幽霊たちでリリカルマジカルゥ!   作:じーらい

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幽霊なんて信じたくない

 突然だが、俺の身に起きたことを聞いてくれ。

 

 気付いた時には幽霊になってた。

 目が覚めたら目の前に金髪幼女のアリシア(31) がいて、振り返ってみればホルマリン漬けの幼女の裸体があった。紳士な人間なら是が非でもペロペロしたいところなんだろうが、もう死んでるって言うんだから絶望感も半端ないだろう。いくら綺麗な状態とはいえ、死体萌えなんて特殊性癖持ちはそういないと思いたい。

 

 目の前の幽霊幼女と後の裸体幼女を交互に凝視する、なんて少々混乱した状態を脱したところで、アリシアの母でプレシアの所へと案内された。

 

 しかもそのお母さんが魔法使いで手からいきなり電撃なんて飛ばして時にはもう大変、口をあんぐりと開けて呆けてしまったわけよ。超能力とかスタンガンとかそんなちゃちなもんじゃねぇ、もっと恐ろしいモノの片鱗を見てしまった俺に一言だけ言わせてもらいたい。

 

「魔法なんてあり得ねぇ! 認められるか!」

 

 すまん、二言だった。

 

「正確にはプログラムされた事象をリンカーコアにある魔力を用いて稼働させる一般科学だよ。体系や種別・発動シーケンスも様々だし、魔法の発動にはデバイスって言うハードにプログラムを走らせることで発動――」

 

「あーもう解った解ったから。魔法は科学! 科学で証明できるんだな!?」

 

「そう言ってるじゃん。解ってるのなら聞かないでよーもー」

 

 畜生、もしこの世に神なんて存在がいるのなら今すぐ俺を元に戻してくれ。

 

 俺が死んでいる間に、いったい世界はどうなってしまったのか。記憶喪失ではあるが、知識としての一般常識は残っている。その中に魔法なんてものはまったく存在しない。

 いや、在るには在るが、それは物語とか御伽話の空想上の産物だ。一般科学なんて言葉で通用するほど広く行き渡っている技術なんかじゃない。

 

「ゴンベエは頭を打ったんじゃなくて、魔法自体を知らないの?」

 

「忘れているのかしらんが、覚えていない。一般科学として知られているくらいなら、もともと知らない可能性のほうが高そうだけどな」

 

「魔法って単語自体が始めてってこと?」

 

「いや、単語の意味も、それがどういった場面で用いられるかも分かっている。と言うよりも、俺の知識じゃ魔法は空想上のモノなんだよ」

 

「空想上のもの? アニメーションに出てくる魔法戦隊みたいなのかな?」

 

「そんなもんだ。――ちなみに聞くが、アリシアの知っているアニメはどういう話なんだ? 参考までに聞いておきたいんだが……」

 

「時空戦隊5レンジャイってヒーロー物なんだけど、実は戦隊物じゃなくてお笑番組なの。地レンジャイが3人居たり、海レンジャイ2人居たりするよ? 執務官! とか言ってスパッツで出てくる執務レンジャイもいるよ」

 

 浜ちゃん的なアレか。凄く見たいが見たくない、アニメとして見るには反応に困るぞ。とてもじゃないが夢見る子供の見るアニメじゃないからな。カキタレとか言いながら腰振るし。

 

「似たようなモノじゃなくて同じものだと思うよ? ミッドチルダや管理世界じゃ、かなり昔から放送されてるもん」

 

「ミッドチルダ? アメリカの州の一つか?」

 

「ミッドに住んでなかったの? ゴンベエ幸薄そうだし、地価が高いから住めないだけかもしれないけど。あ、でも魔法を知らない程のど田舎なら管理外世界の可能性の方が大きいね」

 

「サラッと俺を貧乏&田舎者扱いするなと言いたい所だが……そんな州は知らないな。アメリカじゃないのか?」

 

 残っている知識の中にもミッドチルダ州なんて聞いたことはない。もしかしてヨーロッパの方か? 欧州の地域になら在りそうな気がする。

 

「もしかして――ゴンベエ、今自分が何語を喋ってるか解る?」

 

「英語とか日本語、若しくはドイツ語とかか? ……おいおい、まさか幽霊語とか言わないだろうな?」

 

「幽霊語ならまだ許せるよ、死んでたら話せるし。ゴンベエは今ね、ミッド語を話してるの。この意味が解る?」

 

「言語から俺の住所が解るってことか?」

 

「住所が解ったら怖いよ。でも、訛りである程度は絞り込むことが出来るかもね。っと、それは置いておいて。ゴンベエの言ってた英語とか日本語って言う言語は、地球っていう世界の言語なの。ほら、お母さんが視てた世界の言語がその内の一つの日本語とか言う奴だったはずだよ」

 

 つまり、俺は地球生まれの幽霊というわけか。

 

「うん、今までゴンベエが話してくれたことからわたしなりに推測してみると、ゴンベエは地球出身になるね。ゴンベエの知識は地球のそれに良く似てるし。でもそう考えるとおかしいの。ゴンベエはミッド語を話すけど、住んでたはずの地球は管理外世界。なのにミッド語でわたしと話せるなんて、そんなのおかしいと思わない?」

 

「ああおかしいな。何がおかしいって、分からないことだらけの現状がおかしい」

 

 管理外世界やら地球やら、スケールがでかくてヤバそうな単語が出てきたが無視だ。もしかすると宇宙規模で迷子になっているんじゃないかと勘ぐってしまうがこの際放っておこう。結論を言うと、俺はミッド語とやらを喋るけど地球の知識を持った迷子の幽霊と言うことなんだな?

 

 ――すまない、本当に誰か助けてくれ。この近くに宇宙刑事とかいないのか? いたら今すぐ迷子の俺を母星に連れて行ってくれ。惑星の名前は地球って言うんだ。そこまで行けたら後は警察のお世話になるから、どうか頼む。

 

「これはもう科学で証明云々などという問題じゃないな。……だが言わせて貰おう、そんなことはあり得ない。と言うか、宇宙規模で迷子だなんて考えたくもねえ!」

 

「本音が出たね! でもさ、そもそも科学で証明出来ないものが信じられないなら今のゴンベエはどうなの? 幽霊なんて科学じゃ証明できないよ。畳みかけるようで悪いけど、宇宙規模の迷子じゃなくて次元規模の迷子だよ? やったね! ランクアップしたよ!」

 

「嬉しくない情報をどうもありがとう。でも信じない! 信じないぞ!? すべてのホラー現象はホラに過ぎないと上田教授の本に書いてあった。つまりこれは夢だ。レム睡眠の間に見ている夢だ!」

 

「わたしの存在も夢だって言うの?」

 

「ぬ……」

 

「わたし、死んでるけどここにいるよ。ゴンベエ以外は誰も気づいてくれないけど、ちゃんとここにいるんだよ……」

 

 ……ええい、俯くな。子供の泣く姿は見ていて心が痛む。子供は可愛い顔して笑ってたほうが何百倍も好ましいんだ。だから悔しいが認めてやる。泣いているお前に免じてな。お前はお前、幽霊アリシアだ。

 

 俺が宇宙規模で迷子なのは認めないがな!

 

「解ったよ、お前の存在は認めてやる」

 

「ホント?」

 

「お前はここで立派に幽霊してたって、夢から覚めたら言っておいてやるから安心して幽霊してろ。な?」

 

「酷いよ!? わたしの演技を返せ!」

 

「演技だと知ってて言った」

 

「なお悪いよ!」

 

 仕方ないじゃないか。本当に信じられないことの連続なんだよ。

 

「でも嬉しいんだ。今まで誰もわたしに気付いてくれなくて寂しかったけど、ゴンベエが来てくれたから楽しくなってきた」

 

「俺が死んで嬉しいと」

 

「てへぺろ☆」

 

「ウザ可愛い!?」

 

 この野郎、人の気持ちも知らないで――ってそうか、俺もこいつのことは何にも知らないんだよな。あの身体は5歳くらいで今はアリシア(31)ってことは、26年くらいここで一人ぼっちだったのか。そりゃあ俺には理解出来ないほど寂しかったんだろうな。

 

「だが人が死んで嬉しいなどとはお兄さんが言わせないぞ。謝れ」

 

「ゴンベエ~! わたし寂しかったの~!」

 

「ええい引っ付くな! そもそも幽霊同士なのになんで触れ合えるんだ!?」

 

「両方とも幽霊だから?」

 

「非科学的だな!? と言うか離れろ! そして俺に謝ってくれ!」

 

 せめて謝ることで俺に自覚させてくれ。もう死んだんだって思わせてくれ。そうすれば少し、ほんの少しだけ諦めがつくから。

 

「それじゃあ形式だけでも。ごめんねゴンベエ、とりあえず」

「俺の価値はとりあえずなんだな? そうなんだな?」

「死ねばみんな無価値だよ」

「お前が言うと重いぜ……」

 

 26年も幽霊やってると無駄に年季が感じられるわ!

 

「でも女の子に引っ付かれて嬉しいでしょ?」

 

「黙ってろ幼女。イエスロリータ・ノータッチと言う紳士の鉄則を知らないのか」

 

 全国1億人のお兄さんやお姉さん、果てには警察権力相手に立ち向かうと社会的に抹殺されてしまう。だから幼女は目で見て愛でるだけに留めなさい、なんて暗黙の了解が出来ているんだよ。

 

「ゴンベエって記憶喪失なのに、よくそんなこと憶えてるんだね」

 

「俺も驚いてる。自分のことはさっぱりなのに要らんことは憶えてるみたいだ。だがそれよりもアリシア、俺に何か言うことは無いか?」

 

「死んでくれてありがとう?」

 

「何だか無性に悲しくなるからその言い方止めろ。――ところでアレ、なんだよ。胸糞悪い」

 

 さっき画面の先にいたお前そっくりな子供だ。帰ってきて、いきなり鞭を打たれているあの子。お前の歳の離れた妹か何かなんかだろ? でもオバサンに鞭打たれてるってことはあれだ……虐待されてるってことなんだろ。何とかして止めてやれないのか、あれ。見てるこっちが辛くなる。

 

「あの子はフェイト。わたしのクローンだよ」

 

「……そりゃまた随分な話だな。胸糞悪くなる話になりそうだ。今現在でも殴れるものならあのオバサンを殴ってる所だぞ。あの野郎、まだ小さい女の子を甚振りやがって……ッ!」

 

「わたしだってそうだよ、絶対にお母さんを殴ってる。それほど胸糞悪くなる話なんだ。それでも聞きたい?」

 

「話を振ったのは俺だしな」

 

 それから少しの間、鞭に打たれる女の子・フェイトを前にしてアリシアの話を聞いた。

 女の子の傷は男が見ていいものじゃない。場所を移そうと提案したが、アリシアはどうしても此処で見届けると言って聞かなかった。唇を噛んで見続けるアリシアが痛ましかったので何処か違う場所に行きたかったが、本人の意思を尊重するに留めた。

 

 ――話の要点を纏めると、つまりはこういうことらしい。

 

 切欠はアリシアが死んだことだった。

 アリシア母ことプレシアは家族思いで優しく、ミッド中央技術開発局の第3局長を任されるほど優秀な技術者だった。そこでプレシアは次元航行エネルギー駆動炉【ヒュードラ】の開発に携わっていたそうだ。当時のアリシアには何の事か分からなかったそうだが、母親が頑張っていたことだけは覚えているらしい。

 

 しかし、努力空しく開発に失敗。何が原因なのかは知る由もないが、ヒュードラは暴走事故を起こした。アリシアを含む多数の人間は事故に巻き込まれて死亡。娘を含む大勢を殺した悲しみに耐えかねたプレシアは序々に精神を病んでいった。そこに漬け込んだ怪しい連中の甘言に誑かされ【F計画】と呼ばれるプロジェクトに参加。嘗ての日々を取り戻す為、アリシアクローンを創ると言う禁忌を犯す。その過程で不治の病を患い、文字通り身体を壊しながら産まれたクローンがフェイトだった。

 

 しかしフェイトはアリシアではなかった。天才を以ってしても同じ人間を造ることはできなかった。

 

 その結果――プレシアは狂った。

 

 狂って、願いを叶えると伝わるロストロギア【ジュエルシード】を手に入れようとしている。他でもないアリシアを生き返らせるために。アルハザードとか言う、何でも出来る場所に行くために。

 

「お母さんは優しかったんだ。優しかったから、壊れた。もう何度もね、お母さんはフェイトにこういう仕打ちをしてるの。死んでいる人間のために、生きている人間を傷つけてるんだ」

 

「……お前は、自分のクローンについて何も感じないのか? 例えば、ほら、あれだ……キモチワルイ、とか」

 

 俺なら、無理だ。

 自分と同じ存在が目の前にいて、こんな仕打ちをされているのを見たら、耐えられなくなって否定してしまう。あいつは違う、アレは俺じゃないナニカだと。

 

「ゴンベエ、"それ" 撤回してくれないかな。引っ叩いちゃいそうだから」

 

「! すっ、すまん、悪かったよ……」

 

「いいよ、誰もが受け入れられることじゃないし。確かにフェイトはわたしのクローンで、アリシアになることを望まれて産まれてきたよ。

 でもそうじゃない、それだけじゃ絶対にない。そんな身勝手な悲しみをわたしは認めない。産まれてきたのなら、その命が燃え尽きる一瞬まで精一杯生きなきゃいけない。そこに"アリシアの代わり"なんて重石はあっちゃいけない。あの子はフェイトなの。"フェイト"って名付けられた一人の女の子で、わたしの妹なんだ」

 

「……いい姉だな、お前。俺もお前みたいな姉が欲しかったな」

 

「ふふん、今からでも遅くないよー?」

 

 そう言ったアリシアはいい笑顔だった。記憶なんて一つも残っちゃないが、妹の為に本気になれる姉がどれだけイイ奴かは分かる。

 

「だからわたしはこれを止めたい。でも、止めてって言っても聞こえない。わたしは幽霊だから。こんなにも近くに居るのに、こんなにも遠いの」

 

「そうか」

 

 扉を突き破り獣耳、アルフが部屋へと入ってきた。プレシアに向かって勢いよく吠える。主人を守る使い魔ここに在り、だな。カッコいいぜ、アンタ。本気でそう思う。けど力の差は歴然だ。果敢に立ち向かうアルフをゴミのように、プレシアの魔法が蹂躙していった。身体には無数の傷が刻まれ、飛び散る血が横たわるフェイトに降り注いだ。

 

「ゴンベエ……わたし、どうすればいいのかな? 何も出来ないけど、どうすればいいのかなぁっ!?」

 

「とりあえず泣くのは止めろ。俺が困る」

 

「わたしはずっと困ってるよ……」

 

「そんな事はいま知ったさ。だから一緒に考えよう。何の因果かは知らんが、地球からこんな辺鄙な場所に来たんだ。それなりの意味ってものがあるんだろうよ」

 

 任せろ、などと無責任なことは言わない。俺に出来ることなんてたかが知れている。だがそれでも、ここに俺が呼ばれた理由くらいはあるはずだ。俺はこの光景を変えるために来たのだと、そう信じることにした。

 

「ゴンベエ……」

 

「なんだ?」

 

「……傍に居てくれて、ありがとう」

 

「あいよ」

 

 気付いた時には、アルフはもう何処かへ消えていた。残ったのはフェイトとプレシア、あとは何も出来ない幽霊が二人だけ。

 

 けど、今に見てろよプレシア。娘を二人も泣かせた罪はデカイぞ。妹を想う姉の為に、絶対に、その厚化粧の顔を殴ってやる。

 


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