やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。りていく!   作:AIthe

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残酷にも、天災の辞書に容赦の文字は無い

「あなたが悪魔と戦うからって、あなたが悪魔でいないとは言えない」

 

──────

 

放課後。人のいない第四アリーナ。監督の先生がいるのかいないのかわからない程にガラガラなこの場所で、俺は一人立ち尽くしていた。

昨日の昼休み、デュノアに聞いてみたところ「全然大丈夫だよ。こっちから誘おうと思ってたくらいだし!」と言っていた。マジ天使。養ってくれねえかな。

それにしてもあの二人が遅い。五時には集合な筈なのだが、来る気配すらない。五分前に来いとは言わんが遅刻はダメでしょ‥‥‥三十分も待たされてるんだけど何これなんて新手のイジメ?

 

「お待たせ〜!」

「悪いな比企谷、訓練機借りるのに手間取っちゃってな‥‥」

「ここがIS学園のアリーナ‥‥‥」

 

ようやくきたと思ったら、一人多い。もう一度言おう、一人多い。ここ重要な。テストに出るぞ。

 

「相なんとか、どうした?」

「相川だって!覚えてよー!」

 

ぷくーっと頬を膨らませる相川さんマジハムスター。とっとこ走っちゃうね。

 

「へいへい、で?なんでお前がいるんだよ」

「あの‥‥‥そのね?みんな集まるなら私も見学させてもらおうかなーって」

「ってな訳で訓練機も借りてきたぜ」

「今日の趣旨忘れたのかよ‥‥‥」

「ははは‥‥‥」

 

打鉄を装備した相川が、おぼつかない足取りで近づいてくる。それは生まれたての小鹿のようで、足がぷるぷると震えている。

 

「おり‥‥デュノア‥‥‥すまないが手伝ってやってくれないか?」

「う、うん?わかった」

 

織斑って言おうと思ったんだけどこいつ胸揉み魔なんだよな。こいつに手伝わせてみろ。相川が転んだ拍子に再び胸を揉むぞ。

 

「それがお前の専用機か?」

「うん、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。僕の専用機だよ」

 

デュノアが装備しているのは、かのラファール・リヴァイヴに似たIS。装甲はオレンジを基調としたもので、ラファール・リヴァイヴよりもスラスターが多く、装甲が薄い。名の通りカスタム機なのだろう。

これだけでも十分きた価値があった。これを承諾したのはこの為だしな。

デュノアの情報は出来るだけ欲しい。専用機の姿が見れれば、それだけでも何か得られるはずだと思ったのだ。結果的に、デュノアが可愛い事しか分からなかったが。もうそれだけわかればいいや(錯乱)。

 

「右足から行くよ?」

「う、うん。いっちに、いっちに、いっちに───」

「そうそう、いい感じ。いっちに、いっちに、いっちに───」

 

ふおおおおお!!シャルルたんの髪をクンカクンカしたいお!!シャルルたんの髪を───

 

「おい、比企谷!大丈夫か?」

「はっ!?ハルケギニアにトリップしていた気がする‥‥‥」

「は、はるげ‥‥‥?」

織斑弟に肩を揺すられ、現実に戻って来る。危うく間違った道に踏み外しちゃうところだったぜ‥‥いや、むしろ踏み外そう。もうこれ踏み外す以外の選択肢あるの?俺という人生のルートはデュノアルートに確定しました。やったぜ。

 

「まあいいや、早く始めようぜ」

 

右手を大きく掲げると、粒子の中から黄色のラインが入った白い装甲が現れる。右手には一本の大剣。姉から引き継いだ最強の一振り。雪片弐型が握られていた。

 

「シャルルー!ちょっと協力してくれー!」

「あ、待っててー!」

 

「ゴメンね?あとは───」「うん、分かった〜」とやり取りをし、スムーズな動きでデュノアがこっちに向かってくる。

 

「じゃあ比企谷、離れててくれ」

「あ、うぃっす」

 

場所を離れると、白とオレンジのISが空へ浮かんでゆく。邪魔にならぬよう、俺はアリーナ端に寄る。

 

「じゃ、いくよ?」

「おう、どんとこい!」

 

織斑弟は剣を両手で構え、彼らしく単純に突っ込む。それを予想してたが如く、既にデュノアの手の中には銃器が握られていた。手ぶらだったと思ったんだが‥‥‥‥

 

「呼び出しが早いな‥‥‥」

「比企谷くーん」

 

声に反応してチラリと見ると、相なんとかさんが手を振ってきている。仕方なく小走りでそちらに向かう。

 

「どうした?」

「ねえねえ、織斑くん不利じゃない?」

 

わざわざ呼んで聞くことじゃないだろだろとも思いつつ、視線を二機に戻す。織斑弟は直線的な動きで距離を詰めようとしているが、対してシャルルは先程とは違う両手の銃器───おそらくショットガンで機体を引きながら応戦している。

 

「どうしてそう思う?」

「だって、ブレードとショットガンだよ?相性が悪いよ」

「確かにな‥‥‥」

 

否が応でも近づかなければならない織斑弟と、距離を離しながら射撃戦に持ち込めるデュノア。相性は言わずとも分かるだろう。

不利だと判断したのか、距離を離して高度を取る。白い装甲が陽光を反射し、剣先が輝く。

 

「ねえ!今の見た!?」

「え?‥‥‥‥は?」

 

俺が少しぱちくりと瞬きをした一瞬で、デュノアの手にはショットガンではなくブレードとアサルトライフルに変わっていた。そう、これは実践編の教科書に書いてあった技だ。

 

そう、名前は───

 

「‥‥‥高速切替か」

 

高速切替。武装を拡張領域に収納し、別の武装を拡張領域から呼び出すという基本的な行為を反復練習し、簡易化した技術の総称だ。手品のように武装が切り替わり、弾倉が入れ替わり、その攻撃が止むことは決してない。

そして、ラファール・リヴァイヴという機体。カスタムされたこの機体についてはよく知らないが、原型の方は近距離から遠距離まで、十個近くの武装が積まれている。

つまり、この機体相手に相性という言葉は存在しない。遠くに行けばスナイパーやキャノンで撃たれ、中距離はアサルトライフル等、近距離はショットガンやブレードと、全距離に対応できる。本人もそれをわきまえ、堅実な、弱点を突く戦闘を行う。実に厄介な組み合わせだ。

 

「言う通りになりそうだな」

「でしょ〜?」

 

この少女。ISを使う事に関しては全然だが、ものをよく見ている。練習をして、使いこなせるようになれば大物になるんじゃないかと思う。まあ、俺みたいな素人に言われても説得力がないんだがな。

 

「うおおおお!」

 

白式のウィングスラスターが光を溜め込み、一気に噴出する。

瞬時加速によってデュノアとの距離を一気に詰め、白い大剣を一薙ぎ。

 

対するデュノアはそれを危険だと判断したのか、距離を取る。

そう、ここまでは普通の模擬戦だった。そうだったのだ。

 

なのに───

 

「あれは‥‥‥‥」

 

【浮舟】を展開していないのにも関わらず、遠くに既視感のある黒い影が見える。アリーナのシールドバリアーよりも上、こちらに向かって、一直線に近づいて来ている。

 

「デュノア!織斑!」

 

普段大きな声を出さないので、上手く声が出ない。声が掠れる。

だが、ハイパーセンサーで俺の声を捕らえたのか、二人はこちらを向く。

 

「上だ!」

「比企谷くん、なに?どうしたの?」

 

その影から、真っ白な光が雨のように放たれる。

 

「相川、シールドを!」

「え、ええっ!?し、シールド展開!」

 

疎らに、めちゃくちゃに撃たれたそれを上空の二機は華麗に避ける。が、俺と相川は避ける術がない。すぐさま打鉄の背後に隠れる。

機体は相川の声に反応し、打鉄の両肩に浮く盾が前方に構えられる。光が着弾、弾け、打鉄がじりじりと後退する。

運が良かった。打鉄は防御力重視の日本の第二世代型だ。ちょっとやそっとの攻撃くらいじゃビクともしない。

相川には悪いが、庇ってもらおう。直撃したら俺は死ぬ。ISの攻撃とはそういうものだ。兵器とは、そういうものなのだ。

 

白い雨が止み、機体の脇から顔を覗かせる。

空には三機のIS。白、橙、青銅が宙にて交じり、離れ、弾き飛ぶ。踊るように闘うその様は美しいが、それを美しいと思ってしまう自分に恐怖してしまう。自分が普通じゃない気がして、心苦しくなる。

 

シールドバリアーを破った所属不明機は二対一にも関わらずに攻勢で、機体を己が身体のように華麗に操る。

その合理的過ぎる動き、見覚えがある。見覚えどころの話ではない。あれは───

 

「うっ!‥‥‥うがあっ‥おえっ‥‥はぁ、はぁ‥‥‥」

「ひ、比企谷くん大丈夫!?」

 

あの黒い無人機。あれの動きにバリエーションを増やしたというのが一番近い。

外では監視役の教師が何かを言っているように見えるが、よく聞こえない。

 

またあの恐怖が襲ってくるのかと思うと、手が震える。心が怯える。視界が狭まる。音が遠ざかる。

 

俺が撃った、殺した相手。地獄から再び這い上がってきた復讐者のように思えて、思わず口元を抑える。

 

「比企谷!相川!」

「逃げて!」

 

空の切る音。朧げな視界には、青銅色の何か。段々と近づいている。俺を殺しに来たのだ。

 

死ぬ直前に時間が遅くなるというが、まさに今がそれに似た状態だ。一秒一秒が何百倍に伸ばされたかのように、世界が速度を落とす。

まず見えたのは無人機の、鷹のように鋭い、白く光るカメラアイ。食物連鎖の最上位に君臨する、獲物を狩る眼。だが、そこには感情がない。無機質な、殺す事だけを目的とした機械。

 

次に、その容貌が見えてくる。流線型の空気抵抗の少なそうな装甲に、錆び付いた銅に似た色。両肩に浮くウィングスラスター。全身からは煙を吹き出しており、装甲走るラインが真っ赤に染まる。その姿は、どこかの神話に出てきた青銅の巨人に似ていた。タロスといったか。青銅の巨人と呼ばれる、作られた自動人形。

となれば、作った人物は発明の神という事か。たしかに、言い得て妙だ。無人機など、本当はあり得ない代物なのだから。

 

最後に、その武装。両手に握られる対の日本刀は、その姿には全く似合わない。だが、その殺意と殺気は完全に重ねられ、剣先は鋭く光り、俺に向けられているように感じた。

 

「比企谷ぁぁ!!」

 

誰かの声。俺の脳が急速に回転を始め、反射的に身体を動かす。

先程、この無人機はアリーナのシールドバリアーを破って侵入してきた。そんな一撃を、打鉄が耐えられるだろうか?

恐らく不可能だ。あの日本刀で突き刺されでもしたら、絶対防御が発動した後に、シールドエネルギーが切れた機体にもう一撃加えられ、下手すれば死ぬ。それに相川は初心者だ。逃げることなど到底不可能だ。

なら、どうする?ISの使えない俺ができることなど何もないだろう。

 

だからってこのまま何もしないのか?そんな理由にはならないはずだ。少し耐えれば、ほんの少しの時間耐えれば、二人がどうにか気を引いてくれるはずだ。

人が目の前で死ぬかってところを、俺は見捨てるのか?自分の死ぬ可能性と他人の死ぬ可能性が釣り合うのか?

なら、俺は。俺自身を捨てても、俺がやるべき、やるべき事は───

 

「【浮舟】!!」

 

地面を蹴り飛ばし、相川の前に躍り出る。

襲いかかる猛烈な吐き気、目眩。だが、今は耐えねばならないのだ。あの恐怖を。恐怖にうち勝たねば。耐えろ。耐えろ。耐えろ。

 

展開できたのは一部分だけで、両腕のみ。ハイパーセンサーは起動したらしく、近づく日本刀を捉え、思い切り弾く。手がビリビリと痺れ、下唇を噛む。

 

「らあぁぁぁ!!」

 

二回目、三回目と凄まじい速度で剣撃が繰り出され、必死の思いで弾く。が、それも数回で読まれてしまったのか、今度は俺の右腕が弾かれる。

 

「ま、まずっ───がはっ!?」

 

突き出される剣撃。灼熱の痛みが俺の脇腹を走り、苦痛に顔を歪める。

 

痛い。痛い。痛い。

 

死の実感が脇腹を中心にして、じわじわと広がる。

 

「あ‥‥いか‥‥わ‥‥‥にげ‥‥‥」

 

俺の意識は、途絶えた。


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