洞窟を出てから、寄り道をしつつ数日かけてアランヤ村に帰還した俺は今宿屋の一室に居た。
俺はベッドの上に座り込んで、ポーチを膝に乗っけていた。
「帰ってきたばっかで何だが、整理しよう」
「ぷに? ぷに~」
「いや、いつのもの思いつきじゃないんだよ。悲劇を繰り返したくないだけだって」
洞窟ドラゴンに追いかけられたとき、俺のポーチの中がいかにごちゃごちゃしているかが分かった。
「今から俺はクリーンアカネ! いらない物はバシバシ捨てていくぞ!」
「ぷに!」
そう言って俺は、ポーチを逆さまにして中身を全て床の上に広げた。
床に散らばる、手袋や武器、素材に爆弾から大砲まで。
「……体積って何だっけ?」
「ぷに?」
「うん、俺も知らない」
思わず現実から目を逸らしてしまった。
前々から俺もおかしいとは思っていたんだよ。明らかに入る量がおかしいもん。
「1マークさんが改造した、2師匠に改造された、3主人公補正。さあどれだ!」
「ぷにぷに」
2ぷに。
「……やっぱり師匠か? いやでもいつの間に……。まあ助かってるからいいけど」
「ぷに~」
「まあこれは今度考えてみるとして、今は目の前の問題を片づけねば、掃除だけに」
「…………ぷに?」
ぷにが降りて足をど突いてきた。痛いです。
そんなにダメか?これネットに書きこんだらだれうまって言われるレベルだろ。
「はあ、仕方ない今のギャグはきれいさっぱり忘れてくれ、掃除だけに」
「…………ぷに~ぷにー」
ぷには無視して素材でできた山を崩し始めた。
いいさいいさ、今度誰かに話してみるからさ。
「しっかし、どうすっかな……」
とりあえず大砲とか爆弾とかはささっとしまうとしよう。
暴発でもされたらかなわん。とくに大砲なんて残り使用回数が一回のスーパー大砲さんだし。
「フラムが一つ、フラムが三つ、フラムが四つ……二つ目が足りなーい」
「ぷに!」
「がっ!?」
後頭部に衝撃、普通背後に回り込んでまでやりますか、君?
「自分で始めといて何だが、タルイ。俺掃除は勉強の前にしかやらない性質なんだよ」
「ぷに?」
「いやー、本当に俺こっち来てよかったわ。受験なんか関係ないからね!」
「ぷに~?」
優越感を覚える元高校生、現在は冒険者をやっています。
「なんかニートみたいだな。今の俺のモノローグ」
「ぷに~? ぷに?」
ぷにが置いてきぼりなので、そろそろ本題に戻るとしよう。
「まあ、誰か来ても大変だしとっとと片づけるか」
「ぷにー」
「邪魔するわよー!」
メルヴィアを召喚してしまった。
発言には気をつけろとあれほどなあ……。
「って、何よこれ? 汚ったない部屋ねえ」
「片付け中だ! とっとと用件話せ! んで帰れ!」
「いや、あんたが崖から落ちたって聞いたから心配してきてあげたのよ」
「チェ――――」
チェンジ、主にトトリちゃんとかって言おうと思ったが、言えなかった。
こんな危険物だらけの部屋で怒らせたら……終わるな。宿屋もろとも。
「いやー嬉しいなー! 洞窟でも心細くて、思わずメルヴィアの顔とか思い出してたしね!」
「え、きも」
思い上がんなよ、嘘に決まってんだろ。
「何? また変な事でもやってるの?純粋に気持ち悪かったわよ」
「もう帰れよ、むしろ帰ってください。お願いします」
「まあまあ、いいじゃないちょっとくらい」
そう言ってメルヴィアはずかずかと部屋の中に入り込んで来た。
これはマズイ。
「へえ、こうして見ると、あんたでも錬金術士なんだって思えるわね」
「どういう意味だよ」
そういう意味だと目で語られた。
「それはほら、こんな爆弾とか持ち歩くのなんて錬金術士くらいじゃない」
「そういう意味かよ。もっと、こんな不思議な物作れるなんてすごいわ!みたいなさ」
「ないわね。まず不思議だって思えるものがないわ」
確かに今目の前に出ている物にそんな物はないけどさ……。
「あら、これは……」
俺がちょっと目を離したら、アイテムの山の中から恐ろしい物を取り出していた。
「ああうん、それただの鉄クズだから、気にしないで」
「へ? でもこれって手に嵌めれそうじゃない?」
「いや気のせいだから」
メリケンサックを装備したメルヴィア、そんな悪夢を現実にしてはならない。
つか、本当に帰ってもらいたい。
「それじゃあ、他には……」
「ああ、もう」
暴君や、ここに暴君がおる。
そんな彼女が取り出したのは――!?
「? アカネ、この猫の耳みたいなの――へ?」
俺はメルヴィアに駆け寄って、素早くそれを取り返した。
これはツェツィさん装備予定なんだ。
貴様のような女が触ってよい物ではないわ、痴れ物め。
「帰れ」
「ちょ、ちょっと? 目が怖いわよ?」
「こっちは忙しいんだよ。触れてもらっちゃ困る物結構あるんだよ」
「わ、わかったわよ。そんなに怒らなくてもいいじゃないの……」
グチグチ言いつつもメルヴィアは俺の部屋から退散していった。
「……これがメルヴィアへの初勝利であった」
「ぷに~」
「もうとっとと片づけよ、無駄に疲れた……」
「ぷに」
俺は床に座り込んで、アイテムを拾い上げた。
「素材は……後でトトリちゃんのボックスに入れさせてもらうか」
「ぷに」
「爆弾はポーチの中に、片づけなきゃいけないのはそれ以外だ」
「ぷに~」
「よっしゃやるぞ!」
…………
……
「残ったのはこれだけか」
「ぷに」
掃除してみたら結構減って、あとは手袋とかのその他部類が残った。
「はい、この紙は……」
「ぷに?」
「誕生日に渡されたちむちゃんの命名権だった。まだ使ってなかったなそういや」
「ぷに~」
トトリちゃんも大分前に命の水手に入れたのに使ってないから、すっかり忘れてたな。
「まあ大方、もったいなくて使えないとかそういう理由なんだろうけど……」
「ぷにに」
「紙類だと、残りは地図にノートが数冊だけか」
「ぷに~?」
ぷにがある一点をしてきたが、浅はかだな。
「俺が秘蔵のアルバムを持ち歩いているとでも? あれならひっそりこっそり師匠のアトリエに隠してあるさ」
「ぷに~……。ぷに?」
「猫耳はだって、ねえ? いつ必要になるか分からないだろ?」
タイミングと俺のテンションが噛み合えばすぐにでもGOサインだ。
「ぷに……」
ぷにが目に見えて落胆している、だってこっち着たらツェツィさんに着けようって思ってたんだもん。
うっかりポーチの中に入れっぱなしだったけど……。
「もういいだろ? とにかく地図はポーチでノートもポーチに……」
地図をしまって、俺はノートに手を伸ばした。そしてついつい、中を開いてしまった。
「…………」
失敗飛翔フラムの調合について書かれていた。これは熟読してしまう。
「…………」
気づいたらペンを手に取っていた。
…………
……
「ふう、こんなもんか……って、ええ!?」
窓に目をやると、日が沈みかけていた。これは……いったい……。
「って、いつの間にか素材もなくなってる!?」
周りを見ると積み重ねていた素材の山がきれいさっぱり消えていた。
「消えた素材、寝ているぷに。ここから導き出される答えは!」
相棒は俺を泣かせたいようだな。
「どうやって持っていったか知らんが、お疲れ様だ」
おそらく、洞窟での一件をまだ気にしてたんだろう。
でなきゃ、ここまで一人でやったりしないはずだ。
「ふむ……。あとはいる物は、指輪に手袋、あとメリケンサックくらいか」
俺はそれだけポーチに詰め込んで、残りは静かに端っこに寄せておいた。
「よし終わり終わり。今日は料理を豪勢に作るとするか、うん。うーん……」
なんか俺のキャラじゃない気がするが、まあ相棒を労わる事は悪い事じゃないよな。
「今日は綺麗な話で終わったな。掃除だけに」