幽霊たちでリリカルマジカルゥ!   作:じーらい

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幽霊のはじまり

 プレシアに呼び出されたフェイトは転移? して海鳴とか言う場所へ跳んで行った。

 転移ってなに? どういう理屈で物質、しかも人間が世界移動出来る? なんて質問はアリシアに華麗にスルーされてしまった。長くなる且つ面倒で魔法理解したくない病の俺には教えても無駄らしい。この野郎、物理学か気合いで説明したら全部理解してやるってんだ。

 

 そのフェイトだが、今は海の上で白い子と睨み合っている。俺とアリシア、ついでにプレシアは魔法の鏡で覗き見中だ。

 

「フェイトvs白い子か。アリシア、どっちの方が強いんだ?」

 

「フェイト……って言いたいところだけど、あの白い子、なのはちゃんって子ね? あの子、初めて見た時はただの魔力馬鹿だったのに、今じゃかなり強くなってる。フェイトの体調も考えると……互角かな」

 

「短期間で伸びる、か。俺と同じ天才だな」

 

「うん。私と同じ天才だよ」

 

「「お前が言うな」」

 

「……言っておくが、俺は物理学と体育は完全にマスターしている(つもり)」

 

「わたしだって、魔法関連は全部完璧だもん!」

 

「完璧という言葉を使っている時点で底がしれるな。後で吠え面かかせてやる」

 

「ゴンベエこそ、後で凄い魔法を見て気絶したってしらないんだから!」

 

 気絶なんぞするか。俺は上田次郎先生をリスペクトしているからな。たかだか幼女虐待が趣味のオバサンを見て勉強したお前とは格が違うのだよ、格が。

 

『Photon Lancer』

『Divine Shooter』

 

「しかし……改めて凄いな」

 

 縦横無尽に空を舞う二人の少女。黄色と桃色の閃光が空を彩り、交差する度にぶつかり合う杖が激しく火花を散らす。

 

「フェイトは強いでしょ?」

 

「いや、そうじゃない。前はスルーしたが、人が空を飛んでいるんだ。ダーウィンの進化論に付け加えることが増えた」

 

「あ、フェイトがバルディッシュを鎌にして突っ込んだよ!」

 

 ついに無視かよ。……つーか、「こいつ今更なに言ってんの?」 みたいな目で見るなよ。傷つくだろ。

 

「なのはちゃん、もうあんなに多くの誘導弾を操って……管理局の魔導師だって梃子摺るくらいなのに」

 

「凄いのか?」

 

「凄いよ。飛行に防御、誘導弾の並列使用。あの歳で大人顔負けの魔法技術だよ」

 

「お前が言うのならそうなんだろうな、お前の中では」

 

 俺からしてみれば全部とんでもないことばかりだ。舞空術に魔法陣、スナイパーが真っ青になりそうな誘導弾。魔法は科学なんて言っていたが、どれをとってもとんでもない技術だと思うぞ。

 

「そう言えばアリシア、一度聞いておきたかったんだが」

 

「なに? 改まって」

 

「いや、そのな? ……俺にも魔法は使えるのか?」

 

 ち、違うぞ! 別に魔法なんて信じちゃいない! だが俺も男だ、男の子だ。科学に魂を売ったつもりでいるが、これはそう、新しい技術には目が眩むという奴だ。それに今回は御伽話に出てくるようなインチキ魔法トリックではなく、ガチガチの科学技術で固められた魔法だ。トリックでないとすれば、俺だって使ってみたい気はする。漢だからな!

 

「無理」

「何故」

「ゴンベエにはリンカーコアがない」

「その心は」

「わたしだって使えないのに、ゴンベエに使わせてなるものか」

「よしお前、ちょっとそこに直れ」

「正論を言うと、死んでるから意味が無い」

「納得だ。これ以上ない程に正論だ」

 

 ちッ、芸名魔法使いでテレビデビュー、後々に大富豪なんて夢を見たかったんだがな。死んでいるなら仕方が無い。

 

『ただ魔力が強い子だったのに……もう違う、早くて強い。迷っていたら……やられるッ!』

 

「お?」

 

「フェイトが本気だ! 本気でなのはちゃんを倒しに行くつもりだよ!」

 

「闘ってるんだから当たり前だろ。ところであれは何だ?」

 

「フェイトの最大魔法Photon Lancer Phalanx Shift. あれが決まればフェイトの勝ちだよ!」

 

「へー」

 

『アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ』

 

 ……おいちょっと待て、これはあれか? インチキ魔法お得意のあれなのか? 詠唱魔法的なあれなのか!? 科学で証明できる魔法に詠唱は必要なのか!?

 

『バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト。撃ち砕け———ファイア!』

 

「生成されるフォトンスフィアは38基! 秒間7発の一斉射を4秒継続! フェイトの最大魔法だよ!」

 

「そこだけ科学的で詳しい解説をどうもありがとよ! 一つ質問なんだが、魔法に詠唱は必要なのか?」

 

「バインドで拘束もしてるし、フェイトの勝ちは決まったね!」

 

 俺のことガン無視かよアリシアさん。

 あ、魔法が直撃してるな……うげ、これは酷い。非殺傷設定とか何とかいう便利機能があるらしいけど大丈夫なのか?

 

「うんうん、良く頑張ったよフェイト! 後で夢に出てあげるからね!」

 

「ある意味悪夢だなそれ……ってそう言えばアリシア、フェイトが勝っても大丈夫なのか? 何たらシードって石ころは手に入るかもしれないが、状況は変わらないぞ。むしろプレシアに石ころが渡るのは悪いんじゃないのか?」

 

「……あぁ! 忘れてた!? このままじゃ母さんにジュエルシードが渡ってアルハザードで次元断層が!」

 

 次元断層? OK,なんかヤバイのは分かった。フェイトが勝った、でもピンチってことでいいんだな?

 

『——————ったぁ〜』

 

「……は?」

 

「うそ……あれだけ喰らってちょっと傷が入っただけ!?」

 

 いつからフェイトが勝ったと錯覚していた?

 いや、確信していた。俺もアリシアも、フェイトがなのはって子に勝ったと。石ころをいっぱい持って帰って更に状況悪化するんだと思ってたんだ。

 

 それが――

 

『撃ち終わると、バインドってのも解けちゃうんだね』

 

「ツッコミ所はそこかよ!? 凄い魔法だね、とか、今のは効いたよ、くらい言ってやれよ!?」

 

 煙が晴れたらそこには元気そうなツインテ。

さっきのフェイトの砲撃、見た感じ大砲を使った制圧射撃クラスの奴だったんだぞ? 合計1064発のトンデモ魔法なんだぞ? なのになんでその感想が「いったぁ〜」 で済むんだ!?

 

『今度はこっちの……ッ』

『Divine』

『番だよッ!!』

『Buster』

 

 おお、すごいな。見ろよアリシア、桜色のビームだぞ。

 

「———ってちょっと待てぇぇぇい!? 何で人からビームが出るんだ!? いや、機械からか……。どうでもいいけど何でビーム撃てるんだ!?」

 

「フェイト避けてー! 超避けてー!」

 

 桜色の砲撃キレイダナーで済ませるか!? どう考えてもおかしいだろ! 人がビームを撃てるなんてのはどう考えてもあり得んぞ! だが魔法と言うファクターも考慮すると……いかん! ちょっと考察を纏めたくなってきた!

 

『直撃ッ!? でも耐えきる……ッ!』

 

「ビームは荷電粒子砲と言う形で原理的・技術的にも実現可能だ。だが地球上であのようなビーム兵器を飛ばすことは減衰抵抗を考えると不可能だ。途中で失速して停止してしまうからな。となると考えられるのは――」

 

「そんなの魔法だからでいいでしょ! 今はフェイトを応援してあげて!!」

 

「wiki が良い所なのに……」

 

『あの子だって、耐えたんだから!』

 

 もの凄いビームを防いでいるフェイト。頑張れフェイト、超頑張れ。空を飛ぶ・防御する・誘導弾なんて3コンボの後にビームの直撃を受けた俺の頭はオーバーヒート気味だが、頑張って応援するぞ。それとこれは助言だが、もっと熱くなった方が防げる確立は高くなると思う。

 

『ぅ……うぅッ———ッ!』

 

「頑張れフェイト! 頑張れ!」

 

「マズイぞ、かなり押されている」

 

 言え。言うんだフェイト! 諦めたくないんだろ!? 周りの事思ってみろって! 応援してくれている俺達の事思ってみろって!

 

『ぅッ————あぁぁ! 私は! 母さんの為に負けられない! 負けられないんだぁぁぁぁ!!』

 

「防ぎ…きった……? 防ぎきった! フェイト、良く頑張ったよ!」

 

「出来れば熱くなれよー、って行って欲しかったけどな。でも本当に良くやったよ。胸を張って帰ってk『やるね、フェイトちゃん。——————でも、まだ私の番は終わってないよ!』 またかお前!?」

 

 もう止めたげて! フェイトのライフはゼロよ! 服もビリビリで際どいし、もうこれ以上痛めつける必要ないだろ? ほら……えっと、そう、なのは! お前もフェイトの為に色々してやってたんだろ? この辺りで御相子ってことで……

 

『受けてみて。ディバインバスターのバリエーション』

『Starlight Breaker』

 

「魔法陣デカ!? フェイト逃げて! 超逃げて!!」

 

『ッバインド!?』

 

「更に拘束!? 逃げられないようにして、最大砲撃するつもりなの!?」

 

「に、にげるんだ……勝てるわけがない…」

 

『これが私の全力全開! スターライト・ブレイカー!!』

 

「フェイトーーー!? ゴンベエ! フェイトが! フェイトが!?」

 

「——————」

 

「なんでゴンベエまで気絶してるのー!?」

 

 すまん。俺の許容量越えたわ

 

 

   ◇

 

 

「ゴンベエ! 起きてゴンベエ!」

 

「——————なっ、なんだ!? どうした!?」

 

 やっ、喧しいぞアリシア。驚いたじゃないか。それと、人の首をそんなに振るな。人体の構造的にその程度で首が跳ぶなんてことはあり得ないが、俺の死因が首が切れたからだとしたらどうする。勢い余って跳ぶかもしれないだろうが、どこぞの首なし幽霊みたいに。

 

「ようやくお目覚めだねゴンベエ」

 

「……すまない、何が起きたのかを説明してくれ」

 

「なのはちゃんの砲撃でフェイト墜落 & ゴンベエはビビって気絶」

 

「違う。断じて砲撃が怖くて気絶しただけじゃない。処理しきれない出来事に頭がオーバーヒートしただけだ」

 

「だよね。なのはちゃんの魔法が怖かったんだもんねm9(^Д^)つ」

 

「話聞けよ」

 

 相変わらず要所要所でウザイなこの幼女。でも可愛いから許してしまいそうになる。これでは駄目な男の典型的な例と呼ばれるかもしれないが、もし許すことでそう言われるのであるのなら俺はそれを甘んじて受けようと思う。可愛いは正義だ。

 

「あ、フェイトのことなんだけど、時空管理局の船に連行されたよ」

 

「まじか。管理局ってあれだよな? ミッドなんとかの警察」

 

「うん。でもその途中でまたお母さんが魔法使って……」

 

「…! フェイトがどうかしたのか!?」

 

「管理局の船ごと雷でズバッと。大丈夫だとは思うけど、ちょっと心配かな」

 

そうか……ならいいんだ。あんなに健気な子が辛い目をみるのは間違いだからな。本来ならまだ大人がしっかりと守ってやらないと駄目な歳なんだが、親が虐待ババァだからな。守るどころか鞭打つ奴だから話にもならない。

 

 しかし、いったい何故そこまで自分の娘を痛めつけるんだ? 確かに腹を痛めて産んだわけじゃないが、身体を壊してまで生んだアリシアの生き映しなんだろう? クローンとはいえ自分の子供なんだから、少しくらい情が移っても良いだろうに。よくもそんな非情なことが出来るなと逆に感心してしまいそうだ。

 

「解せん……が、やはり一度殴ってやらないと気がすまない」

 

「わたしも。一回だけお母さんに反抗するよ」

 

「遅すぎる反抗期だな」

 

「31歳にして初めての反抗期かもね」

 

「死んでからもだろ?」

 

「そうとも言う」

 

 ニシシと笑うアリシア。これで31歳のロリババアなのだから世の中判らない。

 でも、そうだな。子供時代を無くしたままなんだから、死ぬほど笑っておけばいい。それを見るだけで俺も元気になれる。死んでいようがいまいが、子供ってのは笑ってなんぼだからな。

 

「あとね、管理局の武装隊がココに雪崩れ込んでくるよ」

 

「今更か? もっと前に来れただろうに」

 

「この場所は知られてなかったからね。でも、さっきの雷で居場所を特定されたみたい。派手に暴れすぎたんだよ」

 

「じゃあ時間はそんなに無いのか。早いとこ例の件を進めるしかないな」

 

「例の件? 何それ?」

 

 まあ、トンでもないことだけは確かだよ。正直、奇跡に頼るくらいのレベルだ。

 

『プレシア・テスタロッサ、貴女を逮捕します! 武装を解除してこちらへ』

 

「お、もう来たのか時空警察。流石、時空管理局なんて豪勢な名がついてあるだけあって仕事が早い」

 

「きっと艦長の判断が良いんだよ」

 

 だろうな。ひぃふぅみぃ……かなりの数が送りこまれてきたみたいだ。これも転移魔法ってやつなんだろうか? だとすればまた少しカルチャーショックを受けそうだ。人類の夢であるワープが、実はかなりのメジャー魔法だったなんて思いたくもない。

 

「局員たちが移動するよ」

 

「おいおい、アリシアの身体がある場所じゃないか。いいのか?」

 

「うん? 何が?」

 

「お前、裸だろ」

 

「————————やめてぇ!? わたしの裸見ないでぇ!?」

 

 残念だが諦めろ。俺達がモニターで覗きしてたように、管理局にもリアルタイム中継されてるんだろ? 大勢の紳士たちのオカズになることはもう避けられないのさ。

 

『はッ!? こ、これはっ!?』

 

「うわーん!! バカバカバカ! 人の裸を見ないでよー!!」

 

「おー、案の定凝視されてるなー」

 

 こっ、これは!? とかマジワロス。こんな所にホルマリン漬けの幼女がいることに驚いているんだろうが、勘違いでロリコンと思われるかもしれないから気をつけた方がいいぞ局員A。

 

「ゴンベエも止めてよ! わたしの裸が見られても良いって言うの!?」

 

「俺は幽霊だからな。何も出来ない」

 

「バカー!! 簡単に諦めないでよー!!」

 

「どんまい(b」

 

 どうせ減るものでもないし、犬にかまれたとでも思ってみたらどうだ? 少しは楽になるだろ。

 

『私のアリシアに、近寄らないでッ!』

 

 おお、ババアの雷で局員が跳ぶ跳ぶ。腕の一振りでリアル無双が出来るやつなんて、ヒテンミツルギスタイル継承者しか俺は知らなかったぞ。

と言うか、この局員たち弱くないか? 魔法使いお得意の障壁張ったり、気合いとかで耐えてみろよ。

 

「お母さんナイス! ありがとう!」

 

「今までで一番のナイスプレーが警察の襲撃とは世も末だ」

 

「ゴンベエ煩い!」

 

「ところでアリシア、少し疑問に思ったことなんだが———俺は見てもいいのか?」

 

「ゴンベエはいいの!」

 

 死んでるからか。そうなんだな? もうオカズに出来ないことを知っているからそう言っているんだな? 出るものも出ない幽霊だから別に良いんだな? 今までは少し申し訳なさと恥ずかしさを持ってチラ見する程度だったが、お前がそう言うのであれば俺はこれから凝視し続けるからな。

 

――おいおい、何故頭を抱えて「しまった〜!?」 みたいなポーズをとっているんだ? 俺は見るなと言われても見るぞ。ガン見だ。ゴンベエは良いの、なんて言われたら見るしかないだろう?

 

 まさかとは思うが、今まで無視したりしたけど、実はゴンベエさんが大好きだからいいの〜、なんて言わないでくれよ? 幼女は愛するものじゃなくて愛でるものだ。別の意味での守備範囲なんだからな、はっはっは。

 

『うっ、撃てえ!』

 

『煩いわ……』

 

 プレシアが腕を振るうごとに紫電が煌く。その度に局員たちはその数を減らしていく。

 

「手を差し出すだけで吹き飛ぶのかよ。紫色の雷にどれだけ威力があるかは知らないが、局員って弱いのか? 仮にも制圧を任されるくらいの部隊なんだろうに」

 

「違うよゴンベエ。この人たちが弱いんじゃない。お母さんが強過ぎるんだ」

 

「前に言ってた凄い魔法使いってやつか。あの白いなのはって子でも無理なのか?」

 

「無理だよ。絶対」

 

 マジかよ。じゃあどうやって倒すんだ? 殴る = 倒すで考えているが、そもそも不意打ちなんて出来ないし、出来た所で勝てる気がしなくなってきたぞ。

 

 しかし、それよりもだ。オバサンをぶん殴ることよりも気になることがある。

 

「おいアリシア、お前の裸姿も合わせてこの映像はリアルタイムで流れている。そうだな?」

 

「……不本意ながらそうだよ」

 

「じゃあ……さっきオバサンが言った【アリシアに触れるな】ってのも、向こうに流れてるんだよな?」

 

『アリ…シア……?』

 

「——————フェイト!?」

 

 最悪だな。

 最悪だ、最低に最悪だ。こんな形でフェイトが知ることになるとは思ってもみなかった。

何時かは知る時が来るだろう。でもそれはプレシアが捕まるか、ジュエルシードを集めきった後か、もっと後だと思っていた。別にこんな形じゃなくてもいいだろうに。

あと時空管理局さんよ、犯人は独房に入れるのが普通じゃないのか? いや、言った所でもう遅いか。プレシアが何も言わなければいいんだが、それも無理な話か。

 

『もう止めにするわ。この子の代わりに、人形を娘扱いするのも』

『……?』

 

「ああクソ、それだけは言うなよバカ野郎」

 

 そして始まるプレシアの一人語り。フェイトはアリシアを模したクローンで、人形のようなものだ。だから愛情など微塵も抱いておらず、むしろその外見から憎んですらいたと。

 

俺にはプレシアの語りを止めることができない。俯くアリシアにも何も出来ず、言えず、ただ見ているだけだ。幽霊だから。死んでいるから。出るものなら血が滴るほど握りしめたであろう拳を下げ、ただフェイトが苦しみませんようにと祈ることしかできない。

 

『せっかくアリシアの記憶を与えたのに、見た目だけがそっくりで全く使えない』

 

「おい」

 

 だけどな、そんなことが受け入れられると思うか?

 

『器だけがそっくりな、役立たずで使えない私のお人形』

 

「おいっ」

 

 確かに、俺は何も知らない。フェイトがどんな子なのかも良く知らないし、プレシアのことも酷い一面しか見ていない。アリシアに関してもだ。俺は本人の口から聞いたことと、少しの時間で知り得た人物像しか解らない。

 

 だけどな、俺はもう関わってしまっているんだ。

 

『聞いていて? フェイトと言う名はね、私が行っていた研究プロジェクト名よ。人造生命の創造計画、通称プロジェクト(フェイト)。あなたはその計画で生まれたの』

 

「おいっ!」

 

 幼い身体に鞭打たれて傷ついている姿も、それを誰にも気付かれずに悲しい表情で眺めている無力な女の子の姿も! 少ないなりに俺は見てきたんだよ!

 

『だけど全然駄目ね、ちっとも上手くいかなかった。所詮は作りもの、失ったものの代わりにはならなかったわ』

 

「おいクソババァ、いい加減にしとけよッ」

 

 だから、俺はこの仕打ちを許せるわけがない。顔面が腫れるほど殴り倒して、アリシアとフェイトに謝り倒させてやる。

その為になら何だってしてやる。意味不明で理解不能な魔法だって、少しの間だけ信じてやる。信じてもいない神様に願い倒して、デコがすり減るまで土下座してやってもいい。

 

『アリシアはもっと優しく笑ってくれた』

 

「おいアリシア。最後にもう一度だけ聞いておく」

 

『アリシアは我儘も言ったけど、私の言うことをとても良く聞いてくれた』

 

「本気で母親を殴れるか?」

 

『アリシアは何時も私に優しかった』

 

「お前が無理だって言うのなら、俺が代わりに殴ってやる」

 

『でも貴女は偽物。記憶だけ与えた貴女じゃ駄目だった』

 

「でもあれはお前の身体だ。お前だけのものだ」

 

『アリシアをよみがえらせる間に創ったただの慰みのための人形』

 

「だけど、一つだけ俺の我儘を聞いてくれ」

 

『どこへなりとも消えなさい』

 

「あのババアを俺にも殴らせてくれ。俺と……俺と一緒に生きてくれ!」

 

『はははは――アハハハハハハ! 良いことを教えてあげるわ。貴女を創ってからずっとぉ、貴女のことが大嫌いだったのよぉおおお!』

 

 地面が揺れ出した。いや、この場所全体が揺れ出しているのだろう。天井から埃が落ちてくる。プレシアはアリシアが入ったモノを浮かせ広場へと移動していく。

 

 アリシアは未だに何も答えない。ただ俯いたまま、プレシアの後を付いて行く。俺もその後に続いた。

 

『次元震……! プレシア・テスタロッサ、何をするつもりなの!?』

 

『時空管理局、貴女たちに旅の邪魔をされたくないのよ』

 

 空間モニターの向こう側から緑髪の女性が叫んでいる。叫んでいる次元震とやらがこの揺れに関係しているのだろうか。次元なんて名前が出てきたくらいだ、これは本気で時間が無くなって来たと考えていいだろう。

 

『私達は旅立つの。忘れられた都…アルハザードへ!』

 

「おいアリシア、駄目なら駄目と――「ゴンベエってさ、何時も適当だよね」 ふざけろ、俺は何時だって真面目だ」

 

「少しは黙って聞いててよ。――少ない時間だったけどさ、わたしはずっと振り回されっぱなしだったよ。ずれた知識ばかりで私を引っ掻き廻してさ」

 

「少しは悪かったとは思っている」

 

「でもね、嬉しかったよ。ずっと一人ぼっちだったから、少しくらい強引にされる方が楽しかったの」

 

「……どMかよ」

 

「ゴンベエは無茶苦茶だよ。でもその無茶苦茶が、ずっと一人だったわたしには楽しく感じたの。しかも俺と一緒に生きてくれ、なんてプロポーズされたらね、もうね、人生初って何でも嬉しいじゃない?」

 

「いや、プロポーズしたわけじゃ……」

 

「違うの?」

 

 違う、と言い切れないのが痛い。

 別にアリシアのことなんざ不幸で可愛そうな女の子程度の認識でしかない。でもそれが俺にとってお前がそうなのかと言われると、少し違うのもまた事実だ。

 

 記憶のない俺の初めての友人で幽霊の先輩。ウザくて、それでも可愛い子供。

 

 俺が何を言いたいかと言われると、つまりはそういうことなのだ。自分でも分からん。

 

「嫌だって言っても、もう絶対離さないから! それに……わたしにはやっぱりお母さんは殴れないや。だって、どれだけ嫌いになってもやっぱり大好きなんだもん。わたしはね、殴れないからその話を受けるの。別にゴンベエと一緒にいたいだけじゃないからね」

 

「ツンデレって知ってるか? 俺はツンデレがそんなに好きじゃない」

 

「そのまま返すよ、ばぁーか」

 

 可愛くないやつ。だが、俺達の関係はこんな関係でいいんだろう。幽霊だからこそ産まれた感情。脳から発せられる電気信号に過ぎないが、それでもちゃんとしたモノなのだから。

 

「ジュエルシードの輝きが増していく……ゴンベエ、手を」

 

「手を握ってどうするつもりだ?」

 

「最後に手を握っておこうと思って。ほら、同じ身体に入ったらどうなるか解らないし」

 

「……ま、そう言うことにしといてやる。ほらよ」

 

 アリシアの手を握り、輝きを増していくジュエルシードの一つに近づく。頼むぞ、俺の仮説が正しかったことを証明してくれ。

 

「「————告げる」」

 

 何の打ち合わせも無しにそう始めた。だが、手を握っているだけでお互いの気持ちが理解できた。非科学的だが、これも幽霊のなせる技と思うしかない。

 

(またそんなこと言って…)

(性分だからな)

 

 アリシアの考えていることが手に取るように解る。同じタイミングで苦笑しながら、何を願うのか決めた。

 

 願いは単純明快。俺達にとって最上の一言。

 

「「生き返らせて(くれ)!」」

 

 途端、俺達の意識は一瞬途切れた。

 

 

       ◇

 

 

「な、何!? 突然ジュエルシードが光を…」

 

「むぐ……むぐgkぞぢあおずぢ!」

 

「あ……」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!」

 

「アリ……シア……!?」

 

「いあgぼえはぼぼべ!?」

 

「どっ、どうして!? まだ私は何も……!?」

 

「いうおあfbのいhごあs!?」

 

「く、苦しいのね!? 今ポッドから出してあげるから!!」

 

「————ハァッ、はぁ、はぁ……」

 

「あぁ、ああッ! アリシア! アリシア!!」

 

「———お母さん」

 

「ええ! ええッ!! お母さんよ! あぁアリシア……!」

 

「こんにちは、しねぇ!」

 

「ゑ?」

 

(俺が表! お前は裏!)

(嫌だよ! わたしの身体だよ!?)

 

 とりあえず第一段階は終了。後は殴るだけだ。

 

(身体返してよー!)

(だが断る!)

 




・いつからフェイトが勝ったと確信していた?
 某オサレ死神漫画では衝撃の一言。最近見てないなぁ

・逃げるんだ…勝てるわけがない…
 サイヤ人の王子は物語で最高のスパイスだと思います

・ヒテンミツルギスタイル
 オトリヨセー! 当時リアルタイムで何故か見てなかった神アニメ

・今回のまとめ
 当然ですが、この幼女まっ裸です

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