幽霊たちでリリカルマジカルゥ!   作:じーらい

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お久しぶりになる方、こんにちわ。始めましての方、どうもはじめまして。お恥ずかしながら帰ってまいりました。のんびりやっていこうと思いますので、よろしくどうぞ


気がついたら幽霊

「おーいお兄さん、いい加減目を覚まそうよ」

 

「―――んお?」

 

 うわやべ、もしかして寝てた? やべえやべえ、寝る前に大事な……大事なあれだ、えっと? なんだっけか? あれ、寝ぼけてるのか思い出せねえ……って何処だここ。

 確か俺は……おい俺は誰だ? えーっと確か……マジかよ、何も思い出せねぇ。

 

「ねーねーお兄さん、どうやってここに湧いてきたの?」

 

「人を庭に生えてきた昆布みたいに言うのはやめろ。思い出すからもうちょっと待ってくれ」

 

 落ち着け、とりあえず現状把握だ。

 住所は――分からん、氏名……知らん。年齢も憶えてない。性別……あるな。とりあえず自分が男だと判明したが……あー、それ以上は解らん。住基ネットとかマイナンバーでも調べれば……って、この辺りの知識はあるのか。一般知識はある記憶喪失ってやつなんだろうか。

 

 ――うっほやっべぇ!? 滅茶苦茶な状況じゃないかこれ!?

 

 落ちつけ俺、こんな時こそ冷静になるべきだ。目の前の幼女を見れば心が落ちつい来るだろう。見ろ、金髪幼女だぞ金髪。しかも可愛い……いや子供は可愛いもんだが、この子はどこかの物語から出てきたみたいな可愛い容姿をしている。お目々真ん丸でクリックリな上に微妙なエロスすら感じられるんだぞ。3次じゃありえない。じゃあ尚更落ち着けないって? ばっか、一流の紳士は子供の前じゃ隠すんだよ。

 

「おにーさん大丈夫?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 しかし子供とはいえ目の前に冷静な人がいてくれて良かった。こんな小さな子の目の前で取り乱すのはカッコ悪いもんな。って、そうじゃないだろ俺。俺は何だ? 此処は何処? 私は誰? クソッタレ、こんなバカな真似をクソ真面目にやる嵌めになるとは思ってもみなかったぜ。

 

「なあおい、此処は何処で、俺は誰だ?」

 

「時の庭園にある一室で、気付いたらここに湧いてた変なお兄さんだよ」

 

「OKOK 時の庭園ね、時の庭園。……悪い、真面目に答えてくれないとお兄さん困る」

 

 何だよ、その一日が一年ですみたいな場所。お前は修行の末に金髪になれたのかもしれんが、俺は出される食事が粉と水だけとか耐えられる気がしないぞ。

 

「一切合財ウソ偽りなくここは時の庭園って言うんだよ、昆布みたいなお兄さん」

「正確にはイシクラゲだ。昆布が家の庭に生えるわけがないだろう」

「生えたことあるよ?」

「海の家だったのかココは!?」

「時の庭園じゃなかったっけ?」

「疑問形!? って言うか、海の家にだって昆布は生えねえよ!」

 

「時の庭園かもしれないし、海の家かもしれないね。今確かな事実は、たしかにこの場所があるっていうことだけだよ。でもわたし的には海の家がいいなー。海に行ったことないもん」

 

「お前の言ってることって、別に家の名前はどうでもよくて、ただ海に行きたいように聞こえるんだが」

 

「そこは分かってくれるんだね!」

 

 うん、なんだ、頭抱えていいっすか。そのあとで目の前の幼女にチョークスリーパーかけたい。そのあと4文字固めして世間の厳しさを説いてやりたい。

 

「ねぇねぇお兄さん、頭大丈夫?」

「初対面の人に失礼だな。可愛ければ何でも許されると思えば大間違いだぞ」

「嬉しいこと言ってくれるね! ねえねえ、わたしって万人が認めるほど可愛い?」

「小さい子は可愛いもんだ。例えそれが生意気なガキンチョでもな」

「これでもわたしは30歳を超えたマダムだよ。この溢れだす熟女フェロモンが感じられない?」

 

 左手を腰に、右手を後ろ頭にポーズをとる幼女。胸も無ければヒップもない幼女体系の癖に何を言うか。どう見たって5、6歳くらいの女の子にしか見えん。

 いや、見た目は子供で頭脳はマダムとか言わないだろうな? それとも頭だけ異常に発達したスーパー幼稚園児とか。

 

「それにお前、こんな薄暗いところで何やってんだよ。かくれんぼの最中か?」

 

「そうだねーわたしが隠れてるだけかもしれないし、みんながわたしから隠れてるだけなのかもしれない。そう考えると、かくれんぼってのも間違ってないかも。お兄さんは何してるの?」

 

 しらねえ。

 

「……現状確認も兼ねて言うが、どうやら俺は迷子らしい。自分にも人生にも。付け加えるなら自分が誰かもわからない状況だ、助けてくれ」

 

「難しいこと言うね。お兄さんも小学生か中学生くらいにしか見えないのに」

 

「そうなのか?」

 

「うん、どう見ても」

 

 自分の名前やら住んでた場所は解らんが、俺が小学生または中学生だと言うのは間違いだと思うんだが。俺のこの思考回路で中学生だとしたら、世の中のJC、その上にいるJKに希望が持てなくなってしまうじゃないか。俺はそんなの嫌だぞ、断固嫌だ。

 

「鏡あるか? 自分の顔が見てみたい。何か思い出すかも知れないし」

 

「あるけど、たぶん映らないんじゃないかな」

 

「何言ってんだよ、映らないのは吸血鬼と良い死人だけだと相場が決まって―――ってうぉぃ!? 俺が映ってねぇ!?」

 

 何だこりゃ!? 映ってねぇ! 映ってねぇって!!

 何がって、俺がだよ! どうしたってんだ!? 実は吸血鬼でしたってオチか!?

 いやいや、吸血鬼なんて空想上の産物がこの世にいるはずが無いだろ。科学で証明出来ないものがこの世に存在してたまるか。

 だからって俺が死んでるわけでもない。この鏡はあれだ、マジックミラーとか言うやつに決まってる。

 

「考え込んでるところ悪いんだけどね、お兄さん。足元を見るのが一番早いと思うんだ」

「足元? ―――なぁ金髪幼女」

「なに?」

「俺の足が無い」

「わたしも無いよ」

「つまりこれは」

「幽霊ってやつだよ、新米幽霊のお兄さん」

「DON't来い超常現象」

「何故ベストを尽くした」

「尽くしたのか? 尽くした結果がコレなのか!?」

「イェーイ! 科学で証明出来ないわたし達!」

「認めたくねぇ!」

 

 最悪だ、目が覚めたら幽霊だなんて洒落になんねぇよ! 中身はともかく、見た目はピチピチで青春真っ只中の小もしくは中学生なんだろ? ネットじゃリアル中二と持て囃される年代なんだぞ! そんな将来有望な俺が実はもう死んでいて、幽霊としての人生をスタートしているだって? それなんてリアル厨二……

 

「時にお兄さん」

「何だ金髪幼女」

「お名前は?」

「名無しの権兵衛さんだ。あ、でもジョン・ドゥで頼む。その方がカッコいい」

「じゃあゴンベエだね。わたしはアリシア・テスタロッサ。可愛い金髪幼女の幽霊だよ」

 

 自分で自分のことを可愛いと言う奴は……昨今ではそれほど珍しい程でもないか。言ったもん勝ちだもんな、言った方が得だ。

 

「……ん? そういやお前、さっき自分のことを三十路越えのババアだって言ったよな?」

 

「お前じゃなくてアリシアだよ、お兄さん。それにババアじゃなくてマダムだよ」

 

「OK アリシア。さっき三十過ぎのマダムとか言ってなかったか?」

 

「死ぬ前と死んでからで30歳越えちゃった。長い間隠れちゃってたのテヘペロ☆」

 

「ウザ可愛いなぁオイ。でもって中身も子供だと」

 

「まあ身体の成長止まってるからね。ほら、良く言うじゃん。精神は身体に引っ張られるーとか、健全な肉体に健全な魂だとかなんとか。でもわたしは死体に30年掛けて腐った魂だし、あまり関係ないかも。あ、でも死んだ後にお母さんの研究見て勉強してたから、見た目はともかく頭はかなり良い方だと思うな」

 

「どう見ても馬鹿にしか見えないが……ん? 身体だと?」

 

「うん。ホラ、お兄さんのちょうど後の水槽に私の遺体が入ってる」

 

 それは……振り向きたいけど振り向きたくないな。ここで重要なのは服を着ているか着ていないか、ではない。グロイかグロくないかだ。小学校の理科準備室に置いてある標本を思い浮かべて欲しい。あれはキモイ。

 まあ、前もって教えてくれたおかげでいきなり悲鳴を上げるようなことはないだろう。その点は感謝しよう。感謝する心を踏まえつつ、ゆっくりと後を振り返ってみるとしよう。

 

「――うわ、この身体ペドすぎ」

 

「可愛い? ねぇ可愛い?」

 

「俺に可愛いと言わせたいのか? ロリコンの称号を与えたいのか?」

 

 おまわりさんこいつです! 幼女が自分からまっ裸を見せてきました! 俺は悪くねえ!

 

「残念ながら幼女ボディを見て発情するほど俺は落ちぶれてない上に、幼女の死体を見て興奮するほどの下衆でもない」

 

「なーんだ、つまんないの」

 

「でもあれだ、心にクルものはあるな。主に咽喉を逆流してくる吐き気が」

 

「吐かないでよ?」

 

「吐くときはあの肢体に掛けてやる」

 

「ごめんそれだけは本当に止めて」

 

 綺麗なものって汚したくなるよな。

 

「属に言う『金髪幼女の肢体・ホルマリン漬け』 ってとこか」

 

「ホルマリンじゃないよ。似たような液体ではあるけど」

 

「そうなのか? 実はヌカ漬けだとか言われない限りはどうでもいいが。ところで幼女の肢体と死体を掛けたギャグだったんだが……」

 

「0点」

 

 手厳しい。中々良い出来だと思ってたんだが、中身幼女にはこの高度なテクが理解できなくても仕方ないか。

 

「じゃあゴンベエ、私に付いてきて」

「権兵衛で固定かよ。発音おかしいし……まぁいい、何処に行くつもりだ?」

「お母さんのとこ。ゴンベエにお母さんを紹介しないと」

 

 現状が理解できてもやることもない。黙って浮遊移動するアリシアに付いて行く。しかし親を紹介する、ねぇ。生きていれば、気分は彼女の実家に来た彼氏みたいなものか。こんなナリじゃ緊張もしねえよ。

 

「歩くって、どうすればいいんだ?」

「歩きたいって思えばいいんだよ。歩いている自分を想像してみて」

「想像ね……何を隠そう、俺は想像の達人だ」

 

 歩く要領で前に進もうとすればあら不思議、勝手に身体が歩きだす。

 

「なあ、扉はどうすればいい?」

 

「通り抜けるんだよ。幽霊に壁なんて意味ないし」

 

「なるほど……おお、本当に通り抜けれた。幽霊すげえ、本当に幽霊みたいになってるな。触るのは無理なのか?」

 

「みたいじゃなくて、幽霊なんだって。実体がないから触るのは無理だよ。当たり前じゃん」

 

 生憎と俺の幽生は今始まったところで、右も左も分からない状態だ。こうやって一つ一つ出来ることを確認していくのが最善だと思いたい。

 しかし……はぁ…。誰だよ、死ねば極楽浄土に行けるなんて言ったやつ。そんなことを言う奴とは是非一度お話がしたいね。お題は『極楽浄土に幼女はいるのか?』 で。

 自分の境遇に溜息を吐きつつ、幾つか扉をすり抜けて行った所に化粧の濃いオバサンがいた。なんだかモニターみたいなモノを険しい顔で覗いている。

 

「アレが私のお母さん」

「へー、化粧は濃いけど綺麗なお母さんじゃないか」

「でしょ? 自慢のお母さん"だった"」

 

 アリシアには悪いが、俺としてはそのお母さんが覗いているモニターらしきものに映っている映像の方が気になる。

 何故かって? 獣耳の女性とアリシアそっくりの女の子、あと白い子と民族衣装っぽい服を着た少年が空飛んでいるからさ。この歳で小学生が主人公のアニメを見るとか、オバサンも中々良い趣味をしてるぜ。しかも視聴の最中に『チッ』 とか『やっぱり人形は駄目ね……』 とか呟く姿に、今期アニメに掛ける想いの本気度が伺える。

 

 それにしても、俺が死んでいる間に世間の技術力はとんでもなく進んだみたいだ。

 記憶喪失の俺が言うのもなんだが、空間モニター的なテレビは見たことがない。最近になってスマホが普及し始めたくらいだし、SFに出てくる光線銃も存在しない。死んでからどれくらい時間が経ったのか知らないが、最先端科学ってやつはここまで進んでいるんだな。

 

「お母さんってね、優秀な技術者で凄腕の魔導師なんだよ」

 

「――すまない、耳がどうかしてたみたいだ。お前のお母さんが優秀な技術者で、何だって?」

 

 いま、何かとんでもないことを言われた気がする。いや聞き間違いだろう。なんせ知らない間に死んで幽霊になっているくらいだ、そうに違いない。

 

「もう、話はちゃんと聞いてよ。わたしのお母さんは、優秀な技術者で、凄腕の"魔導師" なの」

 

「……魔法使いさん?」

 

「そうとも言う」

 

「はっ、ははははは、なに言ってるんだお前。魔法なんて非科学的なモノが存在するわけないだろう?」

 

「死因が頭部破損とかだったのかな。次元世界、時空管理局って言えば思い出せる?」

 

「な、なんだそりゃ……?」

 

「あり? 本格的に忘れちゃってる?」

 

 お、おいおい……忘れてるもなにも、魔法なんてものが存在するわけないだろ。ここは2次元の世界じゃないんだぞ? そんな非科学的なものがこの世に存在してたまるか。

 

「お前、ずっと幽霊をしていたせいで、魔法なんてオカルトを信じないといけないほど頭がおかしくなったんだろ?」

 

「うわー、まじかー……こんなことって本当に起こるんだ……。いい? ゴンベエ、魔法はあるんだよ。それも一般的に、科学の延長線で使われてるんだ」

 

「可哀そうに、一人は辛かったんだな。でもこれからは大丈夫だ。俺も幽霊だから、これからは二人で一緒に幽生を送ろう。なに、お前の頭が魔法使いなんてメルヘンチックな存在を信じていようと見捨てはしないさ」

 

「ゴンベエ!」

 

 だから、そんな俺がオカシイみたいな顔するのは止めてくれよ。

 

「うーん困ったなぁ、まさか魔法も知らないド田舎出身だなんて。なまじ人足りうる確固とした常識? を持ち合わせているみたいだから、言葉で説明しても意味ないだろうし……ちぇ、大人ってめんどくさいねよねー」

 

 なんだ、何を言っているんだ……?

 

『駄目ね、あの子は。私の言いつけを何一つ果たせないなんて』

 

「うん、やっぱり論より証拠だよね。ほら、お母さんが魔法を放つみたいだから、よく見るといいよ」

 

「いや、だから魔法なんてもの……」

 

『もうあの子に任せてられない』

 

 オバサンが手を翳す。そのオバサンの手からバチバチと電気が発生しだした。

 

 ――ヘイ、少し落ち着けよ俺のチキンハート。手から電気が出る程度はトリックだと言えば説明が付くだろう? 真似できたらカッコいいだろうなぁ、宴会芸で使えそうだ。忘年会に新年会何でも来いや。

 

『お逝きなさいッ!』

 

「……しんじらんねぇ」

 

 必死に否定していた俺の目の前で、厚化粧のオバサンが手から"魔法" を放った。魔法と言われて、頷くしかないものを目の前で見せられた。"凄い雷が跳び出したかと思うと、何処かに消えて行ってしまった" んだ。それなんて魔法?

 

 敬愛する上田次郎先生、出来れば早いうちに来て貰えると助かります。これをトリックだと証明して下さい。

 

「おいアリシア」

 

「なにー?」

 

「魔法って、マジであるのか?」

 

「あるよ。超マジ」

 

 いかん、足無いのに震えてきた。




にじふぁんから読んで下さっていた方には申し訳ないのですが、内容が少し変わってくる場合があります。覚えてらっしゃる方はいないと思いますが一応。

この話のノリ、実は苦手です。もっとお堅い話の方が書きやすいんですよね

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