン』」

 

ドヤ顔になってないか心配である。

 

キュルケをみると開いた口が塞がらないのか、

 

オレがつくったクレーターを見ている。

 

オレの侍女であるイリスは慣れたものでいつものまま。

 

「キュルケ~。どうした?」

 

ここでキュルケが放心状態から復帰する。

 

「え、ええ…凄まじい威力ね。破壊の火よりも破壊できるのじゃないかしら……」

 

まぁこの魔法は完全戦闘用だからな。対多にも有効である。

 

「うんうん、だよね。いやー、なかなかいい魔法ができたね」

 

オレは上機嫌で頷きつつ、土魔法でクレーターを更地に戻す。

 

一発でこれほどまでうまくいくとは…こいつとは相性がいいかもな。

 

『ウィンドアクセル』のときも一回だったか。

 

「素晴らしい魔法ができたついでにオレ印の魔法を見せてしんぜよう」

 

ふっふっふっと合わない笑いをしながらキュルケに言う。

 

「ぜひ、火のスペルを!!」

 

「そうがっつきなさりませんようお願いします」

 

動転から一転興奮したものいいでオレに迫る。

 

変な意味ではない。

 

「では」

 

そういい。火のスペルなんかあったか?と思い出す。

 

ああ、あれがあった。まだオレでは威力が微妙であるが…。

 

「よし」

 

掛け声と共に20メイルほど離れた所にくぼみをつくり、水を張る。

 

そして、『フレイムボール』オレの出力全開で、

 

そのくぼみに向けて放ち、『エアシールド』をオレたちの前に展開、

 

次の瞬間、若干ショボいが爆発のようなものが起こる。

 

爆発というほどの規模ではない。

 

「……こんなのだ!!」

 

さっきのがすごすぎた! 反応が薄い!!

 

「何で爆発したの? 火の秘薬は使ってないわよね?

 いえ、その前に水があるのに爆発? ねぇ、レイジどういうこと!?」

 

横を向くとぶつぶつと言葉を並べ最終的にオレに説明を求めた。

 

「正確には爆発までは起きてない。もっと高温の『フレイムボール』を打ち込めば爆発させることができる。簡単に言うと水蒸気爆発って現象さ。一気にドカン」

 

「水蒸気爆発……聞いたことないわね」

 

そりゃないだろう。そんな概念ここにはないだろう。

 

「物質の状態変化を利用した技だな。簡単には言うと液体とまぁ水だね、

 と気体、いわゆる空気ではそのものの体積、大きさが変わってくる」

 

そこで一度言葉を切る。

 

「それで?」

 

「それで、液体よりも気体の方が、体積が大きいわけだ」

 

「成る程」

 

「で、液体を熱で一気に気化させる。

 すると爆発的に体積が一気に増え、ボカン。となるわけだ」

 

まぁ詳しいことは知らないが…。と付け加えとく。何事にも保険を。

 

「ふーん、まぁ要するに水に火をぶつければいいわけね?」

 

「まぁそうだが相当な高温じゃないとこんな現象起きない。

 それに指向性がないから、危ないことこの上ない。おすすめはできない技だ」

 

「そう、残念ね。けどいつか使えそうね」

 

「まぁ覚えておいて損はないんじゃないか?手札が多いことに越したことはない」

 

そういいこの話は流れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

昼飯を食べ、武術の修行へシフトする。

 

キュルケはフィーと魔法を修行。

 

フィーにはオレ印の魔法をいくつか伝授してある。

 

風の刃を二つだし放つフィー。

 

『ウィンドカッター・ツイン』である。

 

連続詠唱より、より正確に誘い込み敵に当てることや、

 

二刃目を一刃目の後ろに隠し奇襲。など、戦術の幅が広がること請け合い。

 

とは、オレの談であり信用に値するだろう。

 

うむ。

 

オレの場合トライアングルなので

 

『ウィンドカッター・ツイン』の上位互換の

 

『ウィンドカッター・マルチ』なるものをつくり、目下修行中である。

 

いまだに最大数三刃。髭剃りには使えないので注意が必要だ。

 

「さて、」

 

サンドバッグに向き、徒手空拳の動きをする。

 

右ジャブ左ストレート右ハイ左回し蹴りハイ、

 

右足で踏み切り右ハイを叩き込むよう繋げる。

 

などの動きを一刻ほど黙々と行い、次は半刻ほど魔法も使い体術を磨く。

 

具体的には先の右足で踏み切り右ハイを叩き込んだら終わりだったものが、

 

魔法で重力が無視でき、更なる連撃へと繋がる。

 

短剣を使って切れないのが難点ではある。

 

まぁベルトに相手してもらうときに使うが。

 

まだ勝った試しがないのは、遺憾である。

 

いつ勝てるのやら、こっちはブレイドもありなのに…。

 

まぁオレの連敗記録はおいておいて、

 

徒手空拳のあとは、日が暮れるまで無心に剣を振るう日と、

 

双剣での型を模索する日を交互にするようになった。

 

今日も日が暮れる頃、フィーに声をかけられる。

 

「レイちゃん。ご飯だよ~」

 

「あー、わかった」

 

そういい、額の汗を拭い、空を仰ぐ……。

 

ん? 伝書梟か。

 

空にこちらに向かう黒点を視認、正体を確かめ一息。

 

どうせ帝都からだろう。

 

昼によく来るのを見かける。

 

そう思いフィーとキュルケの方に剣を肩に担ぎ向かう。

 

「不釣り合いね」

 

キュルケがオレをみて、正確にはオレと剣をみていう。

 

「うるさい。オレはまだ130サントだ。こいつは100ちょいくらいかな」

 

そう言い、ひょいと剣を掲げる。

 

「よく持てるわね。その体躯で」

 

「まぁ、持てるもんはしゃーなしだ。飯だろ? 行こうぜ」

 

若干粗暴な物言いでそう返す。

 

「レイちゃん。また新しいの教えて!!」

 

「ああ、風魔法を教えようじゃないか」

 

そう、笑いながら返す。

 

「あなた…いえ、何でもないわ」

 

キュルケは何かを言いかけたが取り消した。

 

「ん?言いたいことは言っとけよ? ストレスは美容の大敵だ」

 

そう言いフィーが握ってきた手を引きながら返し、屋敷に歩いていく。

 

「あ、ちょっと待ってよ」

 

キュルケも慌てて着いてくる。

 

さて、フィーには何を教えようか。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

とある豪邸の一室。そこにきらびやかに着飾る。

 

壮年の男性と顔を覆わんばかりに目深に帽子をかぶる若い男がいた。

 

「施策の方は?」

 

壮年の男が口を開く。

 

「大丈夫だ。直ぐに動くさ。それよりも、お前も策があるんだろ?」

 

青年は自信に満ちた声でいう。

 

「策……と言いますか、気になる事を調べるだけです。

 懸念事項は全て摘み取りませんと」

 

「まぁそうか。私は研究の成果が見ることができればいいのだから」

 

「では、諸侯にも声をかけておきます。可能性のある諸侯に」

 

「ふむ、次会うときは、お前の念願叶う日が確定する。まぁ気長に待て」

 

「わかりました」

 

「では、また会う日まで」

 

「吉報をお待ちしております」

 

そういい会話をしめ、

 

金髪の青年は、来たとき同様風竜にまたがり、空の彼方に消えていった。

 

残された壮年の男性は、顔に様々な影がかかっていた。





以下オリジナル魔法説明。

『(魔法名)』(系統の組み合わせ) ※(直訳)
・魔法の説明



『ウィンドジャベリン』風風風 ※風の投げ槍
風三乗のトライアングルスペル。『エアスピアー』の完全上位互換であり、風を槍状に固め、風を螺旋状に幾重にも纏わせ、高速射出する。貫通力・速度その他の魔法の追随を許さない。スクエアスペルになると…。

『エアカッター・ツイン』風風
『エアカッター』を二個出す。

『エアカッター・マルチ』風風風
『エアカッター』を複数出す。主人公は現在三個出せる。

『ベイパー』水火火 ※蒸気
水蒸気爆発、トライアングルでも発動可能だが、威力・利便性がいまいちな魔法。

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