元踏み台ですが?   作:偶数

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八神家

 さて、物語は「不幸」から「平常」へと移り変わる。この物語に見切りをつけるのならば、今が一番だ。何故なら、この「平常」は「不幸」を越えて「絶望」に移り変わる。今は見守ることしか出来ない。龍崎少年に訪れた束の間の「平常」とその先に待っている「絶望」を......

 

 ◆◇◆◇

 

 物語は数時間程進み、場所は八神はやての家へと続く道へ行き着く。

 カズトはビニール袋いっぱいのアイスクリーム。自分、ヴィータ、シグナム、ザフィーラ、シャマル、そして、はやて、リインフォースの好きだというアイスが入っている。カズトは懐かしい何かを感じる。五人でよく食べたアイスクリーム、もう、何ヶ月も食べていないアイスクリーム、時々、足に冷たい袋が当たるが、それは冷たい筈なのに不思議と温かさを感じる。

 

「今日はアイスパーティーだな!」

「あんまり食べすぎるなよ、腹を冷やして下痢しちまうからな」

 

 ヴィータは「はやてみたいだな」なんてバツが悪そうに呟いた。

 カズトはヴィータと自分が居なかった空白の数年間について話しながらゆっくりと歩を進める。ヴィータにとって、自分という存在の家族にカズト、大切な親友、恋心すら匂わせる相手に会わせること、話すこと、それはとても嬉しいことであった。今から数年前に出来なかったことを、時間こそ立ったものの達成することが出来る。それがとても嬉しかった。

 

「でも、本当にアイスだけでよかったのか? もっとこう、長崎カステラとか、長崎皿うどんだとか、びわゼリーなんかを持って行った方がいいんじゃないのか」

「何故に全部長崎名物なんだよ......出身が長崎なのか?」

 

 「いや、出生はミットチルダの小さな病院らしい。育ちはずっと海鳴だ」カズトははぐらかすようにそう告げる。それもその筈、カズトは前世では長崎という福岡と熊本の次くらいに九州では知名度の高い県に住んでいた。ちゃんぽんと皿うどんと色々な遺産があるくらいのしょうもない県だが、まあ、住んでいたということには違いはない。それなりに愛着もあるようだ。

 ヴィータの歩幅に合わせてゆっくりと足を進める。

 やがて二人は目的の八神家に到着する。カズトは少し躊躇いを見せる。

 

「なに一歩下がってんだよ?」

「いや、なんか怖くてな」

「893の事務所じゃないんだから心配するな」

「いやいや、四人で管理局のエリート魔導師を無双した奴らが巣食う魔窟だぜ? 事務所の何十倍も怖いと思うんだが......」

 

 四五発のローキックが足に炸裂するが、まあ、慣れているから痛みはあまり感じない。カズトは勇気を振り絞る溜息を一つ、そして、呼び鈴を鳴らす。するとおっとりとした声が聞こえた。開かれた扉の向こうに茶色のセミロング、優しそうなたれ目、容姿も良く整った美少女がいた。

 

「こんにちは」

「こんにちは」

 

 二人は挨拶を交わして握手を交わす。

 沈黙の空間、感じられるのは八神はやての温かい手とそれを冷やすカズトの冷たい手。手が冷たい人間は心が温かいらしい。そして、手が温かい人間はもっと心が温かいらしい。

 

「どうも、龍崎一人です。一応、君の家族を助けた人間です」

「とうも、八神はやてです。君に家族を助けられた人間や」

 

 はやては笑顔でカズトを招く。カズトも苦笑いを見せながらも招かれる。ヴィータはそんな二人の姿を見て、優しい笑みを見せるのだ。多分、この場にいる全員が望んでいた瞬間、望まれていた瞬間が訪れた。

 はやてに案内されて広いリビングの中に入ると桃色の髪をした長身の女性、シグナムが目を瞑り、笑みを見せながら「久しいな」とカズトに告げる。その次は犬になっているザフィーラが「そうだな」と付け加えるように言うのだ。そして、カズトが「ああ、久しぶりだな」と優しく告げる。

 笑顔、それが溢れている。まるで待ち望んでいた何かを手に入れた時のような充実した笑顔。

 

「カズトくん、久しぶり」

「シャマルさん、お久しぶりです」

 

 キッチンの方から声を掛けるシャマルは今にも泣きそうな顔でカズトのことを見つめる。そして、大きくなったね、なんて、お母さんのようなことを言うのだ。カズトもこれには苦笑いをしてしまう。だが、温かい。

 

「今日はわたしが腕によりをかけて料理を作るからなぁ!」

「それは楽しみだ。食後のデザートも大量に買ってきているから、なお楽しみだ」

「わたしもお手伝いしますね!」

 

 カズトはアイスクリームの入った袋を渡し、二人の背中を見送った後、三人と一匹が待つソファーへ目を向ける。

 

「はじめまして、かな? リインフォース」

「そうだな、龍崎一人」

 

 互いにぎこちない挨拶を交わすが、そこに困った表情はなく、逆に喜びが感じられる。例えるなら、意味も内容も理解出来ないような無理難題をやり方を教えてもらって解いたときのような充実感を含む喜びがある。

 

「君には感謝している。君が居たからこそ、私はこの世にいるのだから」

「よしてくれ、褒められるのは慣れていないんだ」

「そのようだ」

 

 頬を赤らめているカズトをクスリと笑い、さあ、食事が出来るまでゆっくりしようと招くリインフォース。カズトは途端に彼女を助けた自分が誇らしくなった。それと同時に、彼女を救わない方がよかったと考えた過去の自分が恥ずかしくなった。でも、わかっている、過去の自分もこの笑顔を守るために戦っていたのだ、だからこそ、今この場所で笑っていられる。

 

 ◆◇◆◇

 

「美味い......」

「せやろ、ハンバーグはわたしの得意料理中の得意料理、十八番なんよ」

 

 カズトははやて手作りのハンバーグを一口、また一口と味わいながら食べる。料理に関してはカズト自身も相当な腕前なのだが、彼女には彼女なりの工夫と努力が感じられると感心している。そんな姿をはやては姉のように見つめる。まあ、はやてとカズトの身長差なら、兄と妹と言った方がいいような気がするが。

 

「カズトくんは身長なんぼ? 同い年にしてはえろう大きいけど」

「176cm」

「中二でその体格はどうやねん......」

 

 シグナムが寂しそうな声で「抜かれてしまったな」なんて呟く。それに対抗してヴィータが「アタシは元々から抜かれたんだけどよぉ......」と棘のある口調で呟く。カズトはそんな二人の会話を笑いながら聴くのだ。

 

「なんといか、人と飯を食べるのは久しぶりだな......」

「楽しいやろ?」

「ああ、美味い物が更に美味く感じる......こんなの、あの頃以来だ」

 

 カズトの頬に一滴の雫が零れる。揉み消すように袖で拭うが、涙が溢れる。

 

「泣いてええんよ......」

「男が......人前で泣くのは恥ずかしいんだぜ......」

「今日は無礼講や、ハンカチあるよ」

 

 はやてがピンク色の鮮やかなハンカチを手渡す。カズトは「ハハっ、情けねぇ」と泣きながら、笑いながらそれを受け取り、溢れでる涙を拭う。そして、自分の進んできた道に自信が持てた。

 

「俺はうたわれないヒーローになろうとしていた。自分という存在に自信が持てないで、縁の下の力持ちになろうとした。誰かを助けられるなら自分の命を差し出してもいいと思ってた」

 

 あふれる涙をハンカチで拭い、定まらない呼吸を必至に押さえつけて、語る。自分、龍崎一人の歩いてきた道を。

 

「うたわれるヒーローになりたかった。誰からでも愛されて、尊敬されて、親しんでもらえるようなヒーローになりたかった。でも、俺にそんな器は存在しない」

 

 その場に居る人間はカズトの話に耳を傾ける。そして、心の中で呟くのだ、知っている。おまえの苦悩と葛藤は、と。

 

「時は流れた。叶えられない願いに翻弄され、俺は自信を失った」

 

 叶えられない願い、欲しかった物、者。

 

「それでも、誰かを助けたかった」

 

 自分の大切な何かを犠牲にして助けた一人。

 

「犠牲は大きかった......後悔したこともある......」

 

 大きく息を吸い込む。

 

「今更だが、わかったよ、後悔なんて小さなものだ。俺は自分の歩んだ道を誇りに思ってる」

 

 涙はもう流れていない。あるのは誇らしげな笑みだけだ。

 

 ◆◇◆◇

 

「すまないな、今日は突然押しかけて......」

 

 見送りに来たはやてにそう告げる。はやては「ええよ、ええよ、賑やかな方がたのしいしなぁ」と優しい声で告げる。

 

「次はいつ来る?」

「俺も忙しい身の末何でな、でも、暇が出来たら遊びに来るさ」

「約束やで......」

 

 カズトとはやては小指と小指を結ぶ。

 

「指きりげんま」

「嘘ついたら」

「なにを飲ます?」

「センブリ茶や」

「そりゃ、嘘付けないな......指切った」

 

 カズトは指切りを交わした後、何も言わず八神家を後にする。

 カズトの表情に辛気臭い雰囲気はなく、ただただ、嬉しそうだった。




 もう自分の文章に自信が持てない。
 少しずつ駄文になっていくのが感じられるんだ......
 こんなの小説じゃなくて、書き殴ってる何かだよ......

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