キャロルと不器用騎士   作:へびひこ

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第七話 実力者

 

 対抗試合初戦も終了し、あの日のお祭り騒ぎが嘘のように日常を取り戻したツェルニ。

 キャロルは生徒会長室に招かれていた。

 生徒会棟に行き、受付に来訪目的を告げると綺麗な女生徒に生徒会長室へ案内された。

 来客用のソファーを勧められて遠慮無くキャロルは腰を下ろす。

 対面に生徒会長が腰を下ろした。

 先ほどとはちがう女生徒がテーブルにお茶を出していく。今度もかなりの美人だ。

 彼女たちが退出し、落ち着いた室内でこの部屋の主と向き合う。

 

「対抗試合は予想以上だったよ。まさか小隊員三人が瞬殺されるとはね。これも君のおかげなのかな?」

 

 温和な表情に若干の困惑を浮かべてカリアンは切り出した。

 さて、なにか彼に不利益になるようなことがあっただろうかとキャロルは事実をそのまま告げる。

 

「レイフォンに実力を見せつけろとは言いました。実力差を知ればレイフォンにあれこれいえる者はいなくなりますから」

「確かにそうだね。レイフォン君がもし武芸者以外の道を探していると知られても、その才能を惜しむ者はいてもその行為をとがめる者は少ないだろう。彼はあきらかにツェルニの武芸者としてはレベルが違いすぎる。ここで学ぶことなどないのではないかと誰もが思うだろう」

 

 しかしと少しだけ表情をゆがめた。

 

「若干やりすぎた感があるね。あれではツェルニの小隊のレベルが、ひいてはツェルニの武芸者の質が低いのではないかと思われてしまう。特に一般人、今年入学したばかりの生徒はそう感じたかもしれない」

 

 初めて見たツェルニ最高の武芸者の試合で一年生が上級生三人を圧倒的実力で叩きのめしたのだ。

 ツェルニの武芸者の質に疑問を持つ者がいても不思議ではない。

 

 これがレイフォンが苦戦しつつも三人の武芸者を倒したというのなら、レイフォンの才能を讃えつつ、そんな期待の新人相手に奮戦した先輩武芸者の顔も立っただろう。

 しかし現実にレイフォンは怪我一つなく、苦も無く先輩武芸者を一蹴した。

 カリアンとしては得た駒が予想以上の威力を持つことを喜びつつもツェルニ全体を思うと頭が痛いのかもしれない。

 

「それはレイフォンに多くを求めすぎです。実力は発揮して欲しい。けれど相手の顔も立ててくれというのは虫が良すぎるのでは?」

「そう言われると返す言葉もないが、一応レイフォン君にはお願いしておいた。レイフォン君の実力は小隊員三人を圧倒できる程度だということにしてくれとね。彼が本気を出したら一人で小隊を全滅させかねない」

「おそらく可能でしょう。予想よりもレイフォンの実力は高いようです。そしてツェルニの武芸者は予想以上に弱い」

「耳の痛いことを言ってくれるね」

 

 カリアンは苦笑して腕を組み、その上に顎を乗せてため息をついた。

 

「武芸者の質の低下は我々も把握している。現にここまでツェルニが追い込まれたのもツェルニの武芸者が弱かったせいだ」

「素直に現実を直視させたらどうです?」

「それはできない。来年度の新入生の激減につながりかねないし、下手をしたら武芸科への不信感が増大する」

「それで期待の大型新人ですか」

「そういうことだ」

 

 対抗試合直後から様々な雑誌が期待の大型新人としてレイフォン・アルセイフを特集し、彼を持ちあげていた。

 

 ツェルニは最強の武芸者を迎えた。

 彼の実力はツェルニ一かもしれない。

 そんな内容でレイフォンのことを絶賛していた。

 

 レイフォンをヒーローとして持ちあげることで一年に惨敗した先輩武芸者の印象を薄れさせようというのだろう。

 レイフォン・アルセイフが強かっただけ、武芸科は弱くない。

 そういうことだ。

 

「一般人はそれで良いでしょうが、武芸科の人間までそれと同じでは困ると思いますが」

「もちろん武芸科へは別の対応をしているさ。ヴァンゼ武芸長が檄を飛ばしている。一年に後れをとるなとね」

「私は耳にしていませんが」

「まずは小隊からだ。それから徐々に武芸科全体に向上心を持つように仕向ける」

 

 いきなり全体を煽れば武芸科自体が混乱しかねないと続けた。

 生徒会長は大変だなと素直に思えた。

 

「上に立つ人間はいろいろ大変ですね」

「まったくだよ。しかしこれで事態は少しでも前へ進む。やりがいはあるさ」

「小隊の反発は?」

 

 カリアンはその質問に軽く肩をすくめた。

 

「思っていたよりない。どうも武芸者の実力主義の面がいい方に働いたようだ。だからレイフォン君が恨みを買うようなことは心配しなくてもいい」

 

 その言葉にキャロルはほっと息をついた。

 唯一心配だったのが、突然現れた実力者に対する嫉妬や反発だったがカリアンの言葉を信じるなら深刻な状態ではないらしい。

 

「ただ」

 

 そうカリアンは顔をしかめた。

 

「第17小隊は少しひどいな」

「レイフォンの小隊が?」

「小隊というよりも、隊長のニーナ・アントークがというべきかな」

 

 ニーナ・アントークは将来を期待された小隊員でありながら、三年生という若さで新たな小隊を立ち上げることを強行した。

 ツェルニの最上級生は六年。

 通常の小隊長は四年以上が普通であるのに、いまだ下級生扱いされる三年での小隊長への就任。

 ツェルニを守るという使命感に燃え、ツェルニの基準で言えば実力もある。

 おそらく自分の力でツェルニに勝利をもたらすと気負っていただろうと。

 

 そこにレイフォンが現れた。

 正確にはカリアンがレイフォンを彼女に預けた。

 当初ニーナ・アントークはレイフォンを鍛えて一人前の小隊員にしようと努力しただろう。

 ところが対抗試合でレイフォンはそんなニーナ・アントークに規格外の実力を見せつけた。

 今まで実力を隠していたことと、自分では足下にも及ばない彼の実力にニーナ・アントークはずいぶん荒れているらしい。

 

「ずいぶん文句を言われたよ。レイフォン君の実力を知っていたのか、知っていたのならなぜ教えなかったとね」

「見抜けなかったニーナ・アントークが間抜けだと言ってやれば良かったのでは? 一般人ならともかく小隊の隊長を務める人間が部下の実力も見抜けなかったなど笑い話にしかなりません」

 

 くっくっとカリアンは笑った。

 

「君はなかなか辛辣だね」

「すみません。気分を害しましたか?」

「いや、そういう物言いは妹で慣れている。だが他の人間にはもう少し穏やかな物言いをした方がいい。余計なトラブルは君も嫌だろう?」

「はい、別に不快感を与えようとしているわけではないのですが」

「わかっている。君のことを調べたのだからね。君が対人関係。特に同年代の人間に対することが苦手であることは知っている。学園都市への留学もそういった人間関係を学ぶために来たということも」

 

 カリアンは思慮深げな視線をキャロルに向けた。

 

「私としても可能な範囲で君に協力しようと思う。ここは学園都市だ。学ぶ意志のある者が自分に必要なことを学ぶのを推奨するのは当然の行為だ」

「ありがとうございます」

「そこでだ。君も小隊に所属してみないかね?」

 

 小隊に?

 私を?

 

「それは難しいのでは? 私はなんの実績も示していません」

「君の授業態度は聞いているよ。武芸科の授業でも手を抜かずにしっかりとやっているらしい。きちんとツェルニのレベルに合わせたつもりだろうが、少々ツェルニの武芸者を甘く見たね。教師役の上級生は君を絶賛している。レイフォン・アルセイフに匹敵できる一年生はキャロル・ブラウニングだけだとね」

 

 少しだけキャロルは苦々しげな顔をした。

 上手く手を抜いたつもりだったが、実力を隠しているのが見抜かれていたらしい。

 

「一年生のスーパーヒーローが誕生したばかりだが、もう一人ぐらい一年生から取り立てても少しばかり期待される程度で済む。君なら周囲を失望させることもないだろう」

 

 カリアンは少しばかり笑みを含んだ視線でキャロルを見た。

 

「ちなみにこれは拒否権がない。教師役の生徒たちが君は小隊員にふさわしいと推薦しているのだからね」

「かくしてヒーローが二人ですか?」

「そうなるといいと思っている」

 

 にこにことカリアンが肯定する。

 

「配属先は第17小隊、レイフォン君のいる隊になる。あそこはただでさえ規定人数ぎりぎりだ。一年に有望な人材がいるのなら取り入れてもどこも不審には思わないだろう」

 

 隊長が三年である以上、四年から六年の上級生の加入は期待できない。

 プライドの高い武芸者が年少の隊長につくことは希であるだろうからだ。

 傑出した実力があればそんな不満も抑えられるだろうが、ニーナ・アントークのレベルは小隊長としてはけして上位の存在ではない。

 ならば下級生から人材を集めるしかなく。教師陣がそろって推薦する生徒を迎えても誰も不自然とは思わない。

 

「レイフォンのパートナーを期待しているのですか?」

「それもある。レイフォン君の横で戦うにはニーナ君ではいささか実力不足のようだからね」

「私でもレイフォンのパートナーとしては力不足かもしれませんよ」

「君の実力はニーナ・アントークに劣るかい?」

 

 キャロルの視線が自然に厳しくなる。

 キャロルとて武芸者だ。自分の実力にはそれなりの自負がある。

 

 模擬戦で見たニーナ・アントークの醜態。

 三人の小隊員に強襲されて、退いて守るかいっそ強行突破するというとっさの判断すらできずに奇襲を許し、護衛であるはずのレイフォンと易々と分断された。

 

 レイフォンが普通程度の実力しか持っていなかったら、あの戦いは負けていただろう。

 二人の小隊員相手にニーナ・アントークはそれを撃退することも振り切って後退することもできずに防戦一方だったのだから。

 レイフォンが敗れ三対一になれば結果は見えている。

 

 いくら狙撃手がフラッグを狙っているといってもそれまでに隊長が倒されれば負けだ。

 あの時点でニーナ・アントークは多少みっともなくとも目の前の小隊員など無視して単身逃げを打って時間を稼ぐべきだった。

 レイフォンと連携して退くなり、場合によってはレイフォンを捨て石にしても良かった。

 

 けれど彼女はなにもせずにただ目の前の敵と交戦した。

 自分が負ければ小隊の敗北だというのにだ。

 あの戦術判断のなさと自分が小隊員二人の攻撃をさばけないという自己判断すらできない。あの醜態にキャロルはニーナ・アントークの評価をレイフォンが言うよりも下げて考えていた。

 

 そのニーナ・アントークにすら劣るのかという問いかけはキャロルの自尊心を刺激した。

 

「私ならあの状況でも小隊員二人を撃破できました」

 

 怒りをこらえて声を絞り出す。

 目の前のカリアンは少し驚いたような顔をしてから表情を改めた。

 

「いやすまない。君を侮辱する気はなかった。だからこの何ともいえない重圧感を消してくれると嬉しい」

 

 気づかず殺気を放っていたらしい。

 見るとカリアンは額に汗をかき、若干頬を引きつらせている。

 

「すみません。わざとではないのです」

「いや私も君を侮辱するようなことを言ったのだから仕方ないよ。君の実力ならニーナ・アントークに劣るのかなどといわれれば気分を害するのは当然だ」

 

 殺気も制御出来なかったと落ち込むキャロルをカリアンがなだめる。

 

「話を戻すが私が君に期待するのはレイフォンのパートナーという面ともう一つある」

「なんでしょう? 以前のお話なら受けるつもりでここに来ましたが」

「それはありがたい。感謝させてもらう」

 

 カリアンは生真面目に礼をいってから改めて説明をはじめた。

 

 現状第17小隊は機能していない状況にあると。

 原因はレイフォンとニーナ・アントークの不仲だ。

 どうもお互いに避け合っているらしい。

 そのせいで小隊の雰囲気は最悪であり、残りのメンバーもろくに活動できていないと。

 

 キャロルは少しばかり疑問に思った。

 

「実力を隠していたことがそこまで問題になりますか?」

「それなんだけどね。試合のあとニーナ君はレイフォン君に本気での勝負を挑んだらしい」

「なぜです?」

「以前模擬戦で手を抜かれたことと、改めてレイフォン君の実力をはかろうとしたのだろう」

 

 その結果、ニーナ・アントークは開始直後に瞬殺されたらしい。

 キャロルは頭を抱えそうになった。

 レイフォン……なにも仲間内でそこまで馬鹿正直に本気を出さなくても。

 

「それだけなら良かったのだが、そこまでの実力を持ちながら都市を出て学園都市に留学したということがニーナ君には引っかかったらしい。普通優秀な武芸者はよほど事情がなければ都市外には出したがらないからね」

 

 それはわかる。

 キャロルの留学もかなりもめたと聞いている。

 結局キャロルの過去の功績と、まだ幼いのだから見聞を広げるのも結果として都市にとってプラスになると許可をもぎとったらしいが、反対派はやはりいたらしい。

 

「それでレイフォン君は自分が過去になにをしたのか第17小隊に明かしたらしい」

「は?」

「君は知っているかな?」

「聞いています」

「その感想を聞いて良いかな」

「私にとってはどうでもいいことです。ただレイフォンは馬鹿なのだと思いましたのではっきりと本人に伝えました。もっと上手くやる方法がいくらでもあったでしょうに」

 

 カリアンは若干憂鬱そうにため息をついた。

 

「彼女もそう思ってくれれば良かったのだけどね。しょせん過去のことだと。それにレイフォン君にはレイフォン君の事情もあったらしいし」

「反発されましたか」

「拒絶されたといっていいね。私はこの話を妹から聞いたが妹は特に嫌悪感はないようだった。妹の話ではシャーニッド君も特に気にしてはいないようだ」

「なら問題はニーナ・アントークですか」

「そう、彼女はその場でレイフォン君に言ったそうだよ。『貴様は武芸者の風上にも置けない男だ』とね。彼女は正義感が強い。それに良いとこ育ちのお嬢様でもある。レイフォン君の事情は彼女には理解出来なかっただろうね」

「それと実力を隠された件と、レイフォンの実力への嫉妬でもありましたか」

「それもあるかもしれないね。かくして第17小隊は空中分解寸前、せっかくレイフォン君が実力を振るう気になったのにその場がなくなってはこっちはたまらない」

 

 そこで君だとカリアンは目を光らせた。

 

「君と話すのはこれで二度目だが、君は非常に理知的だ。それにおそらく自然と人を惹きつけるカリスマもあるだろう。レイフォン君が君に自然と頼ったところから見ても根拠のないことではないだろう」

「私になにを期待しているのです?」

「君は人間関係が苦手だと考えているようだが私に言わせれば単なる経験不足に過ぎない。君自身はかなり人を思いやり、自然につきあえる。人づきあいの良いタイプの人間だ」

 

 他人に自分という人間を目の前で評価されてキャロルはやや居心地が悪かった。

 

「そうでしょうか?」

「今まで多くの人間を見てきた生徒会長を少しは信じてくれたまえ」

 

 カリアンは笑みを含んだ目でキャロルを見つめた。

 彼から見ればキャロルは世間知らずの子供に見えるのかもしれない。

 

 対人関係が苦手な人間ではなく。

 対人関係の経験が不足している人間。

 元々は社交的といっていい人格だとカリアンはキャロルを評した。

 

「君には第17小隊に入ってもらう。そうすれば小隊人数は五人になり最悪一人抜けても小隊は維持できる」

 

 小隊の最低人数は四人。そう規則で決まっている。

 その言葉にキャロルは若干目つきを厳しくした。

 

「私になにをしろと?」

「別にニーナ・アントークを追い出せとは現段階では言わない。それは君の役目ではないしね」

 

 現在の第17小隊混乱の原因は小隊長が隊長として機能していないことだ。

 ならば最悪ニーナ・アントークを切ればいい。

 そのあとは最上級生になる四年のシャーニッド・エリプトンを隊長にしてもいいし、いっそレイフォン・アルセイフという手もある。

 カリアンはそう仮定の考えを説明する。

 

「君は故郷で部隊を率いた経験もあるそうだね」

「小隊形式の試合で隊長を務めたことはあります」

「非常に優秀だったと聞いているよ」

 

 彼はいったいどこまで自分を調べたのだろうとキャロルはげんなりした。

 名目上最上級生のシャーニッド・エリプトンを隊長にし、副隊長として指揮はキャロル・ブラウニングが取るという方法もある。

 

 名目上の隊長ということならその実力が周囲に認知されれば実力で選出したとしてレイフォン・アルセイフをもってくることもできる。

 そうなればカリアンにとってニーナ・アントークの必要性は低い。

 有害なら切り捨てるという手が使える。

 

 あくまで仮定の話と前置きをした上でカリアンは第17小隊再生のプランを示した。

 

「もちろんなにがなんでも彼女を切りたいわけではない。彼女は彼女なりに有能だ。君にはできればレイフォン君やニーナ君を説得し、小隊を維持する方向で動いて欲しい」

 

 そのために小隊に入れという。

 全力で遠慮したかった。

 他人のいさかいをおさめるなんてなにをどうしたらいいかわからない。

 

「君が失敗したら、生徒会長として武芸長と相談の上『小隊長でありながら小隊を機能不全にした』としてニーナ・アントークを解任する。後任人事はそのときの情勢次第だな」

 

 どうやらニーナ・アントークの首が自分の手腕にかかっているらしい。

 

「私としてはぜひ無事に第17小隊を正常の状態に回復して欲しい。ニーナ・アントークを君が補佐し、レイフォン・アルセイフと共に戦うのがツェルニにとっての最上だ」

 

 引き受けてくれるかなと微笑む。

 拒否権はないとか言っていたクセに。

 キャロルは陰鬱な気分で確認した。

 

「支援くらいはしてもらえるのでしょうか?」

「君が面会を望めばいつでも応じるように話を通しておこう。私で力になれることならなんでもいってくれ。ヴァンゼ武芸長にも話を通しておく、最大限君に協力するよう頼んでおこう」

「断るという選択肢はないのでしょうね」

「このままだとレイフォン君はかなりまずい状況になると思うけど、彼を見捨てる気かい? 今はまだ第17小隊がおかしいことを一部の者しか知らない。けれど話が広がればそうなった原因を知ろうとする者が出る可能性もある。当然レイフォン君の過去を小隊の誰かが話してしまう可能性はあるだろう」

 

 ツェルニの武芸者いや生徒たちがレイフォンの過去を受け入れるだろうか?

 むしろその実力に嫉妬し、羨望が憎悪に変化して彼を排斥しようと動き出さないだろうか?

 カリアンはキャロルの目を覗き込むように推論を語った。

 悔しいことにそれはキャロルの想像する今後の可能性と一致した。

 

「まったくあの馬鹿は……」

 

 あの過去話を小隊の連中に打ち明ける必要なんてなかった。

 適当にごまかせば良かっただろう。

 都市の支配者である生徒会長ならともかく、一生徒に過ぎない第17小隊の面々にグレンダンで起きた事件を知る方法などない。

 誰しもが受け入れてくれるわけはないと釘を刺したのを聞いていなかったのだろうか?

 再戦を挑まれても、木っ端微塵に相手の面子を潰す必要はない。

 適当に戦いその上で勝てば納得しただろう。

 手を抜きすぎれば疑われるだろうが、なにも瞬殺する必要はない。

 

 まったく、最近上機嫌でいるからてっきり上手くいっているのかと思ったら、大騒動を巻き起こしているとはどこまでも手のかかる友人だ。

 こちらをおもしろそうに観察するカリアン・ロスに若干苛つきながらキャロルは覚悟を決めた。

 

「わかりました。可能な範囲で努力します」

「ありがたい。こちらも可能な範囲で協力する。第17小隊は戦力として機能してくれないと困るからね」

 

 ため息をつき念のために確認する。

 

「一応聞いておきたいのですが」

「なんだろう?」

「多少荒っぽくなってもかまいませんよね?」

 

 その口調になにかを感じ取ったのか、カリアンは顔を引きつらせた。

 

「……できるだけ穏便に頼むよ」

「善処します」

 

 さてどうやってニーナ・アントークを説得(・・)しようかとキャロルは頭を回転させた。

 正義感が強く、使命感が強い。

 典型的な『自分が選ばれた存在である』と考えるたぐいの武芸者に近いと考えて良いだろう。

 武芸者として授かった力を神聖視し、自らの使命は神聖なものだと思い込む。

 そういう連中は往々にして現実が見えない。

 周囲にある生々しさを見て見ぬふりをする。

 ただ自分は正しいのだと、正義のために戦っているのだと誇らしげに胸を張る。

 そういう人間にはレイフォンは受け入れられないだろう。

 正義も名誉もすべてを捨ててでも仲間のためにと願う人間は理解出来ないだろう。

 

「さて、大変ですね」

 

 どこか他人事のような気楽な口調で呟くキャロルにカリアンは心配そうな顔をした。

 

「大丈夫だろうね?」

「最悪ニーナ・アントークを壊しても問題ないのですからなんとかなるでしょう」

「いや、できれば穏便に丸く収めて欲しい」

 

 頼る人材を間違えたかと若干後悔していそうなカリアンを眺めてキャロルは微笑んだ。

 

「だいじょうぶですよ。ちょっとした生徒指導をするだけですから」

 

 その笑顔にカリアンはなぜか背筋に震えが走った。

 


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