やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。りていく! 作:AIthe
「「目には目を」では、世界を盲目にするだけだ」
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由比ヶ浜の誕生日会が終わり、次の日。みんなのアイドル月曜日の放課後、俺は職員室の扉を叩いた。
「失礼します、織斑先生いますか?」
「ん?また比企谷か」
またってなんだまたって。職員室に来た優良な生徒と言って欲しいね。と言っても、ここまで職員室に来る生徒も珍しいのか。ほら、俺って優秀だし?納めるところはしっかり納めるし?
「少し頼みたいことがあるのですが‥‥‥」
「頼みたい事か‥‥‥私にできる範囲なら協力してやろう。三日後にクラス代表戦が控えているから大したことはできんが」
ああ、そういや隣のクラスに変なちっこいのが来てた気もしないでもない。「二組の代表は私よ」的な事言ってたかも。
ちっこいのが織斑弟にベッタリだった事なんて知らない。織斑弟が女子を三人連れ歩いてる事なんて知らないもん!
「ええっと、そのですね‥‥‥」
「歯切れが悪いな、早く言え」
「部活を作りたいんですが‥‥‥‥」
「ほお、お前が部活?ちなみに何部だ?」
「奉仕部‥‥‥っていう部活なんすけど‥‥‥」
「ふむ‥‥‥‥」
部活動申請書を提出すると、織斑先生が目を細める。
IS学園出張奉仕部。俺がたった今織斑先生にお願いした部活動の正式名称だ。理由は、この前の誕生日会に遡る。
───回想───
「うーん、働かずに食べるケーキはスペシャルに美味しい」
「何を言っているのかしら‥‥‥‥」
あの後、誕生日ケーキを切り分け、みんなで食べる事になった。ケーキってたまに食うと美味いよな。食う機会ないけど。夢色パティシエールしちゃう。
「そういえば、ヒッキーIS学園で何やってるの?」
「ナニって‥‥‥勉強に決まってるだろ。これだからビッチは‥‥」
「ビッチ関係ないし!ビッチじゃないし!」
やはり、由比ヶ浜は今日も平常運転だ。俺の嫌いな優しい女の子。だが、そこが彼女の魅力なのだろう。素直な事は素敵な事だ。少しだけ、少しだけだが、羨ましい。
「でもアホの子なのは事実なのよね‥‥‥‥」
「ひどい!ゆきのんひどい!」
「僕も気になるなー」
「えっとだな、ISの訓練とかISの訓練とか担任にしごかれたりとか担任にパシられたりとかしてるぞ」
「ヒッキーさいちゃん好き過ぎでしょ‥‥‥‥」
「私は担任にいいように使われている事が気になるのだけれど‥‥‥」
「へぇー、八幡頑張ってるんだね!」
「おう!」
戸塚の為だったら何でもできる。地球の自転止めてビルを投げたり、知恵の泉と混沌の欠片で退屈を潰す事なんて余裕ですわ。安心院さんも余裕。
「でも、ヒッキーがもう部室来ないのかぁ‥‥」
「まあ、会えなくなった訳じゃないだろ?」
「そうよ、彼も一応は奉仕部の部員であるのだし」
「「え?」」
由比ヶ浜とハモった。こっちチラチラ見てくるよこの子。ハモってなんかすみません!
「由比ヶ浜さんにさえハブられてしまったのね‥‥‥‥」
「そんな事言ってないよ!どういうこと?」
「‥‥‥書類上は部活動‥‥学校にさえ参加していないけれど、元は奉仕部の一員よ。それに、彼が入部した理由は彼自身の矯正。つまり───」
雪ノ下ははっきりと断言する。
「───比企谷くん、奉仕活動を続けなさい。これは命令よ。受刑者に辞める権利なんてないわ」
───回想終了───
という訳だ。あの後平塚先生に尋ねてみると、「そりゃクールだ(洋画風)」と答えた。奉仕部って全員悪人なの?アウトレイジなの?
不本意ではあるが、命令されたのなら仕方がないだろ。雪ノ下&平塚先生の言う事を無視してみろ。回り回って罵倒と拳が飛んでくるぞ。ついでに目の前から出席簿も。
「だが、生憎部室がだな‥‥‥‥」
「いえ、部室は大丈夫です。その代わりとは何ですが‥‥‥」
「ほう、言ってみろ」
織斑先生が俺を睨みつける。実際は睨みつけているのではなく、目つきが悪いだけだ。実際、その表情は愉しそうに目を細めている。
でも一々威圧してくるのやめてもらえますかね?怖いんで。
「IS学園内IDのみで入れるお悩み相談サイトを作りたいのですが‥‥‥‥」
「うっ‥‥クックックッ‥‥‥ハッハッハッハッ!!」
突然の大笑いに視線が集中する。切実に帰りたい。ってか、そもそも笑われる要因があったか?
「ひーっ、ふぅ‥‥‥面白かったぞ、比企谷。いいだろう、じゃあ顧問は私でいいか‥‥‥山田先生!後は頼みました!」
「ええーっ!?」
この先生って先生としてどうなんだよ‥‥なんか平塚先生が教師やめて荒くれたverみたいだな。あそこまで人格が成ってるとは思わんが。取り敢えず山田先生に合掌。
「あの、ありがとうございます」
「いやいや、構わんよ」
大声で集まってしまった視線から逃げるように、俺は職員室を飛び出した。
───2───
場所は変わって第四アリーナ。
「trigger」
【藤壺】の砲身より漏れ出た光が高速で射出され、ターゲットを射抜く。脛部の物理シールドが格納され、膝を伸ばして立ち上がる。
今日は山田先生が俺の私用によって忙しいので、実質アリーナを独占している。なぜこのアリーナは人が少ないのか。遠いが、人が少ない方が快適だと思う。広々使えるしな。
それにしても、何で俺はこんなにスナイパーライフルの練習をする羽目になったのだろうか。アサルトライフルの状態でばら撒きたいんだけど。くっそ山田先生許さねえ。
次は高速移動の訓練でもするかと思い、【若紫】を起動する。折翼から蒼炎が広がり、美しい翼を取り戻す。
鼻歌を歌いながらノリノリで訓練を始めようとしたのだが、アリーナに入ってくる人影を発見し、動きを止める。
「あんたが二人目?」
「‥‥‥‥‥」
入ってきたのは隣のクラスのちっこいの。クラス代表だったっけか。
こいつアスカなの?シンジくんもしくは織斑弟を探しているなら回れ右をしてどうぞ。
訳すと、「あんたが(男性IS適正者の)二人目?」という事だろう。そうじゃなかったら逆に何の用で来たのかさっぱりだ。
「なんとか言いなさいよ」
「‥‥‥まあそんな感じだ」
「へぇ‥‥‥‥」
訝しげな視線を送りながら、ちっこいのは近づいてくる。マジで小さいな、小町サイズだよ。
「あんた、強いの?」
「いや全然」
だってこの前金髪クロワッサンに負けましたし。
「きっぱり言うのね‥‥‥‥でも代表候補生相手に善戦したって聞いてるわよ?」
「ありゃあ初見だったからだ」
強いのは機体であって、俺じゃないし。しかもこの前のは弱点を調べ尽くした上でのハンデ戦だったからな。次やったら問答無用でボコボコにされるだろう。
「‥‥‥あくまでも謙遜するの、ふーん‥‥‥‥」
「いや事実だから」
謙遜する強キャラ見たいな扱いになってるんだけど、やめれ。
「あんた、有名よ。「代表候補生に精神攻撃を仕掛けた」とか、「初日に逆ギレした」とか‥‥‥他にもあるけど」
「半分くらいは合ってるんじゃないか?」
「清々しいくらいのクズっぷりね‥‥‥来なさい、甲龍」
赤───いや、ピンクと言うべきだろうか。ともかく赤に近いピンクと黒が噛み合った装甲。肩付近にはスパイクのついた非固定部位が浮かんでおり、その推進器らしくない姿がこれも武装の一種なのではないかという疑いを呼ぶ。
両手に武器を持っていないのも厄介だ。こっちは常に全武装を開け晒しているのに不平等な気がしないでもない。が、それも戦術のうちなのだろう。仕方がない。
今からボコられるのか?一応は抵抗するけど絶対勝てないだろ。
「らあっ!!」
「あ、【朝顔】!」
声よりも早く、大きく踏み込まれる。両手には光が溢れ、それは剣を象る。
ほぼ反射的にその名を叫び、左腕のエネルギーシールドが展開する。姿を現した青龍刀を受け、左に流す。【若紫】が炎を吹き出し、右側に大きく機体を動かす。
「Code:assault rifle!」
レールが短く二本に変化し、不意をとってその銃身を頭部に向ける。
が、それも読まれていたのか、俺の首筋に青龍刀が沿われる。
この状況。どう考えても俺の負けだろう。わざわざ地上戦に合わせてくれるなんて優しいこった。格闘機なら別の話だが。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
こういう時に、なんて言えばいいのか分からない。「降参」はそもそも吹っかけてきたのはあっちだし違う。「俺の負けだ」も同上の理由で違うだろ。そもそも勝負してないし。
「‥‥‥強いじゃない」
「いや、たまたまだ」
両手を上げ、武装を解除する。実際にまぐれです。運良くガードできただけだからね?
「‥‥‥本当に自分に自信がないのね。まあ、分からなくもないけど」
「‥‥‥‥」
ちっこいのがISを解除する。
まぐれで今の一撃を受けたからって強敵認定するのやめてもらっていいですか?
生身である俺を爪先からアホ毛まで舐め回すように見つめた後、興味を失ったのか用が済んだのか、俺に背中を向け、ゆっくりとした速度で去って行った。
しかし、突然思いついたかのように立ち止まり、振り向かないでこちらに手を振ってくる。
「凰 鈴音よ、覚えておいて」
「お、おう‥‥‥」
名前を言い残して、走って行ってしまった。
マジでなんだったんだあいつ。俺のSAN値だけ削って帰りやがりやがった。許さねえ。
───2───
「明日はクラス代表戦だね!」
「そーだな」
「色んな人が来賓で来るんだってー!」
「そーだな」
「一組と二組どっちが勝つと思う?」
「そーだな」
「やっぱり全然聞いてないじゃん!」
「‥‥‥なんだよ?」
カタカタッターン!!とEnterキーを押し、編集を一旦中止する。月みたいに俺の周りをぐるぐると回ってて凄く目障りだ。「ねえ、今どんな気持ち?」ってやられている気分。
「今なにしてるのー?」
「関係ないだろ」
「いいじゃんいいじゃん教えてよー!」
制服の首元を掴まれ揺らされる。首が締まり、俺の頭がぐらんぐらんと揺れる。気持ち悪い‥‥‥
「苦し‥‥わかった、教えるから離せって!」
「にひひー」
にひひーじゃねえよ。呼吸困難で死ぬぞ。殺す気なのかよ。
「‥‥サイト作ってたんだよ」
「へー、すごーい!」
正確には、サイトの編集をしていただけなんだけどな。
今俺が編集していたサイト、「IS学園お悩み相談室」は、学生からメールで悩みを聞く為のサイトだ。本当は奉仕部のように部室を用意して殆ど来ない人を待っても良かったのだが、ぼっちどころか評価が低い俺の元に誰かが相談に来るのだろうか。雪ノ下や由比ヶ浜のような人物がいれば話は別なのだが。
それに、部室として使える場所もないらしい。なら、メールで相談を受ける事くらいしかできないだろう。むしろそっちの方がいい。部屋に帰ってきてメールをチェックするだけの快適な奉仕部ライフを送れる。
リンクやらなんやら俺にはよくわからない事は山田先生がやっておいてくれたので、先程まではサイトの説明等を載せていた。どこぞのキョンくんと違って独学でサイトを作る事なんてできないんですよ、ええ。
「あと少し待ってろ」
「ほーい」
カタカタとキーボードを叩く心地の良い音だけが部屋に響く。
空間投影型ディスプレイに実機のキーボードというのは少し不恰好だが、叩く感触があった方が調子いいのだ。俺専用のコンピュータだし問題はないだろう。
雪ノ下の受け売り、魚を捕る方法云々を書き込み、サイトの編集を完了させる。
「終わったぞ」
「なんのサイトなの?」
「秘密だ」
「えー、ケチ!」
ケチもなにも教えたら悲惨な事になる未来が見えるからな。
「比企谷くんのケチんぼ!」
「ケチんぼなんて言う奴初めて見たぞ‥‥‥‥」
中年なのか?中年のおじさんなのか?それともハピネスをチャージしてしまったのか?
「む〜!まあいいや。今日は諦めるけど、明日は覚悟していてよね!」
「はいはい、早く寝ろ」
渋々「はーい」と答えて、布団に潜り込んでしまった。相なんとかさんはダンゴムシのように丸まる寝相なのだが、あれは本当に寝れているのだろうか。たまに心配になる。
「‥‥‥寝るか」
パソコンをそっと閉じて、俺も布団に潜り込んだ。