ダンジョンで死に場所を求めるのはまちがっている   作:不屈の根性

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第2話

「うわーおっきいアリさんが一杯だー」

 

 ……はっ!余りのアリのインパクトに現実逃避をしていたようだ。状況を確認してみよう。俺を囲む八匹のアリ……その大きさは間違いなくギ〇ス認定されるであろう大きさ。うん。死んだな。

 

「俺の人生……短かったな。しかも、最後に有り得ない体験までして」

 

 段々と俺との距離を詰めるアリ。俺は生き残れる筈がないと諦めて目を閉じる。

 

 死因がアリの餌とは……何ともやり切れないが、俺は死にたいんだ。あれ?何か虫に囲まれるって桜に似てる?

 

 最後の最後にどうでもいい事を考えて死ぬのを待ってみたが、その瞬間が訪れることはなかった。不思議に思った俺は目をそっと開ける。そこには……アリの姿は一匹もなかった。

 

「あれ?アリさんは?俺を囲んでたアリさんは?」

 

 俺の周りに有るのは綺麗な紫色の石だ。しかし、ついさっきまではなかった筈だ。……しっかし、綺麗な石だなぁ。一個くらい貰っても良いよね?

 

 八個有るうちの一番大きい奴を貰った。一番大きいのを拾った理由は特にない。

 

「取り敢えず、今回は死ねなかったという訳なので次行こうかな」

 

 俺は七個の石を背にまた歩き出した。

 

 

 ■■■■

 

 歩き続けて数分。俺は今人生最大とも言えるピンチを迎えている。

 

「何だ何だ?アリさんの大行列か?」

 

 俺の視界を埋め尽くすアリの数は前方四十二匹。後方三十三匹。……あれ?何で俺はアリの数を正確に把握出来るんだろうか?後方に至っては見てもない。

 

 今はどうでもいいことだ。問題は何でこんなにアリに囲まれているかだ。俺は只歩いていただけだ。歩いただけなのに囲まれるって……理不尽だ!

 

 何度思い出しても歩いてただけだ。何か蹴ったような覚えもあるが、歩いてただけだ。何か「プィーー!」って鳴き声みたいなのが聞こえた気がしたが、歩いてただけだ。……うん。ナニモシテナイ。

 

 左手に持つ綺麗な石を握り締め、さっきとは比べものにならない死の恐怖に晒されるが、もう目は閉じない。閉じてしまったら、また死ねなかったなんてことになりかねないので、恐ろしくても目だけは閉じない。

 

 アリは俺との距離を詰める。とてもゆっくりと。俺はそれが死ぬまでの猶予の時間だと思っている。しかし、俺の中の奥底にあるものは『雑魚共に囲まれたぐらいで死ねるか』と言っている様に感じる。

 

 俺とアリ達の距離が五十センチ程になったところで、アリ達が一斉に飛び掛ってきた。

 

 

 ■■■■

 

 ここ七層は『新米殺し』と呼ばれているキラーアントが出現する階層だ。キラーアントはゴブリンと比べものにならない程攻撃力が強く、ピンチになると仲間を呼ぶフェロモンを発し冒険者を苦しめる。ギルドのアドバイザーには耳にタコが出来たと言わんばかりに聞かされた。

 

 なので冒険者はキラーアントの恐ろしさを良く理解している。……理解している筈なのだが。

 

 俺達が七層まで降りてくると、今までのこの階層の雰囲気は違っていた。キラーアントの足音が遠くから聞こえる。それも十や二十どころの騒ぎではない。俺達は直ぐに何処かの馬鹿共がやらかしたなと思い至った。

 

「どうする?どっかの馬鹿共がキラーアントの群れを呼び寄せてやがるぜ」

 

 ロイが問う。

 

「クソ、本当に迷惑な話だ。俺達は十層に用があるってのに」

 

 ライガンが愚痴る。それも仕方がないことなのだが。

 

 俺達の三人のパーティーなら十層までならば安全に稼ぐ事が出来る。(油断しなければだが)

 

 キラーアントの群れを呼び出しただけなら、俺達は何も言わず、馬鹿共にご愁傷様と心の中で十字を切ってただけだっただろう。だが、呼び出した場所が問題なのだ。何故なら……

 

「まさか、一本道の先にある広場で呼び寄せやがるとは……」

 

 俺達が避けられない道でおっぱじめるなんて、本当に迷惑だ。

 

「上に戻ったとしても、稼ぎが悪くなる。下と比べたら雲底の差だぞ」

 

 俺は当たり前の事を言う。

 

「んな事分かってるんだよ。マックス。だがキラーアントの群れは危険だ。出来れば関わり合いたくない」

 

 ロイの言うことは最もだ。しかし。

 

「今日の酒が飲めなくなるぞ?」

 

 俺がそういうとこいつ等は絶対。

 

「しゃあねぇ。行くか!酒の為だもんな!」

 

「それに新米を助けたら礼として酒の一杯でも奢って貰えるだろうしな!」

 

 こいつ等も十分馬鹿だが、こういう所は嫌いじゃない。

 

「よっしゃ!俺達がサクッと終わらせてやるか!!」

 

『応!』

 

 俺達はキラーアントに囲まれているであろう冒険者共の所に向かって走った。

 

 

 ■■■■

 

 そこはやはり地獄絵図だった。丸腰の女に群がっているキラーアント。俺達の方から女の面を拝むことは出来ないが、怯えや震えとは無縁の立ち振舞いだった。

 

 ……あの女は異常者なのか?それとも、キラーアント何て余裕ということなのか?全く分かんねぇ。

 

 この時、俺達は失念していた。あまりの光景に俺達の足が止まってしまっていたということを。

 

 最初に気づいたのは、ロイだった。

 

「てめぇらしっかりしろ!早く行かねぇとあの姉ちゃん死んじまうぞ!!」

 

 ロイの声にはっとなった俺達はキラーアントの群れに走り出したが、遅かったらしく、女に向かってキラーアントが飛び交ってしまっていた。

 

 ……クソ!!間に合わねぇ!

 

 俺はこの時、無意識に瞬きをした。目を開いた瞬間、景色は変わっていた。飛び交っていたキラーアント達は灰になり魔石になっていた。

 

 そして、女の手には、禍々しい赤い槍(・・・・・・・)が握られていた。

 

 その槍の存在感に俺は喉が乾き、嫌な汗が出る。他の二人も同様だった。

 

 そこからの展開は早かった。襲いかかるキラーアントの群れを女の槍が蹴散らす。槍も凄いが女の無駄の無い動きも凄い。踊るように槍を振り回す。槍の速度が早すぎて赤く残像が残る程だ。俺は槍の使い手ではないが、あの女は超一流の使い手だと言うことは言うまでもない。

 

 あっという間に最後の一匹となり、その一匹も槍に貫かれ灰になる。……あの数に勝っちまいやがった。それも圧倒的にだ。

 

 女がため息をついた。それが疲れからくるものなのか、呆れからくるものなのか、俺には分からなかった。

 

 


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