ゼロの使い魔で転生記 作:鴉鷺
プロローグ
今日オレは死ぬことになるだろう。
なぜ唐突にそんなことを言うかというと、本を買いに行く途中、信号が青になり、よし発進…と思いアクセルを踏み込む。十字路の中心でそれは起こった。トラックが信号無視をして突っ込んできたのだ。運動エネルギーに従い自身の車にそのありあまる力をぶつけようとしている。こんな状況になっても走馬灯なぞでやしない。自身の人生がいかに淡白だったかを死ぬ間際に悟るとは滑稽だな。
ただゆっくりとトラックが突っ込んでくるのが見える。あまりにも長い時間だ。死ぬ間際だというのにオレは無駄に冷静にことを受け入れた。諦めたと言い換えてもいいかも知れない。
ふとトラックの運転席を見ると居眠り運転のようだ。運転手が眠ってやがる。なんてしょうもない理由でオレは命を落とすんだろうか。
まぁ死んでも悔いは…ないことはないが、いい20年間だっただろう。スポーツをしたり勉強をしたり。しかし夢など持っていなかった。心残りはないでもないが。ただ月日は過ぎていくだけで、これからを怠惰に過ごし、意味もなく目的もなく過ごすよりゃ、死んだほうがましかな、と思い目をつむる。
来世があったなら夢を、一生涯をかけてかなえるための夢を持ちたいもんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
まぶたを光が差す。オレは…生きていたのか。今生の終わりのようなことを頭の中でほざいたがまだ今生にもチャンスはあるらしい。そんなことを思う。が、泣き声がする、それも自分から、そして体の違和感。
「おめでとうございます。元気な男の子です」
なんだ? 子供が生まれたのか? まぁ重傷で生きてたならここは病院だからな。そう違和感を放り投げる。俗に現実逃避という。
「おお、そうか、名前は何にしようか」
大人の男性の声が聞こえる。視界に映らないその男性はしばし黙考ののち、
「よし決めた。お前の名前はレイジ。レイジ・グスタフ・フォン・ザクセスだ」
なかなか外国チックな名前だな。そういうのが今流行りなのか。
「よい名前ですね。グスタフ様」
「そうか?それは良かった。サラこの子のこと頼むぞ? 私は仕事にもどらねばならんのでな。来月には妻が子供を産む予定だ。まぁ本妻と妾の軋轢はないから問題はないだろう」
「そうですね」
優しい声がして、体がぬくもりに包まれる。眠たい。そう思って意識を手放す。このときのオレはまだ知らない。分かっていなかった。いや知っていたかが事実から目をそらしていたのかもしれない。オレの体の違和感を。目がまだ開かないことをいいことに。