やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。りていく!   作:AIthe

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原作よりもハイパーセンサーの設定が変わっており弱化しています。

・360度視界→通常視界+レーダーによる敵座標データ
・自動ロックオン機能→視界内に限定
・ハイパーセンサー→ハイパーセンサーの性能差を設定

ご理解の程をよろしくお願いします。


やはり、比企谷八幡の戦い方は間違っている。

「篠ノ之束」

 

天災。天才ではない、天災である。

 

──────

 

光、光、光が包み込む世界。

多数の意思が入り混じり、混沌とした電気信号の世界。一つだけ席の空いた世界。

その空白の席に光が集まり、世界は完全を迎える。

 

「マスターへの精神干渉を開始。皆様、ご教授の程をよろしくお願いします」

 

───No.52がログインしました。

 

───2───

 

ずどーん!という大きな音と共に俺は落k‥‥着地した。俺は落下などしていない、頭から着地したんだよ(半ギレ)。

‥‥‥飛べないとか先に言えよ。無茶苦茶欠陥あるじゃねーか。

 

「だ、大丈夫ですの?」

「ああ‥‥よっこいしょっと」

 

両手で身体を起こし、アリーナの土を踏みしめる。このISのうるさい駆動音のみが、アリーナに響き渡る。

パンパンと装甲についた砂を払って、ふぅ、と溜息を吐く。

 

「この前の事ですが、ご家族を馬鹿にした発言‥‥非礼を詫びますわ」

「べ、別に‥‥」

 

金髪クロワッサンの真面目な、真摯な態度。少しそれに驚いてしまい、しどろもどろしてしまう。

「別に」ってなんだ‥‥‥俺はエ◯カ様かよ。

 

「ですが、それとこの試合は別ですわ!」

 

人の話聞いてないだろこいつ。なんか校長先生の話みたいなの始まっちゃったよ。あれ長いんだよな‥‥‥

 

俺は金髪クロワッサンを無視してシステムコンソールを開き、兵装を確認する。

 

‥‥ライフル以外現在ロック中か。まあ、二丁あるしそこまで問題じゃない‥‥‥か?元々地上で戦うつもりだったしな。

 

アリーナ観客の声が煩わしい。ふと、横に視線を動かすと───偶々、本当に偶然だ。ハイパーセンサーで強化された俺の視力が、篠ノ之箒の姿を捉える。口をキュッと結んで、深刻そうな顔で俺の方を注視している。

織斑の横にいつも並んでいたはずのその不機嫌な顔は、それなりに見慣れているはずなのに、見た事が無い表情で、どこか見覚えがあって───

 

「───って聞いておりますの!?」

「え?あ、ああ」

「その反応、絶対聞いておりませんわ‥‥‥‥‥」

 

その甲高い声で、俺は現実に引き戻される。

両手にライフルを呼び出し、ざわざわとする一定下の騒音をハイパーセンサーの機能でカットする。腰を落とし、臨戦態勢に入る。ざわざわしてると集中できないからな。決してカイジじゃない。小指切り落としたりしないから。

 

会場が静寂に包み込まれる。精神が研ぎ澄まされ、五感が活性化する。

 

手筈通り、作戦通りに行け。

 

「それでは、試合開始」

 

アナウンスと共に両機が動き出し、俺はライフルを、相手はレーザーライフルを構える。互いの第一射が射出、衝突、炸裂し、爆発する。ブースターさえも利かないのでその場から全力で走り出し、彼女に対して個人間秘匿通信を開く。

 

「セシリア・オルコット。お前が入学した時の話、覚えているか?」

「な、なんのことですの?」

 

右足で大きく地面を踏み、ブレーキをかける。地面に向けてデタラメにライフルを連射し、砂煙を巻き起こす。バラバラと散らばる薬莢の澄んだ金属音は、発射薬の燃焼によって発生したガス爆発の音により掻き消される。

これで、あいつから直接こちらを視認する事は出来ない。ハイパーセンサーで敵の位置がわかるとはいえ、所詮データ上の座標だ。座標さえ分かれば狙い撃てるなどという机上論は、機動戦であるISの戦闘において通じない。

 

「くっ、ブルー・ティアーズ!」

「おいおい、俺の事を無視するなよ。覚えているのかって聞いてるだろ?」

「なんの事だかっ、わかりませんわ!」

 

予想通りの反応に、俺は思わず不気味に微笑んでしまう。

先程座標さえわかれば云々というのは机上論であり得ないとだんげんしたが、通じてしまう例外もある。それは、敵が止まっている、つまり機動戦でない時だ。

 

ブルー・ティアーズには致命的な欠点がある。それは、ビットを操作している時に本人が動けないという、言葉通り致命的な弱点だ、最新の動画でもうまく隠してはいるのだが、それを確認する事ができた。

 

彼女の声によって青いビットが動いたのを確認し、データ上の座標に向けて片方のライフルを連射し、もう片方を地面に向けて乱射しながら再び走り出す。舞い上がる砂煙で前が見えず、自分の作戦とはいえ不安な気持ちに襲われる。だが、元々勝てない勝負なのだ。不安がっていては見えていた勝機だって掴めない。

 

「くっ、こちらが見えていますの!?」

「話ぶっちぎってんじゃねえぞ。お前、日本を敵に回すような発言をした事、自覚しているよな?」

「そ、その件につきましてはしっかり謝罪をしましたのよ!」

「だからって、やってない事にはならねえよな?」

 

早口に捲し立てる。

砂埃の中、灰色の装甲に青い光が掠める。見えないといえど、ビット四基から虱潰しに攻撃されれば、この機体もすぐに落ちる。

 

「俺の家族を馬鹿にした。つまり、お前はその事を全く反省していない。」

「そんな事───!!」

「いや、あるね‥‥‥なぁ、セシリア・オルコット───」

 

俺は彼女を睨み付け、甘く、蠱惑的に囁く。その声は、獲物を飲み込む蛇のように彼女を絡め取る。

 

「───それを愛しの織斑一夏が知ったら、どう思うかな?」

「っ!?」

 

あからさまに動揺している。

 

───今だ!

 

俺は動きの鈍くなったビットに向け、正確な一撃を打ち込む。蜂の巣になったビットが地面に落ち、火を放って別の砂煙を巻き起こす。

 

ビットが強敵なら、それから落とせばいい。動くものを狙えないなら、止めさせればいい。それだけの話だ。

ビットというのは脳で操っているものだ。なら、その根元を揺らしてやればどうという事はない。

なら、彼女が見るからに想いを寄せている織斑弟に関してのOHANASHIをするだけだ。ぼっちの観察スキル舐めんな。

 

金髪クロワッサンが代表候補生って気付かなかった話はしないで下さい‥‥‥‥

 

金髪クロワッサンは手をわなわなと動かして、混乱している様子だ。

 

「確実に、お前は嫌われるだろうな?」

「い、一夏さんはそんな人じゃありませんわ!」

「本当か?なら、本人に話してみるといい」

 

その毒は、ゆっくりと彼女に侵食する。嬲るように、甚振るように。

マガジンを手動で変え、あちこちに砂煙を起こしながらアリーナ内を駆け回る。こんな戦法一度しか通じないだろう。が、俺はその一度を勝ち抜けばいい。どんなに姑息だろうと、勝てば何の問題もない。戦いにずるいもセコい何もない。正々堂々とかいう綺麗事は織斑弟の領分だ。

 

「もしお前が織斑一夏に嫌われたのなら、クラスのみんなも同じようにお前を嫌うだろうな。そしたらお前は、“また”一人だ。」

「な、なんなんですの!あ、あなたは!?」

 

こいつは元々‥‥‥今もなのだが、相当にプライドの高い人間だった事は容易に想像ができる。なら、そのプライドはどこから発生した?

 

努力?才能?地位?名誉?

 

それを一つに絞る事はできない。何故なら、その全てが彼女のプライドに関わっているからだ。

 

彼女は生まれながらに、オルコット家という“地位”を持っている。そこまではISと嗜む程度の生活を送っていたそうだが、元々“才能”はあったらしい。

そして、丁度彼女が代表候補生になる前に、彼女の両親が事故で亡くなり、親族もいないためにオルコット家は一人になったそうだ。そして、長年の努力と共に代表候補生として専用機を貰うという“名誉”を獲得した。

 

一見、これはただの輝かしき歴史に見えるだろう。だが、「歴史は勝者が紡ぐもの」という考え方がある事を世間は知っているのだろうか?

 

歴史というものを英語にすると、historyとなる。hisとstoryが合体した言葉である事は想像が付くだろう。

 

もし、もしの話だ。例えば俺が世界最強のIS操縦者になる未来があったとしよう。更に仮定して、ここでセシリア・オルコットを倒せたとする。未来に俺の歴史が紡がれ、語られる時、それは英雄譚のように語られ、「俺がセシリア・オルコットを言葉で動揺させ、ミスを誘った」などという俺という人間が姑息に見える、マイナスとなる内容は基本的には書かれないだろう。

つまりそういう事なのだ。彼(勝者)に都合よく、いいところだけを切り取った話(story)が歴史というものだ。

 

話が大きく逸れてしまったが、これは彼女の歴史にも通じる事だ。上で話したセシリア・オルコットの人生についてはイギリスのISを専門に特集する記事から見つけたものだが、国からすれば彼女の弱みを見せるわけにはいかない。だから、「両親が死んで一人になったにも関わらず、努力をして専用機を勝ち取った少女」という美談風に整えた記事を書く。それは歴史と同じように、彼女の弱みを隠して書いているのだ。

では、この記事からどういう弱みが読み取れるのか?

 

まず、彼女は名家の人間だ。オルコット家というのは、イギリスではそこそこ名が広いらしい家らしい。

 

そして、彼女には両親がいない。

 

この二つを足して考えると、特に権力も持たない“地位”だけのか弱い少女を、他の権力者が放置するだろうか?答えは否だ。どうやってその魔の手から逃れたかは知らないが、オルコット家が未だに健在ということや、今の態度から見ても確実に彼女は“一人”でその危機を脱したといえよう。

もしかしたら、タイミング的にも代表候補生になった事が関係しているのかもしれない。

 

二つ目に、彼女が代表候補生で専用機持ちという事だ。“才能”より代表候補生になる人間は少なくない。

だが、専用機持ちとなれば話は大きく変わってくる。彼女は“努力”し、ライバルを蹴落としながら上に這い上がったから、専用機(名誉)を獲得したのだ。

俺からすれば、そういう“努力”のできる人間は素直に尊敬できるが、他の人間もそうかといえば違うだろう。彼女の事を僻み、蔑み、恨む者さえ出てくるだろう。そうなれば、彼女は自然と孤立する。学校でも同じ事が言えるのではないか。例えば雪ノ下。彼女もその類の人間だろう。

 

つまり、彼女はいろんな意味で“一人”だったのだ。俺や雪ノ下のような友達がいない“ぼっち”ではなく、家族すらいない人間なのだ。

人間は本質的に一人を怖がる。俺だって小町という存在があるし、雪ノ下は‥‥雪ノ下にもそういうものがあるだろう。

 

だが、彼女にはそれがない。だからこそ、彼女はプライドという壁で自分を守った。

生まれ持った“地位”と“才能”を誇り、“努力”を続け、“名誉”である専用機を振りかざす。これが、誇り高き「セシリア・オルコット」という人間の正しき姿であり、弱点でもあるのだ。

だから、そのプライドを崩してやればいい。今が一人でないと言うのなら、一人になる恐怖を思い出させてやればいい。

 

「一人ぼっちは寂しいよな?もう、一人になりたくはないよな?」

「いや‥‥やめて‥‥‥‥」

 

再び、止まったビットを弾数で撃ち抜く。俺は心の中で小さくガッツポーズをし、本体のISにライフルを向ける。

 

だが、物事はそう簡単には上手く行くものではない。何事にも例外は存在するのだ。

 

「ああああっ!私は!私はもう一人じゃありませんわ!私には皆さんが、一夏さんがおりますの!」

 

ちっ、思ったよりも復帰が早かった。流石は代表候補生。学生とはいえ、メンタルも並みのものではない。内心舌を打ちながら、再々に走り出す。

 

だが、それは俺にも言える事なのだ。

俺は自分への例外を想定していなかった。

 

不恰好なISは突然動きを止め、応答を停止する。不快な駆動音は止み、代わりに静寂と無反応が俺を囲い込む。

 

「っ!?動かねぇ!?」

「よし!隙だらけですわ!」

 

───そして、俺の世界が“黒”に染まった。

 

───3───

 

比企谷くんがピンチだ。変なISが出てきたと思えば、突然ISが止まってしまった。このまま動けなかったら、オルコットさんに蜂の巣にされて、負けてしまう。

砂上に膝をつくその姿はとっても情けなくて、お世辞にもかっこいいとは言えなくて、悔しさが滲み出ていた。

 

まただ。私はまた、比企谷くんの為になんにもできなかった。何かできると思っている事自体私にとっては自惚れでしかないのかもしれないけど、比企谷くんのその姿より、何よりも私が悔しい。なんにもできない私が悔しい。

弱い自分は捨てたつもりだった。なのに、いまこうやって躊躇してしまう。

 

絞り出せ、勇気を。私は“私”じゃなくなったんだ。いま声を出さないでいつ声を出すの?私ならできる。変われるんだ。変わったんだ。だから、だから───

 

「がんばれ!」

 

破裂しそうな想いが口から飛び出す。胸がジンと熱くなって、なんだか心地よい。きっと今私は悪目立ちしちゃっているけれど、そんなの気にしている場合じゃない。誰も応援しないなら私が、私だけでも応援してあげなきゃ。

 

「がんばれ!比企谷くん!」

 

───だから、届いて。この想い、きっと、きっと届いて。

 

───4───

 

「くそっ!」

 

幾ら身体に力を入れても、ISは全く反応しない。まるで俺を縛る枷となったように、ビクリとも動かない。

真っ暗な世界は、そのままゆっくりと、ゆっくりと俺の心を蝕む。

 

ここまで頑張ってきたんだ。なんで今、なんでこのタイミングで不調が起きるんだ‥‥運が悪いとしか言えん。くそっ‥‥‥‥

 

全てが無駄になった事を悟り、俺は徐々に身体の力を抜いてしまう。諦めようとしてしまう。

やっぱり、俺が努力しても何の意味もなかった。結局、俺は努力をしたところで負ける。そう、これは予定通りなんだ。代表候補生に勝てる訳がない。俺は何も間違っちゃいない。これは全て予定通りの話だったろ?

 

俺は俺に言い聞かせる。自分自身を

傷つけぬよう、嘘で塗り固められた牢獄で自分を守る為に。

 

そう、全部嘘なんだ。俺も、由比ヶ浜も、あのルームメイトも。

 

俺は、俺は久しぶりに“悔しい”と思ってしまった。誰かに馬鹿にされることなんて慣れているはずなのに、あんなに衝動的に動いてしまったのは本当に久しぶりだ。

だから、俺はこの戦いで勝ちたかった。自分の大事なものが偽物ではなく、本当に守る価値のあるものだということを証明したかった。誰の為でもなく、自分の為に。

そして、俺は知りたかった。あのルームメイトの瞳に宿ったあの幻の正体を。あれを見た瞬間、俺はその正体を知りたくなった。柄にもなくその想いに応えなきゃいけないと思ってしまって、一生懸命努力して、ずるかろうと作戦を練って───

 

だから、この戦いだけは勝ちたかった。勝てなくとも、せめて善戦はしたかった。勝てれば、俺はあの正体を知る事が出来る気がした。

 

だが、所詮それも幻想でしかなかった。勝てるという淡い希望も、彼女の瞳に宿った幻も、俺の努力も、すべて幻想で、無意味で、生産性のない、合理的でない、存在自体が許されないものでしかなかった。とっくに捨てた筈の幻想に手を伸ばしている自分に気づいてしまい、鼻で笑う。なんて馬鹿馬鹿しい話だ。自分で偽物と切り捨てたものを、再び広い集めようとするなんて。

 

未だに抵抗を続ける自分自身に、優しく言い聞かせる。

 

「諦めろ」「無理だ」「できっこない」「終わったんだ」「もう頑張る必要はない」

 

数々の甘い言葉が俺を包み込む。抵抗を続ける俺の身体が、ゆっくりと冷えていって、どっとした疲労感が全身を襲う。

 

俺は自身の誘惑に従い、そのまま瞼を閉じようとして───

 

「────!」

「っ!ハイパーセンサーが!?」

 

外からの声。一定下の騒音はカットしていた筈なのだ。つまり、それを越える程の大きさの音がどこからか出ているという事だ。

その音がハイパーセンサーが起動しているという事実を伝え、残念ながら、諦めようとしていた俺の意識を覚醒させてしまう。

目の前が真っ暗で通信系統がどうなっているのかわからないが、確実にハイパーセンサーだけは起動している。

 

俺は全神経を集中し、その音に耳を傾ける。

 

「がんばれ!比企谷くん!」

 

聞き覚えのある声。毎日食堂に行こうと誘ってきた、少しうざったくて、聞き慣れてしまった声。

フッと息を吐き、俺の口に笑みが零れる。

 

あの野郎、やるじゃねえか。大声出してこっ恥ずかしくねえのか?俺だったら次の日に布団に包まって引きこもりになるレベルだぞ。

 

段々、身体が熱を帯びる。閉じられていた思考が開き、大きく目を見開く。

 

───そうだ。俺は何をやっている?家族を馬鹿にされたことを仕返すんだろ?少なくとも一人、ここに応援してくれるやつがいる。俺はその思いに応える義務があるんじゃないのか?うだうだ言ってて頑張らないで後悔するのなら、やって後悔したほうがマシだろ?

 

「おお‥‥‥うおおおおお!!!」

 

力を込め、身体を捩る。が、虚しくもISは動かない。

それでも、俺は諦めない。この一瞬だけでも、誰かの“優しさ”に縋ってもいいだろう。その偽物に頼ってもいいだろう。試しに信じてみるなら、今しかない。自分を信じろ。他人を信じろ。

 

この一瞬だけでも、この想いに答えてみせろ!

 

───I'm your sword.───

 

突如、俺の目の前に緑色の文字が踊る。

 

───I'm your shield.───

 

‥‥‥どういう事だ?

 

───I'm your wings.───

 

「お前‥‥‥IS‥‥なのか?」

 

俺の言葉に呼応するように、緑色の光が次の言葉を紡ぐ。

 

───Do you,you can wield the power for your rightness?───

 

俺自身の正しさ‥‥‥か。

 

俺は常に正しい事をしているつもりだ。それを誰かが否定する事は出来ないし、俺が他人の正しさを否定するつもりもない。だが、俺の正しさと他人の正しさぶつかる時、俺はどうするだろうか?

 

答えは、俺自身が一番よく知っている。それは───

 

 

「───“分からない”、だろ?」

 

その回答に満足したかのように、緑色の文字が霧散する。

正しい人間なんてこの世にいない。人間は、不完全だからこそ人間なのだ。自身の正しさだの思っているものが本当に自身の望むものかといえば、それは別の話だ。

なら、俺は俺なりの回答を出す。分からないなりに、答えに手を伸ばし続ける。間違いながらでも、俺は進んでゆく。停滞などを甘んじて受け入れる程マトモな人間じゃないんでな。

 

それが俺の答えなのだから。

 

「system all green」

 

真っ黒な世界に亀裂が走る。

 

「“first shift” set up complete」

 

世界は崩壊し、白い輝きを放つ。

 

「Please choose your preferred language」

「ジャパニーズだ」

「───言語選択。No.52は標準言語を日本語に変更します」

 

世界が鮮やかさを取り戻して、俺の意識が段々と鋭くなってゆく。

 

「名証変更‥‥‥‥‥これより、No.52は【浮舟】と名乗ります」

 

五感が世界を掴み取り、圧倒的開放感が俺自身を包み込む。

 

「【浮舟】───起動します」

 

悪いが、勝たせてもらうぞ‥‥セシリア・オルコット。




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