>>CE71.01.25 オーブ連合首長国/主人公
とりあえず落ち着こう。ようやく思い出せた記憶(?)が正しければ、
転生トラックにはねられ、
女神に「ごめーん☆」と軽く謝られ、
チートを貰い、
『ラブプラス』世界の主人公に憑依転生……
の、はずだったのに!
「よりにもよってこいつかぁああああああああああああああああ!!」
洗面所で鏡を見た俺は、思わず叫び上げていた。
ユウナ・ロマ・セイラン。
種死こと『機動戦士ガンダムSEED DISTINY』の道化役。種死では父親であるオーブ連合首長国宰相ウナト・ロマ・セイランの片腕として国政にも関わっていたが、とにかく道化のバカとして演出されまくり、バカガリことカガリ・ユラ・アスハの許嫁として最後は踏み台転生者そのものな扱いで死んでいくキャラだ。
そんな男に憑依転生?
おい。
それってつまり。
「頑種ですか。そうですか」
頑種こと『機動戦士ガンダムSEED』の世界……そんな世界に、それも道化のバカに憑依転生? 『ラブプラス』は? 俺の愛花は? 愛花とのデートは? 箱根旅行は? 待て待て待て待てぇえええ! ないだろ、これ! 間違いにも程があるだろ!!
……んっ?
何か脳裏に、妙な記憶があるな。ええっと……女神が謝ってる記憶?
──ごめんねー。転生先、間違っちゃった。
──お詫びにチート、もっとあげるお!
──二度目の人生、楽しんでね~☆
「楽しめるかぁあああああああああああああ!!」
「ユ、ユウナ!? どうかしたの!?」
「あっ、母さん……なんでもない。夢見が悪かっただけだから」
慌ててバスルームに駆け込んできた母さんを宥めた俺は、改めて朝のシャワーを浴びることにした。そしてようやく、自分の体が妙に鍛え込まれたものに変化していたことに気がつく。
チートのおかげか? ええっと、確か女神は……
──とりあえず【超才能】だけのはずだったけど~、
──お詫びに【超叡智】もあげるから、
──これで勘弁してね、てへぺろ☆
前世の死んだ父ちゃん、母ちゃん。あれ、女神やない、悪魔や。
しかもチートが本当にチートなんですけど?
【超才能】はヒトに為せること全てを努力次第で成し遂げられるようになる能力。努力しなければ意味のないものだが、努力さえすれば先天的特性すら後天的に会得できるという正真正銘のチートだ。
【超叡智】はヒトの知り得る全ての知識を脳内で検索できるというもの。つか、リリカルだったり魔法先生だったりトレースオンだったりする魔法もわかるし、ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉はもちろん、宇宙戦艦な波動エンジンとか機動戦艦な相転移炉とかトップを狙う縮退炉とか……あー、でもすぐには無理か。
どんな技術にも前提技術が存在する。自動車一台作るのだって、原材料の採取・加工から始まって、量産するにはマザーマシンから加工機械を……いや、その前にマザーマシンを作るための基準作りも必要か。とにかく、知っていてもすぐ作れるかといえば、そうとも言えないのがモノ造りの難しいところだ。
さらに世界観が違うと法則も違ってくるらしい。どの知識が有用で、どの知識が無駄に終わるか……そのあたりを検証するだけでも面白い気がする。
でも、だからって、どうするよ?
だいたい頑種って、特に好きな作品でもなかったし、キャラにもこれといった思い入れがなかったわけで……強いて言えばMSの実物を見たいってくらいか? あー、モルゲンレーテ本社に行けば見れるのか? 今日はCE71年1月25日だから……
「……んっ? 1月……25日?」
CE71年1月25日、ヘリオポリス崩壊事件。またの名をガンダム強奪事件。
なるほど。原作第一話の日付と一緒だ。
だから前世を思い出せたのか?
そういやこれまでの俺は……あー、“何か大切なことを思い出せない”と思い続けていたせいで、子供の頃からボーッとしているか、何かキッカケを得ようと読書とか映像の視聴とかばっかりしていた“おとぼけ野郎”だったな。
学校でもバカ扱いされてたし、卒業後はセイラン家当主にしてオーブ首長のひとりである祖父の秘書になれた──というかならされた──のはいいものの、実際には名目だけで、特にこれといってやることもなく、ボーッとしてばかりいる日々をすごしてきた……
うん、ニートだね。そうだね。
でもまあ、これまでそうしてやってこれたんなら、今後もボケーとしていられるだろう。あとは種死の頃に死亡フラグを回避しておくだけのこと。いや、その必要も無いな。このまま無能者で居続ければ、種死時代の政府にも関わらずに済むだろうし。
いいね。無能者万歳!
んじゃ、爺様のコネで<M1アストレイ>の実物でも拝ませてもらおっかな~。
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……なんて、甘いことを考えていた時代が、俺にもありました。
声を大にして、この頃の俺に言いたい。
なぜモルゲンレーテに行った! そして、どうしてあんなことをしでかしたんだ!!
>>SIDE END