アーランドの冒険者   作:クー.

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キャッツショット 中編 犯罪者A

 

「……ふーむ」

 

 俺はアトリエでソファに座り、両手に持ったカメラを見つめ唸っていた。

 ちなみにカメラの種類はポラロイドカメラ、現像しなくていいので楽だと思ったけど結構でかい。

 

「……よし」

 

 なんとはなしに、釜の前の師匠をレンズ越しに見てみる。

 

「師匠~」

「ふへ?」

 

 無警戒に間の抜けた声を出して、こちらに振り返ってきた。

 

「はい、チーズ」

「わわっ!」

 

 師匠が完全にこっちに振りむいたところでシャッターを切る。

 カメラのフラッシュのせいか、師匠は目を瞑っていた。

 

「おー、ちゃんと撮れてる」

 

 数秒して、カメラの下部から写真が出てきた。

 そこには目を見開いて驚いている師匠の姿が映っていた。

 

「う~」

 

 立体の師匠の方は俺を睨んで唸っていた。

 

「アカネ君! お、女の子をいきなり撮ったりしたらダメなんだからね!」

「ははっ、わるいわるい」

「ひゃう!?」

 

 パシャっと睨んでる師匠を写真に収めた。

 これはもう師匠で一冊アルバムを作るしかないな。

 

「だ、ダメだって言ったでしょ!」

「わかったとは言ってないな」

「わっ!?」

 

 頬を膨らませている師匠を思い出の一ページに加えた。

 

「も、もう! 知らない!」

「……ならば」

 

 師匠は体を元に戻してしまったので、ちむちゃんの方にカメラを向ける。

 ちむちゃんは何やらすり鉢で材料を加工していた。

 

「題名、お仕事ちむちゃん」

「ちむ?」

 

 気がつくも時すでに遅し、ちむちゃんを写真に収めた。

 

「ちむ! ちむ!」

「ほっほっほ、おぬしもまだまだじゃの」

「ちむ~」

「いやー、結構写真撮るのって面白いな」

 

 元の世界の数倍良い被写体がこっちにはゴロゴロ転がってるからな。

 今から獣耳な皆を撮るのが楽しみで仕方がない。

 

「――――!」

 

 俺の目覚めたカメラマン魂の本能が開き始めていた扉に気付き、瞬間的にカメラを構えた。

 

「ただいま帰りま――わっ!?」

「グッド!」

 

 この写真は俺の宝物リストに加えるとしよう。

 

「あ、アカネさん。いきなり何を……」

「まあまあ、これあげるから」

 

 俺がトトリちゃんに近寄って渡すのは、さきほどのちむちゃんの写真。

 

「わあー! ち、ちむちゃんの写真!」

 

 安い、安いぞトトリちゃん。これで買収できるなんて……。

 

「あ、ありがとうございます!」

「まあ、喜んでもらえたようでよかったです」

「えへへ……」

 

 顔を緩ませながら、トトリちゃんはアトリエの中に入ってきた。

 とりあえず、撮影を頼む時はちむちゃんの写真を渡せばいいのはわかった。

 

「…………待てよ」

 

 俺がポケットから、取り出すのはさっき撮った師匠の写真。

 今のと同じ理論で考えれば……。

 

 

 

 

 

 

「は? 別にいらないわよ」

「な、何故!?」

 

 クーデリアさんならこれで買収できると俺の灰色の頭脳が囁いていたのに。

 

「何よその、クーデリアさんはこれで買収できると思ってたのにみたいな顔は」

「べ、べべ、べべべ別にそんあ、そんなこと考えてないですよ!」

「考えてたのね……」

「くっ! だって、師匠と言ったらクーデリアさんかステルクさんかなって!」

 

 こうなったらB案の師匠の写真をステルクさんに売りつけて借金の足しに作戦を決行するしか……。

 

「つーか、何でいらないんですか、師匠の事を愛してるんじゃないですか!」

「それはあんたとあのバカ受付嬢の妄想でしょうが……」

「はっ!」

 

 げ、現実と妄想の世界が混同していた。

 これも偶にフィリーちゃんに語られているせいだ。これじゃ俺が変態みたいじゃないか。

 

「で、でも、クーデリアさんなら師匠の写真とか欲しいかなって」

「あのねえ、あいつとわたしが何年の付き合いだと思ってんの、写真なんていくらでも持ってるわよ」

「よ、よく考えればそうだった……」

 

 クーデリアさんを買収、撮影権を入手計画は最初から崩壊していたようだ。

 

「まったく……。わかったなら帰りなさい。こっちだって暇じゃないんだから」

「ふん! このアカネ! タダでは退かぬぞ!」

「なっ!?」

 

 腰のポーチから素早くカメラを取り出しレンズ越しのクーデリアさんに向けてシャッターを切った。

 

「交渉材料、クーデリアさんの写真を手に入れた!」

「あ、あんたねえ!」

「脱兎!」

「待ちなさい!」

「ふははははは!」

 

 俺は勝った!最後の最後で勝った!次に来るときが怖い!

 

 

 

…………

……

 

 

「はあはあ、お兄さん。この写真買わないかい」

 

 俺の装備、サングラス、マスク。

 会話相手はもちろんステルクさん。

 俺の手にあるのは師匠の写真三枚。

 

「……君はいつから犯罪者になったんだ」

 

 ステルクさんが呆れたように言葉を投げつけてきた。

 なんか、ツッコミが弱い事に寂しさを感じてしまう。

 

「で、買いますか? 買いますよね?」

「買わん!」

「嘘だ! 自分に素直になれよ! そんなだからいつまで経っても――もが!?」

 

 師匠にと続けることはできなかった。

 

「…………」

 

 ステルクさんは無言で口を塞いできて、睨みつけてきた。

 だが残念、サングラスのおかげで睨みがあんまり怖くないぜ。

 

「むーっ! むーっ!」

「はあ、もういい」

 

 ステルクさんは疲れたように手を離し、体を反転させて歩き出した。

 どうしてあんなに疲れてるんだろうな?心当たりがないや。

 

「ステルクさん! 悩みがあるならいつでも相談に乗りますから!」

「…………っ」

 

 ステルクさんは首を曲げて、俺を流し眼で睨んできた。

 

「……怖っ」

 

 サングラスをしてなかったら即死だったな。

 

「びぇーん! びぇーん!」

 

 ああ、後ろで見知らぬ子供Aが泣き出してしまった。

 

「泣き止め少年。ステルクさんの背中が悲しそうだから、泣き止んでください」

「ひうっ!」

 

 少年は俺を見るとなにやらおびえた表情になった。

 そして、大きく息を吸い、少年が叫んだ言葉は――。

 

「助けてー! 誰かー!」

「待てい! ちょ、ちょっとマジで止めてください!」

 

 人生でこの言葉が自分に向けられる日が来るとはな。

 ま、周りの人が俺をすごい目つきで睨んでる。

 

「ち、違う! 誤解だ!」

「貴様! うちの息子に何を!」

「その子に何をしている!」

「親と市民A,Bがあらわれた!」

 

 たたかう

 まほう

 アイテム

 にげる←

 

「しかしまわりこまれてしまった!」

 

 俺の脳内で、知り合いの皆が俺の事を囲んで手拍子で前科者コールしている。

 お、俺は何もしてないのに!サングラスとマスクをして泣いてる子供に話しかけただけだ!

 

「俺を使え!」(裏声)

「飛翔フラムさん!」

 

 腰のポーチから取り出したるは、秘密兵器飛翔フラム。

 こいつで俺は空を舞う鳥となる!

 

「あばよ! 俺を捕まえたいなら、後十人は連れてきな」

 

 決め台詞と共に、フラムを落とし足で踏みつけ着火した。

 

「ぐあああーっ!」

 

 踏む→熱い!→横に飛ぶ

 

「横にある川に落ちてる、今ココ」

 

 ハハッ、焦って忘れてたけど、ゴースト手袋しないとジャンプで飛べる訳ないよな。

 

「二度目、俺、二度目だよ」

 

 水飛沫の音に懐かしさを感じた。

 

 

…………

……

 

 

「死ぬかと思った」

 

 命からがらアトリエに戻った俺は改造執事服に着替え、一旦は落ち着いていた。

 ちなみに俺の腰のポーチは耐水コーティング済みなのでカメラは無事だ。俺は過去から学ぶ男なのだよ。

 

「うう、だが俺は悟った。俺に足りないものは何かを」

 

 クーデリアさんとステルクさんが写真を貰ってくれなかったのは、レア度が足りなかった。

 ありきたりな写真の一枚や二枚じゃ、長い付き合いの二人が満足するはずがない。

 

 そして、そんな写真を取ることになる以上、四六時中カメラを持っていなければ無くなる。

 しかし、それはあまりにも怪しい。またさっきのような騒ぎになりかねない。

 

「だからこそ、俺は作る。このアイテムを」

 

 俺の手に取る本『服飾マイスター』に乗っている装備品。

 

「見えないクローク」

 

 俗に言うステルス装備。これがあれば、俺も一端のカメラマンよ。

 

「いやしかし、道徳的に……いやいや、どのみち獣耳作戦で必要になる」

 

 ミミちゃんは簡単にくどき落とせそうにないだろうし、耳乗っける、撮る、逃げるでやるしかない。

 

「別に、覗きで使おうってんじゃないんだ。うん、世の中の男たちならわかってくれるさ」

 

 かわいい女の子のかわいい写真を取りたい、それって男として自然なことだろ?

 

「うん。ありがとう。そうだよな、わかってくれるよな」

「あの、アカネさん。さっきから何をぶつぶつ……」

「いやちょっと、自分の正当性を高めとこうかな、みたいな?」

「はあ?」

 

 危ない危ない、今の完全に聞かれてたら一発で逮捕だったな。

 俺、頑張るよ。どっかで仕事をしているぷによ、俺を応援してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷに?」

 

 ぷにというブレーキのなくなった変態は暴走中である。

 


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