>>CE71.05.15 本島@オーブ/キラ・ヤマト
最近、僕たちに対する警備が一段と強まった気がする。気になって尋ねてみると、正規の訓練も受けずにMSで戦い抜いた僕を狙う組織があるらしく、背後関係が判明するまで、念のために警備を強化したという話だ。
「そう……まだ平穏には程遠いんだ……」
「ごめん、フレイ。僕のせいで……」
「ううん、キラは悪くない。悪いのは、悪いことを企むヒトたちじゃない」
彼女の優しい言葉が僕の中の不安や不満を一気に溶かしていく。
僕たちの間には、いろいろなことがあった。
運命の1月25日。ヘリオポリスと共に僕たちの日常が崩壊したあの日から、もう五ヶ月がすぎた。戦争を遠い出来事だと思っていた僕たちは、あの日、なんの前置きもなく、ヒトを殺さなければ生きていけない現実へと放り込まれてしまった。
殺し合いを強要される日々。
フレイのお父さんの死。
僕を復讐の道具にしようと近づいてきた彼女と、そうと気付きながらも彼女にすがりついてしまった僕の過ち……
全てが無駄だったと知ったのはオーブにたどり着いてからのこと。
僕らは地球連合から犯罪者扱いを受けていた。
地球連合軍はすでに量産型MSの開発を進めていた。
僕らは不要だった。
<アークエンジェル>も、<ストライク>も、アラスカに運び込む必要がなかった。
ハルバートン提督や第八艦隊のヒトたちや、低軌道会戦で犠牲になった戦災難民……折り紙をプレゼントしてくれたあの子の死は、すべて、すべて無意味だったのだ。
父親の死も無駄扱いされたばかりか、遺産も親戚に奪われていると知ったフレイは情緒不安定になり、入院した。僕も心が折れそうだった。それでもフレイを、フレイだけは、彼女だけは絶対に守ろうと、そう決意して彼女のそばに居続けて……
でも、僕もまた平静でいられなかった。
だから壁に頭を何度もうちつけた。
僕たちの関係が変わりだしたのは、その頃からだ。
フレイはようやく、僕を見てくれるようになった。
僕もすがる相手ではなく、フレイとして彼女を見るようになった。
父さんと母さんに会いに行ったのは、それから間もなくのことだ。入国直後に一度だけ顔をあわせたが、その時になにを話したのか、実はよく覚えていない。ただ、どうしてもひとつだけ確かめたいことができたので、勇気をふりしぼって会いに行った。
──父さん。母さん。どうして僕をコーディネイターに?
頭の片隅で何かが引っかかっていたのだ。
だから、それを尋ねてみた。
その結果、母さんの口から衝撃の事実を教えられた。
──もう話すべき時なのね。キラ。あなたは私の妹夫婦の子供なの。
本当の父親の名はユーレン・ヒビキ。
本当の母親の名はヴィア・ヒビキ。
コーディネイター化処置を行ったのは遺伝子技術者でもあった父の判断、僕をヤマト家に預けたのは我が子を実験動物のように扱う夫を信じられなくなった母の判断。その後、メンデルがテロリストの襲撃を受けた際に父と母は生死不明に……
フレイのもとに帰った僕は、全てを彼女に話した。
またわからなくなった。
僕はどうして生まれたのか。
モルモットなのか。
人間ではないのか。
ヒトではない何かだとしたら、僕はヒトを愛する資格があるのか……
フレイはそんな僕を受け入れてくれた。
慰めてくれた。
抱きしめてくれた。
カウンセリングを受けるようになって、僕とフレイが共依存になりかけていると忠告された。共依存そのものは決して悪いことではないが、過度になると心のバランスが崩れるので職場等は分けたほうが良いとも忠告された。
フレイはオーブへの亡命を決意。学校に復学すると言った。
僕も学部は別だけど、復学することにした。
みんな、それぞれを道を歩みだしている。だからこそ、僕は、僕の道を進もうと決意したのだ。
福祉用ロボットの開発。
いろいろとあったからこそ、僕は傷ついたヒトを癒す何かを生み出したかったのだ。
「……キラ?」
「あ、ごめん。研究のこと、つい考えちゃって」
「ふふ。研究、楽しい?」
「どうかな。まだ雑用ばかりだから」
「私も卒業したらそうなるのかな? それとも……」
「それとも?」
「………………」
「………………」
お互い、恥ずかしくなって顔を逸らしあってしまった。
でも、そうか。
そういう可能性もあるなら……貯金、頑張らないと。指輪は月収三ヶ月分だっけ?
>>SIDE END
>>CE71.05.15 オノゴロ島@オーブ/ユウナ・ロマ・セイラン
リア充爆発しろ! 末永く爆発しやがれこん畜生!!
「まっ、この様子だとマルキオ導師の横槍は無さそうだな……」
そうなるとマルキオ導師一派の動向が気にかかる
あー、そうそう。
電子精霊網で徹底的に調べた結果、この世界のマルキオ導師一派は一族の傍系にあたることが判明している。組織名は“ターミナル”。そう、種死で暗躍した、あの秘密武装組織ターミナルこそがマルキオ導師のバックボーンだったのだ。
しかもこのターミナル、頑種世界の元凶と言えることをいろいろとしでかしている。
ターミナルの主張はこうだ。
──自分たちで優秀な指導者を生み出して、そいつに人類の未来を預ければ良くね?
あくまで干渉者の立場を固辞する一族はこれを否定。ゆえに分派したわけだが、ターミナルは自らの主張を立証するべく、人造救世主をこの世に生み出そうとした。その結果、ある男の子が産まれ、類い希な才覚を示し、ターミナルの誘導を受けて、その人造救世主は自らの出生の秘密を暴露した……
人造救世主の名はジョージ・グレン。
この世界のコーディネイターは、一族分派のターミナルにより生み出されたのだ。
SEED仮説もターミナルの仕業。
というか、一族は改めて考えてみると謎が多すぎる。もしかすると他のガンダムシリーズと何かしらの関連があるのかもしれない。少なくともCE歴は<∀ガンダム>か<ターンX>の月光蝶でリセットされたあとの世界である点は黒歴史の設定からすると確定だ。電子情報上では不明な点が多々あるが、まぁ、いずれ謎を解き明かすとしよう。
それよりも今はターミナル、そしてマルキオ導師についてだ。
コーディネイターを生み出し、SEED仮説を世に放ったターミナルは、新たな救世主を生み出すべくスーパーコーディネイター計画に期待を寄せた。その唯一の成功例がキラ・ヤマトであり、なんと成功例に限りなく近い存在こそがラクス・クラインとアスラン・ザラだったらしい。
なにそれ、という感じだが、この世界ではそうなのだと割り切るのが建設的だろう。
一族が“イレギュラー13”としてA(エース)にキラを、Q(クィーン)にラクスを警戒していたのは、そのあたりとも関係があるようだ。
なお、NOS開発後に俺ことユウナ・ロマ・セイランがK(キング)としてマークされていた。原作のKは不明のまま一族は壊滅している。だからこそ逆に原作のKが誰だったのか気になる部分もあるが……まぁ、それはそれ、としておこう。
今現在、マルキオ導師はターミナルの最高幹部に近い立場にある。もっとも、ターミナルはZAFT的な組織構成──というよりこの世界のZAFTの原形がターミナルである可能性がそこそこある──であり、“幹部”扱いの一部が指導者、他は全員横並びというおかしな組織構成を持っている。そのためマルキオ導師をトップと見るのは間違っているわけだが、それでも今現在、最も強い影響力を保持しているのが導師なのだから、今後は最高幹部ということにしておこう。
そんなマルキオ導師は、かなり焦っている。
基盤となるターミナルそのものが壊滅状態なのだ。おまけに救世主候補のキラ・ヤマトがスーパーコーディネイターの片鱗を見せないまま野に埋もれようとしている。だがラクスとアスランはプラント限定で救世主坂(メシアざか)を登り始めているところだ。
「そうなると、あの面会は俺の目をキラ・ヤマトに向けるためのもの……か?」
たとえば俺に原作知識が無かった場合、キラはパイロットとして確保したい逸材だと思うだろう。おまけに今の俺にはキラにパイロットを強要できるだけの地位と立場がある。
キラが軍事に絡む形で宇宙に出ればラクスやアスランに絡む機会も増える。
救世主坂ならぬ英雄坂(ヒーローざか)に入るわけだ。
それがマルキオ導師の希望?
だが種死での隠遁生活をマルキオ導師は許容して……いや、違うな。
頑種の停戦は次なる戦いの序曲にすぎなかった。ナチュラル=コーディネイター間の問題が解決していないのだから、いずれ二度目の大戦が起きることは誰もが予想できたところだ。
そこに来て<アークエンジェル>は改修を受けていたし、<フリーダム>の保全も行われていた。つまり、再びキラが戦場に出ると想定されていたのだ。だからこそ<ストライクフリーダム>も開発されていたし、キラもラクスもマルキオ導師が運営する施設に身を寄せていた……
恐いな。ターミナルのやつら、どこまで先のことを読んでる?
電子精霊網には、今のところターミナルの新たな動きは引っかかっていない。だが、電子精霊網も万能ではない。完全に電気を落とされてしまえば電子精霊は生きていけず、バッテリーに避難するしかない。そしてバッテリーを放棄されれば、元の電子機器に戻ることはできない……
まさか、その対応策に気付いた? ありえない、とは言い切れない。
今後は警戒を高めておこう。
警戒を高めると言えば、地球連合軍とZAFTの今後だ。
オペレーション・スピットブレイクによって地球連合軍もZAFTも大打撃を被っている。ラウ・ル・クルーゼの介入が無かったことで、ブルーコスモスと大西洋連邦軍は幹部級の多くがアラスカ撤退中に捕捉されて戦死。ここでムルタ・アズラエル等も沈むと良かったのだが、さすがに最上級幹部は逃げ出していたので今後の展開が読みづらくなってしまった。
つまるところ、原作ではムルタ・アズラエルの独断に近い形で進められたオーブ解放作戦が実施されない可能性が出てきたのだ。
おそらくZAFTは、オペレーション・スピットブレイクにおける地上戦力の過剰な喪失に危機感を覚え、原作通り、パナマ攻略戦を矢継ぎ早に発動するものと思われる。そうなるとマスドライバーを失った地球連合軍に残された選択肢はふたつだ。
ジブラルタルを奪還するか、
オーブを従属させるか。
冷静に考えれば前者を選ぶはずだ。なにしろZAFTは度重なる大規模作戦で疲弊している。そのうえジブラルタルはユーラシア連邦にとって目の上のたんこぶだった場所。アフリカ戦線に楔を打ち込む意味でも、ジブラルタル基地と同マスドライバーの奪還は当然というべき選択肢になる。
対してオーブは今更敵対する意味が薄い。そもそもNOS開発国にして独自の量産型MSを配備している中立国だ。しかも、この世界ではZAFTに宣戦布告している。敵の敵は味方と言える以上、今後も軍事技術の取引相手になりえるオーブを攻めるなど、ありえない話だ。
だが……絶対にないとは言い切れない。
原作からして、地球連合軍のオーブ侵攻はムルタ・アズラエルの独断によるもの。個人の思惑で戦略が左右されるあたり、地球連合軍の、いや大西洋連邦軍の腐りっぷりは呆れるしかないレベルにある。
だが、この世界ではNOSの絡みで、原作以上にオーブの位置づけが強化されている。
さすがに軍部も止めるのでは?
それとも、ムルタ・アズラエルがオーブに固執し、強引に事を進めるのか?
読みづらいところだ。
まー、後々のことも考え、用意だけはしておくとしよう…………
>>SIDE END
>>CE71.06.02 本島@オーブ/ユウナ・ロマ・セイラン
残念ながら、固執したようだ。
「──というわけで、ポルタ・パナマを失った地球連合はユーラシア連邦と東アジア共和国がビクトリア奪還作戦に、大西洋連邦はオーブ侵攻作戦に舵を切った模様です」
久方ぶりの本島に降り立った俺は、首長会議に出席し、現状の報告を行っていた。
俺の話を誰よりも興味深く聞いていたのは、意外なことにウズミ代表首長だった。
「では先日から始まった地球連合の“ワン・アース”アピールは、その一環だと?」
「でしょうね」
「……諸君。大西洋連邦領事館から非公式にこんな通達が届いている」
ウズミが示したのは連合加入を求める通達文だ。しかも、これに反発することは地球人類の秩序に抵抗する敵対行為そのものであり、あらゆる手段で正義を正すことになるだろう、なんていう恫喝まで入っている。
つまり、ムルタ・アズラエルはオーブに固執したのだ。
やっぱりなぁ。
原作でも大西洋連邦のオーブ解放作戦は首を傾げるしかない軍事行動だ。いくらマスドライバーが必要だとしても、オーブを軍事占領するメリットよりデメリットのほうが大きい。だから作中でも地球連合軍高官は反対したが、ムルタ・アズラエルがこれを強行した。それはなぜか。
おそらくだが原作では、この期におよんで中立宣言なんてキレイごとをぬかしているオーブが腹立たしくて仕方がなかったのだろう。さらにサハク姉弟を通じて得た情報から、オーブの軍備が畏れるに足らずと判断できたためだと思われる。
ではこの世界ではどうか。
動機は近い。というか、プラントに宣戦布告したくせに行動を起こしておらず、さらには自分にも味方しようとしないという点が余計頭にきているようだ。また、<アストレイア>を過小評価している傾向もある。
オーブ軍はこの時点で地上でも宇宙でもまともな戦闘を経験していない。一応、ニアミス程度のことは宇宙で何度もあったが、<フリーダム>による不殺バーストとか、守りを固めたアメノミハシラの引き籠もり砲撃とかで応戦したので、<アストレイア>の性能が今ひとつ知れ渡っていないのは事実だ。
一方、<ストライクダガー>は、負けたとはいえパナマ攻略戦でZAFTのMSと互角の戦いを繰り広げている。そのうえソキウスを乗せた後期GAT-Xシリーズは充分な成果を出している。
あと、戦後のオーブ統治を交換条件に、ロンド・ミナ・サハクがオーブの様々な機密情報を開示した上に、統合兵装ストライカーパックを搭載した<ゴールドフレーム>でパナマ攻略戦にも参加、オーブ解放作戦にも参戦する意志を表明している。
このことからムルタ・アズラエルも強気になったようだが……残念だったな。そうした情報、電子精霊網で全て筒抜けなんだ。
無論、首長会議の場で明かせるのは監視衛星の挙動に関する情報ぐらいだ。しかし、これと“ジョン・ドゥ対策に俺が組んだ(ことになっている)電脳網監視システム”による民間企業の軍需物資の傾向とを照らしあわせれば、地球連合の大規模な軍事行動は実施前に把握可能になってしまうわけで。
「ユウナ宇宙軍司令長官」
と、ウズミが声をあげてきた。
「地球連合軍は……いや、大西洋連邦軍は、オーブに攻めてくるのだな?」
「ビクトリアを攻めるなら東海岸に軍備が偏ります。ところが、艦艇の類は西海岸に集められています。一方、東アジア共和国の遠征軍はユーラシア連邦領を経由して地中海に移動中です。確か東アジア共和国はユーラシア連邦に借りがあるとか……」
俺の言葉に、爺様が頷いた。
「量産型MSの関係じゃな」
原作と異なり、この世界では<ストライクダガー>とほぼ同じタイミングでユーラシア連邦製量産型MS<ペリオン>が誕生している。原作でいう<ハイペリオンG>、担当者が安直だったのか<ハイペリオン(Hyperion)>の“ハイ(Hy)”を“ハイ(High)”と引っかけたらしく、これを除いた名称を量産機に付けたようだ。
この<ぺリオン>、ぶっちゃけると前面にのみモノフェーズ光波防御シールド「アルミューレ・リュミエール」を展開できる<ハイペリオン>だといえば、ほぼ間違いない。ALシールドはウイングダイバーの2基と両腕の2基のみ。またウイングダイバーのビームキャノン「フォルファントリー」もオミット、まともな武装がビームサブマシンガン「ザスタバ・スティグマト」ぐらいしかないという微妙な機体に仕上がっている。
それでもコストは<ストライクダガー>と同等だそうだ。また汎用性と機動性では劣るものの、ALシールドを標準装備していることからくる防御性の高さは<ストライクダガー>の比ではないらしい。
そして月面以外の宇宙拠点を失ったユーラシア連邦と東アジア共和国にとってみれば、拠点防衛に優れた<ペリオン>の方が<ストライクダガー>より有用だ。ゆえに東アジア共和国がそのライセンス生産許諾を対価に、今回はユーラシア連邦に味方したようだ。
原作では、どうだったのだろう?
おそらく原作では地球連合軍全体の量産型MSが<ストライクダガー>になり、それに対する反発があったのではないかと推測できる。もっとも、それ以前の問題としてオーブを攻めるよりビクトリアを攻めた方が妥当である、という判断も関係していたと思うが。
「どうしてオーブに……」
「だが実際に……」
「なにを恐れる! 今のオーブは……」
「だが戦争となると……」
あーだこーだと首長会議は続いたが、結論は理念の通り、“侵略は許さず”で連合加盟は拒否。また、なんでも赤道連合とスカンジナビア共和国も同様に恐喝を受けているらしいので、<アストレイア>の輸出とライセンス生産を求められた際に許可する方針が定められた。
「意外かね?」
「まぁ、多少は」
会議のあと、ウズミと共にある場所に向かう間、<アストレイア>の輸出とライセンス生産を率先して、あのウズミが認めたということに驚いていたことを俺は素直に認めることにした。
「君のお爺さんに発破をかけられたんだよ」
「爺様に?」
「ああ。さすがは再構築戦争を肌で知っている世代だ。中立とは孤立にすぎない。不戦平和の理想を掲げた日本が今どうなっているか。その史実を忘れるな。そう言われてしまってな。目から鱗というのは、まさにこのことだった」
驚いた。いやー、驚いた、驚いた。
あのウズミが“キレイなウズミ”になってる!
「それに、君のこともいろいろと考えた」
「……俺のことを?」
「想像した、というのが正しいかな」
ウズミは前を向いたまま苦笑を漏らした。
「常人を遙かに上回る知性に恵まれた幼児。コーディネイターが優秀さゆえに敬遠されるところを見てきた幼児が、なにを思い、どう振る舞うか。……今ならわかる。君の選択は正しい。君の才能は誰にも知られぬまま埋もれていた方が良かった。君自身が人並みの幸せを得るには、それ以外の選択肢はなかった」
あれ~? なんかこの人、勘違いしてるぞ~?
「だが国難に堪えきれず才能を発露してしまった。そして今の君がいる」
目的地が見えたところで、ウズミは立ち止まり、隣りを歩いていた俺に目を向けてきた。
「すまない」
「……謝られる理由がわかりません」
「そうだな」
ウズミが苦笑する。
「だが、約束させてもらろう。私の目が黒い間は、君の頭脳を国家に束縛しないと約束する。今の役職も今次大戦が終結し次第、いつでも退けるように手配しておく」
……ああ、なんてこった。
原作の視聴者だった頃には「なんて最凶指導者様だ!」とかなじれたというのに。
これか。これが、オーブの獅子。
俺でさえ、今、目頭が熱くなりかけた。
理屈を超えたカリスマ性。
なるほど、これか。
これじゃあ、国民も喜んで、あの展開を受け入れるわ。
「代表首長」
「うむ」
「戦後ですが──木星圏開発をやらせてもらいます」
「木星?」
「聞いているかもしれませんが、MSに搭載可能な核融合炉の開発を進めています。今はまだ実用化に不向きですが、いずれは燃料となるヘリウム3さえあれば、地球圏のエネルギーを一切合切、どうとでもできるレベルになります」
「……ヘリウム3か」
「はい」
「それを木星で?」
「ついでに有機化合物も。化石燃料に頼り切るには問題もあるので」
「資源庫としての木星……まさか、そこにコロニーを?」
「はい」
「そうか。わかった。オーブからも切り離した組織が必要だな」
「最終的には独立組織を築くつもりです。何十年、いえ百年先になるでしょうが」
「娘がもう少し成長すれば安心できるのだが……わかった。できるだけのことはしよう」
「ありがとうございます」
口頭ながら、ここに密約がかわされた。
じゃあ、アレのお披露目といこうか。
「では、オーブ軍より依頼された<アカツキ>ですが──」
ぶっちゃけると、トンデモ仕様です。どうもありがとうございました。
>>SIDE END
ウズミは出来る子! ということにした! そうでもないと、原作でもカリスマ性が説明できないから!
なお<ぺリオン>こと量産型<ハイペリオン>は「ぶっちゃけMSでなくても良くね?」な代物です。でも、そもそも人型兵器の必要性が、という話にもつながってしまうのでスルー推奨。
またターミナルの設定は完全捏造なのでご注意くださいませ。原作だと、クライン派の過激な連中が手前勝手に立ち上げた可能性の高い組織だったりしますが、陰謀論だらけな背景設定を考えると、これくらい暴走させないと話がまとまらないと思い、こんな感じにした、というわけです。
ちなみに筆者の妄想の中には「ジョージ・グレン生誕の場はオーブであり、オーブは一族と取り引きしたからマスドライバー&資源小惑星を手に入れたが、対価として機密保持が求められていたのでオーブ解放作戦時に自爆という形で隠蔽した」なんてものがあります。それぐらいぶっとんだ妄想しないと、アレコレと説明がつかないのが頑種の素敵なところ。今になっても妄想がとまらないくらい、筆者は頑種が大好きです。