アーランドの冒険者   作:クー.

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ヘタ恋愛

 

 

 後輩君立ち直るの巻の翌日、俺は宿屋で探し物をしていた。

 

「フラグ、フラグ……」

「ぷに?」

「いやな、俺の恋愛フラグがどこにも見つからないんだよ」

「……ぷに」

 

 ぷにが途端にやる気なさげな表情になった。

 俺にとっては結構重要な問題なんだけどな。

 

「こっちにきてもうすぐ四年、俺はいったいどこでフラグを立て忘れたんだろう?」

「ぷに~」

「後輩が着々とリア充への階段を上がっているというの俺ときたら……」

 

 タイミングは何度かあったはずだ。なのに俺のなんちゃって症候群がこの身を縛る……。

 

「ぷに」

「つーかさ、後輩君出る世界間違ってるだろ。幼馴染を助けるとかそっちのゲームにでもいってろよ……」

 

 まあ、元を正せばそんな結果になったのは確実に俺の計画のせいなんだけど。

 

「俺ってアレなのかな、主人公の面倒をみる先輩ポジションなのかな。……笑えん」

「ぷににににににに」

「…………」

 

 相棒が真剣に悩んでいるのに、このぷには……。

 

「探してくる」

「ぷに?」

「俺の、フラグを、探してくる!」

「ぷに!?」

 

 

 俺はポーチを持って宿屋から飛び出した。

 

 

 

…………

……

 

 

 

「これがフラグじゃない事を祈るぞ」

「は? いきなり何言ってんの?」

 

 ツェツィさんに会いにゲラルドさんの店に来た→メルヴィアがいた→相席。

 会っただけで好感度が上がるシステムじゃないといいな、俺の人生。

 

「ちなみに、お前の俺への好感度ってどんなもんなんだ?」

「ちょっと……言わせないでよ……」

 

 メルヴィアが頬を赤くして、こっちを潤んだ目で見てきた。

 気持ち悪い。顔は確かにかわいい、だけど無理だ。

 

「俺、自分より強い女は無理なんだ」

「あたしもあんたみたいなのはごめんだわ」

 

 男女間での友情が成立するという証拠が出た瞬間であった。

 

「つか、メルヴィアって彼氏……いるわけないな」

「なっ! ちょっとこんな美少女に向かって何言ってんのよ! 失礼ね!」

「え? いるの!?」

 

 メルヴィアにすらパートナーがいたら俺は絶望するしかないね、そうだね。

 

「……いないわよ。悪いかしら?」

 

 屈辱からか、気まずさからか、顔を横に向けて投げやりにそう言った。

 

「だよなあ、うん。お前みたいなのにいる訳ないよな」

「あんただって同じじゃないの」

「ふっ、同じは同じでもランクが違うのさ」

 

 メルヴィアは胡散臭げな目で俺を見てくるが、実際俺はメルヴィアの遥か高みにいる。

 

「俺は料理ができて、錬金術が使える、さらに洗濯とかもできる。どうだ、このハイスペック!」

「……あんたって要素だけ抽出するとまともな奴よね」

「言うなよ、悲しくなるから」

 

 結局は彼女いない歴=年齢です。

 

「ここはやっぱり、ツェツィさんを狙うしかないな」

「はんっ」

「んな鼻で笑うこと無いだろうが……見てろよ。ツェツィさーん」

 

 俺は手を上げてカウンターに居るツェツィさんを呼んだ。

 

「何かしら? 注文?」

「君のスマイルを一つ、お代は俺の心を」

「ぶっ。あーっはっはっは!」

 

 俺がキッと決めた瞬間、メルヴィアが噴出して、テーブルを叩きながら大笑いし始めた。

 

「えっと……」

「あ、あんた、ぷっ、そういうのは、卑怯よ、っくく、ダメ死にそうっ」

「…………」

 

 こんな状況じゃあもうフラグは立たないな、俺はそう思った。

 俺の予定では、ここでツェツィさんが、な、何言ってるのよアカネ君って恥じらいながら言って、俺がそこでツェツィさんの笑顔が見たくなったんだって言うはずだったんのに……。

 

「ぶっ! クックク、クククク」

「あ、アカネ君まで、二人ともどうしちゃったのよ……」

 

 自分で想像して自分で吹いてしまった。ダメだ、この計画を実行したら笑い死んでしまうっ。

 

「う、うん。やっぱりダメだな。うん、ダメだ、クク」

「あんた、もうちょっと自分のキャラを考えた方がいいわよ……フフッ」

「ふ、二人が分からないわ……」

 

 

…………

……

 

 

 

「ここは恋愛上級者に教えを仰ぐべきだな」

 

 俺は悟った、彼女もしくは彼氏がいない同士じゃあいくら話し合っても良い作なんて出ようがないと。

 

「恋愛上級者……」

 

 師匠は……錬金術とパイが恋人な状態。

 ステルクさんは……師匠を追いかけてる。年考えろ。

 クーデリアさんは……相談したら殴られそう。

 フィリーちゃんは……論外。

 

「俺の年上の知り合い、役に立たねえ」

 

 イクセルさんとかもあの顔でなんにも浮いた話とかないし、この世界ってそういう世界なのか?

 

「パメラさんは……まあいないよな。いないでほしい」

 

 いたら俺の聖域がなくなってしまう。俺的にパメラ屋は神聖な空間なんだ。

 

「…………もう、諦めた方がいいのかな」

 

 俺は広場のベンチに座って溜息を吐いた。

 

 そうだよな、沢山かわいい知り合いがいるんだし、これ以上を望むのは贅沢だよな。

 後輩君に相棒、イクセルさんに親っさん、いろいろ作ってくれるマークさん。

 これだけあれば、もう十分だよな……。

 

 

 

 

 

 もう……あきらめ、休んでも、良いんだよな…………?

 

 

 

 

 

「――はっ!」

 

俺が諦めかけたその時、目に入った。せっせと馬車を拭いているペーターの姿を。

 

「あれは、俺だ。未来の俺だ」

 

 現状に満足して、先への一歩が踏み出せない、俗に言うヘタレ。

 同じだ。一人を想うヘタレと、相手を選ばないヘタレ、同じだ。まったく同じ糞ったれだ。

 

「ペーター」

「ん? 何だってお前か……」

「ありがとう、俺、目が覚めたよ」

 

 深々と、一礼をした。

 

「は?」

「俺、頑張るから!」

「訳がわからん……」

 

 ヘタレとは嫌悪すべきものじゃない、その背を見てこうはなりたくないと思わせる存在……だったらカッコいいよな。

 

「うん、いろいろゴメン」

「訳わかんないけどさ、お前俺の事バカにしてないか?」

「……ふっ」

 

 俺はその場からクールに立ち去った。後ろから何か言っている声が聞こえてきたが無視した。

 

「あいつがヘタレじゃなくなったら、ツェツィさんと良い雰囲気になったりすんのかね?」

 

 まずそのIfが想像できなかった。

 

 


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