キャロルと不器用騎士   作:へびひこ

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第二十三話 少年の決意

 

 学生寮の自室は本来は二人部屋なのだがルームメイト不在のためレイフォンが独占していた。

 

 部屋を一人で独占できる事をひそかに喜んでいるレイフォンだが、彼に支払われている奨学金などの学園側からの金銭とバイト代を使えば一人部屋を借りる事など簡単なのだ。

 カリアンによって最高待遇を受けている上に小隊員だ。その報酬もある。さらに体力を使うが実入りのいいバイトもしている。むしろなんでこんな寮にいるのか不思議なほどだ。

 

「一人部屋って憧れていたんだよなぁ」

 

 孤児院育ちなレイフォンとしてはささやかな贅沢を楽しみたいがそのためにお金を無駄に使いたくもない。結構貧乏性な男ではある。

 さらにいえばカリアンからの『好意』はいつまで続くか不明であるという疑惑もある。

 

 レイフォンはまだカリアンを全面的には信頼していない。それこそ都市戦が終わったら用済み扱いされて奨学金などどこかへ消えてしまうかも知れない。

 

「キャロはだいじょうぶって言ってくれるけどどうもあの眼鏡は信頼できない気がするんだよな……キャロもなんであんな奴のいう事を素直に聞くんだろう?」

 

 そのためにもバイトでお金を稼ぎつつ蓄財に励んでいるのだ。

 なにしろ孤児院育ちでお金の大事さは痛いほど理解している。無駄遣いなどむしろ身体が拒否してしまいそうだ。

 

 その孤児院出身の幼馴染みから手紙が来た。

 

 リーリン・マーフェス。

 故郷で最後までレイフォンの味方であり続けた幼馴染みの少女だ。同じ孤児院で兄妹のように育ち、姉とも妹とも思っている。頭のよいしっかり者で雰囲気は違うがどこかキャロルと重なる部分がある気がした。

 レイフォンにとってキャロルを除外すればもっとも頼りになる相手だ。

 

 都市の意志によって世界中を動き回る自立型移動都市の性質上どうしても都市間の流通状態は良いとは言えない。都市同士の移動さえ命がけの旅なのだ。

 

 それでも交易の旅を続ける放浪バスが運んでくれる郵便はレイフォンの手元に故郷グレンダンに住む幼馴染みの手紙を届けてくれた。

 

 故郷との手紙のやりとりはツェルニに来た当初からおこなっていた。

 最初は幼馴染みだけだったが、幼馴染みに孤児院のみんなや養父への手紙を託したら彼らも手紙をくれるようになった。

 

 その手紙の暖かさにレイフォンは涙した。

 みんなレイフォンの謝罪を受け入れ、レイフォンをそこまで追い詰めた事を謝罪し、受け入れてくれた。

 

 孤児院の子供たちには、

『俺らだってやれるんだよ。別にレイフォン兄に頼り切りになんかならない。もっと俺たちを信用しろ』

 と叱られ。

 

 養父には、

『おまえをそこまで追い詰めた責任は私にある。すまなかった。もし許されるならばまた私の元へ戻ってきて欲しい。おまえは私の大切な息子だ』

 胸が熱くなる言葉をもらえた。

 

 彼らとの手紙のやりとりは最近のレイフォンの楽しみの一つだ。

 

「前回の手紙は読んでもらえたかな? その返事だと嬉しいけど」

 

 踊るような足取りで机に向かい封を切る。

 広げられた相変わらず丁寧な文字に頬が緩む。頼りになる幼馴染みなのだ。今のレイフォンの悩みもきっと解決してくれるだろう。

 

 しばらく無言で手紙の文字を追う。ふと首をかしげた。

 ときどき文字が妙に乱れている気がする。なんというか力が入りすぎたというか、なにか無性に苛立ちながらそれでもそれを押し隠して書いたような。

 

「リーリン……なにか嫌な事でもあったのかな?」

 

 返事の手紙でそれとなく近況を聞いてみようと決めた。

 

『レイフォンが元気で暮らしている事はとても嬉しいです。でもレイフォンに好きな女の子が出来るなんてすごく驚きました。私に似ているそうですがもしかしてレイフォンは私みたいな女の子が好みだったのかな? だとしたら嬉しいです』

 

 なんか最後の方が文字がにじんでいる。水でもこぼしたのだろうか?

 

 前回の手紙では意を決してキャロルの事が好きなのだけどどうすればいいかと頼りになる幼馴染みに相談した。

 その返答は簡潔だった。

 

『レイフォンがもしその女の子を本当に好きならきちんと想いを伝えた方がいいよ。学園都市にいられる期間は限られているし、もしかしたら都合でいなくなる事だってあるかも知れない。だからきちんと気持ちを伝えた方がいいと思う』

 

 やっぱりそうか。

 レイフォンは少しばかり緊張した。あのキャロルに自分の想いを告げる。想像しただけで身体がこわばる。もし拒絶されたらどうしよう? そんな感情はもてないと言われたら?

 

『手紙を読む限りではその女の子もレイフォンの事を悪く思っていないようだからきっと大丈夫。あとレイフォンに気の利いた口説き文句なんて絶対に無理だから必ずストレートに言う事。変に格好つけたらきっと失敗するから、だってレイフォンだし』

 

 さりげなく幼馴染みに罵倒されている気がする。

 

『では上手くいってもいかなくても報告してね。どうなったかわからないのが一番苛々するから。もしうまくいったら『おめでとう。お幸せに』って言ってあげるからその女の子とどこへでも行けばいいよ』

 

 ますます文字の乱れがひどくなった。なんだか苛々しながら書き殴ったような文字だ。

 

『じゃあね。レイフォン。その女の子とお幸せに』

 

 祝福する文面だが、なんだか文字から怨念がにじみ出ている気がする。

 レイフォンは少しだけ首をかしげた。やはりなにか嫌な事でもあったのだろうか?

 

 手紙を丁寧にしまい。とりあえず幼馴染みの心配は後にして自分の事を考える。

 

「告白か……やっぱりそれしかないか」

 

 最近どうもキャロルの態度が妙なのだ。

 話しかけても少しだけだが不機嫌そうにしているし、一緒にいてもどこか苛々しているように思える。

 

 シャーニッドに相談したら馬鹿を見る目で見下されて『おまえはもう少し相手の立場に立ってものを考えた方がいいな』と説教された。

 さっぱり意味がわからない。自分がいったいキャロルになにをしたというのか。

 

「いや待て、もしかしたら気がつかないうちになにか怒らせるような事をしているのかも」

 

 自分でも女の子の気持ちを理解出来るとは思っていない。なにせ女の子とまともな付き合いなどした事がない。故郷ではひたすら修行と実戦の日々だった。

 

 親しい女の子などリーリンぐらいだ。しかも彼女は家族で、他人となるとますますわからない。

 リーリンでさえときどき理解出来ない事で不機嫌になったりしたのだ。家族でさえわからないのに他人などもっとわからない。

 

「よし、ここは……」

 

 レイフォンは決断した。

 頼りのなる幼馴染みの助言はきっと正しい。ならば自分のやる事は決まった。

 

 けれど。問題はどうやったらいいかさっぱりわからない事だろう。

 しかしツェルニに来てレイフォンは一つ成長した。自分の能力が不足しているなら頼りになる人に力を借りればいいと。

 

 

 

 

 前回お世話になったミィフィに頭を下げて『告白のやり方』を尋ねたのだが、なぜかすごく白けた目で見られた。

 

「というかレイとんってまだ告白もしてなかったの? ……そりゃキャロだって不機嫌になるよね」

 

 ミィフィはため息をつき、ナルキは肩をすくめて小さく「馬鹿なのかコイツは」と吐き捨てた。メイシェンは涙の浮かんだ瞳でじっとレイフォンを睨んでいた。

 

 思わぬ袋叩きにレイフォンはひるんだ。

 なんでこんなに責められるのかさっぱりわからない。

 

「あのね。レイとん。どうもわかっていないみたいだけど二人はもうツェルニでは公認カップルなの。もう付き合っている事前提で周囲は見ているの。なのにまだ告白もしていないって……そりゃキャロだって怒るし不安になるよ」

「えっと、なんで?」

「周囲から付き合っていると噂されているのに実際にはなにもない。肯定もしないし否定もしない。そのくせすぐ近くにいる。私なら苛ついて張り倒すな。どういうつもりだと」

 

 実際に苛ついた口調でナルキが言うとメイシェンも口を開く。

 

「キャロが可哀相だよ。だってデートもしたんだよ? でもあれから誘ってもいないんでしょう?」

 

 そういえばキャロルと遊びに行ったのは最初の一度きりだった。

 

 メイシェンがじっとレイフォンを睨んでいる。そしてふっと目をそらしてため息をついた。『ああこの人はダメだ』と言いたげな仕草に地味に傷つく。

 

 というか悪いのは自分なのか? 無責任に噂を流した奴らが悪いのでは? というかキャロルだってなにも言わなかったのになんで自分だけが責められるのだろう。

 

「レイとん。男として責任を取りなよ」

「まだわかっていないならはっきり言ってやる。男ならはっきりしろ。優柔不断な男なんて最低だ」

「レイとん……男の子としてそういう態度はどうかなって思うよ?」

 

 ミィフィ、ナルキ、メイシェンの三連撃。レイフォンは内心ひどくショックを受けた。

 どうやらこういう場合一方的に男が悪いらしい。少なくとも彼女たちにとってはそれが常識なのだろう。

 つまり自分がはっきりしないのが悪いと。

 

「でもキャロルだってなにも言っていなかったし……」

 

 悪手だと思いつつも自己弁護。とたん予想通り視線がさらに冷ややかになった。

 

「女の子から告白させようとか、ありえないし」

「女に告白させるのが趣味なのか? だったらファンクラブの女子生徒に愛想良くすればいい。いくらでも言い寄ってくるぞ」

「……女の子からそういう事言うのはちょっと恥ずかしいと思う」

 

 さらに追撃の三連撃。

 そうか、告白は男がするものなのか……それをしなかった自分が優柔不断だったのか。

 

 実際はそこまで一方的な常識はないのだが相談相手が悪かった。なにせ全員女性。しかも思春期の少女たちだ。男には男らしさを当然のように求める。女性の側から告白しなければなにも出来ないような男なんて彼女たちから見たら『男らしくない』の一言で終わるのだろう。

 

 これが女子からの片思いならばまた事情が違うが、もともとレイフォンは『告白するにはどうすれば?』と相談したのだ。どう見てもレイフォンが口説く側だ。

 そして公認カップル扱いされていたのにいまだにそれが出来ていない。さらにその方法もわからない。あきらかに駄目な男だろう。

 

「とにかくデートにでも誘って告白したら?」

「デート……」

 

 ミィフィの投げやりな助言にレイフォンは唾を飲み込んだ。告白にふさわしいデートとはいったいどんなものかレイフォンには想像も出来ない。

 

「もしかしてデートのやり方も教えないと駄目?」

「……お願いします」

 

 三人がいっせいにため息をついた。もう視線がダメ男を見るそれだ。

 レイフォンは泣きたくなった。

 

 

 

 

 デート当日のキャロルは上機嫌だった。

 その事にレイフォンは胸をなで下ろした。今日も不機嫌だったらどうしようと眠れないほど不安だったのだ。

 

 休日に彼女をデートに誘い。少し足を伸ばして動物たちが放牧されている自然豊かな牧場にピクニックに来ていた。

 場所の選定は自分でおこなった。いくつかの候補は教えてもらえたが『レイとんが決めなきゃ、キャロが可哀相だよ』とレイフォンにはよくわからない理屈で決定は自分でするように要求された。

 

 あとでメイシェンがこっそり教えてくれた。『男の子が誘ってくれるなら……やっぱり男の子が選んでくれた場所に行きたいと思う』その男の子が自分のために連れてきてくれた場所が実は他の女子の入れ知恵だったと聞けばキャロルががっかりすると。

 

 なるほどそういう考えもあるのかと納得しお礼も言ったが、メイシェンはなにか言いたげな顔をした後『やっぱりいい』と言って去って行った。

 

「……変な事言ったらレイとんだって困るよね。それにもうレイとんはキャロに告白するつもりなんだし……やっぱり勝ち目なんてなかったなぁ」

 

 そんな残念そうな、悲しそうな囁きはレイフォンの耳に届かなかった。

 

 

 牧草でおおわれた緑の景色は心なしか普段いる場所とは空気さえ違う気がする。

 大人しい家畜が無警戒に草を食んでいる光景は最近訓練ばかりで高揚しがちだった心を落ち着けてくれる。

 

「のどかだね……もうすぐ戦争だなんて思えない」

 

 キャロルは薄い青を基調にしたワンピースを着て白い上着を羽織っている。金色の髪が風に吹かれてさらさらと宙を舞う光景にレイフォンは目を奪われる。

 

 蒼い瞳を心地よさ気に細めて微笑んでいる。最近の不機嫌が嘘のようだ。

 

「戦争か……都市戦って言っているけど実際は戦争だよね」

 

 どう言いつくろっても『戦争』なのだとレイフォンは思う。

 なにせ負ければ都市が滅ぶのだ。錬金鋼に安全装置をつけているから戦死者が出ないという事など気休めにもならない。たとえゲームのような戦いでも勝敗は都市の生死に関わるのだから。

 

「私は戦争は嫌い……」

 

 そう呟くキャロルの瞳に魅入られる。自己嫌悪の暗い瞳。

 自分にも覚えのある目だ。ふと鏡を見ればあんな目をしていた。あれは賭け試合を始めた直後だったか。

 

「人を斬るのが好きなんて奴はそうはいないよ」

 

 故郷に戦闘狂といっていい知り合いがいるが、あの手の輩はきっと嬉々として相手をぶちのめすのだろう。それを彼女に求めるのは酷な気がする。

 

 キャロル・ブラウニングは確かに強い。心構えも学生武芸者に比べればはるかに出来ているように見える。けれどまだ十代の少女なのだ。本来はまだ大人の武芸者に守られているべき子供だ。

 

 そう子供なのだ。

 改めてレイフォンは彼女や自分の立場に愕然とする思いだった。

 

 彼女は『英雄』と呼ばれ、戦争に駆り出された。

 自分は『天剣』を授かりグレンダンの武芸者の頂点に立った。

 

 どちらも子供にする事ではない。自分が天剣になったとき養父がそれほど喜ばなかったのはその事を感じていたからだろうか。

 

 普通なら自分の弟子が、サイハーデン流を継ぐ義理の息子が天剣になるなど踊り上がって喜んでも不思議とは思われないだろうに。

 

 彼女の両親はどう考えていたのだろう。それが気にかかった。子供を学園都市に出す事を許すほどだ。あるいは彼女の境遇に同情してつかの間であっても普通の子供らしい生活をと望んだのかも知れない。

 

 特になにかの話題で盛り上がる事もない。

 二人でのんびりと自然を感じさせる空気の中でくつろぐ。最近都市戦に向けて武芸科全体がぴりぴりしだしていた。だからなおさらこんな穏やかさが心地よい。

 

 ただ静かな風の音だけが二人の間に流れていたが少しも居心地の悪さを感じなかった。

 ただレイフォンの胸にはあらためて彼女を守るという決意が固まった。

 

 もし彼女が戦場にと望まれたのなら、自分が代わりに戦ってもいい。

 それでも彼女が戦場に出されるなら自分も共に剣を振るおう。彼女は正しいのだとそばで言い続けよう。

 

 都市を武芸者が守るために戦うのは当たり前で、常識的で、とても正しい行いだ。

 

 彼女が戦場に立たせられるというのに自分が戦いから逃げるなどもうレイフォンには出来ない。

 武芸者以外の生き方に興味がないわけではないが、それも結局は『武芸で失敗したから他の事を』という単純な逃避だったのではないかと今のレイフォンには思える。

 

「キャロ……僕は君をずっと守るよ」

 

 気がつけばレイフォンは自然にキャロルを抱きしめていた。

 背後から抱きしめたその身体は小さくて柔らかくて、とても自分と互角に戦いうる武芸者とは思えない。

 

「僕は君のそばにいる。君のそばにいたい。そしてずっと君を守り続ける。君が悲しいと思う事から全部守ってあげる」

「……レイフォン?」

 

 戸惑ったような弱々しい声。こちらを不思議そうに見上げる瞳がなにかに揺れている。それがなんなのかはレイフォンにはわからない。

 

「僕は君が好きだ。僕はキャロル・ブラウニングを愛している」

 

 勢いでやらかしてしまったがレイフォンに後悔はない。予定では夕焼けでも見ながら雰囲気を盛り上げてなど考えていたが、もうこうなったらこの勢いのまま押し切る。

 

「僕は武芸以外なんの取り柄もない男だ。けどそんな僕でも君のそばにいたい。戦う事しか出来ないなら君の代わりに戦う。君と共に戦う。僕はずっと君と一緒にいたい」

「レイフォン……私も武芸以外なにも出来ない女だよ?」

 

 うつむいてしまったキャロルの表情はわからない。彼女の温かい手がそっとレイフォンの腕に触れる。

 

「そんな私を本当に好きでいてくれるの?」

「君は自分を過小評価しすぎる。君は十分僕を助けてくれた。僕がツェルニで無事生活出来るのも君のおかげだよ」

 

 本心だ。キャロルがいなければ自分は生徒会長の命令に反発しながらも逆らえず。かといって素直に従えず。中途半端なままくすぶっただろう。それはきっと今とは比べものにならない薄暗い生活に違いない。

 

 キャロルがいるから前向きになれた。

 キャロルがいるから夢を見る事も出来た。

 キャロルのためなら躊躇なく剣を振るう事さえ出来る。

 

「愛しているよ……キャロル」

 

 首筋に顔を埋めると鼻腔をくすぐる甘くて女の子らしい香りに脳がしびれる。そのまま彼女の頬に唇をつけた。本当はキスをしたいがこの角度では届かない。無理矢理顔を上げさせるのは強引すぎる。

 

 彼女がむずかるように身体をよじったが逃がさない。ここが押し所だとレイフォンはリーリンの助言を思い起こす。

 

 どこまでもストレートに自分の気持ちを正直に告げる以外に自分に出来る事などない。

 だから逃がさない。自分の気持ちを聞いてもらう。受け止めてもらう。ここで逃げるなんて選択肢は与えてあげない。

 

「私は……他人を好きになると言う事がまだよくわからない。それでもレイフォンは愛してくれるの?」

「僕がきっとキャロルに理解させてみせる。『レイフォン・アルセイフを愛している』って」

 

 いつもなら出ないような台詞も今日はすらすら出てくる。今日の自分は絶好調らしい。あるいはキャロルの女の子らしい身体の感触と頭がくらくらするような香りにネジが吹っ飛んだのかも知れない。

 

 しばらく後ろからキャロルを抱きしめたまま沈黙する。彼女が今どんな表情をしているのか見えない事が少々不安だった。

 

「……レイフォン」

 

 不意にキャロルがなにかを決意したような力のこもった声を出した。

 レイフォンは内心怯えた。まさか拒絶されるのだろうか? 強引すぎただろうか?

 

 キャロルは器用にレイフォンの腕の中で身体を反転させてレイフォンに向き合う。その瞳からは涙の跡がふっくらした頬を流れている。

 

 泣かせてしまっていた事にレイフォンは多いに狼狽したが根性で踏みとどまって彼女を放さなかった。のちに人生最大のファインプレーと自画自賛した行為だ。

 

「私はたぶんあなたの事が好きなのだと思う。でも今はまだよくわからない。こんな情けない女の子でもレイフォンは受け入れてくれますか?」

 

 その言葉が頭に染み渡っていくとレイフォンの心が歓喜に沸き立った。

 答えなど決まっている。ああ、決まっている。

 

「もちろんだよ。きっと君に僕を愛していると言わせてみせる」

「がんばって、私もきちんと理解出来るようにがんばるから」

 

 レイフォンは一層力強く愛しい女性の身体を抱きしめた。

 愛おしさがあふれかえって、幸福に浸ったまま死んでしまいそうだ。

 

 そしてレイフォンは今度こそ彼女の薄紅色の唇に自らの唇を重ねた。

 ぴくりとキャロルは震えたが、拒絶はされなかった。

 

 キャロルの手のひらがすがるようにレイフォンの服を掴んだ。

 




レイフォンの告白。

地味に女子三人組からの評価が下がっているレイフォン。
公認カップル扱いされてなにもしない男って、ねぇ?

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