やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。りていく!   作:AIthe

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それでも、比企谷八幡は立ち上がる

「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」

 

待っていても「奇跡」は起きない。

人生のルート分岐と言っても過言ではないその瞬間手を伸ばした者だけ、砂漠に雪を降らすことができるのだ。

 

だが、こうも言える。

 

「奇跡」とは、起こらないからこそ「奇跡」なのだと。

 

──────

 

結局俺は早退する事になり、寮の自室で一人反省会を開く羽目になった。苛立ちと後悔の念が俺を襲い、それから逃げるように布団に潜り込む。冷たく重い、新品の布団が俺を強く押し付ける。

確かに俺は自分でもわかるほどにイライラしていた。あまりの環境の変化に耐えきれなかったのかもしれない。そういう意味では、あの金髪クロワッサンには悪い事をした。言い過ぎだったとも思っている。

 

だが、それと家族を馬鹿にした事は別だ。多分、俺がイライラしてなかったとしても、家族を馬鹿にされれば怒っていただろう。

だから、俺は俺自身に失望してしまった。自分の心の強さには結構自信があったのだが、所詮はそれも俺の大嫌いな“上っ面”でしかなく───

 

疲労が果てしない。早く家に帰って、カマクラでも抱いて小町と話をしたい。あの俺の唯一の居場所を、俺から奪わないで欲しい。逃げ出せるもんなら今すぐ逃げ出したい。

 

プルルル、プルルルル

 

「‥‥‥ん?」

 

ボストンバッグの中から、ケータイの振動音が聞こえてきた。布団を捲り、ゴロゴロ転がり、のそーっとした動きで携帯を取り出す。

着信はスパム‥‥じゃなくて由比ヶ浜だった。電話番号なんて教えたっけ?教えてないと思うんだけどなぁ‥‥‥‥

 

「はい、もしもし」

「も、もももしもしヒッキー!?」

 

上擦った、耳をつんざくような高い声。電話で声が変わっているのだが、すぐに由比ヶ浜のものだと分かる。思わず、頬を綻ばせてしまう。

 

「声でけえよ、どうした?」

「いやぁ、ヒッキー元気かなーって」

 

こんな時でも、由比ヶ浜結衣は素直だ。素直な女の子ってのは素敵で、魅力的だ。こいつも、俺にはないものを持っている。雪ノ下がゆるゆりする理由がわからんでもない。

 

「ああ、ぼちぼちってトコだな」

「そ、そっか。ほ、他の女の子に手出したりしてないよね!?」

 

なにこの子無自覚に彼氏に言う台詞的なものを口走っちゃってるの‥‥女の子っておっかないわー。勘違いする初心な野郎が続出するぞ。

多分あれだな。俺が性犯罪者にならないか心配してくれているのだろう。

 

「ふっ。初日から机で寝ているエリートぼっちの俺には関係のない話だな。寧ろこっちが話しかけてもクラスメイトが後ずさりするまでである。」

「ヒッキーマジキモいんだけど‥‥‥‥」

 

数多の女子の中でも最大のアホの子、由比ヶ浜罵倒された。うわぁ、グサっときたわー(棒)。

 

「俺がキモいのなんて常だろ」

「つ、つね?」

「いつもって意味だ。やっぱり由比ヶ浜はアホの子だな」

「アホの子じゃないし!ヒッキーマジキモい!」

 

語彙が少なすぎて自然と笑い声が漏れ、引き笑いのようになってしまう。

俺が求めていたのはこれだったのかもしれない。俺は、奉仕部が、あの二人の事が───

 

「‥‥‥‥ねえ、ヒッキー」

「‥‥‥どうした?」

 

由比ヶ浜の声色が、突然真面目な、真剣味を込めたものになる。

そして、彼女の口から衝撃的な告白を聞く事になる。

 

「い、一年生の時、ヒッキー車に轢かれちゃったじゃん?あの時の犬、私の犬なの」

「‥‥‥‥‥‥」

 

高揚していた俺の思考が、冷水をぶっかけられたかのように一瞬にして冷めてしまう。

視界がぐるぐると回る。ズキズキと胸が痛み、携帯を握る手に力がこもる。携帯からミシッと、軋んだ音が鳴る。

 

「その、今まで言い出せなくて‥‥‥言おうと思ってたんだけど‥‥‥ごめんなさい」

 

冷え切った俺の思考は、俺にとって最善の───最悪の判断を下す。

 

「由比ヶ浜」

 

俺は、あの奉仕部の関係が好きだった。他のグループのような、仮初めの何かで固められた、少なくとも偽物ではない、ハリボテではない関係だと信じていた。

 

「もう、俺に優しくしなくていい」

 

だが、現実はいつだって非情で、俺を突き放す。こんなに優しい由比ヶ浜も、負い目を感じているから、こんな俺に優しくしてくれたんだ。一番のハリボテが自分達で、それが一番嫌いなものだったとは皮肉な話だ。

 

「負い目を感じているなら、もう気にしなくていい」

 

あの関係は全部、全部───偽物でしかなかったんだ。

 

「もう、俺に話しかけなくてもいいんだ」

 

俺の手が、力なくだらりと垂れ下がる。ケータイから響き続ける騒音を電源ごと切断し、どこかその辺に放り投げた。

 

脳裏に、一年前の光景が映る。

飛び出す犬。それに反応しきれない黒光りする高級車。追いかける飼い主。ブレーキをかける車。途端に走り出す俺。

 

もう、何も考えたくない。俺はそのまま布団に倒れ込み、死んだように眠った。

 

───2───

 

「お兄ちゃん‥‥‥どうしたんだろう‥‥‥‥‥」

 

突然ですが、比企谷八幡の妹こと、比企谷小町はお兄ちゃんが心配です。あの一人じゃダメダメなお兄ちゃんが、女の子しかいないIS学園でやっていけるわけがないのです。きっとストレスマッハで墓地送りにされちゃうのです。

 

気が気じゃなくなってしまったので、小町は電話をかける事にしました。

でも、何回かけてもお兄ちゃんは電話に出ませんでした。いつもなら、小町がドン引きする位に早く出てくれる筈なのに‥‥‥本当にゴミいちゃんなんだから‥‥‥‥

結局、小町が待っていても電話はきませんでした。

 

もう諦めて寝よ。そう思って掛け布団を被ると、居間からチリリリリンと音が鳴りました。小町は布団を蹴っ飛ばし、急いで下に駆け降りて、うるさく鳴り続ける受話器をとりました。

 

「もしもし、こちら比企谷です」

「夜分に失礼します。八幡君の担任の織斑と申します。こちらは「お、お兄ちゃんになんかあったんですか!?」

「お、落ち着いて下さい。妹さんですか?」

「は、はい。小町は妹です」

 

織斑と名乗る担任の先生からの連絡でした。心配と動揺とあとなんか色々と入り混じって、小町の心臓はドキドキバクバクです。

そういえば、織斑ってどこかで聴いたことがあるなぁ‥‥‥思い出せないからいっか!

 

「ご両親はいらっしゃいますか?」

「いえ、もう寝ちゃいました」

「そうですか‥‥‥では、ご両親に伝えて欲しいことがあるのですが、よろしいですか?」

「あ、メモとるんで待ってください‥‥おっけーです」

「はい。実は───」

 

話を聞くところによると、ゴミいちゃ‥‥ゴミは早速クラスの子と喧嘩してしまったそうなのです。担任の先生は、お兄ちゃんが入学試験を受けていないのでどれ程上手くISが使えるのかを見るいい機会だと思い、ISの模擬戦で決着をつける事に決めたそうです。

でも、平塚先生からお兄ちゃんは頑張らない人間だと聞いているから、どうすれば努力するの?みたいな内容でした。本当に手のかかるゴミです。小町がいないと全然ダメな癖に‥‥‥

 

「お兄ちゃんが努力‥‥‥天地がひっくり返ってもありえませんね」

「そうですか‥‥教師が一方的に問題を押し付け、やれと言うだけでは何も身に付きませんし、私も教師として責務を果たしているとは言えません。生徒にやる気を出させるのも教師の務めなのは重々承知をしていますが、八幡君の置かれている状況は世界に二人だけの男性IS適性者という、世間から注目を浴びざるおえない状況です。それに、IS学園は実質女子校なので気苦労も多いと思います。できればご家族の方から助言をいただき、可能な限り八幡君に望ましい形で環境を整えてあげたいと考えていたところなのですが‥‥‥」

 

お兄ちゃんが頑張れる方法。小町のちょっとだけ足りない頭をフル回転し、考えてみました。お兄ちゃんがどんな人間かという事は、家族の中でも小町が一番良く知っているのです。

 

そして、一つの案が思いつきました。

 

「そうですか‥‥あ。明日、お兄ちゃんと連絡を取る事はできますか?」

「はい、学園内の携帯電話の使用は許可されていますので、登校前の朝や放課後なら問題ありません」

 

お兄ちゃんやっばり無視してたんだ。ポイント低いなぁ‥‥‥本当、過去最低値を記録してるよ!株だったらすごいことになっちゃってるんだからね!

 

「ですが、こういう話はご両親に「いえいえ、小町はお兄ちゃんの事を一番分かっているのです。お兄ちゃんの問題は小町におまかせください!そうだ、説得してダメだったら小町に電話して下さい。あ、学校行かなきゃいけないんで、朝八時くらいまでにお願いします。電話番号は───」

「え?あ、あの、あ、は、はい、はい。確認ですが───ですね。分かりました‥‥‥もしお願いするときは、よろしくお願いします」

「いえいえ。うちの兄が迷惑かけてすいません」

「いえ、八幡君も急な環境の変化に戸惑っているだけだと思います。勿論、IS学園教師一同は八幡君の事をできる限りバックアップするつもりではありますが、本人も高校生という多感な時期でありますので‥‥‥ご家族の方も色々とご苦労がおありとは思いますが、できる範囲でよろしいので気にかけてあげてください。ご両親にもよろしくお伝えください」

「はい、分かりました。じゃあ、よろしくお願いします。失礼しまーす」

 

社交辞令を済ませて、受話器を元の場所に置きます。担任の先生がいい人そうで本当良かったのです。

小町はいつお兄ちゃんからの電話がきてもいいようにと携帯の音量を最大まで引き上げ、不機嫌モード全開でドテドテと音を鳴らしながら部屋に戻りました。

 

───3───

 

由比ヶ浜結衣は焦っていた。話すべきタイミングと、その内容。比企谷八幡という人間への理解が足りず、間違えを重ねてしまったのだ。

 

取り返しのつかなくなる予感を胸に、翌日、彼女は奉仕部に向かい、部長である雪ノ下雪乃に相談した。

 

「ゆきのん。私はどうすればいいのかな‥‥‥‥」

「‥‥‥由比ヶ浜さんは悪くないわ。悪いのはその車であって、貴女ではないもの‥‥‥」

 

何故か、雪ノ下の声が、暗く深く沈む。

 

「比企谷君も色々あって疲れているのでしょう。今度、私から連絡を取ってみるわ。」

「ごめんねゆきのん‥‥‥‥」

「いえ、比企谷君の矯正は奉仕部の活動の一環なのよ。だから、貴女が謝る必要はないの」

 

二人しかいない部室に静寂が訪れる。ぽっかりと空いたその椅子は、どこか寂しさを漂わせる。何かが足りない部室に吹き抜ける風に、かつての暖かさは感じられなかった。

 

「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

二人を静寂が包み込む。

 

「そ、そういえばゆきのん。ヒッキーなにやってるんだろうね?」

「エロ谷君はきっと女の子に鼻を伸ばしてるに違いないわ」

 

由比ヶ浜結衣は、その沈黙を破ろうと、ぽっかりと空いた穴を埋めようと、懸命に話を続ける。

それに呼応するように、雪ノ下雪乃は二人の関係の修繕について思考する。

 

きっと、彼らにはこれからも間違い続ける。それは悲しくて、痛くて、苦しくて、とても辛いものなのだろう。

それでも、彼らはそれに手を伸ばそうとする。例えそれが最善とはいえず、この関係を壊してしまう危機に陥ったとしても。

 

「ヒッキーは変態だからなぁ‥‥今頃なにやってるんだろ‥‥」

「そうね、気にならないといえば嘘になるわ。あの男が女子校もどきに送り込まれた絵なんて想像できないでしょう?それに、あの友達いない歴=年齢の彼が上手くやっていけるとは思えないわ」

「ヒッキー本当はいい人なんだけどな‥‥‥‥‥ちょっとキモいけど」

「ちょっとどころじゃないわよ。世界‥‥‥いや、宇宙規模ね」

 

だから、由比ヶ浜結衣は彼が去ってしまった奉仕部を辞めることは決してない。遠くても、遠くても、いつか彼にその手が届くと信じているから。

 

窓から刺しこむ夕陽は、赤く明るく部室を照らしていた。

 

───4───

 

現在朝の五時。

眼が覚めると、隣のベットに寝間着姿の女生徒が寝ていた。一人部屋じゃない事に絶望した!確かにベットは二つあったけどほら、男子だし?間違いが起きないように一人部屋でもいいじゃん?

でも織斑と相部屋なのは絶対に嫌だ。ストレスマッハで墓地送りを超えて除去されちゃう。

 

それにしても、本当にホテルのような部屋だ。なんというか落ち着かない。壁掛け時計もなんかオシャレ(笑)だし、ベットもふわふわフカフカだ。問題なんて何もないよ(キンモザ並感)。

加えて部屋は中々広い。冷蔵庫も風呂も設備されているしな。それに、目の前に織斑先生が仁王立ちして‥‥‥‥‥は?

 

「おりむぐっ!?」

「静かにしろ、騒げばどうなるかわかっているな?」

 

口元を押さえられ、機嫌が悪いのか強く睨まれる。

超高速で首をコクコクと動かす。どれだけ恐ろしいかっていえば、俺の冷や汗だけで世界の水不足を救えるレベル。

 

「ここまでくれば大丈夫だな」

 

今からボッコボコにされるんですね、分かります。でもその気になれば痛みだって消せるってさやかちゃんが言ってた。ちなみに俺はほむら派。さやカスは滅べ。

 

「おい、聞いているのか」

「すいません全然聞いていませんでした」

「‥‥もう一度言うぞ?昨日の事だ」

「ああ‥‥それがどうかしたんすか?」

 

せっかく忘れていた事を思い出し、気分が悪くなる。魔女化待った無しですわ。人魚の魔女になって赤髪の女の子巻き込んで死ぬわ。

 

「比企谷。お前って入学試験受けてないだろ?だから無理矢理模擬戦という形で解決させてもらった」

「え、ええー‥‥‥」

「何だ?文句があるのか?」

「い、いや‥‥‥」

 

やだこの先生最低。なにその無理ゲー。人生っていうリセットできないゲームくらい無理ゲー。あれ初期ステにばらつきがありすぎだろ。俺の眼のステータスどうにかしろよ。修正はよ。あと詫び石はよ。

入学仕立ての生徒にISの戦闘をさせようとするとか鬼畜すぎるだろ。最終鬼畜かっつーの。

 

「だから、オルコットをぶっ倒してくれ」

「話飛んでますよね?」

 

織斑先生は楽しそうだ。いや、それでは語弊があるな。悪巧みをした顔をしているというのが正しいだろう。

 

「いやぁ、あいつ入学早々日本を敵に回すような発言をしてな。あれでも少しは丸くなったんだが、もう少し落ち着かせたいのでな」

 

あれより気性が荒いとか最早ヒステリックの域だろ。ヒステリックって本当に害悪だよな。

 

「はぁ、それを俺に?」

「ああ。個人的にも弟を馬鹿にした事が気に食わんのでな」

 

うわぁ、この人ただのブラコン教師じゃないですかやだー!!!

 

本当に無茶苦茶な先生だ。先生というより鬼教官だ。ポケモンで子供相手に6vギルガルド使って泣かせてそう。

 

「そうですか。ですが、お断りさせて頂きます」

「‥‥‥‥まあ、そう言うとは思っていたがな‥‥‥‥なぜだ?」

「やる理由が見当たりません。それに、俺みたいな素人が模擬戦をやっても得られるものは何もないでしょう」

 

俺はやらねばならない仕事は迅速に終わらせて全力で休むが、やらなくてもいい仕事は絶対にやらないで全力で休む。折木君の思想は嫌いじゃないよ。くっそ古典部羨ま‥‥‥えるたそ〜。

 

「ふむ、馬鹿にされても悔しくないと?」

「‥‥やり返そうと思う程ではありませんね」

 

悔しくないといえば嘘になるが、そこまでの程じゃない。自分の非もある事だし。それに面倒だ。

 

「聞いた以上の捻くれ度合いだな‥‥‥」

 

ブツブツと呟いて、何やら織斑先生はおもむろにポケットを弄り、ケータイを取り出した。そして、ぽちぽちと画面に触れて電話をかける仕草を取る。

 

「もしもし。はい、担任の織斑です。朝早くすいません」

 

不覚にも、この先生敬語使えるんだと感心してしまった。くやしいでも感じ(ry

 

「はい、よろしくお願いします‥‥‥ほら、比企谷」

 

渋々電話を替わる。さて、どんな人と電話する羽目になるのか。考えるだけで胃がキリキリする。

 

「もしもし!ゴミいちゃん!?」

「ファッ!?ここここ小町ぃ!?」

 

よく聞いているプリプリとした声。

電話の相手はマイスゥィートシスター小町だった。あ、ちなみにマイスウィートエンジェルは戸塚な。これだけは絶対に譲れない。譲れない戦いがここにはある。

 

てか織斑先生なんで小町の携帯の番号知ってるんだよ。怖いってレベルじゃねえぞ!

 

プライバシー がログアウトしました。

 

「昨日なんで無視したの?」

「無視?なんの事だ?」

 

ウーン、ハチマンワカンナイ。

 

「電話でなかったでしょ!小町は激おこぷんぷん丸なのです!」

 

お、おう。激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム(神)とかいう取り返しのつかない状態じゃなくてよかったわ。

 

「すまん、電源切ってたわ」

「もう、ゴミいちゃんは‥‥‥」

 

こいつゴミに失礼だろ。ゴミってのは立派なんだぞ。文明発展の影には必ずゴミが存在すると断言してもいいね。

 

「そういえばお兄ちゃん。今度模擬戦やるんだって?」

「一応な、まあ勝てるわけなんてないけどな」

「ふーん‥‥‥努力しようとも思わないの?」

「ああ、働いたら負けだからな」

 

つまり専業主夫こそ真理。働きたくないでござる!働きたくないでござるぅ!

 

「どうせお兄ちゃんの事だから、負けてもいいと思ってるんでしょ?」

「もち、さすが我が愛しの妹だ。よく分かっているな」

「でも、負けたら小町は悲しいな‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

そう言われるとぐうの音も出ない。

 

ぼっちとしての俺の信条は、「押してダメなら諦めろ」だ。だから、基本的には諦める方針で物事を進めている。

だが、ぼっちは誰にも迷惑をかけず、誰も傷つけず、全ての責任を自分で背負う。それこそ、比企谷八幡が比企谷八幡である所以であり、ぼっちとしての最低限のマナーだ。

 

だから、小町が傷ついてしまうと言うならば、俺は諦める事ができなくなる。諦めるとなれば、俺は自分自身に嘘をつく事になる。

 

小町は俺の事をよくわかっている。だから、口八丁で言いくるめようとしても、それは無意味なのだ。のれんに腕押しという奴だ。

 

「だから‥‥‥小町の為に、世界でいーちばん強くなってくれない?」

「おいちょっとまて」

 

シリアスになるかと思ったら全部ぶっ壊しにきたよこの子。世界一とかナチスの科学力かっての。

 

「えー!小町の言う事が聞けないの?」

「そう言われてもな‥‥‥」

 

昨日の事を思い出す。あの金髪クロワッサンが小町を馬鹿にした事を。

 

俺は、俺自身が馬鹿にされても構わない。だが、俺の家族を馬鹿にする事だけは絶対に許せない。もう怒る気力は失せてしまったが、今でも許してはいない。

それに、俺は内心、最低限の努力は必要だと分かっていた筈だ。世界で二人だけの男性IS適性者。そうなれば、いつどんな危険が自分に迫ってもおかしくない。

だが、俺はその問題から目を背け、逃げようとしていた。いつも通り、いつも通りと自分に言い聞かせ、努力をしない理由にしようとしていたのだ。

そんな俺に、小町は行動する理由を与えてくれたのだ。

 

「‥‥可愛い妹のお願いなら仕方ないな」

「うんうん。可愛い妹のお願いだもんね」

 

す、少しだけなんだからね!べ、別に小町のために努力するとか、全然そんな訳じゃないんだからね!





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