アーランドの冒険者   作:クー.

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禁断の一言

 

 視界の中心に解決策があった。絶対に切りたくはないジョーカーのカードだけど。

 

「……学校とかでさ、分からない所があったらどうしますかってアンケートがあったんだよ」

「ぷに?」

「俺はいっつも自分で調べるを選んでたんだ」

「ぷに~?」

 

 ぷには何が言いたいんだと疑問の声を上げているが、もう少しだけ語らせてほしい。

 

「他の選択肢に友達に聞くとかもあってさ、俺はこれだけは絶対選ばないなってのがあったんだよ」

「ぷに?」

「……先生に聞く、だよ」

「ぷに!?」

 

 そう言って俺はしっかりと自分の師匠を見据えた。

 稀代の錬金術師ロロライナ・フリクセル。

 この人に再び教えを請わなければいけない日が来るとはな……。

 

「あ、お腹痛くなってきた……。ちょっと精神安定のために親っさん所行こう」

「ぷに~」

 

 ぷには無理しなくてもいいと言ってくれているが、これも回り回ってトトリちゃんのため、ちょっとの苦行くらいは耐えて見せよう。

 ちょっとの苦行くらいなら……。

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって、男の鍛冶屋。

 

「親っさん、結局昨日はどうなったんですか?」

 

 神二人が争うという、神話の終結は一体どんな物だったのだろうか?

 

「ああ、あの兄ちゃんとなら来週あっちの兄ちゃんの店で一緒に飲もうって話になったぜ」

「へえ、そうなんですか」

 

 あっちの兄ちゃんってどっちの兄ちゃんなんだろうと思いつつも、俺は一応の相槌を打った。

 しかし、どうやってそんなことになったのだろうか?

 仲良くなって、一緒に飲もうって解釈でいいのだろうか?

 

「兄ちゃんも暇だったら来てくれてもいいんだぜ。兄ちゃんなら大歓迎だ」

 

 親っさんはいい笑顔で好都合なことを言ってくれた。

 これはぜひとも行かねばな。

 

「それじゃあ、折角だから行かせてもらいますよ。それと今日は、ちょっと頼みがあってきたんですよ」

「頼み?」

「実は、親っさん、グラセン鉱石って持ってたりしませんか?あるなら買わせてもらいたいんですけど」

「グラセン鉱石? ああっと、ちょっと待っててくれ」

 

 そう言って親っさんは立ち上がり、店の奥へと消えて行った。

 

 

 

 待つ事数十分、親っさんが腕に白色の鉱石を抱えて戻って来た。

 

「おう待たせたな。こいつが兄ちゃんの欲しがってる奴だぜ」

「おお、これが……」

 

 数は大体二、三十個と程度だろうか、これだけあれば成功できるかもしれない。

 

「ただなあ、こいつは……」

「? 何かあるんですか?品質とか問題なさそうですけど」

「いやな、こっちじゃとれねえ鉱石だから貴重なんだよ。兄ちゃんが何に使うかは知らねえけど、結構値は張るぜ?」

「…………」

 

 まさかのレアアイテム、そりゃ洞窟いくら探しても見つからない訳だ。

 借金がまだ残っている身の上としては辛いが、ここは身を切る思いで金を出すしか……。

 

「……うう、フリーゲント鋼のためなら仕方ない……」

「なっ!? 兄ちゃん今何つった!」

 

 俺が小さく呟くと、親っさんが身を乗り出して俺の肩に手を乗せてきた。

 ……暑苦しいと言っていたマークさんの気持ちも分かる気がする。

 

「へ? フリーゲント鋼のためなら……」

「作れるのか? 本っ当に作れるのか?」

「ま、まあ、師匠と協力すればなんとか……」

「おっしゃ! 兄ちゃんこれ全部持ってけ!」

 

 そう言ってハゲルさんは腕を組んで、椅子に腰を下ろした。

 俺の聞き間違いでなければ、全部持って行っていいっと言ったように聞こえたが……。

 

「えっと、よろしいので?」

 

 思わず敬語で聞き返してしまった。。

 

「あったりめえよ! 男ハゲルに二言はないぜ!」

「な、何でまた?」

「フリーゲント鋼ってのは、聞いた事はあるんだが実際にそれで武器を作った事はねえのよ。加工し辛いはなんだであんまりこっちじゃ一般的じゃなくてよ」

「はあ? それで?」

 

 それとこれとどう関係があるんだろうか? 加工し辛いなら逆にいらないんじゃなかろうか。

 

「鍛えたことのねえ鋼があるなんて、鍛冶職人の名折れってもんじゃねえか! そうだろう兄ちゃん!」

「な、なるほど」

 

 これが職人のこだわりって奴か、不覚にもカッコいいと思ってしまった。

 

「つーわけで、頼んだぜ兄ちゃん」

「承りました。この不肖アカネ!最高の鋼を作ってきましょう!」

「兄ちゃん!」

「親っさん!」

 

 感極まった俺たちは互いの手を握り合った。

 何か前にも似たような事をした気がする。

 

 

 

…………

……

 

 

 

「と言う訳で、材料はすべて確保しましたよっと」

「ぷに」

 

 机に置かれている数種類の材料たち、鉱石から中和剤等々。

 

「とりあえず整理するか、トトリちゃんのコンテナに預けてたの全部出しちゃってるし」

「ぷにに」

「えっと、前採ってきたので必要なのはグラビ石だけだから、それ以外は俺のコンテナに仕舞っちゃっうか」

「ぷに!」

 

 机に積み重なっている鉱石から、ひときわ軽いグラビ石だけを集めて、それ以外は脇に寄せていった。

 

「わあ、すごい量だね」

「まあ、ちょっと熱が入っちゃったみたいな?」

 

 暇であったのだろう師匠が机の向かい側に立っていた。

 そう言えば俺はこの人に聞いておかなくちゃいけない事があったな。

 

「師匠、俺のポーチに何か細工とかしたか?」

「へ? ううん、何にもしてないよ?」

 

 どうして? と師匠は不思議そうにこちらを見つめて来た。

 まさかの空振り、これは詰んだ。

 

「でも、師匠。俺のポーチにやたら物が入るんだよ。この鉱石とかも全部入ったし」

「? あれ? もしかして今まで気づいてなかったの? ちゃんと説明したと思ったんだけど……」

「はい?」

「そのポーチはアカネ君のコンテナと繋がってるんだよ。……ううん、やっぱり前にも説明した気がする」

 

 俺は説明された覚え皆無なんですけど、いつからこのポーチはそんな便利アイテムなったんだ。

 たぶんここ数ヶ月くらいの話なんだろうけど……。

 

「いつ! いつ話したの!」

「え、えーっと、確か……うん、アカネ君がわたしに錬金術習うようになってから一週間しないくらいっだったかな?」

「そこかよ!?」

 

 忘れもしない人生初の記憶喪失期間、理由はいまだに不明。

 その空白の期間にまさかこんな落とし穴があったとは、つか二年もの間俺はこのポーチの謎に気づいていなかったって事ですか。

 

「まあ、うん、ずっと気づかないよりはマシだよな。今更感しかないが……」

「アカネ君ったらそんな大事な事忘れちゃうなんて、意外とおっちょこちょいさんだね」

 

 師匠におっちょこちょい呼ばわりされるとは、長生きはするものですね。

 確かに忘れてたんだけどさ、忘れ方が普通じゃなかったんだよね。

 

「もういい! ほら暇なら師匠も手伝って、こん中からグラビ石だけ取ってくれ」

「うん、いいよ」

 

 師匠は快諾してくれて、鉱石の山の中に手を伸ばしていった。

 師匠にやらせると怪我しそうで怖いな、まあ材料の扱いには誰よりも慣れてるだろうからそんな心配はいらないだろうけど。

 

「お、黒の魔石発見。これは別枠、別枠」

 

 俺のリミットブレイクアイテム、使用すれば相手は死ぬ、そして俺も死ねる。

 実際次使うとしたら、どこぞのラスボスと戦う時くらいだろう。

 闇の力を用いて世界を救う、混沌からのダークヒーローアカネ!

 

「? アカネ君、何で顔赤くなってるの?」

「いや、ちょっと我が事ながらこれはないなって思って……。あと、師匠黒の魔石も別に採っといてくれ」

「でも、それだと危ないんじゃないかな?」

「へ? 何がだ?」

 

 そりゃあんまり集めると、俺のHPが一瞬で吸収されるけど、あくまで手袋をつけていたらの話だ。

 別にこんな物いくら集まったって、害はないと思うんだけどな。

 

「だって、あんまりこれ集めると気分悪くなっちゃうよ」

「え? マジで?」

「うん、慣れてれば平気だけど、たくさん集めちゃうと危ないかも」

「へ、へえ……」

 

 つまり、俺が手袋をつけている状態で力が溢れ出るのは異常って事ですか?

 知らぬ間に、薬はあなたの体を蝕んでいますって事ですか?

 

「なんか急に怖くなってきたな」

 

 うん、やっぱりもう黒の魔石は使わない事にしよう。

 いろいろ危ない気がする。

 

…………

……

 

 鉱石を漁り始める事数十分、黙々と作業を進める中、師匠が声を上げた。

 

「あれ? これって……」

「うん? どうかした? 伝説の鉱石でも混じってたりでもしたか?」

「ち、違うけど……。アカネ君、何でドラゴンの鱗なんて持ってるの?」

 

 俺が顔を上げて、師匠を見ると手には緑色の鱗が握られていた。

 

「それなら前にドラゴンさんを倒したときに剥ぎ取った奴だぜ。今思えば酷い事をした」

 

 たぶんあいつ泣いてた。

 

「ど、ドラゴンと戦ったの!? アカネ君が!?」

「ぷにも一緒だったけどな。うん、嵌め技はカッコ悪いよな」

「ぷに」

 

 ぷにも同意見のようだ。あの時のドラゴンの痛みに耐える声は今でも耳に残っている。

 

「アカネ君、無事だったからいいけど。あんまり危ないことしないでね」

「お、おう。了解した」

「ぷに」

 

 師匠はとても不安げにこちらを見てきたので、思わず素で返してしまった。

 確かに、弟子がドラゴンと戦ったなんて聞いたら心中穏やかじゃないよな。ほとんど戦ってないんだけど。

 

「ところで、ドラゴンの鱗から何かいい物作れたりするのか?」

「うーん、アカネ君が使うにはまだ早いかも。アカネ君が使えるくらい錬金術が上手くなったら教えるね」

「ああ、うん。ぜひ教えてくれ」

 

 出来れば教えてもらわずに、自力でやりたい。いやむしろ自力でやる。

 ただ、俺はこの後自力で出来ない事をしなければいけない。

 

「ぷにに」

 

 そんな俺の様子を見て、ぷには頑張れと後押ししてくれた。

 これはもう腹を括るしかないか。

 

「師匠、お願いがある」

「え?なになに?」

「俺に――――」

 

 そして俺は、禁断の一言を放った。

 

「錬金術を教えてくれ」

 


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