「…………」
「ぷに?」
「…………うう、気になる」
アトリエのソファに座りながら俺はぷにを頭に乗せて、トトリちゃんが帰ってくるのを待っていた。
「ミミちゃんなら問題ないと思うけど、気になる……」
「ぷにに?」
「そりゃ俺も行きたいけどさ、俺いても邪魔なだけだろ?」
女の子二人の仲直りシーンにジャージ着た男がいるとか、シュールすぎて笑えない。
しかも前の戦いで焼けたから裾捲ってるし。
「……お腹痛くなってきた」
「ぷに~」
「大丈夫だよな? 帰ってきたらトトリちゃんの目が死んでるとかないよな?」
「ぷにぷに」
ぷにが落ち着けとでも言うかのように頭の上で跳ねてきたが、そんなことで落ち着けない。
ミミちゃんがツンの部分を出しちゃって仲直り失敗……とか。
「え、縁起でもない」
「ぷに?」
「トトリちゃーん! 早く帰って来てくれー!」
「え、あ、はい。ただいま帰りました?」
「にゃ!?」
頭を抱え込んで叫んでいると、突然トトリちゃんの声が降ってきた。
顔を上げると、トトリちゃんが戸惑った様な顔をして立っていた。
「……えっと、いつ帰って来たの?」
「えっと、ちょうどアカネさんが頭を抱えだした辺りからです」
扉が開いたのにすら気付かなかったとは、さすがに笑えない。
「と、とにかくだ。ミミちゃんとは仲直りできたのか?」
「は、はい! そうなんです!」
俺がそう聞くと、トトリちゃんは途端に満面の笑みになってそう答えた。
「そーかそーか! うんうん! よかったよかった!」
「あれ? でも、アカネさんどうしてわかったんですか?」
そう言われてみればそうだった。現場にいない俺が知ってるはずないもんな。
「まあ、どうでもいいじゃないか!」
「え? は、はあ?」
「ぷに……」
勢い押しカッコ悪いって言われた。
「よしよし、これでやり残したことはないし、心おきなく村に行けるな」
「ぷに!」
あっちに行く目的はもちろんある。
前にトトリちゃんから聞いた様々な鉱石のある洞窟とやらに行ってみようと思ったのだ。
「アカネさん、村に行くんですか?」
「うむ。最近はずっとアーランドに居たしちょうど良いかと思ってさ」
「それなら、わたしもついて行っていいですか?」
「うん? 別に構わないけど……」
俺とトトリちゃんが同時にいなくなると師匠が心配だ。すごい寂しがりそう。
次に会ったときにお願いを一つ叶える権が発動しないかが一番の不安だ。
「ぷに?」
「いや、なんでもない。大丈夫だ。ところで何でまた村に?」
まあ村に帰るのは別に不思議なことではないと思うけど、ミミちゃんと仲直りしたばっかりのこのタイミングで帰るっていうのに違和感を感じた。
「えっと、実はお母さんの手がかりを見つけて、お父さんに話を聞きに行かなくちゃいけないんです!」
トトリちゃんは拳を握りしめて、珍しく表情を厳しくした。
しかし、トトリちゃんのお母さんの手がかりか三年目にしてやっと見つかったのか……。
これは一刻も早く村へと行かなくてはいけないな。
「それじゃあ俺らは先行ってるから」
「ぷに」
「はい。わたしもすぐ行きますね」
俺は適当に師匠宛ての書置きを書いてからアーランドの門へと向かった。
もちろん今回使うのは暫定最速の乗り物ですよ。
…………
……
「ア、アカネさん! は、速いですー!」
「大丈夫! 俺は幸せだ!」
「は、話聞いてくださいー!」
現在、俺たちは自転車二号に乗ってアランヤ村へと移動中だ。
電動ホイールが駆動音を鳴らしながら激しく回っている。
そして、こんなスピードを経験したことのないトトリちゃんは俺の腰にギュッと! ギュッと! 抱きついてきてるんですよ!
「ぷに~」
「スピードキングは俺だ!」
「…………うう」
マークさん、ミミちゃんの時も思いましたが、あなたは大変素晴らしい物をお作りになりましたね。
…………
……
「よーし、着いた着いた」
「や、やっとですか……」
アーランドを出てから四日、途中で雷エネルギーが切れてしまったので微妙に遅くなってしまった。
ハイスコアを出すには機体を万全の状態にしておかなくてはいけないな。
「そ、それじゃあ、わたしお父さんの所に行ってきますね」
「うむ、頑張ってな」
「はい!」
元気な返事と共にトトリちゃんは村の奥へと走って行った。
「後で釜を借りてドナーストーン錬金しに行かんとな」
「ぷに」
一応自転車だから漕いで走ってもいいのだが、人間楽をしたい生き物なんですよね。
俺たちは一旦宿屋へ行こうと自転車を押して歩き出した。
「お?」
「ぷに?」
広場に出ると、最近見てなかった顔があった。
「見て奥さん、リーツのところの息子さん、まだ馬車なんかに乗ってるみたいよ」
「ぷに? ぷににににに」
そこには馬車をせっせと磨いているペーターの姿があった。
この顔も久々に見ると、若干感慨深い。
「それに、あの子ヘルモルトさん家の長女にゾッコンラヴらしいわ」
「ぷに~」
「男のくせにあんなロン毛してたらモテナイわよねー」
「ぷに!」
「お、お前ら! さっきから黙ってきいてりゃ好き放題言いやがって!」
いくら奴でも背後五歩圏内程度で話してたら気付くらしい。
しかし、こいつに反論の余地はない。ここは一つ試してみるとしよう。
「今すぐに自分の良いところを五つあげてください。はい!」
俺はパンと手を叩く。
「え!? え、えっと………………」
「はい終了!」
鼻で笑いながらもう一度手を叩いた。
「な!? は、速すぎるだろ! つか何なんだよいきなり!」
「自分で自分の良いところを上げれない、つまりお前はその程度なのさ!」
「い、意味が分からん……」
こいつの悪いところならいくらでも挙げれるんだけどな。
馬車の時間は適当だし、へたれだし、純粋な子供たちを騙してきたし。
「そ、そう言うお前はできるのかよ!?」
「とってもユーモラス。錬金術使える。誰にでもに優しい。冒険者のランク高い。筋肉すごい」
「ぷに……」
「うわあ……」
おい、お前ら何をそんなにドン引きしてるんだよ。
嘘偽りない情報だろうが。
「まあ、こんくらい俺は真っ当な人間ってことさ」
「そうだな、うん。ある意味すごいよお前」
「ぷに」
「褒められてる気がしねえ」
絶対に貶されてるだろこれ。
「いいよいいよ! 別にお前なんかにどう思われたって!」
「そうかよ、俺も暇じゃないからとっととどっか行ってくれよ」
「…………」
どこが忙しいんだと、心の中で思いつつも俺は宿屋へと歩みを進めて行った。
かなり無駄な時間を過ごした気がする。
…………
……
「メルヴィア! 俺って真っ当な人間だよな!」
「あんたの中ではそうなんじゃない?」
店に入った瞬間に言葉の刃で殺された。
「くっ、ゲラルドさん! お酒くださーい!」
「うん? ああ、そう言えばお前も二十歳になったらしいな」
メルヴィアのいるテーブルを無視して俺はカウンター席に座りこんだ。
「それじゃあ、こいつはサービスだ。遠慮しないで飲んでくれ」
「さすがはゲラルドさん! 後ろにいる怪力娘とは違いますね!」
後ろからの闘気を感じつつも、俺はジョッキに入ったビールっぽいのを一口飲んだ。
自転車漕いで程よく汗を流してからの一杯、グッド!
「メルヴィア、ちょっと自分の良いところ五つ上げてみ?」
後ろからじりじり迫ってきたメルヴィアにさっきしたのと同じ質問をしてみた。
「何よいきなり?」
「いいからいいから」
「そーねえ。強い、かわいい、スタイル抜群、頼りになる、とってもユーモラス♪」
「うわあ……」
「ぷに?」
俺がドン引きしているものの、ぷには何か変なところあったか? そんな感じで鳴いた。
こんだけ自画自賛できるとか、言ってて恥ずかしくなったりしないのかね?
なんか一つ俺と被ってたし。
「かわいいってお前……」
「何よ」
「いや、別に……」
俺弱い、睨まれただけで何も言えなくなった。
「……ペーターの良いところって挙げれるか?」
「無理ね」
まさかの即答、幼馴染からもこの扱いとはペーターは泣いてもいい筈。
「……俺、今度からちょっと優しくするわ」
「ぷに……」
トトリちゃんから重要な話を聞く日だと思ったら、ペーターを憐れむ日になっていた。何それ怖い。
いつかペーターも一花咲かせられる日が来るはず……。